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(読了)読書感想文 百億の昼と千億の夜 / 光瀬 龍

今週のお題「SFといえば」

西方の辺境の村にて「アトランティス王国滅亡の原因はこの世の外にある」と知らされた哲学者プラトンは、いまだ一度も感じたことのなかった不思議な緊張と不安を覚えた……プラトン、悉達多、ナザレのイエス、そして阿修羅王は、世界が創世から滅亡へと向かう、万物の流転と悠久の時の流れの中でいかなる役割を果たしたのか?――壮大な時空間を舞台に、この宇宙を統べる「神」を追い求めた日本SFの金字塔。

百億の昼と千億の夜 (角川文庫)
百億の昼と千億の夜 (角川文庫)
 

 

1965年に書かれたとは思えない、壮大な世界観に圧倒されました。
仏教やキリスト教、ギリシャ神話等に登場する「神」を
「この世界の外に存在する超越者」として位置づけ、
SF作品に落とし込む、というのは
現代では様々な作品で扱われていますが
(例:メガテンシリーズ、Fateシリーズ等)、
1965年当時としては珍しかったのでは。
(私の理解が間違っていたらすみません、、、)
難解でしたが、読みながら「ワクワクがとまらない!!」という感じでした。
自分なりのワクワクポイントをまとめてみましたので、伝わるとうれしいなあ。

 

 

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序章 第一章 〜生々しい原初の地球の姿、生き物たち〜

「序章」では原初の地球のすがたが、
まるで現地で見てきたかのように生々しく描写され、
「第一章」では人類誕生前?の「かれ」を一人称に、
水中の生物達が生き生きと描かれます。

(「かれ」の正体について、第一章では明記されません。
一見、背中に排水孔をもつ魚類のようですが、、、???)

そこに突如現れる、高い知能を感じさせる異質な「装置」
そして陸地を蠢く巨大な物体。不穏な幕開けにワクワクします。

 

第二章 〜プラトンの旅〜

アトランティス滅亡の謎。巨人の存在の示唆。謎の「宗主」との面会。
世界におおいかぶさる不幸の翳(かげ)とは?
唐突に登場する「惑星開発委員会」「TOVATSUE」等のワード。
読者をワクワク(混乱)させつつ話は進みます、、、

アトランティス滅亡の謎というスケールの大きなテーマの中に、
プラトンとその付き人グラディウスとの絆が暖かく描かれていて、
個人的に好きな章でもあります。


第三章 〜シッダールタの旅〜

若き王子シッダールタ(お釈迦様)の旅が始まる!と思いきや
いきなり虚数空間に導かれ、世界の危機を目の当たりにし、
兜率天のTOVATSUE市(という名の超ハイテク未来都市)をおとずれ、
敵とされる阿修羅王と面会する、という怒涛の展開。


阿修羅王ちゃん、めちゃ強なのに見た目は少女なんです。
キャラの作り方が現代コンテンツのそれですやん。最高。

そして、56億7000万年後に人類を救済する「弥勒」の正体とは?
前章に引き続き、さらなる謎が膨らみますばら撒きつつ、
ワクワクせざるを得ない展開に。

 

ところで、兜率天など、仏教用語が元ネタになっていますが、
仏教の世界観てそれ自体が物凄く壮大でSFチックなんですよね。
宗教とSFて実は相性いいのかも。(下記リンク参照)

http://www.sougi.to/butuzo/syumisen.html

 

結末の解釈について ※ネタバレ注意!!

実は一回読んだだけでは難しすぎて、きちんと理解できず、、、
他の感想サイトを読みつつ、自分なりに以下のように理解しました。
ワクワク!とか書いておきながら面目ないっす。

「神=シ=惑星開発委員会」は、
この地球の存在する世界(以後「この世界」と表記)から
エネルギーを取り出していた。
エネルギーをうまく取り出すために、神の姿をとって、
この世界の文明の発展と滅亡をコントロールしていた。
阿修羅王、オリオナエ、シッダールタの3人は
シの強大な力に抗おうとしたものの
この世界の滅亡を止めることはできなかった。

 

、、、また読み直してちゃんと理解したいなあ!

 

漫画版について

百億の昼と千億の夜 完全版
百億の昼と千億の夜 完全版
 
実は漫画化されておりまして、こちらの方が分かりやすいとの噂。
イラスト化された阿修羅王ちゃんをみたい!
購入予定です。

おしまい。

 

読書感想 人間たちの話 柞刈 湯葉

 いつでもどこでも、人間たちはたくましく生きている!

寒冷化した地球でも、太陽系のはしっこのラーメン屋でも、超ディストピア社会でも……

全6編を収録した、稀才・柞刈湯葉(いすかりゆば)の初SF短篇集!人間たちの話について、感想を書きました。

 

人間たちの話
人間たちの話
 

 

 

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人間たちの話 あらすじ

いつでもどこでも、人間たちは生きている、らしい。

寒冷化した日本から太陽系外縁部まで。透明人間から超監視社会まで。いろんな人間たちの物語、全6篇を収録した、稀才・柞刈湯葉の初SF短篇集。

 

人間たちの話 柞刈 湯葉著 イメージイラスト

 

 

著者 柞刈 湯葉さんについて

2016年、小説投稿サイト「カクヨム」に連載した横浜駅SFが、第1回カクヨムWeb小説コンテストSF部門で〈大賞〉を受賞し、作家デビュー。

もともと大学勤務の生物学研究者と小説家の兼業でしたが、現在は専業作家として活躍されています。

X(旧:Twitter)やnote、ご自身のwebサイトでも発信されていますので、気になる方はぜひチェックを。

 

以下に著者の作品の一部を紹介します。

※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。

横浜駅SF【電子特典付き】
横浜駅SF 全国版
重力アルケミック (星海社 e-FICTIONS)
まず牛を球とします。
未来職安
幽霊を信じない理系大学生、霊媒師のバイトをする

 

人間たちの話 感想 

登場するSF的アイデアはどれも意外性たっぷりで新鮮。

ただの科学的な話に留まらず、科学的な変化・発展が文化面・精神面に与える影響を丁寧に想像しているところがおもしろかったです。

一方で、人物の内面描写はかなりあっさり。

冷静で、淡々・飄々としていて、感情的になりにくいタイプのキャラが多く、そのためか、登場するキャラクターが似たり寄ったり、という印象は否めません。

SFとして驚きを楽しむならよし、一方で人間ドラマとして読もうとすると、ちょっと物足りないかな?という感想でした。

 

以下に各短編の感想を書きました。特に好きな作品には★をつけています。

 

冬の時代

気候変動で凍りついた日本を南下する兄弟の旅行記。

遺伝子操作で寒さに強い野生動物を開発して野に放ち、後世の人々の食糧難を防ぐ

とか

寒冷化ゆえにこどもの名づけに南方の植物の名前をつける傾向とか、そういう細かい世界設定の発想好きでした。ディストピアではあるんだけど、人々はなんやかんやで生きている。まさに「人間たちの話」を象徴する1作でした。ー

 

たのしい超監視社会 ★

全体主義国家による超監視社会を描いたジョージ・オーウェルの有名作「一九八四年」の、その後を描いた作品。

オセアニア・ユーラシア・イースタシアの3つに分かれた世界、というのは原作通りですが、ですが、管理社会は内部崩壊し、グダグダに。

「一九八四年」をベースにしたSF作品はいくつもありますが、ここまでポジティブな国民生活を描いた作品はめずらしいのではないでしょうか。相互監視用のディスプレイへの写り方、つまり「映え」を意識する生活に思わずクスリ。

作中で、国民に「まあこんな社会でも楽しいし別によくね?」と思わせてしまう一方で、反体制派の芽はきっちり摘んでいるので、ゆるっとしているようでむしろ最高に恐ろしい管理社会なのかもしれない。

私たちの世界もSNS上で監視されたり、望んでもないのに評価されたり番号でいろいろ紐付けられたりしていますが、ジョージオーウェルから見たら、ものすごい監視社会にみえるんでしょうか。

 

そういえば先日、スマホの通信会社を変えた(MNPした)のですが、マイナンバーカードのおかげで、ものの2時間程度で変更完了しました。管理されるのって便利だなあ。

 

人間たちの話(表題作) ★

個としての自分と、集合体としての人類を区別しない、という思考を持つ、科学者の境平。そのちょっと変わった性格から孤独な生活を歩んでいた境平が、突然12歳の甥っ子の累と同居することになり……

 

人間たちは自分たちの都合で生命を定義し、分類する。自分たちの都合で、子供を作り、捨て、たらい回しにする。どこまでも身勝手で、だけど仲間の「生命」を探さずにはいられない。そんな「人間たちの話」。

 

残念ながら、私の読解力では累がニュースを見て怒って家出した理由がよくわからず。

生命を勝手に定義する身勝手な人間の思考に怒ったのでしょうか。あるいは、オヴィラプトルをかわいそう、と思った自分自身の思考もまた、人間的で身勝手であることに気づいたからでしょうか。

 

家族が増えることを、生態学上の変数の変化、としか見ていなかった境平が、ちゃんと家族になろう、と声をかける姿が印象的でした。

 

ところで、多孔質の岩石の中で生命活動(のような挙動)を示す、という生物のアイデアは
斬新ですごくいい!作者の本領発揮という感じ。

そして、中国チームが発見した「金星の気体中の生命体のような挙動」というのもかなり気になるところ。

 

宇宙ラーメン重油味 ★

「消化管のあるやつは全員客」をコンセプトに、太陽系外縁部の小惑星でひっそりと商うラーメン屋。噂を聞きつけ、今日も今日とていろんな客がやってくる。


バラエティ豊かな文化と味覚を持つ宇宙人たちに、材料と機材集めに奮闘する店主のキタカタ。さりげない伏線やオチも含めて、楽しさてんこ盛り。説明不能な面白さなので、ぜひ読んでみて。

 

記念日

マグリットの「記念日」という絵よろしく、アパートの部屋の中に、大きな岩がドスンと置かれていた男。

結局石の正体はわからず、退かすこともできず、ただ、そこにある石。

アポトーシスのことや家庭のことなどが語られるが、結局、で、なんだったんだ?という感じで読了。

 

No Reaction ★

生まれついた時から透明人間のぼく。こちらから作用はできず、反作用の影響のみを受ける、不便極まりない体。

(普通の人間は透明人間にぶつかっても、何も感じないが、透明人間側は吹っ飛んでしまう)

そんな僕が語る、透明人間の実体とは。

オカルトでは定番の透明人間だけど、力学的・光学的に考えると意外と説明が難しい存在だなあと感じました。語り主の「僕」が淡々としていて救いがあるけど、状況によってはかなりの絶望を感じそう。

 

人間たちの話 の次に読みたいおすすめ作品

管理人わんこたんのおすすめSF短編集をご紹介!

 

流浪地球・老神介護/劉 慈欣

 

全部がおもしろいSF短編集

三体シリーズが有名な、中国を代表するSF小説作家の劉 慈欣さんですが、実は短編の名手でもあるんです。

流浪地球・老神介護は一応2冊セットではありますが!短編集なので、片方だけでも、どこから読んでもOK。

ただし、1冊読んだら間違いないくもう1冊を読みたくなる、珠玉のSF短編集です!

 

流浪地球
流浪地球
 

 

老神介護
老神介護
 

 

紹介記事はこちら▶

収録すべてが傑作ぞろい!珠玉のSF短編集 流浪地球と老神介護 - わんこたんと栞の森

 

おもしろSF作品、他にもいろいろ!

 

「読みやすいSF」紹介中です

 

 

人間たちの話
人間たちの話
 

 

これこそが終着点 三体Ⅲ 死神永生 原作版小説の感想と考察

三体シリーズ2作目、黒暗森林で、ついに決着となった地球世界と三体世界の戦い。これほどまでに美しい結末のあとに、いったい何が起こるのか……?

地球と宇宙の結末を描き切った超大作、三体シリーズ3作目 死神永生の感想を書きました。これを読まなければ三体は語れない!怒涛の展開はファン必読です。

 

三体Ⅲ 死神永生 上
  

 

 

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三体3 死神永生あらすじ

劇的な結末を迎えた面壁計画。その裏で、三体世界に対抗すべくもうひとつの奇想天外な計画「階梯計画」が動いていた。

天才女性エンジニアの程心(チェン・シン)と、病におかされ死を待つばかりの孤独な男、雲天明(ユン・ティエンミン)。この二人がもたらす、予想外の運命とは……?

 

  • 著者:劉 慈欣 → Amazonの著者作品一覧はこちら
  • 翻訳:大森 望、光吉 さくら、ワン チャイ、泊 功
  • 発売:早川書房 2021/5/25
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象
    ▶︎5分間の試聴はこちら (リンク先で「▶プレビューの再生」を押下
    中国人のややこしい人名も、朗読だとキャラクターの演じわけによって覚えやすくなってます。文字でも朗読でも、お好みの方法で楽しみましょう

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聴く読書っていつ聴いたらいいの?Audibleの取り入れ方を解説しています▶聴く読書Audibleっていつ聴けばいいの?ぴったりハマる時間があるんです。

 

 

 

著者 劉 慈欣氏と三体シリーズについて

三体シリーズ著者、劉 慈欣氏。いったいどのような作家なのか?以下の記事で詳しく紹介しています。

三体シリーズ ヒットの裏にある中国の背景と、劉 慈欣作品の魅力を語る - わんこたんと栞の森

 

三体3 死神永生 上 感想

三体シリーズ 1作目 三体 と 2作目 黒暗森林のおもしろさって、人類に降りかかる超絶危機に対し、思いもよらない解決策が提示される、ミステリーのような謎解きの心地よさにあるんですよね。

そのエンタメ的な楽しさが、死神永生ではガラッと切り替わります。それは「劉慈欣が書きたいもの書きまくったハードSF」であり、人類生存ルートが一手ずつ潰されていく、絶望の詰将棋のようでもあり。

 

黒暗森林が、めちゃくちゃ美しく決着するので、その続きって正直どうなの?管理人わんこたんも3作目 死神永生を初めて読んだときは、率直にそう感じました。

 

でも再読して確信。

この物語は、死神永生まで書かなければならなかったのだと。この結末を、宇宙の真の姿を見届けなければ、この物語は終われるはずがなかったのだと。

この死神永生があるからこそ、三体シリーズは傑作に「成った」。そう断言します。

 

以下、印象的なシーンやキャラクターをピックアップしていきます。

 

CAUTION!

以下、死神永生の読了を前提とした記事になっております。未読の方はご注意ください。

 

冒頭 1453年 コンスタンティノープル陥落

まず冒頭から最高。SFなのに、いきなり舞台は15世紀のコンスタンティノープル。わんこたん、こういうの大好物。

これが、のちのち登場する高次元領域の伏線になってくるわけですが、そこに登場するのが以下の一文。すでに物語の結末をにおわせてるわけですよ、エモい!

いま、人々は学んだ。終わりのない宴はない。あらゆるものに、必ず終わりがある。

 

ハードSFのアイデア、てんこ盛り感がすごい

ひとつひとつのエピソードだけでハードSF短編として成り立つだろってくらい、濃い。そしてもうハチャメチャ。

  • 雲天明の3つのおとぎ話
  • ブラックホールの研究と高(ガオ)Wayの物語
  • 暗黒の宇宙を往く、戦艦のドラマ

 

そのうえで、人類と三体文明との戦いの結末、のみならず、宇宙の行く末まで書ききるとは、恐れ入りました。

ここまでスケールアップすると、1作目 三体の戦艦輪切り、2作目での水滴による殺戮なんて、ほんとにミクロのできごとですw

 

それでもなお、きちんと人間たちが描かれている。壮大な物語が、個人の人生に落とし込まれているところが、死神永生の魅力なのかな、と思います。

 

ダントツの不人気主人公?わたしは好きだよ、程心(チェン・シン)

死神永生の主人公、程心は、二度、人類の命運を左右する重大な選択を迫られ、そのたびに選んだ結果が裏目にでるという不遇の女性。

その頼りなさもあってか、Amazonの書評なんか眺めると、どうも程心は不人気なようで。

いやいやいや、こんな重い選択、一人の人間が負えるもんじゃないでしょ。ある意味、三部作のなかで一番人間らしい、まさに人類を代表する主人公でした。

 

程心は人類の普遍的な価値観「やさしさ」「責任感」「民主主義」を象徴するようなキャラなんだけど、その価値観は、暗黒の宇宙を生き延びるのに、全く役に立たないってのが、またつらい。

そんな彼女が執剣者に選ばれるのは人類の必然であり、仮に程心が執剣者に立候補しなくとも、誰かほかの「やさしくて」「責任感のある」「慈愛に満ちた」候補者が選ばれて、同じような運命をたどっていただろうと思われます。人類は大バカだからさ……

 

智子の「宇宙はおとぎ話じゃないからよ」が重い。

 

程心の慈愛

主人公 程心には一貫する「慈愛」の精神の象徴として、赤ん坊を抱く姿が何度もリフレインされます。私はこの子を、人類を守るんだと。

暗黒森林攻撃の誤警報で、周囲の人間が我先にロケットで脱出しようとするときの、程心の態度なんか、まさにその精神を象徴する最たるもの。

しかしその思想は程心の目を曇らせ、判断を誤らせる。智子にも見下され、慈愛の心なんか、この暗黒の宇宙では何の役にも立たないという現実を突きつけられる……

 

だからこそ、とある人物が、ラストでその愛を肯定するときの、深い感動よ。

愛は地獄のような宇宙を生き延びるのに、何の役にも立たないけれど、それゆえに尊い……

 

階梯計画と程心と雲天明

といいつつ、雲天明の氷漬けの脳みそを宇宙に送る、などという恐ろしい提案をしたのも程心なのであった。

安楽死を希望していた雲を、安楽とは程遠い場所に送る。(そのくせ、直前になってめっちゃ後悔する)という思考回路。どうなってるんだ。うーん、やっぱりわんこたん、程心のこと、苦手かも笑

ちなみにこの「自分に思いを寄せる相手を、そうとは知らず氷漬けにする」サイコパスなエピソードですが、ネットフリックス版ドラマではかなり改善(?)され、普通に泣けるシーンとなっていますので、一見の価値ありです。

 

Netflix版ドラマ版の感想はこちら

原作との違いを中心に解説しました▶Netflix版ドラマ三体 原作との違いは?ファンの正直な評価・感想を書きました - わんこたんと栞の森

 

雲天明は階梯計画にショックをうけつつも、呪われた自分の一生をあざ笑いながら、提案を受け入れます。そこに地球を救う使命感は、一切なし。

でも結局、雲天明は程心を救う。雲天明は人類を裏切ってもおかしくないと思っていたので、意外でした。

 

宇宙に送られた後、雲は何を思ったのか。

死神永生の作中ではほとんど語られませんが、三体ファンが想像した雲天明の物語が、公認同人誌(!)の三体Xで描かれています。あくまでファン作品であり正史ではないですが、雲天明の背景を補完したい方には、おすすめの一冊です!

 

三体X 観想之宙 (ハヤカワ文庫SF)
三体X 観想之宙 (ハヤカワ文庫SF)
 

 

死神永生のあれこれがスッキリ解決!?

三体X 観想之宙 紹介記事はこちら▶

原作者公認2次創作!三体ファンなら絶対読みたい「三体X 観想之宙/ 宝樹」あらすじと感想 - わんこたんと栞の森

 

あの羅輯(ルオ・ジー)が、こんなにかっこいいだなんて

2作目 黒暗森林の序盤の頃の彼とは想像もつかない、羅輯の姿。

54年の間、三体世界と向き合い、抑止状態を維持してきたその姿は、日本の剣術(居合)の達人のよう。

 

あのダラダラグダグダの羅輯がさあ。こんな運命をたどるなんて、誰が想像したよ。というか、「面壁者の真の意味」が。まさか3作目 死神永生で明らかになるなんて想像もしなかった。

三体世界ですら敬意を抱く。それが羅輯。もはや宇宙の伝説。

 

いとも簡単に逆転する、人類の価値観

その羅輯が、執剣者の任期が終了後に逮捕されるっていうのがまたもう……

62年間にわたる三体世界との「和平」状態で、激変した人類の価値観によって、黒暗森林のラストでは救世主だった彼は、「世界絶滅罪」で起訴されます。

 

水滴の攻撃から逃れ、遠宇宙に逃げた戦艦のシーンも同じ。最初はヒーローだった彼らは極悪人として扱われ、その後再びヒーローになる。

この人類の価値観があっという間に逆転するかんじ。ああ、愚かな人類だなあと。

こういうとこの描写がたまらなくうまいんだよね、劉 慈欣先生。

 

過去の登場人物たちの影を感じるのも、またいい。

地球に帰還するも、罪を負わされた戦艦「青銅時代」の決死の通信によって戦艦「藍色空間」が逃亡するシーン。

そもそも青銅時代と藍色空間が生き残ったのは、2作目 黒暗森林で章北海と丁儀が活躍したからなんですよね。

すでに退場した彼らが、人類最後の命運を切り開いた。そう思うと、とにかく感慨ぶかい。

1作目 三体 主人公の汪森も、名前こそ登場はしませんが、彼が開発に携わったナノマテリアル製の飛刃(フライングブレード)が階梯計画に使われていました。

 

その中で悲しいのは、史強が全く登場しないこと。羅輯の警護任務が終わったあとに、天寿をまっとうしたのかなあ。そうだったらいいなあ。

史強は「あきらめなければなんとかなる」を象徴する、ヒーロー的なキャラクター。彼が登場しないことも、死神永生での宇宙の無常さを際立たせているように思えます。

 

結末はショッキングだった

いやあ、しかし地球が滅びるのはショックだったなあ。

希望が全くないわけではありませんが、個人的にはショックのほうがでかい。

史強の活躍も羅輯の暗黒森林の解明も、結局はこの未来に行きつくのかあと思うとつらい。

2作目 黒暗森林のラストでは三体文明と仲良くやっていく未来もあるのかな、なんて想像してブログにも書いていたのですが、そんなお花畑展開になるはずがなかった。

 

そして、この滅亡のそもそものきっかけは、葉文潔による電波送信であり、その大元の原因は文化大革命なのですよね。文化大革命という、宇宙的にはちっぽけな出来事が、太陽系の命運を左右する、、、
「人間ってオロカだなあ」といってしまえばそれまでなのですが、ミクロの出来事をここまでスケールアップさせて書ききった本作、やっぱりすごいなあと思うのです

 

唯一わからなかったこと

2作目 黒暗森林で登場した「精神印章」「刻印族」のみなさん、結局どうなったのでしょう。結局あまりストーリーには影響しなかったような、、、誰かお気づきの方がいたら、コメント欄で教えてくださいませw

 

三体ロス!明日からどうすればいいのでしょうか

ついに完結してしまった三体シリーズ。

めちゃくちゃ面白かっただからめちゃくちゃ悲しい。はっきりいって管理人わんこたん、ずーっと三体ロス状態です。

でもでも!物語は死神永生で完結しましたが、丁儀博士が登場する前日譚 三体0【ゼロ】 球状閃電の他、三体ロスを埋めるべくファンが執筆した公認(!)スピンオフ、三体X 観想之宙など、三体ワールドはまだまだ広がっていきます。

 

三体0【ゼロ】 球状閃電
三体0【ゼロ】 球状閃電
 

 

超ド級の物理×戦争SF!

三体ゼロ 紹介記事はこちら▶

シリーズ未読でもOK 三体0【ゼロ】球状閃電は傑作物理SFだ - わんこたんと栞の森

 

 

三体X 観想之宙 (ハヤカワ文庫SF)
三体X 観想之宙 (ハヤカワ文庫SF)
 

 

死神永生のあれこれがスッキリ解決!?

三体X 観想之宙 紹介記事はこちら▶

原作者公認2次創作!三体ファンなら絶対読みたい「三体X 観想之宙/ 宝樹」あらすじと感想 - わんこたんと栞の森

 

さらに2種類のドラマ版も公開されており、映像でも三体の世界にどっぷり浸れます。(基本的にはNetflix版ドラマから観るのがおすすめ!)

 

 

さらにさらに、劉 慈欣氏の作品はそのほとんどが邦訳され刊行中。そのどれもが珠玉のおもしろさなので、ぜひ読んでみてほしい!と思います。

 

 

流浪地球
老神介護
三体0【ゼロ】 球状閃電
白亜紀往事
超新星紀元

 

 

三体シリーズを完走したあなたへ おすすめの作品

完走おめでとうございます。おめでとうございます!

次に読む作品、いかがでしょうか?

 

プロジェクト・ヘイル・メアリー /アンディ ウィアー

 

闇のSFの次は、光のSFへ!

三体シリーズが「宇宙の闇」を描き出したなら、こちらはまぶしいくらいの「光」の作品。わくわくと感動がとまらないSF謎解き冒険小説。まずは前情報を入れずに、読んでみて。

 

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
 

 

感想記事はこちら▶︎文庫化はいつ?映画化も?プロジェクト・ヘイル・メアリー イラスト付き感想と解説 - わんこたんと栞の森

 

天冥の標 シリーズ /小川 一水

 

こっちもめちゃくちゃ壮大です

全10作の壮大なSFサーガ。謎が謎を呼ぶ序盤。歴史が明らかになる中盤。大活劇に読む手が止まらなくなる終盤。

人類の旅路を、見届けませんか?

 

天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープ(上)
天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープ(上)
 

 

感想記事はこちら▶︎人類の運命は?『天冥の標1 メニー・メニー・シープ』の主要キャラクターと謎を考察 - わんこたんと栞の森

 

おすすめ作品、他にもいろいろ!

 

読み始めたらとまらない作品、揃ってます

 

当ブログでは、他にもさまざまな小説を紹介中。ぜひブクマして、気になる記事をチェックしてみてくださいね。

 

なめらかな世界と、その敵 感想「秒速0.0003cm」のきらめきを見よ

並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春、AIに支配されたソヴィエトとアメリカの対立、などなど。
引き込まれる世界観がとにかくすごい!傑作SF短編集 なめらかな世界とその敵/伴名 練 の感想を書きました。

 

なめらかな世界と、その敵
なめらかな世界と、その敵
 

 

 

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4冊以上でポイント還元アップ!事前エントリー必須なので、忘れないようエントリーだけ済ませておくのがおすすめ

 

なめらかな世界と、その敵 あらすじ

いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描いた表題作など、想像を超えた世界観が楽しめる全6篇の短編集。

各短編のあらすじは、感想の項をご覧ください。

 

 

著者 伴名 練さんについて

伴名 練さんは、覆面兼業SF作家。早川書房に「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」と称されるほど、SF愛にあふれた小説家。なのだそうです。

初の単著となったなめらかな世界と、その敵の他に、古今東西の名作や作家ごとの傑作群を編んだアンソロジー『日本SFの臨界点』シリーズを、刊行中とのこと。

わんこたんもいくつかは買ってあるのですが、まだ読めていません。はやく読まねば~~。

参考▶『なめらかな世界と、その敵』伴名練インタビュー - 「もっとみんなが活躍できるジャンルであってほしい」伴名練のSF論(KAI-YOU Premium)

 

※書影クリックでAmazonのページにジャンプします

新しい世界を生きるための14のSF
日本SFの臨界点[怪奇篇] ちまみれ家族
日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙
日本SFの臨界点 新城カズマ 月を買った御婦人
日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女
日本SFの臨界点 中井紀夫 山の上の交響楽

 

また、デビュー作となった少女禁区はホラージャンルですが、これがまた本当に濃厚でとろけるような素晴らしい味わいの作品で。

残念ながら絶版のため、ぜひお近くの図書館で探してみていただければ!

 

少女禁区
少女禁区
 

 

 

なめらかな世界と、その敵 各話のあらすじと感想

わんこたん、読書するときは、Kindleで気になったところにマーカーをひくのですが。

なめらかな世界と、その敵、「ついぐいぐい読んでしまって、全くマーカーをひけないまま読み終わっている」となるタイプの本でした。つまり最高でした。

 

収録作品の多くは人間の知覚や思考がテーマとなっていますが、その一方で、短編ごとの書き口は全く異なっていて、「本当に一人の作家さんが書いたの!?」と驚くこと間違いなし。

これだけの振れ幅でこの傑作たち。天才の所業では。


「その世界独特のルール・設定」の説明もわかりやすくて本当になめらか。ストレスなく世界観に没入できました。

 

あと表紙の女の子の表情がめちゃよい。推しの子の原作でおなじみ、漫画家・赤坂アカ先生のイラストとのこと。

以下に各短編のあらすじと感想を書きました。

 

なめらかな世界と、その敵
なめらかな世界と、その敵
 

 

なめらかな世界と、その敵

表題作。「乗覚」によって並行世界を知覚し、ありえたかもしれない世界の無数の自分と意識を共有できる世界。

主人公は学生でもあり、同時にアルバイトであり、友人はクラスメートであり、アルバイトの同僚であり、警察官であり。世界は夏だけど、異常気象で雪が降ったり、はたまた壊滅していたり

と、このように書くとめちゃくちゃわかりづらいのですが、読むと世界観にすんなり入り込める構成が、すごい。

 

この混線した世界観。self-reference-engine/円城塔を彷彿とさせつつ、さらにその世界観で、爽やかで、切ない、青春物語を成立させているのがすごい。

 

Self-Reference ENGINE
Self-Reference ENGINE
 

 

 

特にラストの「競争」と「飛び込み」のシーンは、きらびやかな映像が脳に流れ込んでくるようでした。葉月とマコトの友情に、幸あれ。

 

ゼロ年代の臨界点

1900年代、開明女学校の才女3人組、富江、フジ、おとら、が日本のSF界を大いに発展させ、そして散っていった。という設定のIF年代記。

もしこの時代にタイムトラベル小説が、ネットワーク知性体が、ディストピア小説が生み出されていたら、どんな作品になっていたのだろう?

そんな想像を掻き立てられる品でした。

 

文学ジャンルのIF年代記モノ、最近ではハインリヒ・バナールの文学的肖像(ガーンズバック変換収録)を読みましたが、ゼロ年代の臨界点は、日本が舞台ということもあり読みやすいです。

 

ガーンズバック変換
ガーンズバック変換
 

 

ハインリヒ・バナールの文学的肖像

1940年頃のドイツに、架空のSF劇作家が存在していたと言う設定のIF年代記。紹介記事はこちら▶ガーンズバック変換/陸秋槎 感想 - わんこたんと栞の森

 

個人的には、作中に登場する架空のSF小説「九郎判官御一新始末」が好き。薩摩藩士が源平合戦にタイムスリップして未来の知識で無双して安徳帝と源義経で海中に遷都する。こんなストーリー、何食べたら思いつくんだ。

 

ちなみに、現実世界でウェルズがタイムマシンを小説に登場させたのは1896年、タイムパラドックスやネットワーク知性がSF作品上に登場するのには、1950~1960年代、ハインラインの時の門や、月は無慈悲な夜の女王などの登場を待たなければなりません(わんこたん調べ)。

いかに富江、フジ、おとらの描いたSF小説が未来を先取りしているかが伝わってきます。

 

時の門 (ハヤカワ文庫SF)
時の門 (ハヤカワ文庫SF)
 

 

タイムパラドックスの傑作 時の門

紹介記事はこちら▶時の門/ハインライン 時間をめぐる傑作SF小説の感想 - わんこたんと栞の森

 

最後の最後まで、百合とサプライズを詰め込んでくる点にも要注目。めちゃくちゃ歴史が改変されていて、最高でした。SFは文明を発展させるのだ!

 

美亜羽へ贈る拳銃

本作品は夭逝のSF作家、伊藤計劃氏へのトリビュートであり、「美亜羽」は伊藤計劃氏の著書 ハーモニー に登場するミアハから名前をとっています。

名前が一緒なだけで、ハーモニーを読んでいなくても問題なし。でもハーモニーは傑作なので、ぜひ機会があれば読んでみてね。

 

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
 

 

感情インプラント技術によって、感情を自在にコントロールすることが可能になった世界で巻き起こる、愛の物語。

インプラント治療で、饒舌で社交的になったり、運動好きになったり、夫婦間で互いを愛し続けられるようになったり……ちょっと三体シリーズの「刻印」を思い出しながら読んでました。

感情インプラント、いいなあ。わんこたんはイライラすると態度に出てしまいがちなので、そういうところ直したいなー。なんて考えながら読み進めていくと…

 

初読ではラストシーンが理解できず、冒頭を読み返し、「幼い君」が誰なのかを理解し、そしてすべての結末を理解しました。

これはハッピーエンドであると信じたい。インプラントなんてなくても、私たちの脳はどこまでも不自由で、どこまでも自由なんだ、と、胸を張って生きていきたい。

 

ホーリーアイアンメイデン

姉 鞠奈へあてた、妹 琴枝からの手紙。

それは、姉の目の前で自分が命を落とすことを、宣言するものでした。

妹はなぜそのような決断に至ったのか?手紙から明らかになる真相は……

うん、姉への愛と、姉への恐怖が重い!最高!

 

シンギュラリティ・ソヴィエト

AIに支配されたソヴィエトとアメリカの対立を描いた作品。こういう歴史改変SFだーいすき。最終的にはソヴィエト勝利と見せて、人類はすでに……という結末がたまりません。


全国民の脳の一部をAIの演算領域として供している、とか、そういうマトリックスとかサイコパスに通じるような設定も最高。

ところで、なめらかな世界と、その敵は2022年に文庫化されましたが、ウクライナへのロシアの侵攻をうけて、シンギュラリティ・ソヴィエトを大幅に改稿しているそうです。
 (参考:『なめらかな世界と、その敵』伴名練インタビュー - 「もっとみんなが活躍できるジャンルであってほしい」伴名練のSF論(KAI-YOU Premium)

 

管理人わんこたんが読んだのは文庫化前の版なので、文庫版ともいずれ読み比べてみようと思います。

 

歴史改変SFといえば、ナチス政権下ドイツが舞台のNSAもおすすめ!この国を支配する〇〇とは……?気になる方はぜひ。

 

NSA 上
NSA 上
 

 

ひかりより速く、ゆるやかに

とある事情で修学旅行を欠席した主人公。

クラスメートが乗った帰りの新幹線が前代未聞の異常な事故に巻き込まれ、主人公は図らずも、幸運な生存者となるのですが……

事故の真相も面白かったですが、事故後の世界の変化とか、SNS世論とか報道とかにめちゃくちゃリアリティーがありました。

 

クライマックス、時速300㎞のシーン、主人公がみたであろう、おそらく3秒前後の光の明滅。私の脳内では新海誠監督作品風のキラッキラ映像で再生されました。
タイトル「秒速0.0003cm」みたいな。

 ※時速300kmの2600万分の1で計算。

 

ところで叔父さんの助手席に積まれた本のひとつ、海を見る人。この作品も、新幹線の事故と同じ状況で引き裂かれた男女の物語なのです。とっても面白いので気になる方はぜひ。

 

海を見る人
海を見る人
 

 

 

なめらかな世界と、その敵 の次に読みたいおすすめ作品

次に読みたい、「ぐっとくる」SF短編集をテーマに、おすすめをご紹介!

 

人間たちの話/柞刈 湯葉

 

人間は、今日もどこかで生きている!

凍りついた地球で。あるいは宇宙のラーメン屋で。

今日も人間たちは、どこかで元気に生きている!不思議でなぜか元気が出る人間の物語を集めた。SF短編集です。

 

人間たちの話
人間たちの話
 

 

紹介記事はこちら▶︎(読了)読書感想文/人間たちの話 柞刈 湯葉 - わんこたんと栞の森

 

円 劉慈欣短編集/劉 慈欣

 

劉 慈欣は短編がすごい!

三体シリーズでお馴染みのSF作家、劉慈欣さんですが、実は短編がキレッキレに面白い!歴史哲学、文化、そしてSF。いろんな要素が盛り込んで、物語を成り立たせる手腕は、さすがの一言。

三体シリーズは長すぎて読めない……と言う方にもお勧めです。

 

円 劉慈欣短篇集
円 劉慈欣短篇集
 

 

作品の紹介記事はこちら▶︎

「円 劉慈欣短編集」のネタバレ感想。短編から味わう劉慈欣SFの魅力! - わんこたんと栞の森

 

劉慈欣さんの他作品についてはこちらをどうぞ▶︎

三体だけじゃない 次に読みたいおすすめ劉慈欣作品を一挙解説! - わんこたんと栞の森

 

おすすめ作品、他にもいろいろ!

 

読み始めたらとまらない作品、揃ってます

 

当ブログでは、他にもさまざまな小説を紹介中。ぜひブクマして、気になる記事をチェックしてみてくださいね。

 

 

シリーズ屈指の人気作!三体2黒暗森林 ネタバレ感想と解説

前作「三体」で明らかになった、人類文明の危機。
どう見ても絶望的な展開に勝機はあるのか?
読めば「三体前には戻れない」と絶賛される、2作目「黒暗森林」
ネタバレ感想と解説です。

 

\\4月23日に文庫版発売//

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

<以下、ネタバレを含みます。>

三体シリーズ未読の方は、こちらの記事(ネタバレなし)からどうぞ!

 

前作「三体」の感想はこちら

 

 

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三体Ⅱ黒暗森林 あらすじ

前作「三体」で地球を攻撃する意思を明らかにした三体星人。

4世紀後に地球に到達する三体艦隊との戦いにそなえ、地球文明は「面壁計画」の実行を決断する。

三体文明から送り込まれた陽子サイズのスーパーコンピューター智子(ソフォン)を欺く奇策とは?

そして明らかになる、暗黒の宇宙の姿とは?

 

本当にページをめくる手が止まらない。一気読みさせられました。

最高に幸せで、最高に寝不足でした。

  • 著者:劉 慈欣
  • 翻訳: 大森 望 、立原 透耶、 上原 かおり、 泊 功
  • 発売:早川書房 2020/6/18
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(朗読版):聴き放題対象
    5分間の試聴はこちら(リンク先で▶Audibleサンプルを押してください)

    管理人わんこたんはAmazonの提供する本の朗読サービス、Audibleで再読。あらためて読むと、初読では気づかなかった伏線に感動しました。

     

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冒頭「宇宙社会学の公理」から、いっきにつながる爽快感

冒頭、羅輯(ルオジー)と葉文潔(イエ・ウェンジェ)の会話から始まり、いきなり登場する、宇宙社会学の公理。

 

読者は「宇宙社会学?それが三体星人との戦いにどのように役立つのか?」と疑問に思うわけですが、小さなひびわれが巨大な地割れになるように、この公理がラストの展開に大きく影響します。

 

冒頭からラストまで、一気通貫するストーリー構成。本当に見事でした。

 

三体世界の唯一の弱点が明らかに。どう戦う?

羅輯(ルオジー)と葉文潔(イエ・ウェンジェ)の会話に続いて、エヴァンズ(三体文明に味方する地球人、前作「三体」で死亡)と三体世界の、過去の会話シーンが描かれます。

 

前作で三体文明の脅威をみせておきながら、ここで弱点が明らかになる構成がとにかくうまい。

  • 宇宙社会学の公理
  • 三体世界の弱点

この2つが、三体世界と戦うための唯一の武器であり、ヒントであり、最大の謎となって、読者をぐいぐい引っ張っていきます。

未読の方は、ここでこの記事を閉じて、「黒暗森林」を読むことをおすすめします。

 

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

 

三体2黒暗森林 登場人物の解説

三体2黒暗森林に登場する主要な登場人物たちの見どころをまとめました。

 

前作から続投の史強(ダーシー こと シーチァン) 

本作の史強は、主人公羅輯(ルオジー)のボディーガードとして登場。前作以上に頼りになる、人生の兄貴分として羅輯の精神的支柱になります。あと、何度も命を救います。

 

「黙っていること、決して口に出さないこと。それが勝利への条件」

黒暗森林の前半で史強が羅輯にアドバイスした内容が、結末に生きてくるという展開もぐっときます。

 

史強のセリフは声で聴くと本当にかっこいいので、原作読んだ方も、一度は聴いてほしい、ほんとに。

黒暗森林の史強はかっこいいところだけでなく、父親として苦悩するセリフもあるのですが、その心情を表現した朗読に注目です。

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羅輯(ルオジー)と章北海(ジャンベイハイ)2人の主人公

面壁者である羅輯と、宇宙艦隊の指揮官、章北海。

2人は作中で一切接触しませんが、下巻での章北海の行動と、それによって引き起こされる「暗黒人類の戦闘」が、羅輯の思考を補強し、ラストシーンにつながる、と言う構成になっています。

 

黒暗森林の主人公は羅輯ですが、彼が表の主人公なら、章北海は裏の主人公と言えるでしょう。

 

羅輯(ルオジー)と章北海(ジャンベイハイ)という2人の主人公ですが、Netflixドラマ版では、意外な人物がこの役に割り当てられています。

 

 

ある意味、第5の面壁者 章北海(ジャンベイハイ)

章北海は「勝利主義者の急先鋒」として周りを、読者すらも欺く人物。

刻印族、という意図しなかった要素も計画に組み込みつつ、最後の最後に手の内を明かす、このシーンは本当に痺れました。

 

章北海の行動によって、当てのない暗黒の旅路に向かうこととなった戦闘艦ですが、続編の死神永生ではこの艦が人類の切り札に。

 

\\3作目は上下巻//

三体Ⅲ 死神永生 上
  

 

章北海がこの展開まで予想していたかは不明ですが、物語への影響と、本心を最後まで隠していた点から、章北海は5人目の面壁者(ウォール・フェイサー)と言えたのかもしれません。

 

羅輯(ルオジー)の怠惰な生活にドン引き!?

面壁者としての地位を一方的に与えられた羅輯。

なぜ自分が面壁者に選ばれたかわからないまま、強大な権限を与えられ、三体文明から命を狙われ、何が何だかわからない!と自暴自棄に。

 

羅輯はその地位を濫用して、豪邸を手に入れ理想の女性「荘顔(ジュアン・イエン)」と結婚し、子供を作って幸せに生活し始めます。

 

そんな簡単に相思相愛の理想の女性が現れるはずないやん、絶対に何かの罠やろ。と、思っていましたが、、、

別に罠ではなかった

読者が思わず「なんじゃこりゃ」と言いたくなるような幸せな結婚生活。この生活パートがそんなに面白くないという。ルオジーが理想の女性を妄想する場面なんか、読みながらちょっとヒいてました。

 

この幸せな生活がなければ、羅輯が面壁者としての責務を果たす動機も生まれなかったので、決して無駄なシーン、というわけではないのですが。

 

ところで羅輯と荘顔がルーヴル美術館で眺めた「モナリザ」。続編の死神永生の終盤に登場するのですが、このシーンがまた切ない。

 

マクロとしての地球人類の戦いとミクロの庶民の戦い

地球人類全体の戦いと同時並行的に描かれるのが、地球の各個人の姿

危機紀元3年に登場する3人の老人(ミャオ、ジャン、ヤン)の姿から描かれる、地球の庶民の強かさも、見どころです。

ちなみにこの3人の会話シーン、Audible版(朗読版)で聴くと、声質で老人3人をきっちり演じ分けていて、声優さんの技術に感動!

既読済みの方こそ、聴いて見てほしいシーンです。

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超テクノロジー「水滴」の恐怖

黒暗森林で最大の山場となるのが下巻の「水滴」シーン。

勝利への希望に満ち溢れていた人類文明をとことんまで絶望に突き落としてくれました。

三体シリーズはネットフリックスでのドラマ版配信が決まっているので、このシーンがどう描かれるか、今からとっても楽しみです。

 

ドラマ版情報はこちらをチェック!

三体のドラマ版はテンセント版とNetflix版の2種類。

基本的にはNetflix版のほうが分かりやすく、おすすめです。※水滴のシーンはまだ映像化されていません。

ドラマ三体 テンセント版(アマプラ版)とNetflix版の違いは?最新映像化情報 - わんこたんと栞の森

 

三体文明の超兵器「水滴」の原理をわかりやすく解説

水滴は、作中の描写によれば

  • 水滴を構成する分子が一切振動せず結合している
  • よってその温度は絶対零度(−273.15 °C)
  • 水滴を構成する分子は強い相互作用で結合している

となっています。なるほどわからん。

 

強い相互作用(storong interaction 日本語では強い力、ともよばれる)というのは比喩ではなく、素粒子物理学の専門用語です。

 

原子核の中に存在する「陽子と中性子」がバラバラにならずくっついていられるのは、この「強い相互作用」のおかげ。

素粒子「グルーオン」がゴム紐のような力で、陽子と中性子(を構成するクオーク)をくっつけていると考えられています。

 

しかし、強い相互作用は原子核の直径(10^-15メートル)しか届きません。水滴のような大きなものをこの力でカッチカチに結びつけるのは、無理があります。

だからこそ、理論物理学者である丁儀(ディン・イー)は、この水滴から三体文明のはかりしれない技術力を察知し、絶望したのですね。

 

強い相互作用を含む、素粒子物理学については、「宇宙は何でできているのか」という本がわかりやすいです。わんこたんのような物理素人でも理解できるよう丁寧に説明しているので、ぜひ読んでみてくださいね。

 

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三体2黒暗森林の見どころと感想

黒暗森林の感想をまとめました。

「黒暗森林」は宇宙戦争SFであり、ミステリーでもある

「黒暗森林」はもちろんSFではありますが、手に汗握る心理戦でもあり、バディものとしてのワクワク感もありつつ、謎解き要素を持つSFミステリーと言えるかもしれません。

 

本作の謎は、人類の目的を達成するための、方法はなにか?ということ。

人類の目的

三体文明の侵略を防ぎ、人類の生存ルートを導き出す。

解決策を導くための条件はストーリーの前半に散りばめられています。

条件は、人類にとっての障害であったり、あるいは逆にアドバンテージであったり。

 

人類の生存ルートはあるのか?条件の数々
  • 三体文明は人類側よりも、はるかに技術レベルが高い。

  • 人類側は三体文明の妨害により、物理学の発展が不可能

  • 三体文明は人類側にスパイマシンを送り込んでいる。人類の行動、会話、機械のデータなどはすべて三体文明に筒抜け。

  • 三体文明は人間の「思考」は観測できない。

  • 上記4つは、人類側も三体文明側も把握している。

  • 宇宙社会学の公理がヒントになる

果たして、人類の生存ルートは???

この解を追い求めて、読者は眠れぬ夜を過ごすことになります。

絡まった糸が少しずつほどけていくような、快感。盛り上げ方が本当にうまい!

読者の予想をかるく飛び越える展開は、前作「三体」を軽々と超える面白さでした。

 

希望と絶望の振れ幅がすごい

途中、あれ?意外と人類勝てるのでは?と思わせておいて、下巻「水滴」登場。この希望と絶望の振れ幅がとてつもない。

あまりの加速度にわんこたんの精神は、第4戦速状態の艦隊の中身さながら、ぐっちゃんぐっちゃんになりました。

 

三体危機に直面した地球文明は敗北主義、地球からの逃亡主義を根本から否定するという方針をとります。

それに伴う市民生活の変化、軍内部での軋轢がリアルに描かれて、SFにおさまらない社会的なリアリティがありました。

 

地球からの逃亡は是か非か?この点は続編の死神永生でもポイントになります。

 

あまりに綺麗な結末、しかし、、、?

黒暗森林は3部作の中の2作目ですが、結末がとてもきれい。でもこれ、続くんです。

一体どうなってしまうのか。はやく続きが読みたい。ああ読みたい。

というわけで、続編の邦訳、読みました!

三体Ⅲ 死神永生の感想(ネタバレあり)はこちらから!

 

三体Ⅲ 死神永生 上
  

 

三体2黒暗森林 続編に向けて残された謎

三体2黒暗森林を読んで、ここ、どうなの?と感じた部分をまとめました。

※以下は三体3 死神永生を読む前に書いた記事となります。

 

生き残った二隻「藍色空間」「青銅時代」の運命は?

人類の生存をかけ「暗黒の船」になることを選択した2隻の船。

 

同時多発的に戦艦どうしを攻撃する場面は、手塚治虫「火の鳥-未来篇-」でメガロポリスが同時に滅亡するシーンを、

当てのない宇宙への旅に出る「新人類」の場面では「火の鳥-宇宙篇-」で軌道を離れて徐々に交信不能となる脱出カプセルのことを思い出して、ぞくっとしました。

 

この2隻は続編に登場するのでしょうか?

 

三体文明の運命は?

羅輯(ルオジー)の活躍で地球侵略を阻止された三体文明。

資源不足でさまよう三体文明の艦隊を、人類は救出に行くのでしょうか。

どうか、ふたつの文明が手を取り合って、暗黒の宇宙を照らしてほしい、と思わずにはいられませんでした。

 

とはいえ、人類側は三体文明の攻撃でかなりの犠牲を出しているので、和平は難しいかも。

 

刻印族は生き残っているのか?

敗北の精神刻印がされた「刻印族」。

彼らの存在によって、絶対に刻印されていない存在=刻印技術の開発前にコールドスリープを開始した章北海(ジャンベイハイ)が艦長になる流れを生み出しました。

 

結局、刻印族がどうなったのか、本当に存在していたのかは不明のまま。続編で触れられるでしょうか?

 

なぜ「三体文明」は敗北主義者を危険視するのか?

ちょっとわかりづらいので整理。

敗北主義者は、太陽系外への脱出を基本方針としています。敗北主義が主流になれば、人類が太陽系外のあちこちに散らばることに。

三体文明は人類の思考がよめないので、何考えているかわからない奴らが太陽系外にちらばってほしくない。なので敗北主義を危険視している。

これは、黒暗森林の冒頭で三体文明からウォールブレイカー2号に説明している内容です。


この真意は、人類が宇宙に散らばることで、誰かが「太陽系」「三体文明」の位置情報を、故意に発信することを、防ぎたかった。

だったんですね。

 

大史、どうか続編にも登場しておくれ、、、

1作目「三体」で放射線浴びまくって白血病になるも、すんごい未来技術でばっちり治して大活躍の大史こと史強。お願い、続編にも登場しておくれ、、、

 

続編発売前に、1作目の「三体」から史強の活躍をもう一回読みなおそうと思います。

 

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

 

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折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー 感想 とにかく「円」が最高だった

現代中国のSF小説、と聞いて、どんな作品を思い浮かべますか?

その広がりと深さに驚かされる、SF短編集 折りたたみ北京の感想を書きました。

 

 

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折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 

 

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー あらすじ

  • 秦の始皇帝の命で、円周率の算出を目指す荊軻の物語、「円」。
  • 3層に分断された都市を描いたヒューゴー賞受賞作「折りたたみ北京」

など、ケン・リュウ氏が精選した7作家13篇を収録した傑作アンソロジー。

さらに、劉慈欣、陳楸帆、夏笳天の3者が中国SFについて語るエッセイを収録しており、中国SFの歴史と広がりを俯瞰できる構成となっています。

 

  • 編:ケン・リュウ → Amazonの作品一覧ページはこちら
  • 翻訳:中原 尚哉、大谷 真弓、鳴庭 真人、古沢 嘉通 
  • 発売:2018/2/25
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象外

 

ケン・リュウってどんな作家さん?

収録作品を選出したケン・リュウ氏。

中国うまれ、アメリカ合衆国在住の小説家、翻訳家であり、SF作品を得意としています。

2012年に、 紙の動物園 でネビュラ賞とヒューゴー賞と世界幻想文学大賞の短編部門で受賞、史上初の三冠を達成しました。

紙の動物園は、ふしぎな折り紙を題材に家族のふんわりとした温かい雰囲気が染みる、SF作品です。)

 

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 

 

また、SF小説 三体/劉 慈欣の英訳者としても知られ、三体の世界的ヒットのきっかけとなった方でもあります。

 

三体

 

 

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー 感想

妖怪、ディストピア、サイバーパンクなど様々な要素が登場し、中国SFの懐の広さを感じました。

一方で、結末がはっきりしない、読者の想像に委ねられている作品が多いのにはちょっとモヤモヤ。読み手の好みにもよると思います。

そしてやっぱり、「円」は断トツでおもしろい。何回読んでも面白いなー、すごいなー。

以下に各収録作の感想をかきました。好きな作品には★をつけています。

 

鼠年/陳楸帆(スタンリー・チェン)★

就職にあぶれた中国の若者たちが、国家的な鼠駆除部隊に配属されるバイオSF。

遺伝子組み換えデカ鼠たちを殺戮するシーンはなかなかグロいんですが、「全てが予定調和だった」という展開が良かった。

想像ですが、鼠駆除部隊によって、就職難も解決するし、黒炮のような人格に問題のある人材は、適当に理由をつけて排除して社会復帰させないことも可能。国家にとってはいいことづくめ。

駆除される鼠も、自分たちも、結局は同じ層の存在だった、という悲哀を感じます。これが長編だったら、絶対に鼠の逆襲が始まる。

 

麗江の魚/陳楸帆

精神疾患を指摘され、治療のため麗江を訪れた主人公

鼠年 もそうだけど、実は国家ぐるみでマッチポンプ的に管理されてました、というのはディストピアみあっていい。その中でも時間圧縮障害と時間拡張障害っていう概念が展開されていて、おもしろかったです。

麗江の納西(ナシ)族というのは実在の部族ですが、観光化によって本来の伝統的な生活が浸食されていて……というのは現実に起こっているようで、地震で被害を受けた地域に伝統的家屋「風」な新しい市街地が作られているんだそうです。

参考:世界の果てまでイッテにゃー! 中国 雲南省4 ~800年前の古代中国の街並み、麗江古城とナシ族の玉湖村で楽しい出会い~

 

沙嘴の花/陳楸帆

経済開発特区と、その狭間の都市のサイバーパンク譚

皮膚や洋服に画面表示させるシーン、麗江の魚や三体にも登場するんだけど、中国SF的にはメジャーなガジェットなのかな?w

お話自体はいろんな要素てんこもりすぎて、ちょっと私の好みではなかったです(あのレオタード、いったい普段は何の目的で使うのさ)

でも中国作家のサイバーパンクって、日本のそれとはまた違う趣があって興味深い。

 

百鬼夜行街/夏笳(シア・ジア)

観光用に作られ、うち捨てられたロボット妖怪たちの住む、百鬼夜行街。その営みと、滅びの物語。

中国の妖怪の造形は、日本のそれと似てるけどやはり違う部分もあって、文化の違いを感じますね。

ストーリーとしては、結局主人公「ぼく」の正体が曖昧なまま終わってしまい、消化不良。

 

童童の夏/夏茄 ★

VRと遠隔操作を駆使した「介護」にまつわる物語。

奇しくも収録作品である神様の介護係と同じ「介護もの」です。日本と同じく、中国も高齢化進んでいますので、なんとなく我々にとってもなじみ深いテーマ。

介護ロボットを通じて次第に心を通わすおじいちゃんと童童がいとおしい。

身体の機能が衰えても、ロボットによってふたたび溌剌と活動する老人たちの姿が描かれます。介護ロボットの広告っぽさはありますが、収録作品の中でほぼ唯一、心温まる展開なので、癒されますね。

 

龍馬夜行/夏茄 ★

展示用に作られた美しい龍馬のロボットが、人間のいなくなった未来でめざめる物語。SFと伝統文化の融合したような作品。

多くの詩が引用され、詩が深く中国文化に根付いているのを感じます。

作中に登場する「龍馬精神」とは、龍や馬のようにパワフルに頑張ろうという意味の言葉のようで、成功・健康を祈願する縁起の良い言葉のようです。

2023年のジャッキー・チェン主演の映画タイトルにもなっていたり。

参考:《龍馬精神》(英語:Ride On) - 觀後感

 

著者によれば、龍馬の姿については実際の動画を見てほしいとのこと。


www.youtube.com

 

動画のロボットもすごいんだけど、文章だけの描写のほうが、より神々しくて、儚げで、美しかったなあ。

 

沈黙都市/馬伯庸(マー・ボーヨン)★

原作ではニューヨークを舞台としているが、これは中国当局の検閲を回避するため。

したがって、折りたたみ北京では、テキストを元に戻し、より著者の意図に合う作品として収録しているそう。

極度の検閲がしかれた未来都市を描いたディストピア小説であり、かの有名な1984年/ジョージ・オーウェルのオマージュでもあります。

1984の発表時にはなかったWebシステムを物語に加え、より現代風にアレンジ。主人公は息詰まる超検閲社会の隙間を縫って自由に会話することのできるクラブに行きつくのですが…

当局をコソコソ批判する。批判するだけは楽しいけれど何も生み出さない、本当に何かを変えたければ、行動を起こさなければならない、というメッセージを感じます。実際に行動を起こすことの勇気や尊さを伝えようとしているように思えました。

いったい アルテミスは何をされたんでしょう、こわぁ。

 

見えない惑星/郝景芳(ハオ・ジンファン)

さまざまな惑星を旅してきたという語り手が、独自の進化を遂げた知的文明をひとつひとつ語っていく。

どの惑星も脅威の生態を持ち、神秘性と不穏さの絶妙なバランスがいい。特に崖に住むピマチェーの真の過去は想像をかきたてられます。

アイフオウーみたいに時間軸が違いすぎる生命が共存している世界も面白い。

ストーリー性は少ないですが、楽しめました。さまざまな文明を紹介する構成は、海を見る人/小林泰三 を想起しました。

 

海を見る人
海を見る人
 

 

折りたたみ北京/郝景芳 ★

表題作。 3層に分かれた折りたたみ型の都市。北京。

都市は1階層ごとに時間を区切って起動。起動中に人々は働き、 時間が来るとカプセルに入って就寝(スリープ)、 次の都市が起動され……というサイクルを繰り返す。そんな都市の第3層(最貧困層)に住む主人公が、他の層を訪れる物語です。

 

雇用問題という背景、舞台設定はすごくおもしろかった。

一方で「そもそも都市をややこしい折りたたみ型にした理由」がよくわかりませんでした。普通に平面上で壁で区切るだけではダメなのか。いろいろ理由を考えました。

  • 複雑な機構の都市を建設することで、雇用創出
  • 人口が多すぎて立体的にしないと収容できない
  • 別層の様子がいっさい見えないデザインなので、住民側から貧富の差を実感しにくい=為政者支配しやすい

といった理由があるのかな?と勝手に納得することにしました。そこらへんも詳しく設定を知りたかったな。

 

コール・ガール/糖匪(タン・フェイ)

コールガールっていう言葉、現代日本だとあんまり聞かないよね。若い方には通じないかもしれない、とふと思う。

お話は……ちょっとマトリックスを思い出した。

 

蛍火の墓/程婧波(チェン・ジンボー)

死にゆく星々の世界から、新天地に向けて苦難の旅を続ける難民たち。

まるで童話のような、幻想的な旅路が描かれます。

「夏への扉を抜けて」とか「深紅の宇宙へのカーテンコール」といった小題がついています。夏への扉は、あのハインラインの夏への扉(より良い未来、を意味する言葉)からの引用でしょう。

 

夏への扉 新版
夏への扉 新版

 

他にも元ネタがありそうな気がしますが、わんこたんにはわからず。

 

円/劉慈欣(リウ・ツーシン) ★

舞台は紀元前227年。 秦の政王(始皇帝)と、暗殺者であり数学者でもある荊軻の物語。

不老不死を求める始皇帝に、 荊軻はある「装置」を提案し、円周率の計算に挑みますが……

アイデア、おもしろさ、意外性、物語性、史実との繋がり……どれをとっても超一級。 読み始めると興奮で手が止まらなくなります。初めて読んだ時はあまりの衝撃に脳が痺れました。

 

「円」は、 同じく劉 慈欣の大ヒットSF作品「三体」から 一部を抜粋・改変した作品。 「三体」ではどのような経緯で「円」が登場するのか。気になった方はぜひチェックを。

何を隠そう、管理人わんこたんも、「円」をきっかけに三体シリーズを読み始めて、どハマりしたのです。

 

三体

 

 

一方で荊軻が登場するのは短編版の円のみ。荊軻の登場によって、新たな人間ドラマがうまれ、物語に奥行きが生まれている点も見逃せません。

つまり短編版の「円」も三体の中に登場する「円」も、どちらも最高に面白いよ!ーというわけ。

 

※「円」に登場する「あの装置」について、ちょっとPCに詳しい方によれば、

「理論はおもしろいが、どうやって”同期”をとるのか」

という指摘をいただきました。なるほど、これを実際に運用するのはかなり難しそうです。

 

以下は、三体シリーズ、及び「円」読了者向けのネタバレ考察

ここをクリックで開きます▼ 生身の人間が、この人力演算機を稼働する場合、入力を視覚情報で得てから、旗運動で出力するまでにタイムラグが生じるため、各部位のタイミングが一致せず、演算を行うのはかなり困難です。 一方で、三体人どうしならば思考を一瞬で相手に伝達できるので、人力演算機を実際に運用することも可能だったでしょう。つまり、三体における計算シーンは、三体人の身体特性を示す「伏線」だったのです。

 

全く話は変わりますが、アプリゲームFGOのエピソード「人智統合真国 シン」もSF的切り口から秦の始皇帝を描いていて、めちゃくちゃ面白かったんですよね。始皇帝×SFに、ハズレなし。

神様の介護係/劉慈欣 ★

地球上に突如飛来した、20億人の年老いた神。
彼らはかつて地球に生命、そして人類文明を生み出した創造主であると主張、創造のお礼に老いた自分たちを「介護」してほしいと要求し……

図々しい創造主たちですが、彼らの切ない来歴にやるせない気持ちになります。

 

かつては栄華を誇っていたのに、コンピューター任せにしていたら、知能が衰えてなにもできなくなってしまった神様。AIになんでも頼る、今の人類と重なるようでゾワゾワ。

そしてラストに人類に待ち受ける超難題!神たちがまいた種が原因で……さすが神。こんにゃろ~w

円も、神様の介護係も、とにかく面白くて読みやすいんですよね。さすが劉 慈欣先生、といったところ。

 

エッセイ

劉慈欣、陳楸帆、夏笳天 による3篇のエッセイが収録されています。

中国SFの歴史の俯瞰、三体執筆の裏話、などなど。

中国国民にはさまざまな属性があり、とてもひとまとめに表せるものでない、特に若い人々の価値観は多岐に渡り、細分化している、という指摘にはハッとしました。

中国というラベルでひとくくりにすることはできない、これは日本にも言えることかもしれません。

日本は、国土こそ狭いですが、多様な価値観の人々がいて、その裾野はどんどん広がっている気がします。

 

まとめ 中国という国と、そのSFに思うところ

まえがきで編者のケン・リュウ氏はこう述べています。

中国の作家の政治的関心が西側の読者の期待するものとおなじだと想像するのは、よく言って傲慢であり、悪く言えば危険なのです。

 

  • この描写は共産主義社会への批判なのかな?
  • 中国の教育制度への批判を暗に描いているのかな?

 

なんて、中国(の政治)へのイメージを強く持ちすぎるあまり、私たちは中国の作家の作品から政治的メタファーを読み取ろうとしてしまいがちです。

もちろん、実際中国には検閲制度がありますし、作品には政治的な暗喩を含んでいるのかもしれません。

でも、まずはシンプルに、中国作家たちのSF作品を楽しんでほしい。そんな思いを感じました。

 

折りたたみ北京 の次に読みたいおすすめ作品

管理人わんこたんおすすめの中国語圏作家作品と記事を紹介します

 

文学少女対数学少女/陸 秋槎

 

数学×ミステリー×ちょい青春!

「文学少女」陸 秋槎(りく しゅうさ)は自作の推理小説について相談するため、同じ高校の「数学少女」韓 采蘆(かん さいろ)の元を訪れる。采蘆は数論をもとに、小説の新たな真相を導き始め……!?

数学×ミステリー×青春(×ちょい百合)な、脳みそを刺激する知的遊戯が楽しい1冊です。

 

文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 

 

紹介記事はこちら▶数学×ミステリーの新感覚が楽しい 文学少女対数学少女 感想 - わんこたんと栞の森

 

 

厳冬之棺/孫 沁文

 

中国の「密室の王」、日本初上陸!

上海郊外、陸(ルー)家のお屋敷の地下倉庫から、陸家当主、陸仁が遺体となって発見された。しかし事件当時、地下倉庫は入口が完全に水没した密室となっていて…

不可解な密室の謎に挑むのは、マンガ家探偵!?

タイトルからは想像できない、ダイナミック密室3連発が楽しいミステリーです。

 

厳冬之棺
厳冬之棺
 

 

紹介記事はこちら▶厳冬之棺 感想 中国から初上陸の、極上密室エンタメミステリー - わんこたんと栞の森

 

流浪地球/劉 慈欣

 

収録短編すべてが傑作!

劉 慈欣氏のSF短編はどれもとってもおもしろいのですが、中でもおすすめがこの流浪地球。どの収録作品もクオリティがえげつない「全部おもしろい短編集」!

 

流浪地球
流浪地球
 

 

紹介記事はこちら▶収録すべてが傑作ぞろい!珠玉のSF短編集 流浪地球と老神介護 - わんこたんと栞の森

 

おすすめ作品、他にもいろいろ!

 

読み始めたらとまらない作品、揃ってます

 

当ブログでは、さまざまなテーマで小説を紹介中!ぜひブクマして、気になる記事をチェックしてみてくださいね。

 

 

地獄のような奇書〔少女庭国〕矢部 嵩 感想と考察

 

少女庭国 イラスト

無限に増える部屋、無限に増える中3女子
いったい我々はなにを読ませられているのか
奇書と名高い〔少女庭国〕/矢部 嵩の考察を書きました。

 

〔少女庭国〕
〔少女庭国〕
 

 

 

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〔少女庭国〕のあらすじ

卒業式会場に向かっていたはずの中学3年生、羊歯子は

――――――――暗い部屋で目を覚ます。


隣の部屋に続くドアには貼り紙。

“下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1 とせよ”。

少女庭国 あらすじ イラスト

羊歯子がドアを開けると、そこにはまた新たな卒業生「村田 犬子」が。

 

ここまで、ドアの開いた部屋nは「2」(開いたドアでつながった手前側の部屋と
奥側の部屋を2部屋とカウント)

n-m=1を満たすには、羊歯子と犬子のどちらかが「死んだ卒業生」となってm=1にする必要がありそうです。

 

しかし2番目の犬子の部屋にも同じ貼り紙付きの扉があり、その奥にはまた別の卒業生藤子が横たわっていて……

少女庭国 あらすじ イラスト

結果、計13部屋を解放し13人となったお互いに面識のない中3少女たち。彼女たちの運命は……??

 

〔少女庭国〕著者  矢部 嵩さんについて

とにかく「奇妙なホラー」を書くことで知られている作家さん。

2024年現在、Amazonでは〔少女庭国〕含め4作品が購入可能です。

〔少女庭国〕がけっこうな衝撃作だったので、怖がりなわんこたんはまだ他の作品を読む勇気がでません。

 

紗央里ちゃんの家
保健室登校
魔女の子供はやってこない

 

矢部 嵩先生ご自身のX(旧:Twitter)アカウントとブログ「粉」はこちら。

なんとなく、アカウントからすでに不穏な感じが漂っているような。

 

〔少女庭国〕感想と考察

〔少女庭国〕について考えたことをまとめました。

CAUTION!

以下より、〔少女庭国〕の展開に触れています。未読の方はご注意ください。

 

羊歯子の結末→少女庭国補遺へ

最後は生き残った羊歯子の独白で幕を閉じる〔少女庭国〕。羊歯子が脱出できたかどうかは不明のまま。

と、この時点で残りページがまだ4分の3残されていることに読者は気がつくでしょう。

ここからが本作品のメイン、少女庭国補遺であり、あまりに奇妙な地獄の始まり。

以下からは真のネタバレ考察となっておりますので、読了前提でお読みください。

 

〔少女庭国〕
〔少女庭国〕
 

少女庭国補遺 のあらすじ

少女庭国「補遺」では、まるで観察日記のように中3女子が目覚め、迎える結末が羅列されていきます。

羊歯子はどうなったのか、この世界の黒幕は?といった説明は一切なし。次々に目覚めては死んでいく中3女子たち。

その中で、この世界のルールも少しずつ明らかに。

 

  • 部屋をのドアをひとつ開けるごとに中3女子は一体ずつ増える
  • 部屋の数は無限にある
  • 壁は硬いが掘り進めることは可能。どこまで掘り進んでも外には出られない
  • 部屋のドアを開けるまで中の女子は生命活動を停止している。ドアを開けることで生命活動を再開する。
  • なのでドアを開けずに壁を壊して隣室に入ると、隣室の中3女子は目覚めない
  • 各女子の性格や体格、持ち物はランダム

 

何度も試行される中で、部屋を開けて得られる「中3女子の身体という素材」をもとに、文明が発展するパターンも。作者の頭の中、どーなってるの。

 

少女庭国補遺 ネタバレ考察

少女は全員同じ学校の中学3年生のはずですが、だれひとり、お互いに面識がありません。(有名な先輩、教師などの共通認識はある)

また、同学年の卒業生は本来200人のはずが、部屋を開ければ無限に中3女子は増え、集団は1000人規模に膨れ上がります。

 

こんなのが物理的に実現されているとは考えにくいので、全て「シミュレーター内で演算」された世界であり、「少女庭国補遺」はシミュレーターを観察する外部者が記載した。という可能性もありでは。

 

道具を作る少女が現れた際、「人骨の利用」「道具の量産」等歴史の教科書のような太字の注釈が入れられているあたり、まさに観察日記のよう。

 

シミュレーターを操る外部者の正体は不明ですが、読み手側もシミュレーターの外側の
「観察者」という位置付けで、本作品に巻き込まれていると考えると、おもしろいです。

 最後の1人になって脱出したとみられる少女も、実際には条件を満たしてシミュレーターから削除されたのかな、と想像。

 

なおこの考察には、生身の少女がこんなめにあうなんてかわいそすぎるからせめてシミュレーター内のできごとであってほしい、というわんこたんの願望が含まれております。

 

〔少女庭国〕というタイトル

中3女子は全員、胸元にいろんな種類の生花を挿しています。(卒業式の飾りのため)

少女ひとりひとりを花に見立て、温室の草花を観察するように記録する。ということでしょうか。

そしてこのタイトル「少女庭国」ではなく、「〔少女庭国〕」というカッコつきになっているんですよね。(わんこたん、このことに最近気づきまして、当記事を2年ぶりに全面修正しました)

このカッコ、閉じられた世界のメタファーなんでしょうか。

 

〔少女庭国〕の次に読みたいおすすめ書籍

〔少女庭国〕のような、まるでシミュレーターのような「世界」を舞台にしたおすすめ作品をご紹介!

 

想像を超える不思議な世界!海を見る人/小林泰三

収録作品の「キャッシュ」では、長期間の宇宙航行での人工冬眠中、冬眠者の意識が滞在する仮想世界が登場。しかし仮想世界に崩壊の危機が迫っていて……?

他にも不思議で想像を超えた「世界」がいろいろ登場!知る人ぞ知る、傑作SF短編集です。

 

海を見る人
海を見る人
 

 

 

夢とリンクする殺人!?アリス殺し/小林泰三

こちらは小林泰三さんのミステリー作品。不思議の国でハンプティ・ダンプティが塀から落ちて死ぬ夢を見た後、亜理が大学に行くと、玉子というあだ名の人物が転落死。

夢の世界の死は現実の死?明らかになる「世界」の真実は……

 

アリス殺し
アリス殺し
 

 

 

仮想リゾートに迫る危機 グラン・ヴァカンス シリーズ/飛浩隆

ゲスト(人間)を、自我をもったAIがもてなす、仮想リゾート。

バーチャル世界でバカンスできるラグジュアリーで優雅な世界と思いきや……この美しいメッキがはがれ、リゾートの闇、人間の欲が明らかになる構成にゾクゾク。

シリーズ未完ですが、続編執筆継続中ということで、楽しみにしてます!

 

グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ
グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ
 

 

 

他にもおすすめ小説いろいろ

 

【難しかった】ダブル サイドA / パクミンギュ の率直な感想

韓国文学を代表する作家「パク・ミンギュ」の短編集。
その奇想天外で難解な世界観について、感想を率直に語ります。

 

短篇集ダブル サイドA (単行本)
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著者とあらすじ

韓国の人気実力派作家パク・ミンギュの短篇集。奇想天外なSF、現実的で抒情的な作品など全9篇収録。サイドAとサイドBの2冊に分かれた短編集で、二巻本のどちらから読んでも大丈夫です。この記事ではサイドAのみ紹介していきます。

全体的な感想 ~視覚的な工夫がおもしろい~

この本、文章の途中、唐突に空白を挿入するという技法?を多用しています。

私たちも考え事するときに、ふと、思考が途切れたり、止まったりすることがあると思いますが、本書の空白はそういった「間」の描写かなと。
登場人物の思考と一体化していくような、不思議な感覚を味わえます。

他にもフォントサイズが途中で変わるなど、視覚的な工夫がおもしろいです。

各短編の感想

本書には9作品収載されていますが、前半3作は現在の韓国を舞台に、後半6作はSFベースの作品です。

1作目「近所」

主人公は、最終的にすべてを諦め、
自分の人生をただ傍観するだけの存在になった、と解釈しました。
(これを作中では「人生の近所にいる」という独特の言い回しで表現しています。)

途中で、あたかも並行世界が存在しているような描写があるのですが、人生の「傍観者」になってしまったがゆえに、確固としたひとつの「世界」に足をつけることができなくなってしまった、と、考察します。

ちょっと幸せなことがあっても、結局ゆり戻されて、あきらめて。
最終的には自分の人生を自分事と認識することもなくなり、自分という誰かを俯瞰する「何か」となっておわる。

そんな、「諦めの物語」でした。

2作目「黄色い河に一そうの舟」

主人公は認知症の妻を支える老いた男性です。

1作目と同様、病気や家族との断絶などに悩み、葛藤しつつ、もがきながら生きる人々が描かれます。(おそらく、現代韓国の経済問題なども投影されています)

どちらの主人公も、日々の苦しみで心が摩耗して、今にも消えてしまいそうです。そんな彼らの苦しみが、読み手の心の隙間に、カードのように差し込まれる、そんな短編でした。

重たい展開ではありますが、一筋の光が差し込むような、そんなラストシーンが印象的でした。認知症は元に戻らないけど、ひとの心の在り方は、ふとしたきっかけで変わることもあるのかもしれません。ラストに1本残る、缶ビールの余韻も美しい。

個人的にはこの2作目が一番好きでした。

3作目「グッバイ、ツェッペリン」

広告の仕事で使う「飛行船」の係留ロープが切れてしまった!
飛行船を追いかける、奇想天外なドタバタコメディーです。

4作目「深」

深海を探索するモノたちの物語。

ある人物が語る「人類は膨張を続けている」という考え方が好きです。

大昔の人類ってどんなに想像を膨らませても
「あの山の向こう」とか「あの地平線の先」くらいしか想像が及ばなかったはず。

現代人類は、月や星、宇宙を観測し想像することができる。ミクロの細胞、たんぱく質、分子を観測でき、その存在をイメージできる。
これを、作中では「膨張」と表現しています。

一方で「観測」や「想像」はできても、身体がそこに到達するのはまだ難しい。でも「身体」は先に膨張した意識に到達、追い付こうとしている。追いつくために、私たちはなにをしようとするのか?

というわけで、「深」の物語では、人間の肉体を改造して、膨張の先に身体が追い付けるようにしようとするのですが、、、

7作目「グッドモーニング、ジョン・ウェイン」

驚愕のホラーSFものとして、楽しめます。

 

ここまでつらつらと書きましたが、全体的にが解釈しづらい、物語として理解することすら難しい作品たちでした。(特に4,5,6,8,9作目)
つまりあんまり面白くなかったです。(小声)

もっとおもしろいSF短編集が読みたい?こちらの記事をチェックだ!

bowbookwow.com

斎藤真理子さんの「あとがき」がおもしろい

訳者の斎藤真理子さんによる、韓国ならではの独特の背景や、表記の工夫などの解説があり、「なるほど!あのエピソードはこういう意味だったのね」と思う箇所が多々ありました。本当は、そういうのを本文中にわかりやすく注釈いれてほしかったけど。
(2作目に登場する韓国の高級魚イシモチのこととか)

ぜひ、後書きまで漏らさずお読みください。

短篇集ダブル サイドA (単行本)
短篇集ダブル サイドA (単行本)
 

SF小説「三体」の感想 歴史背景、智子、あれこれ解説!

全世界で空前のヒットとなったSF小説「三体シリーズ」。その記念すべき1作目「三体」についての感想と解説です。

 

三体

本記事の前半は「ネタバレなし」のため、安心してお読みください

 

 

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「三体シリーズ」とは?

中国発のSF小説シリーズ「三体」(原著では「地球往事シリーズ」と呼称)。シリーズの第1作目が本記事で紹介している、その名も「三体」です。

初めての方はこの1作目「三体」から読み始めればOK!

 

作者は劉慈欣(リュウ・ジキン)さん。その壮大すぎる物語が世界的大ヒットとなり、映像化プロジェクトも進行中です!

三体シリーズをAmazonで探す

 

三体シリーズの詳しい概要は以下の記事にまとめています。ネタバレなしで全容をつかみたい方はこちらをどうぞ。

 

三体シリーズの全体像を解説!

 

1作目「三体」あらすじ

文化大革命で父親を惨殺された女性科学者・葉。中国の奥地で軍事プロジェクトにスカウトされた彼女は、人類の命運を左右する「とある計画」に着手する。

 

 
数十年後、研究者・汪(ワン)は著名な科学者が次々と自殺している事実を知り、その謎を解くために調査を開始。彼を待ち受けていたのは、謎のVRゲーム「三体」でした。
汪はやがて、地球に迫る脅威との戦いに巻き込まれていきます。
 
本作、登場人物が多いうえに、日本人になじみの薄い中国語の漢字表記で覚えづらいので、kindleの「検索機能」を使いながら読むのがおすすめです!
 

ギャップ感がたまらない、ド級のおもしろさ

冒頭の血なまぐさい文化大革命の描写、一方で、空虚で現実感のないVRゲーム「三体」の世界感。ふたつの世界のギャップに思考が揺さぶられます。

 

冒頭、文化大革命で命を落とす知識人と、現代の世界で自殺する科学者。負の歴史を繰り返しているかのような演出にもゾクゾク!

 

VRゲーム「三体」とは?

本作の主人公「汪」がたどり着くVRゲーム「三体」。そこでは誕生と滅びを繰り返す「文明」が描かれ、プレイヤーは滅びの原因を探ります。

この「謎解き」要素も本作品の魅力。
ゲーム内では「始皇帝」や「コペルニクス」などの歴史上の有名人が登場。彼らと会話しつつ、わずかな情報をもとに「文明の滅亡」を回避すべく思考をめぐらせます。

このゲーム内描写がとてもおもしろい!というわけで、この部分だけ抜き出した短編「円」「現代中国アンソロジー 折りたたみ北京」の一篇として「三体シリーズ」とは別に刊行されています。

魅力的なキャラクター

「三体シリーズ」中でも(わんこたんの中で)1番人気を誇るのが刑事、史強です。

 

史強

1作目「三体」の登場人物は、政治闘争にあけくれる文官か、天才で精神がちょっとアレな科学者ばかりなので、軍隊あがりの刑事、史強の異質さが目立ちます。

史強は粗暴で、登場時は印象最悪ですが、中盤から刑事らしい洞察力と直感力で窮地を切り抜け、主人公を励まします。時に元軍人らしく、冷酷に敵を追い詰め、時に暖かく主人公たちを奮いたたせ,,,史強の八面六臂の活躍も本作の見どころ!

ここから先、本作の展開に触れている記載があります。
ネタバレにご注意ください。

ネタバレをくらう前に、三体を読もう!kindleならスマホアプリですぐに読めるよ。

「三体」kindle版をAmazonでチェック!

 

第1作「三体」のわかりづらい点を解説!

「三体」おもしろいですが、複雑な科学設定、中国の歴史的背景なども相まって、難しいのも事実。できるだけ解説してみました。

 

いきなり登場する「文化大革命」ってなに?詳しい歴史を解説

冒頭にいきなり登場する文化大革命。日本人には馴染みの薄い歴史描写に、面食らった読者も多いのでは。

 

文化大革命(1966年〜1976年)とは

ざっくり言うと、毛沢東の思想に共鳴した学生たちが「紅衛兵」となり、暴動を起こして多くの知識人をリンチするなどした事件です。

紅衛兵の暴動がエスカレートし、逆に自分の立場が危うくなる、と考えた毛沢東は「味方」であった紅衛兵の若者たちを地方の農村に追いやります。

これは「上山下郷運動」と呼ばれ、苛酷な山奥での伐採活動の様子は「三体」でも描写されています。

 

文化大革命は現在でもなお、中国の政治的にデリケートな問題と言われています。そのため、中国出版当時、もともと「三体」の冒頭にあった文化大革命描写は物語の中盤に移動させられてしまいました。(英訳版、日本語版では冒頭に復活しています)

 

また、毛沢東に関する記述がほとんど登場しないのも、政治的配慮によるものと、わんこたんは予想しています

 

「文化大革命」のより詳しい詳細は以下の記事でもまとめています。

(読了/後編)読書感想文/そうだったのか!中国 - わんこたんと栞の森

 

わんこたんは三体をキッカケに、「そうだったのか!中国」を読んで、中国近代史を知りました。著者はあの池上彰さん。期待通りのわかりやすさで、とっても勉強になりますよ。

 (以下Amazonのリンクにとびます) ↓↓

そうだったのか! 中国 (集英社文庫) / 池上彰

 

文化大革命では多くの知識人が命を落とします。時は流れ、再びその命を狙われる科学者たち。文化大革命と重ね合わせた、皮肉に溢れたストーリーだと思わずにはいられません。

 

智子(ソフォン)の仕組みは?

「智子」は三体世界から地球へ通信・偵察・妨害機として送り込まれた「陽子」(原子を構成する超ちっちゃな粒みたいなやつ)です。

 

ただの1個の陽子ですが、それは11次元に折りたたまれた姿。2次元の姿は、惑星を覆えるほどに広がる超巨大コンピューターです。(2次元なのでペラッペラッですが)

 

なるほどわからん!

 

ただの陽子なのにすごいコンピューターを搭載して、光速で移動可能で、4光年の彼方にある三体星系とリアルタイムで通信可能!と理解しておけばまずはOK。

 

智子のせいで、人類側の基礎研究技術はストップさせられ、人類の情報は全て三体星人に筒抜けという絶望的状況。智子にどう対抗するか?が2作目「黒暗森林」の展開となります。

 

智子(ソフォン)の仕組みをさらに解説!

智子(ソフォン)の仕組みや目的について、より細かく説明した記事を書いたので、あわせてご覧ください。

三体に登場する智子(ソフォン)の仕組みを徹底解説! - わんこたんと栞の森

 

「地球三体協会(ETO)」の派閥の関係性が分かりづらい

三体星人に味方し、人類に敵対する「地球三体協会」。協会内に派閥があり、関係性が理解しづらいです。

結論から言えば「地球三体協会」は続編ではあまり重要でなくなるため、関係性が理解できなくても問題ありません。参考までに各派閥のスタンスをまとめました。

 

降臨派

エヴァンズがリーダー。人類社会に絶望し、人類なんて絶滅してしまえ!という考え方。三体星人に従っているが、特に三体星人に好意はなく、とりあえず人類が破滅すればよいと思っている。後述の救済派と敵対している。

 

救済派

三体文明に憧れを抱き、崇拝。困難に直面する三体文明を救い、かつ三体文明との出会いによって人類は一歩進化できると考えている。
最終的に「三体星人」と「人類」両方とも救うことを理想とするが、実際の「三体星人」たちはとても冷酷なので、実は救済派の理想がかなうことはない。先述の降臨派と敵対している。

 

生存派

三体文明にへりくだって、三体星人の侵略後にもなんとか生き延びたいと願う派閥

 

結局三体星人の戦略ってなに?

①地球に大艦隊を送り込む(速度が遅いので450年後に地球に到達する)

②ミクロのスーパーコンピューター「智子」を地球に送り込む(①より先に到着)

③智子を使って地球上に「地球人に対する」反逆者を増やす。

④③に加え、智子の妨害で人類の科学技術の発展を遅らせ、三体人の艦隊が到着するまでに地球人の戦力・科学技術が増強されることを防ぐ。

 

「三体」シリーズの伏線・気になる点

完結後に第1作を読み返すと、続編への伏線とも思える箇所がありました。

 

この宇宙の最期の姿?

この宇宙のすべての原子は、悠久の時間の果てに、最後は■■■に展開するのかもしれない。だとしたら、われわれの宇宙の最期の姿は(後略)

三体「34 虫けら」より

ネタバレ防止のため一部伏字にしましたが、三体シリーズの最終作「死神永生」の展開を予言するような発言が、第1作で登場していました!

 

林雲(リン・ユン)と球電研究

「34 虫けら」で丁と汪の会話に少しだけ登場する女性研究者「林雲(リン・ユン)」と「球電研究」の名称。三体シリーズの前日譚「三体0【ゼロ】 球状閃電」についての情報も、第1作に断片的に登場していたことがわかります。

 

三体0【ゼロ】 球状閃電
三体0【ゼロ】 球状閃電
 

 

他、気になったところなど

  • 予測不能な軌道を描く3恒星に翻弄される「三体文明」。過酷な環境で何度も凍り付いたり燃えたり引きちぎられて200回以上滅亡しているのですが、そのたびにしぶとく生命が復活し、過去の文明の記録が残っているの、すごい。

  • 三体星人の策略によって、地球上で物理法則の研究がストップさせられ、これまで発見されてきた物理法則は嘘だった??と科学者達が動揺するのはうなずけますが、それに絶望し自殺までするのはやりすぎのようにも感じました。

    なお、揚冬の自殺の経緯については、3作目(最終作)「死神永生」で補足情報が登場します。お見逃しなく!

  • 物語の前半とラストで、人類の比喩として「イナゴ」が登場します。
    前半では「人類の後先考えない環境破壊」の象徴として。ラストでは「どんな環境でも決して負けずに繁栄する人類」の象徴として。全く逆の意味で描かれているのが印象的でした。

三体の続編「黒暗森林」は三体を上回る面白さ!

1作目「三体」の時代から400年以上先が舞台。上下巻にわかれ、地球と「三体星人」との戦いの模様が描かれます。率直に、1作目「三体」よりもおもしろいです。1作目で活躍した史強、なんと「黒暗森林」でも大活躍!うれしい!

 

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

 

2作目「黒暗森林」の記事はこちらからどうぞ