まるで「赤ん坊の呪い」のような不気味な事件に、漫画家探偵が挑む!
中国で密室の王と称される、孫 沁文の長編邦訳ミステリー 厳冬之棺の感想を書きました。
密室がダイナミックだ!
厳冬之棺 あらすじ
上海郊外、胎湖(タイフー)と呼ばれる湖のほとりにたつ、陸(ルー)家のお屋敷の地下倉庫から、陸家当主、陸仁が遺体となって発見された、
しかし事件当時、地下倉庫は入口が完全に水没した密室となっていて…
不可解な密室の謎に、漫画家探偵(!?)安縝(アン・ジェン)が挑む!
- 著者:孫 沁文
- 翻訳:阿井 幸作
- 発売:早川書房 2023/9/20
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 孫 沁文 氏について
厳冬之棺は、孫 沁文氏の長編デビュー作。
孫 沁文氏は、密室に並々ならぬこだわりを持ち、密室の王とも呼ばれる中国人ミステリー作家。トリックを考えてから作品執筆に着手するほどのこだわりっぷりなのだそう。
邦訳されている作品は数少ないですが、自費出版書籍である憎悪の鎚はKindleで翻訳版を購入可能です。(この作品は鶏丁というペンネームで書かれています)
憎悪の鎚は、密室トリックを施された室内で、不動産仲介業者が連続で殺される、という筋書き。ラストに出てくる密室は、かなり豪快なので、厳冬之棺で興味を持たれた方は、ぜひ。200円ポッキリです。
豪快で大胆な密室トリックだけでなく、魅力的なキャラ描写もほどよい、孫 沁文作品。邦訳が増えることを楽しみにしています。
厳冬之棺 感想
ひとこと。ちょーーー楽しかった!
トリックはとにかく豪快、キャラクターもクセがありつつ、憎めない。厳粛な表紙からは想像もつかないエンタメ性に振り切ったミステリーという感じで、個人的にはかなり良かったです。
よくも悪くも表紙とタイトルの印象とだいぶ違う
タイトルと表紙だけ見ると、極寒の地の暗くて陰湿な館で連続殺人が起きて……という展開を想像してしまいそう。
この想像もあながち間違ってはいませんが、上海の日常の様子とか、中国のアニメビジネスの話が出てきたり、登場人物の何気ない会話にニヤリとさせられたり、意外と軽くてかなりエンタメ性が高いです。
原題は「凛冬之棺」なので、ほぼ直訳ですが、そもそも漢字onlyの中国語圏と違って、日本語にはひらがながあるから、漢字4文字だとかなり硬くて重苦しい印象を受けてしまうのかもしれません。
読んでみたら、気軽に楽しめるライトなミステリーだったので、かなり意外。正直タイトルから重苦しさを想像して読むの後回しにしていたので、もったいないことをしました。
和訳って難しいよね。ほんと。
密室トリックはかなり豪快!
大胆さと実行可能性のギリギリラインを攻めた密室トリック3連発!謎解きもスムーズで、ストレスなく読めました。個人的にはひとつめの事件の密室がわかりやすくてよかったなあ。
大胆すぎてもはや実行不可能…というツッコミ不可避なので、きちんとした密室を求める方には合わないかもしれません。
特に最後の湖上のやつ。あれを実現するには、空中コテージとかいう金持ちの道楽が産んだ謎の構造物に、極度の変態の被害者、夜中の超低温がないと成立しないんですよね。
上海ってそんなに寒くなるの??北海道の冬でもなかなか厳しいぞ??w
しかも夜中に危険な高所によじのぼって、アセチレンバーナーで作業。犯人の仕事量の多さと難易度の高さは十戒/夕木春央なみです。いちいちへその緒まで準備してさ。
でもその豪快さが楽しくて、これだけはちゃめちゃなのに、なぜか許容できちゃうし、面白いんだよなあ。作品自体のエンタメ性の高さゆえか。
館シリーズファンにはおなじみの「あれ」かと思いきや!?
作中で謎を解く鍵として登場する、赤と緑のチョコレート。
赤と緑といえば…そう、水車館の殺人/綾辻行人 に登場するあの色覚のギミックを思い出すミステリーファンの方も多いのでは。
管理人わんこたんも、「あ、これ水車館でみたやつー!楽勝♪」なんて思いながら読んでましたが…ミスリードにすっかり騙されちゃいました
紹介記事はこちら▶水車館の殺人 感想と考察 - わんこたんと栞の森
キャラがいい!イチオシは声優の鐘可
多少の無理を許容できちゃう、この作品のエンタメ性を支えているのが、キャラクターたち。捜査サイドのキャラが、なんだかとっても愛おしい!
わんこたんが気に入ったキャラをちょっとだけ紹介。
安縝(アン・ジェン)
厳冬之棺の探偵役であり、売れっ子の漫画家。密室に並々ならぬこだわりを持ち、現場に案内されるや、あっという間にスピード解決してしまうほどの能力を持ちます。
警察専属の似顔絵担当というのもポイント。彼の描く容疑者の似顔絵は一致率驚異の
イラストがとっても得意なので、現場の見取り図をきれいに書いてくれます。読者としても、本当にありがたい存在。
梁良(リャンリャン)
刑事。正義感あふれて行動派で頭もキレて織田裕二似、てなんだそれ、孫 沁文氏は踊る大捜査線のファンなのでしょうか。
密室トリックを得意とするが、推理の裏ではこっそり知り合いのサポートを受けているようで。。。
困ったときに知り合いの探偵(孫 沁文氏の他の著作の登場人物)を引っ張り出してこようとする、おちゃめな刑事です。
鐘可 (ジョン・クゥ)
上海在住のプロ声優の女性。だが声優業界の厳しい上下関係に挫折ぎみ。
節約のため、陸家に下宿するも、そこで事件に巻き込まれ、さらにそこから思いもよらぬ縁で、売れっ子漫画家である安縝のアニメ化作品の、人気キャラの声優の仕事をゲット!
という、ある意味本作のゆるい空気感を象徴する、下剋上愛されキャラ、鐘可ちゃん。
声優なので喉を大事にしているけど。好物の麻辣湯はつい買っちゃう、というのがなんだかほほえましい。続編にも登場してほしいなあ。
因習ものミステリー、でもある
キャラがたっていて面白い一方で、女児が産まれたらすぐ殺しちゃうとか、そういう因習のエピソードは怖かった。。。
しかし、なぜ◯◯がそんな因習に取りつかれたのか、理由の説明は特になし。
自分以外の女の血縁者がいるのがいやだとかそういう理屈だったのか、なにか中国文化特有のオカルト的な背景があるのか、そのあたりも解説がほしいところ。
厳冬之棺 続編に期待!
陸家の謎は解決しましたが、「死のクロッキー画家」の謎についてはお預け。安縝の過去に関わる、この謎の犯罪者もまた、密室のスペシャリストのようですが……この謎は続刊に持ち越しでしょうか。
あとがきによれば、「続刊はある」と著者 孫 沁文氏は明言しているとのこと。どうか続編が出版され、そして邦訳されますように!というわけで管理人わんこたん、微力ながらこの厳冬之棺を推していく所存です。
厳冬之棺 の次に読みたいおすすめ小説
驚きの密室ミステリーをテーマに、2作品をご紹介。密室の可能性は無限大!
この密室は誰にも真似できない すべてがFになる/森博嗣
14年間閉ざされた研究室から現れた死体。いつどうやって殺されたのか?
おそらく密室ミステリーの歴史を塗り替えた、驚天動地のトリック。ネタバレを見ずに、ぜひご自身の目でお確かめを。
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密室in戦国時代!? 黒牢城/米澤穂信
部屋には遺体。廊下には見張り。庭の雪には足跡なし。そして舞台は戦国時代!?
織田信長と対峙する荒木村重。だが有岡城で巻き起こる不審な事件によって徐々に追い詰められていき…
暗闇に光はあるのか。村重の運命は。史実とミステリーが融合した息詰まる推理合戦の結末を、お楽しみに!
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