2冊どちらから読んでもOK。2024年1月に文庫化され、お求めやすくなりました。
流浪地球 / 老神介護 基本情報
中国を代表するSF小説作家、劉 慈欣さんによるSF短編集!2冊同時に発売されていますが、短編集なので、片方だけでも、どこから読んでも楽しめます。
各話のあらすじは、本記事後半「流浪地球/老神介護の感想」をご覧ください。
- 著者:劉 慈欣 (りゅうじきん/リウ・ツーシン)
- 翻訳:大森 望、古市 雅子
- 発売:KADOKAWA 2022/9/7
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 劉 慈欣さんについて
SF小説シリーズ「三体」のヒューゴー賞受賞によって、その名を世界中に轟かせた希代のSF小説作家 劉 慈欣さん。三体シリーズはドラマ化もされ、ファンを魅了し続けています。
その三体、シリーズ一覧は以下の通り。左上が1作目「三体」です。
※画像クリックでKindleストアのページにジャンプします
三体ばかり注目されがちな劉 慈欣さんですが、そのSF作品世界の素晴らしさは、「流浪地球」をはじめとする短編にこそ、凝縮されている、とわんこたんは思います。
以下の記事では日本で読める全著作を解説中。
流浪地球/老神介護の感想
どの作品も最高におもしろい短編集って、なかなか出会えないんですよね。2冊ともすばらしかった!
もともと1冊だった短編集を邦訳時にボリュームの都合で2分冊に。そのため、2冊それぞれに独立したテーマ性がうまれました。
分冊化で価格はあがってしまいますが、2冊の「テーマの違い」が和音のように響き合うことで、独特の読後感を生み出しています。
あくまで管理人わんこたんの私見です。
- 流浪地球:「既存世界からの別離」「滅び」
- 老神介護:「出会いと別れ」「地球と人間」
予算に余裕があれば、ぜひ2冊セットで、読んでいただきたいなあと。
以下に各短編の感想を。どれも面白いんですが、特におすすめ作品には★をつけています。
流浪地球より「流浪地球」★
太陽が爆発する!?
というわけで、巨大ロケットエンジンを建設し、太陽の重力を利用して推力を得つつ、太陽系外の恒星をめざすことに。さらば太陽系。
あらすじは壮大ですが、過酷な環境に翻弄される人の精神、社会のうねりといったリアリティ溢れる描写。まさに劉 慈欣SFの真骨頂、という作品。
太陽への恐怖と、元の地球への望郷の思いが入り混じる描写に、美しさすら感じます。
ちなみに中国国内では映画化され、これが大ヒット。原作とは異なり、映画版では地球が木星衝突の危機に。VFXモリモリのアクション作品となっています。(映画版の感想は後述)
流浪地球より「ミクロ紀元」★
「流浪地球」と同じく、「太陽によって地球が滅びる」物語ですが、こちらの人類は、また違った道を歩みます。
ネタバレになるのでこれ以上は書けませんが、サイズが小さい方が生存に有利、という発想が面白い!
「三体」もそうなんですが、劉 慈欣作品では「太陽」の存在感が大きいですね。
\\原作小説「三体」 2月に文庫版になりました//
流浪地球より「呑食者」★
地球をまるっと呑み込む巨大サイズの宇宙船でやってきた侵略者「呑食帝国」と人類の決死の戦いを描いた作品。圧倒的戦力に対し、どのように立ち向かうのか?その作戦は、三体シリーズ2作目 黒暗森林のワンシーンを彷彿とさせます。
何もかもが規格外に大きい呑食帝国の姿は「ミクロ紀元」との対比になっているように感じました。結末や、呑食帝国の意外な正体など、予想外の爽やかな描写。カラッと楽しめる作品です。
ちなみに呑食者の続編「詩雲」は早川書房出版の「円 劉慈欣短編集」に収録されています。(この短編集もめちゃ面白くておすすめ!)
こちらの記事で感想をまとめています▶︎「円 劉慈欣短編集」のネタバレ感想。短編から味わう劉慈欣SFの魅力! - わんこたんと栞の森
流浪地球より「呪い5.0」★
男女関係のもつれから、生まれたコンピューターウイルス。最初は呪いの言葉をディスプレイに表示するだけのかわいいものでしたが、徐々にウイルスは進化して……!?
著者 劉 慈欣さんが売れないSF作家として実名で登場する、なんともお茶目な作品。あまりにもアホアホな展開に、口角が緩みっぱなしのバカSFです。
最後に呪いがどこまで進化するのか。ゲラゲラ笑いながら読みましょう。
流浪地球より「中国太陽」
貧しい農村から宇宙へ。明るい世界とお金を求める主人公のサクセスストーリー。彼が最後に求める場所とは、、、?
劉 慈欣作品、地方の貧困や環境問題、それを解決しようとする技術、という構図が結構出てきます。「地火」「郷村教師」「円円のシャボン玉」など。←3作全て「円 劉慈欣短編集」に収録されてます。
流浪地球より「山」★
友人をチョモランマ登頂で死なせてしまった過去から、山を離れ、海洋地質調査船で働く主人公。彼が海で出会った、巨大な山とは……
異星とのファーストコンタクトと登山を掛け合わせた、異様な物語。さらにそこで語られる異星の歴史がすさまじい。私たちの知る宇宙は、実は大きな世界のほんの一部なのかも、と思わせられる作品です。
老神介護より「老神介護」★
いきなり地球に大量の老人がやってきて「ワシらは人類を作った神様なんじゃがみんな年取りすぎて自力でなんにもできなくなったから創造してやったよしみで介護してくれ」と言ってきた件
介護のために文明ひとつを作ってしまうという神様。迷惑すぎるけどどこか憎めない、いや、やっぱり迷惑かも...
全家庭で神様を扶養することになった人類。その結末は、、、?
老神介護より「扶養人類」
老神介護より「白亜紀往事」★
もし恐竜が絶滅しなかったら?もし恐竜と蟻が共生関係を築いていたら?
そんなIFの地球史を描いた作品。やがて恐竜と蟻の関係に綻びがうまれ……
恐竜の生み出す巨大な社会、有機化学反応コンピューターが活躍する小さな社会、など想像がむくむく膨らむような世界観はさすが。
私たち人間が生まれる前に、別の種族が地表を支配していたら?なんて考えたくなる1作です。
収録されているのは短編ですが、白亜紀往時には、別に長編も存在し、こちらは早川書房から出版。読め次第レビューします!
老神介護より「彼女の眼を連れて」★
無重力空間に漂う彼女は、僕に美しい自然を見せて、と言った。
宇宙で働く人々のために、視覚共有デバイスで地球観光を共有することが一般的になった時代。彼女に頼まれるまま、美しい花を、月を、見つめる僕と彼女。そんな彼女は最後に、日の出を見たがるのですが……
中国の国語の教科書に掲載されるほど、美しく心に刻まれる作品。ですが、最後に真実を知った瞬間、絶望と恐怖で心が苦しくなりました。
人によっては相当なトラウマになるのでは、どうぞ心してお読みください。
老神介護より「地球大砲」★
冷凍睡眠から目覚めた直後から、なぜか命を狙われる男。どうやら、彼の息子の事業に原因があるらしいが……
「彼女の眼を連れて」の物語と地続きになったような世界観。SFといえば、三体のような「宇宙」をテーマにした作品を思い浮かべがちですが、劉 慈欣さんは意外にも「地下」をテーマにした作品が多く書いていたりします。
(円 に収録されている「地火」など)
地球大砲はとにかくその発想がすごい。子供の空想に出てくるような荒唐無稽なアイデアを、形にしつつ、現実社会に落とし込む。その構成が素晴らしかったです。
流浪地球の映画版「流転の地球」感想
こちらNetflixで映画版が日本語字幕で観られます。
中国で大ヒットしたアクションSF大作!観てみた感想は……
- 迫力がすごい。宇宙ステーションの造形、極寒の地上、やたらゴツい乗り物や地上用スーツ(マイナスー70度で気生身では生存できない)、巨大な地球エンジンなどがバンバン描かれます。
- どこか静けさを感じる原作とは違い、ハラハラドキドキ、泣けるエンタメSF。
「俺を犠牲に先に行け!」「みんなで力を合わせてせーの!」「子どもたちよ、、、生きろ!」みたいな、どこかでみたようなストーリー展開のつなぎ合わせ、と言えなくもない。 - そ原作の流浪地球にあった、美しいまでの寂寥感、静けさ、虚無感、望郷の思いは、すっかり無くなっていました笑
- 地下街がなぜか小汚いサイバーパンクな無法地帯と化していたり、なぜかエンジン再起動のためにやたら重たい「着火石」を遠路はるばる運ばなければならなかったり(近くに置いとけばいいのに)。「なぜ?」と突っ込みポイント多数
と、いうわけで気楽に見るくらいがちょうど良さそう。というか、Netflixでは劉 慈欣さんの代表作、三体のドラマ版が見られますので、そちらから観る事をを強くお勧めします。
原作読了済みの方向けの記事です。
流浪地球・老神介護の次に読みたいおすすめ作品
SF作品を中心におすすめ作品を紹介します。
SFでもあり、謎解きミステリー要素もあり、、、
ネタバレ厳禁の大ヒットSF。映画製作も決定しており、公開前に原作を要チェックです。
紹介記事はこちら(途中までネタバレなしで読めます)
あなたの想像を超える不思議な世界と、そこであり得たかもしれない人間たちの物語。物理的なバックボーンをとことん突き詰めた、ハードSFの傑作短編集です。
紹介記事はこちら
読み始めたらとまらない!管理人わんこたん厳選のおすすめ小説を以下の記事で紹介しています。
まとめ