
三体シリーズ2作目、黒暗森林で、ついに決着となった地球世界と三体世界の戦い。これほどまでに美しい結末のあとに、いったい何が起こるのか……?
地球と宇宙の結末を描き切った超大作、三体シリーズ3作目 死神永生の感想を書きました。これを読まなければ三体は語れない!怒涛の展開はファン必読です。
三体3 死神永生あらすじ
劇的な結末を迎えた面壁計画。その裏で、三体世界に対抗すべくもうひとつの奇想天外な計画「階梯計画」が動いていた。
天才女性エンジニアの程心(チェン・シン)と、病におかされ死を待つばかりの孤独な男、雲天明(ユン・ティエンミン)。この二人がもたらす、予想外の運命とは……?
- 著者:劉 慈欣 → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 翻訳:大森 望、光吉 さくら、ワン チャイ、泊 功
- 発売:早川書房 2021/5/25
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象
▶︎5分間の試聴はこちら (リンク先で「▶プレビューの再生」を押下
中国人のややこしい人名も、朗読だとキャラクターの演じわけによって覚えやすくなってます。文字でも朗読でも、お好みの方法で楽しみましょう
合わなければ体験中の解約OKで安心
聴く読書っていつ聴いたらいいの?Audibleの取り入れ方を解説しています▶聴く読書Audibleっていつ聴けばいいの?ぴったりハマる時間があるんです。
三体(1作目)▶SF小説「三体」の感想 歴史背景、智子、あれこれ解説! - わんこたんと栞の森
三体Ⅱ黒暗森林(2作目)▶シリーズ屈指の人気作!三体2黒暗森林 ネタバレ感想と解説 - わんこたんと栞の森
著者 劉 慈欣氏と三体シリーズについて
三体シリーズ著者、劉 慈欣氏。いったいどのような作家なのか?以下の記事で詳しく紹介しています。
▶三体シリーズ ヒットの裏にある中国の背景と、劉 慈欣作品の魅力を語る - わんこたんと栞の森
三体3 死神永生 上 感想
三体シリーズ 1作目 三体 と 2作目 黒暗森林のおもしろさって、人類に降りかかる超絶危機に対し、思いもよらない解決策が提示される、ミステリーのような謎解きの心地よさにあるんですよね。
そのエンタメ的な楽しさが、死神永生ではガラッと切り替わります。それは「劉慈欣が書きたいもの書きまくったハードSF」であり、人類生存ルートが一手ずつ潰されていく、絶望の詰将棋のようでもあり。
黒暗森林が、めちゃくちゃ美しく決着するので、その続きって正直どうなの?管理人わんこたんも3作目 死神永生を初めて読んだときは、率直にそう感じました。
でも再読して確信。
この物語は、死神永生まで書かなければならなかったのだと。この結末を、宇宙の真の姿を見届けなければ、この物語は終われるはずがなかったのだと。
この死神永生があるからこそ、三体シリーズは傑作に「成った」。そう断言します。
以下、印象的なシーンやキャラクターをピックアップしていきます。
以下、死神永生の読了を前提とした記事になっております。未読の方はご注意ください。
冒頭 1453年 コンスタンティノープル陥落
まず冒頭から最高。SFなのに、いきなり舞台は15世紀のコンスタンティノープル。わんこたん、こういうの大好物。
これが、のちのち登場する高次元領域の伏線になってくるわけですが、そこに登場するのが以下の一文。すでに物語の結末をにおわせてるわけですよ、エモい!
いま、人々は学んだ。終わりのない宴はない。あらゆるものに、必ず終わりがある。
ハードSFのアイデア、てんこ盛り感がすごい
ひとつひとつのエピソードだけでハードSF短編として成り立つだろってくらい、濃い。そしてもうハチャメチャ。
- 雲天明の3つのおとぎ話
- ブラックホールの研究と高(ガオ)Wayの物語
- 暗黒の宇宙を往く、戦艦のドラマ
そのうえで、人類と三体文明との戦いの結末、のみならず、宇宙の行く末まで書ききるとは、恐れ入りました。
ここまでスケールアップすると、1作目 三体の戦艦輪切り、2作目での水滴による殺戮なんて、ほんとにミクロのできごとですw
それでもなお、きちんと人間たちが描かれている。壮大な物語が、個人の人生に落とし込まれているところが、死神永生の魅力なのかな、と思います。
ダントツの不人気主人公?わたしは好きだよ、程心(チェン・シン)
死神永生の主人公、程心は、二度、人類の命運を左右する重大な選択を迫られ、そのたびに選んだ結果が裏目にでるという不遇の女性。
その頼りなさもあってか、Amazonの書評なんか眺めると、どうも程心は不人気なようで。
いやいやいや、こんな重い選択、一人の人間が負えるもんじゃないでしょ。ある意味、三部作のなかで一番人間らしい、まさに人類を代表する主人公でした。
程心は人類の普遍的な価値観「やさしさ」「責任感」「民主主義」を象徴するようなキャラなんだけど、その価値観は、暗黒の宇宙を生き延びるのに、全く役に立たないってのが、またつらい。
そんな彼女が執剣者に選ばれるのは人類の必然であり、仮に程心が執剣者に立候補しなくとも、誰かほかの「やさしくて」「責任感のある」「慈愛に満ちた」候補者が選ばれて、同じような運命をたどっていただろうと思われます。人類は大バカだからさ……
智子の「宇宙はおとぎ話じゃないからよ」が重い。
程心の慈愛
主人公 程心には一貫する「慈愛」の精神の象徴として、赤ん坊を抱く姿が何度もリフレインされます。私はこの子を、人類を守るんだと。
暗黒森林攻撃の誤警報で、周囲の人間が我先にロケットで脱出しようとするときの、程心の態度なんか、まさにその精神を象徴する最たるもの。
しかしその思想は程心の目を曇らせ、判断を誤らせる。智子にも見下され、慈愛の心なんか、この暗黒の宇宙では何の役にも立たないという現実を突きつけられる……
だからこそ、とある人物が、ラストでその愛を肯定するときの、深い感動よ。
愛は地獄のような宇宙を生き延びるのに、何の役にも立たないけれど、それゆえに尊い……
階梯計画と程心と雲天明
といいつつ、雲天明の氷漬けの脳みそを宇宙に送る、などという恐ろしい提案をしたのも程心なのであった。
安楽死を希望していた雲を、安楽とは程遠い場所に送る。(そのくせ、直前になってめっちゃ後悔する)という思考回路。どうなってるんだ。うーん、やっぱりわんこたん、程心のこと、苦手かも笑
ちなみにこの「自分に思いを寄せる相手を、そうとは知らず氷漬けにする」サイコパスなエピソードですが、ネットフリックス版ドラマではかなり改善(?)され、普通に泣けるシーンとなっていますので、一見の価値ありです。
原作との違いを中心に解説しました▶Netflix版ドラマ三体 原作との違いは?ファンの正直な評価・感想を書きました - わんこたんと栞の森
雲天明は階梯計画にショックをうけつつも、呪われた自分の一生をあざ笑いながら、提案を受け入れます。そこに地球を救う使命感は、一切なし。
でも結局、雲天明は程心を救う。雲天明は人類を裏切ってもおかしくないと思っていたので、意外でした。
宇宙に送られた後、雲は何を思ったのか。
死神永生の作中ではほとんど語られませんが、三体ファンが想像した雲天明の物語が、公認同人誌(!)の三体Xで描かれています。あくまでファン作品であり正史ではないですが、雲天明の背景を補完したい方には、おすすめの一冊です!
あの羅輯(ルオ・ジー)が、こんなにかっこいいだなんて
2作目 黒暗森林の序盤の頃の彼とは想像もつかない、羅輯の姿。
54年の間、三体世界と向き合い、抑止状態を維持してきたその姿は、日本の剣術(居合)の達人のよう。
あのダラダラグダグダの羅輯がさあ。こんな運命をたどるなんて、誰が想像したよ。というか、「面壁者の真の意味」が。まさか3作目 死神永生で明らかになるなんて想像もしなかった。
三体世界ですら敬意を抱く。それが羅輯。もはや宇宙の伝説。
いとも簡単に逆転する、人類の価値観
その羅輯が、執剣者の任期が終了後に逮捕されるっていうのがまたもう……
62年間にわたる三体世界との「和平」状態で、激変した人類の価値観によって、黒暗森林のラストでは救世主だった彼は、「世界絶滅罪」で起訴されます。
水滴の攻撃から逃れ、遠宇宙に逃げた戦艦のシーンも同じ。最初はヒーローだった彼らは極悪人として扱われ、その後再びヒーローになる。
この人類の価値観があっという間に逆転するかんじ。ああ、愚かな人類だなあと。
こういうとこの描写がたまらなくうまいんだよね、劉 慈欣先生。
過去の登場人物たちの影を感じるのも、またいい。
地球に帰還するも、罪を負わされた戦艦「青銅時代」の決死の通信によって戦艦「藍色空間」が逃亡するシーン。
そもそも青銅時代と藍色空間が生き残ったのは、2作目 黒暗森林で章北海と丁儀が活躍したからなんですよね。
すでに退場した彼らが、人類最後の命運を切り開いた。そう思うと、とにかく感慨ぶかい。
1作目 三体 主人公の汪森も、名前こそ登場はしませんが、彼が開発に携わったナノマテリアル製の飛刃(フライングブレード)が階梯計画に使われていました。
その中で悲しいのは、史強が全く登場しないこと。羅輯の警護任務が終わったあとに、天寿をまっとうしたのかなあ。そうだったらいいなあ。
史強は「あきらめなければなんとかなる」を象徴する、ヒーロー的なキャラクター。彼が登場しないことも、死神永生での宇宙の無常さを際立たせているように思えます。
結末はショッキングだった
いやあ、しかし地球が滅びるのはショックだったなあ。
希望が全くないわけではありませんが、個人的にはショックのほうがでかい。
史強の活躍も羅輯の暗黒森林の解明も、結局はこの未来に行きつくのかあと思うとつらい。
2作目 黒暗森林のラストでは三体文明と仲良くやっていく未来もあるのかな、なんて想像してブログにも書いていたのですが、そんなお花畑展開になるはずがなかった。
そして、この滅亡のそもそものきっかけは、葉文潔による電波送信であり、その大元の原因は文化大革命なのですよね。文化大革命という、宇宙的にはちっぽけな出来事が、太陽系の命運を左右する、、、
「人間ってオロカだなあ」といってしまえばそれまでなのですが、ミクロの出来事をここまでスケールアップさせて書ききった本作、やっぱりすごいなあと思うのです
唯一わからなかったこと
2作目 黒暗森林で登場した「精神印章」「刻印族」のみなさん、結局どうなったのでしょう。結局あまりストーリーには影響しなかったような、、、誰かお気づきの方がいたら、コメント欄で教えてくださいませw
三体ロス!明日からどうすればいいのでしょうか
ついに完結してしまった三体シリーズ。
めちゃくちゃ面白かっただからめちゃくちゃ悲しい。はっきりいって管理人わんこたん、ずーっと三体ロス状態です。
でもでも!物語は死神永生で完結しましたが、丁儀博士が登場する前日譚 三体0【ゼロ】 球状閃電の他、三体ロスを埋めるべくファンが執筆した公認(!)スピンオフ、三体X 観想之宙など、三体ワールドはまだまだ広がっていきます。
さらに2種類のドラマ版も公開されており、映像でも三体の世界にどっぷり浸れます。(基本的にはNetflix版ドラマから観るのがおすすめ!)
さらにさらに、劉 慈欣氏の作品はそのほとんどが邦訳され刊行中。そのどれもが珠玉のおもしろさなので、ぜひ読んでみてほしい!と思います。
三体シリーズを完走したあなたへ おすすめの作品
完走おめでとうございます。おめでとうございます!
次に読む作品、いかがでしょうか?
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上 /アンディ ウィアー
三体シリーズが「宇宙の闇」を描き出したなら、こちらはまぶしいくらいの「光」の作品。
まずは前情報を入れずに、読んでみて。
感想記事はこちら▶︎文庫化はいつ?映画化も?プロジェクト・ヘイル・メアリー イラスト付き感想と解説 - わんこたんと栞の森
天冥の標 シリーズ /小川 一水
全10作の壮大なSFサーガ。謎が謎を呼ぶ序盤。歴史が明らかになる中盤。大活劇に読む手が止まらなくなる終盤。
人類の旅路を、見届けませんか?
感想記事はこちら▶︎人類の運命は?『天冥の標1 メニー・メニー・シープ』の主要キャラクターと謎を考察 - わんこたんと栞の森
おすすめ作品、他にもいろいろ!
当ブログでは、他にもさまざまな小説を紹介中。ぜひブクマして、気になる記事をチェックしてみてくださいね。




記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★












