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数学×ミステリーの新感覚が楽しい 文学少女対数学少女 感想

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

 

 真実はひとつじゃない!?多重解決を数論で導く「連続体仮説」 /あの最終定理をミステリーで解説!?「フェルマー最後の事件」などなど、

推理と数学でミステリーの世界を広げてくれる、知的娯楽遊戯4篇を収録した、文学少女対数学少女/陸秋槎 感想と解説を書きました。

 

女の子がかわいい、だけじゃないっ

 

文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 

 

 

文学少女対数学少女 あらすじ

 “文学少女”陸 秋槎(りく しゅうさ)は自作の推理小説について相談するため、同じ高校の“数学少女”韓 采蘆(かん さいろ)の元を訪れる。采蘆は数論をもとに、小説の新たな真相を導き始め……!?

犯人当て探求「連続体仮説」、あの数学の難問を小説化「フェルマー最後の事件」など、数学×ミステリー×青春(×ちょい百合)な、全4篇を収録。

推理小説の新たな世界に読者を誘う、新感覚ミステリー。

 

文学少女対数学少女/陸秋槎のイメージイラスト

 

 

著者 陸 秋槎さんについて

陸 秋槎さんは、中華人民共和国の作家。(現在は日本在住)

ミステリー小説中心に執筆していますが、ガーンズバック変換のような、SF要素のある作品も手がけています。

 

ガーンズバック変換
ガーンズバック変換
 

 

ガーンズバック変換について

実験的な作品が多く、ちょっとおすすめしづらいですが、表題作は青春がギュッと詰まってて良かった!

ガーンズバック変換/陸秋槎 感想 - わんこたんと栞の森

 

百合(女性同士の恋愛要素)を含む作品が多いのも特徴。でも濃密な性描写はなく、さりげない描かれ方なので、そういうの苦手な方もご安心を。

後書きを読むとわかるのですが、日本の様々な推理小説を愛し、その影響を受けて生まれた作品が多数あります。日本の読者として、嬉しくなっちゃうね!

以下に著者の作品を並べました。※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ

 

ガーンズバック変換

 

文学少女対数学少女 感想

数論×ミステリーで脳髄を刺激する4篇。 数学ムリイ...な管理人わんこたんみたいな読者でも大丈夫です。(漢字圏のキャラクター名は、ちょっとだけ覚えづらいけれど)

少女たちの繊細な会話劇も見どころ。数学と推理の組み合わせも無理がなくて、楽しく読めました。

以下に各短編のあらすじと感想を。

 

連続体仮説

校内誌に掲載する推理小説に自信がもてなくなった、文学少女陸秋槎は、天才数学少女、韓采蘆に助けを求めます。

韓采蘆は問題へのアプローチに、連続体仮説と呼ばれる理論を展開し……!?

 

推理小説において欠かせない「手がかり」。探偵は、手がかりを元に推理を展開しますが、これにはいくつか問題点があります。

  • 手がかりが、「本物」か「意図的に残された偽物か」、作中では証明できない
  • 手がかりが「理性的な判断」によって残されたものかはわからない

1つ目は、後期クイーン的問題と呼ばれたりして、本格ミステリー界でも長年議論の的に。

 

ミステリー作品によっては「登場人物はだれもウソをついていません」なんて前置きして始まるものもありますが、これは作者という「作品外の存在」によって成立する手法。作中の世界で「この手がかりは本物」って証明する手立てはないんですよね。

 

誰も嘘をつかないミステリーの例
大きな森の小さな密室
大きな森の小さな密室
 

 

大きな森の小さな密室/小林泰三 の 収録作「正直者の逆説」では、「登場人物はだれもウソをついていません」という作者からのメタ発言が提示されています。

小林泰三ワールド全開のミステリー短編集なので、ちょっとかわったミステリーが読みたい、という方におすすめ!

紹介記事はこちら▶大きな森の小さな密室 感想と解説 - わんこたんと栞の森

 

と、こんな感じで推理の欠陥をボコボコに指摘され落ち込む陸秋槎。そんな彼女に韓采蘆が提示する、鮮やかな解決方法とは?

作品を生み出す苦しさと、その自由さを描いた、爽やかな結末に注目!

 

フェルマー最後の事件

17世紀の数学者、ピエール・ド・フェルマー 。彼が晩年を過ごしたとされる南フランスの宿に泊まることとなった、陸秋槎と韓采蘆を始めとする学生と教師一行。

そう、あのフェルマーの最終定理でおなじみのフェルマーです。

 

フェルマーの最終定理とは

3 以上の自然数 n について、x^n + y^n = z^n となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない、という定理。

楕円曲線始めとする代数幾何学の理論によって、1995年に完全に証明されました。

 

果たして定理を世に出したフェルマー自身はこの定理を証明できていたのでしょうか。

韓 采蘆は、フェルマーの最終定理にまつわる謎を、推理小説、その名も「フェルマー最後の事件」として、陸 秋槎に披露します。

しかしその途中で同じツアーに参加していた女子学生が何者かに襲われるという事件が発生し……!?

 

この短編、特に数学とミステリーがうまく組み合わさっていて、好きでした。数学者も探偵も、「正しい照明」「正しい推理」ができなくたっていいじゃない、という、おおらかさが好き。

 

ところで、いわゆる赤緑色盲という遺伝的素因が重要なキーワードとして登場するのですが、これに対する陸 秋槎の見解がこちら。

推理小説の世界では、(中略)とびぬけて陳腐な道具立てで、この仕掛けを使った作家をリストに列挙していったら世界推理小説史の索引と大して変わらなくなるだろう。

(Kindle版 文学少女対数学少女 133ページより引用)

そんなにズバズバ言わなくても笑。あの有名館ミステリーや、中国発の密室ミステリーにも使われている、お馴染みの手がかり。とはいえ、これを扱ったミステリーはそんなに多くはないような笑

 

ところで赤緑色盲は、特に女性の場合、必ずしも教科書通りに発現するというわけでもないようです。これから推理小説を書く際には、注意しないといけないですね。

参考▶色覚の多様性と視覚バリアフリーなプレゼンテーション | 第1回 色覚の原理と色盲のメカニズム

 

不動点定理

夏休み。陸秋槎は、韓采蘆の誘いで、推理小説の構想に役立ちそうな、洋館に住むお嬢様、黄 夏籠(こうかろう)の元を訪れる。

黄 夏籠は自身を被害者にした推理小説を書いており、陸秋槎に作品をみてほしいと依頼。早速読み始める陸 秋槎ですが……

 

トリックの内容が分からなくても犯人を指摘できるのか?という問題を数学的に解説しつつ、小説に隠されたもうひとつの謎を推理する、という構成がおもしろかったです。

 

グランディ級数

高校三年生になった陸 秋槎は、親友 姝琳(しゅりん) と離れ離れの大学に進学することが確定し、なんとなく寂しさを感じています。

そんな中、卒業した先輩から、犯人あてのお題ミステリを準備してほしい、といわれ、韓采蘆とともに喫茶店へ。

犯人当てについて議論する中で、本当に殺人事件が起きてしまい……⁉︎

 

今まであまり出てこなかったキャラ、姝琳が急に主人公好き好きオーラを出してくるのは、ちょっと唐突に感じたけれど、答えが確定しない「グランディ級数」と、どの伏線をとるかで答えがかわるミステリーを対比する趣向は好き。

冒頭の連続体仮説もそうですが、ちょっとした伏線の読み取り方で結末が大きく変わるのもミステリーの醍醐味。トリックには厳密性だけじゃなくて、おもしろさも必要なんだ、という結論にも納得です。

防犯カメラの存在で、「面白みなく」解決していく、現実の事件との対比も良かった。

 

文学少女対数学少女の次に読みたい おすすめ作品

中国人作家 をキーワードに、おすすめをご紹介!

 

厳冬之棺/孫 沁文

 

脅威の密室トリック3連発!

トリックはとにかく豪快、キャラクターもクセはありつつ、憎めない。厳粛な表紙からは想像もつかないエンタメ性に振り切ったミステリーです。純粋にミステリー小説を楽しみたいあなたにおすすめ。

 

厳冬之棺 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
厳冬之棺 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 

 

感想記事はこちら▶厳冬之棺 感想 中国から初上陸の、極上密室エンタメミステリー - わんこたんと栞の森

 

三体/劉 慈欣

 

日本で最も有名な中国SF小説

Netflixでドラマ版が公開されたことでお馴染みのSF小説。まだ読んでない方はぜひ読んでみて。歴史、哲学、ゲーム、ミステリーの要素が詰まって、でもしっかりSFしてる。

世界2900万部の大ヒット。面白さはお墨付きです。

 

三体 (ハヤカワ文庫SF)
三体 (ハヤカワ文庫SF)
 

 

感想記事はこちら▶

読む順番は?文庫化は?三体シリーズ原作を徹底解説します - わんこたんと栞の森

 

おすすめミステリー、他にもいろいろあります。

 

推理合戦もの、集めました。

 

 

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文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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