三体シリーズで世界的に有名になった中国人SF小説家の劉 慈欣氏。いったいどのような作家なのか。そしてヒットの背景にある中国の事情とは。
劉 慈欣作品の大大大ファン、管理人わんこたんが、考察しました。
劉 慈欣氏はどんな作家なの?
著書の後書きやインタビュー等から確認できた、劉 慈欣さんの略歴を、関連作品とともにまとめました。
作家デビューは1999年
1963年北京市生まれ。山西省東部の炭鉱町、陽泉市で育ちました。
華北水利水電大学の水力発電エンジニアリング学部を卒業し、発電所のコンピューターエンジニアとして働き始めます。
三体0【ゼロ】球状閃電では、電流測定に関わる詳しい描写がありますが、ご自身の経験が生かされているのかもしれません。
「ゼロ」と銘打たれていますが、三体シリーズとストーリーは独立しているので、これ単体で読んでもOKです。
コンピューターエンジニア時代から SF 短編を書き始め、1999年の「鯨歌」を皮切りに、5作品が中国の SF 雑誌「科幻世界」に掲載。SF 作家としての道を歩み始めます。
「鯨歌」は2021年発売の短編集「円」に収録、日本語で読めます。粗削りですが、大胆な発想、印象的なキャラ、そして「ハイテクとローテクの対比」というテーマ性に、劉 慈欣パワーの片鱗を感じる!
収録短編は傑作ぞろい!表題作「円」は三体のとあるエピソードを抜粋し編集した内容なので、「三体の体験版」として楽しめます
三体の連載開始から「中国の至宝」と呼ばれるまで
中国では長らく、SFやホラー、ミステリといった作品では「文学ではない」という見方をされていましたが、その伝統を打ち破ったのが「三体」でした。
2006年に中国のSF雑誌「科幻世界」で三体の連載を開始、2008年に同国内で単行本出版、その人気っぷりは中国国内でも社会現象に。
2015年に、ケン・リュウ氏による英訳版がヒューゴー賞(SFの世界的なすんごい賞)を受賞。アメリカ元大統領のオバマ氏が絶賛するなど、世界的な人気作品となり。複数の制作会社でドラマ化もスタートしています。
今やSF作品は中国国内でも文学の一大ジャンルとして確立。まさに中国のSFの歴史を塗り替えた作家、といえますね。
SFブームに沸く中国の背景
中国では三体をきっかけに空前の科学、SFブームが巻き起こります。その社会的・歴史的背景をまとめました。
SF小説の人気を高めた、中国の背景事情
三体のヒューゴー賞受賞以降、「中国文化を世界に知らしめる」手段として、SFは国家的にも支持されるようになりました。
国全体が「SF」「科学」「宇宙」に沸き立っているようです。
実は日本にもあった、SFブーム
かつて日本にも「SFブーム」があったのをご存じでしょうか。
1960-1970年代、まさにアポロ計画のさなか、アポロ11号が月面着陸を果たし、(運よくテレビ中継を見せてくれた学校では)子供たちが月に降り立つアームストロング船長にくぎ付けになっていた時代。
小松左京さん、星新一さん、広瀬正さん、筒井康隆さんなどの作家さんを筆頭に、多くのSF作品が出版され、ブームとなっていました。
日本のSFブームと中国のSFブームは似ている?
そのころの中国、毛沢東の大躍進政策の失敗による飢餓、文化大革命による知識層への迫害、、、など、「それどころではない」という状況。
改革が進み、経済が発展し、科学技術もおおきく進歩。2003年には中国で初めての有人宇宙飛行を実現させました。
かつて日本でも起きたような科学・宇宙開発ブームが、中国という巨大な国、今まさに起きている。このことも、劉慈欣ブーム、SFブームの原動力になっているのかもしれません。
劉 慈欣作品の魅力とは
わんこたんの考える、劉 慈欣作品の魅力をまとめました。
劉慈欣作品で描かれる、歴史、農村の貧困
劉慈欣作品では、中国の暗部に関するリアルな描写も特徴。
例えば文化大革命で多くの科学者が弾圧され、命を落とすシーン。三体では、文化大革命での弾圧と、現代パートで起こる科学者の自殺が、まるで歴史のリフレインかのように描かれます。
中国でここまで書いて出版できるんだ!と正直驚いたなあ。
もちろん、政治的に書けないこともあるでしょう。「三体」作中の文化大革命のシーンも中国の出版時には冒頭から中盤に移されたそうです。
何かと話題になる私達の隣国、中国。そこに住む人たちが何を読み、何を楽しんでいるのか、そのような視点から、三体シリーズを読むのもおもしろいですね。
劉 慈欣作品の特徴と魅力とは
なんと言っても、SFらしい想像を超えたダイナミックな発想がすごいのですが、そこに個人の感情のゆらぎ、社会のうねりを織り込んでいくバランスが絶妙なんです。
例えば
- 三体 黒暗森林で、地球の技術発展によって三体人の侵略への恐怖感が薄れ、幸福感に溢れた人類社会
- 流浪地球(流浪地球 収録)民衆が暴動を起こすシーン
- 地球大砲(老神介護 収録)で、とある巨大事業への評価が時代によって大きく変わるシーン
- 円(劉慈欣短編集 円 収録)での、始皇帝と荊軻の関係性の変化
などなど…
空想と現実、マクロの社会とミクロの個人が融合したような、そんな没入感も劉慈欣作品の魅力ではないでしょうか。
科学技術の進化を、肯定も否定もしない。フラットで冷静な視点
進歩した科学技術が思いも寄らない災厄を引き起こす、、、
SF作品ではよくある展開。劉慈欣作品にもそのようなシーンは存在します。
白亜紀往事でも、文明の技術が地球に災厄をもたらしていました。
一方で、技術の進歩で思いも寄らない幸福を人類にもたらす、そんな場面も。
科学を賛美しすぎず、かと言って警鐘を鳴らすだけでもない、あくまで物語を動かすのは人間たち。そんな冷静でフラットな視点も魅力です。
まとめ とにかく劉慈欣作品はおもしろい!
「三体シリーズ」で一躍世界的SF作家になった劉慈欣さん。三体シリーズ以外にも、脳汁ドバドバな面白い作品をたくさん執筆しています。
ぜひ、多くの方に読んでみてもらいたいなあと思います。
三体シリーズ以外にも劉 慈欣作品は名作揃い!特に短編がすごいんです。
三体以外のおすすめ作品を紹介しています。
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劉 慈欣作品の世界観は、日本のあのSF作家に通ずるものがある……?
日本を代表するSF作家、小林泰三氏をご存じでしょうか?
その奇妙で、かつハードなSFの世界観は、どことなく劉 慈欣作品に通ずるものがある、と、管理人わんこたんは考えています。
以下の記事では小林泰三作品についても解説していますので、ぜひご覧ください。