なめらかな世界と、その敵 あらすじ
いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描いた表題作など、想像を超えた世界観が楽しめる全6篇の短編集。
各短編のあらすじは、感想の項をご覧ください。
- 著者:伴名 練 → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:早川書房 2019/8/20
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 伴名 練さんについて
伴名 練さんは、覆面兼業SF作家。早川書房に「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」と称されるほど、SF愛にあふれた小説家。なのだそうです。
初の単著となったなめらかな世界と、その敵の他に、古今東西の名作や作家ごとの傑作群を編んだアンソロジー『日本SFの臨界点』シリーズを、刊行中とのこと。
わんこたんもいくつかは買ってあるのですが、まだ読めていません。はやく読まねば~~。
参考▶『なめらかな世界と、その敵』伴名練インタビュー - 「もっとみんなが活躍できるジャンルであってほしい」伴名練のSF論(KAI-YOU Premium)
※書影クリックでAmazonのページにジャンプします
また、デビュー作となった少女禁区はホラージャンルですが、これがまた本当に濃厚でとろけるような素晴らしい味わいの作品で。
残念ながら絶版のため、ぜひお近くの図書館で探してみていただければ!
なめらかな世界と、その敵 各話のあらすじと感想
わんこたん、読書するときは、Kindleで気になったところにマーカーをひくのですが。
なめらかな世界と、その敵、「ついぐいぐい読んでしまって、気づくと全くマーカーをひいてない!」となるタイプの本でした。つまり最高でした。
収録作品の多くは人間の知覚や思考がテーマとなっていますが、その一方で、短編ごとの書き口は全く異なっていて、「本当に一人の作家さんが書いたの!?」と驚くこと間違いなし。
これだけの振れ幅でこの傑作たち。天才の所業では。
「その世界独特のルール・設定」の説明もわかりやすくて本当になめらか。なめらかな世界だけに。ストレスなく世界観に没入できました。
あと表紙の女の子の表情がめちゃよい。推しの子の原作でおなじみ、漫画家・赤坂アカ先生のイラストとのこと。
以下に各短編のあらすじと感想を書きました。
なめらかな世界と、その敵
表題作。「乗覚」によって並行世界を知覚し、ありえたかもしれない世界の無数の自分と意識を共有できる世界。
主人公は学生でもあり、同時にアルバイトであり、友人はクラスメートであり、アルバイトの同僚であり、警察官であり。世界は夏だけど、異常気象で雪が降ったり、はたまた壊滅していたり
と、このように書くとめちゃくちゃわかりづらいのですが、読むと世界観にすんなり入り込める構成が、すごい。
この混線した世界観。self-reference-engine/円城塔を彷彿とさせつつ、さらにその世界観で、爽やかで、切ない、青春物語を成立させているのがすごい。
特にラストの「競争」と「飛び込み」のシーンは、きらびやかな映像が脳に流れ込んでくるようでした。葉月とマコトの友情に、幸あれ。
ゼロ年代の臨界点
1900年代、開明女学校の才女3人組、富江、フジ、おとら、が日本のSF界を大いに発展させ、そして散っていった。という設定のIF年代記。
もしこの時代にタイムトラベル小説が、ネットワーク知性体が、ディストピア小説が生み出されていたら、どんな作品になっていたのだろう?
そんな想像を掻き立てられる品でした。
文学ジャンルのIF年代記モノ、最近ではハインリヒ・バナールの文学的肖像(ガーンズバック変換収録)を読みましたが、ゼロ年代の臨界点は、日本が舞台ということもあり読みやすいです。
1940年頃のドイツに、架空のSF劇作家が存在していたと言う設定のIF年代記。紹介記事はこちら▶ガーンズバック変換/陸秋槎 感想 - わんこたんと栞の森
個人的には、作中に登場する架空のSF小説「九郎判官御一新始末」が好き。薩摩藩士が源平合戦にタイムスリップして未来の知識で無双して安徳帝と源義経で海中に遷都する。こんなストーリー、何食べたら思いつくんだ。
ちなみに、現実世界でウェルズがタイムマシンを小説に登場させたのは1896年、タイムパラドックスやネットワーク知性がSF作品上に登場するのには、1950~1960年代、ハインラインの時の門や、月は無慈悲な夜の女王などの登場を待たなければなりません(わんこたん調べ)。
いかに富江、フジ、おとらの描いたSF小説が未来を先取りしているかが伝わってきます。
最後の最後まで、百合とサプライズを詰め込んでくる点にも要注目。めちゃくちゃ歴史が改変されていて、最高でした。SFは文明を発展させるのだ!
美亜羽へ贈る拳銃
本作品は夭逝のSF作家、伊藤計劃氏へのトリビュートであり、「美亜羽」は伊藤計劃氏の著書「ハーモニー」に登場するミアハから名前をとっています。
名前が一緒なだけで、ハーモニーを読んでいなくても問題なし。でもハーモニーは傑作なので、ぜひ機会があれば読んでみてね。
感情インプラント技術によって、感情を自在にコントロールすることが可能になった世界で巻き起こる、愛の物語。
インプラント治療で、饒舌で社交的になったり、運動好きになったり、夫婦間で互いを愛し続けられるようになったり……ちょっと三体シリーズの「刻印」を思い出しながら読んでました。
感情インプラント、いいなあ。わんこたんはイライラすると態度に出てしまいがちなので、そういうところ直したいなー。なんて考えながら読み進めていくと…
初読ではラストシーンが理解できず、冒頭を読み返し、「幼い君の手」と記載されているところで、「幼い君」が誰なのかを理解し、そしてすべての結末を理解しました。
これはハッピーエンドであると信じたい。インプラントなんてなくても、私たちの脳はどこまでも不自由で、どこまでも自由なんだ、と、胸を張って生きていきたい。
ホーリーアイアンメイデン
姉 鞠奈へあてた、妹 琴枝からの手紙。
それは、姉の目の前で自分が命を落とすことを、宣言するものでした。
妹はなぜそのような決断に至ったのか?手紙から明らかになる真相は……
うん、姉への愛と、姉への恐怖が重い!最高!
シンギュラリティ・ソヴィエト
AIに支配されたソヴィエトとアメリカの対立を描いた作品。こういう歴史改変SFだーいすき。最終的にはソヴィエト勝利と見せて、人類はすでに……という結末がたまりません。
全国民の脳の一部をAIの演算領域として供している、とか、そういうマトリックスとかサイコパスに通じるような設定も最高。
ところで、なめらかな世界と、その敵は2022年に文庫化されましたが、ウクライナへのロシアの侵攻をうけて、シンギュラリティ・ソヴィエトを大幅に改稿しているそうです。
(参考:『なめらかな世界と、その敵』伴名練インタビュー - 「もっとみんなが活躍できるジャンルであってほしい」伴名練のSF論(KAI-YOU Premium))
管理人わんこたんが読んだのは文庫化前の版なので、文庫版ともいずれ読み比べてみようと思います。
歴史改変SFといえば、ナチス政権下ドイツが舞台のNSAもおすすめ!この国を支配する〇〇とは……?気になる方はぜひ。
ひかりより速く、ゆるやかに
とある事情で修学旅行を欠席した主人公。
クラスメートが乗った帰りの新幹線が前代未聞の異常な事故に巻き込まれ、主人公は図らずも、幸運な生存者となるのですが……
事故の真相も面白かったですが、事故後の世界の変化とか、SNS世論とか報道とかにめちゃくちゃリアリティーがありました。
クライマックス、時速300㎞のシーン、主人公がみたであろう、おそらく3秒前後の光の明滅。私の脳内では新海誠監督作品風のキラッキラ映像で再生されました。
タイトル「秒速0.0003cm」みたいな。
※時速300kmの2600万分の1で計算。
ところで叔父さんの助手席に積まれた本のひとつ、海を見る人。この作品も、新幹線の事故と同じ状況で引き裂かれた男女の物語なのです。とっても面白いので気になる方はぜひ。
なめらかな世界と、その敵 の次に読みたいおすすめ作品
次に読みたい、「ぐっとくる」SF短編集をテーマに、おすすめをご紹介!
人間たちの話/柞刈 湯葉
凍りついた地球で。あるいは宇宙のラーメン屋で。
今日も人間たちは、どこかで元気に生きている!不思議でなぜか元気が出る人間の物語を集めた。SF短編集です。
紹介記事はこちら▶︎(読了)読書感想文/人間たちの話 柞刈 湯葉 - わんこたんと栞の森
円 劉慈欣短編集/劉 慈欣
三体シリーズでお馴染みのSF作家、劉慈欣さんですが、実は短編がキレッキレに面白い!歴史哲学、文化、そしてSF。いろんな要素が盛り込んで、物語を成り立たせる手腕は、さすがの一言。
三体シリーズは長すぎて読めない……と言う方にもお勧めです。
作品の紹介記事はこちら▶︎
「円 劉慈欣短編集」のネタバレ感想。短編から味わう劉慈欣SFの魅力! - わんこたんと栞の森
劉慈欣さんの他作品についてはこちらをどうぞ▶︎
読みやすいSF あります
以下の記事で、初心者でも読みやすいSFをテーマに作品を紹介しています。ぜひ読んでみてくださいね。
タイムトラベルなSF集めました
SFの王道、タイムトラベルがテーマの小説を取り揃えました。あなたの知っている作品があるかも??