あなたの想像を超える不思議な世界と、あり得たかもしれない人間たちの物語。その感想を書きました。
海を見る人 あらすじ
旅をする世界。対立する2つの国の世界。逆さまの世界。。。。
かなり不思議で、ちょっぴりホラーな世界と、そこに生きる人間たちの少し切ない物語を集めた、小林泰三ワールド全開のハードSF短編集!
- 著者:小林泰三
- 発売:早川書房 2002/5/1
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 小林泰三さんについて
小林泰三(こばやしやすみ)さんはホラー、ハードSF、サスペンスを得意とする小説家です。
1995年、「玩具修理者」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞しデビュー。翌年単行本化され、ベストセラーに。
2020年11月に残念ながら逝去。未来からの脱出(角川ホラー文庫)が遺作となりました。
以下に代表作を並べました。(書影クリックでAmazonのページへ)
当ブログでは、小林泰三さんの代表作をいくつか記事にしています。
ぜひ読んでみてくださいね。
- 記憶喪失者VS殺人鬼!勝ち目はあるのか?読みはじめたら止まらないノンストップサスペンス「殺人鬼にまつわる備忘録」。感想はこちら。
殺人鬼にまつわる備忘録/小林泰三 あらすじとネタバレ感想
海を見る人 感想
海を見る人 各短編の感想を書きました。
時計の中のレンズ
崑崙を旅する遊牧民。彼らが目指すのは「カオスの谷」を超えた先にある「楕円体世界」
彼らは「歪んだ円筒世界」を抜け出すことができるのか?
と、あらすじだけでも、特殊用語のオンパレード。「ぬれもの細工」やら「かたもの細工」やら、も登場し、独自の世界観に圧倒される、小林泰三ワールド全開な作品です。
故郷の惑星(地球?)から、人類はどうしてやってきたのか?
という謎が謎を呼ぶ世界ですが、特に解説はなし。想像がかき立てられます。(投げっぱなし、ともいう)
潰れた砂時計の真ん中にレンズがハマったような、不思議な世界。中心には太陽がわりの光柱があるようです。
レンズ側と砂時計側の接線に位置する山脈の名前はそれぞれ「崑崙」「須弥山」。宗教観も世界観もごた混ぜのこのネーミングも世界観もわんこたん好み。
- 崑崙(こんろん)
仙人が住むとされる中国の伝説上の山。マンガ「封神演義」でも登場するので、聴いたことある、という方も多いかも。 - 須弥山(しゅみせん)
古代インドの世界観で、世界の中心にあるとされた巨大な山。この概念はそのまま仏教にも伝播されています。
ところで、須弥山をはじめとする古代インド発祥の世界観は光瀬龍さんのSF作品「百億の昼と千億の夜」にも登場します。
なぜか古代インドはSFと親和性があるらしい。
イラストにしてみましたが、うーん、難しい。
ちなみに<いろもの物理学者>こと、前野昌弘氏(琉球大学 准教授)は、ご自身のwebサイトで、この世界の物理学的描写を計算で検証しています。これは強い。
後書きで小林泰三さんも、電卓片手に読んでほしいと書いてます。興味ある方はぜひ挑戦していただきたいですが、わんこたんには無理だあ。
独裁者の掟
対立する民主連邦と第一帝国
帝国の大使の娘、カリヤは、連邦の少年、チチルと出会う。2人は交流を深めていくが、一方で帝国の総統は民主連邦への攻撃準備をはじめていた。
ブラックホールからエネルギーを取り出すという奇想天外な社会システム。
その歴史とそこから生まれた2国の対立という世界設計も面白いし、「総統」と「カリヤ」の物語が繋がるミステリ的な構造も楽しいです。
結末も素敵。小林泰三作品としては珍しい?ちょいビターなハッピーエンドなのです。
天獄と地国
重力が地面→空に向かってはたらく世界。
人々は地面に穴を掘ったりへばりついたりして、時々あらわれる「空賊(パイレーツ)」に怯えながら暮らしていた。
その世界には古来から伝わる、伝説があって、、、。
気を抜けば真空の宇宙に真っ逆さまという奇想天外な世界での冒険物語。
物語はこの世界の真実を仄めかす形で終わりますが、好評だったようで、本作をもとにした長編小説「天獄と地国」も執筆されています。
キャッシュ
長期間の宇宙航行を可能にした人類。航行中、人工冬眠による記憶へのダメージを防ぐため、冬眠者の意識を仮想世界で生活させるシステムが作られる。
その仮想世界の中で探偵業を営む、「わたし」の元にやってきた無名の依頼者。依頼者が告げたのは、この世界が崩壊の危機に瀕している、という事実だった。
仮想世界で魔法を使えて楽しめるようになる「魔点システム」に、仮想世界の計算資源を節約するための「キャッシュシステム」。この2アイデアでここまでの話を組み上げてしまうとは恐れ入ります。
オチも含めて綺麗にまとまった作品でした。
母と子と渦を旋る冒険
純一郎くんはお母さんの元から離れて宇宙を飛び回ります。宇宙の秘密を調べてお母さんに伝えるために。
純一郎くんて誰やねん?という感じですが、人格を持った探査機の様子。探査機といっても、観測システムを搭載したメカのようでもあり、生き物のようでもある、謎の構造をしています。
そして、純一郎くんもお母さんも、人類らしい。何があった人類。
海を見る人
表題作。山の村の少年は、浜の村からやってきた少女に恋をします。山の村の祭りで、また会おう、と約束する2人ですが、山の村と浜の村では時間の流れる速度が違っているのでした。
浦島太郎のような世界に、SF的な骨組み、さらに恋愛を組み合わせた表題作。山の村で行われる超「光」速だんじりの部分はぜひ本場、岸和田の方に読んでもらいたい。
どうやらこの世界
- 海に近いほど時間の流れが遅い
(山の村での3日が浜の村では40分=100倍くらいの差?) - 海に近いほど重力が強く働く
などなど不思議な現象が起こるのですが、終盤で、この世界が◯◯のすぐ近くに存在することが明かされます。◯◯の重力で光が捻じ曲げられるので、普通の光ではなく「超光」というもので世界を見るように、人の子は進化した、らしい。
他にも本作では重力の影響による不思議な現象がいろいろ描写され、それも面白いのですが、それを凌駕するラストの愛(狂気)に圧倒されます。
門
量子テレポート技術によって、宇宙のあちこちに進出し、それぞれ独自に発展を始める人類文明。
ある少人数居住区にやってきた、太陽系からの艦隊。艦隊の艦長を名乗る少女は、居住区に対し一方的な通告を開始し、、、
最後にして、この短編集を作品として編み上げる糸のような作品。
結果と原因が逆転した世界で、最後の苺ミルフィーユがいい味出しています。
この「門」がきっかけとなり、「海を見る人」に登場する様々な歴史と物語がうまれた、と解釈して良いのかな?
なお「円」は「時計の中のレンズ」でご紹介した前野昌弘氏の物理学の講演に触発されて書いた作品、とのこと。
まとめ
短編集でもあり、様々な世界を紡ぐひとつの巨大な物語、でもある「海を見る人」
電卓片手にSF考察を楽しむもよし、人間ドラマに浸るもよし。
小林泰三さんらしい、少しホラーで少しミステリな、ハードSFの世界。読んだことのない方は、ぜひお試しを!
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この記事で紹介した「門」もそうですが、小林泰三さんはタイムトラベル小説も書いています。
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