<以下、ネタバレを含みます。>
- 三体Ⅱ黒暗森林 あらすじ
- 冒頭「宇宙社会学の公理」から、いっきにつながる爽快感
- 三体世界の唯一の弱点が明らかに。どう戦う?
- 羅輯(ルオ・ジー)と章北海(ジャン・ベイハイ)2人の主人公
- ある意味、第5の面壁者 章北海(ジャン・ベイハイ)
- 羅輯(ルオ・ジー)の怠惰な生活にドン引き!?
- 超テクノロジー「水滴」の恐怖
- 三体文明の超兵器「水滴」の原理はなに?
- 戦争の物語でありながら、ミステリーのような謎解きがとにかくおもしろい
- マクロとしての地球人類の戦いとミクロの庶民の戦い
- 危機に対応する軍の変化、地球統治の変化
- 流石のダーイー
- あまりに綺麗な結末、しかし、、、?
三体Ⅱ黒暗森林 あらすじ
前作「三体」で地球を攻撃する意思を明らかにした三体星人。
4世紀後に地球に到達する三体艦隊との戦いにそなえ、地球文明は「面壁計画」の実行を決断する。
三体文明から送り込まれた陽子サイズのスーパーコンピューター智子(ソフォン)の目を欺く奇策とは?
そして明らかになる、暗黒の宇宙の姿とは?
本当にページをめくる手が止まらない。一気読みさせられました。
最高に幸せで、最高に寝不足でした。
- 著者:劉 慈欣
- 翻訳: 大森 望 、立原 透耶、 上原 かおり、 泊 功
- 発売:早川書房 2020/6/18
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(朗読版):読み放題対象
冒頭「宇宙社会学の公理」から、いっきにつながる爽快感
冒頭、羅輯(ルオ・ジー)と葉文潔(イエ・ウェンジェ)の会話から始まり、いきなり登場する、宇宙社会学の公理。
読者は「宇宙社会学?それが三体星人との戦いにどのように役立つのか?」と疑問に思うわけですが、小さなひびわれが巨大な地割れになるように、この公理がラストの展開に大きく影響します。
冒頭からラストまで、一気通貫するストーリー構成。本当に見事でした。
読了した後、Audible(Amazonの提供する本の朗読サービス)で音声でも再読しましたが、冒頭のこのシーンが、あの結末につながっているとわかり、ゾクゾク。
読了した方も、ぜひもう一度読んで(聴いて)みてほしいです。
\\▶Audibleサンプル から冒頭5分が試聴できます//
三体世界の唯一の弱点が明らかに。どう戦う?
羅輯(ルオ・ジー)と葉文潔(イエ・ウェンジェ)の会話に続いて、エヴァンズ(三体文明に味方する地球人、前作「三体」で死亡)と三体世界の、過去の会話シーンが描かれます。
前作で三体文明の脅威をみせておきながら、ここで弱点が明らかになる構成がとにかくうまい。
- 宇宙社会学の公理
- 三体世界の弱点
この2つが、三体世界と戦うための唯一の武器であり、ヒントであり、最大の謎となって、読者をぐいぐい引っ張っていきます。
未読の方は、ぜひこのあたりでこの記事を閉じて、「黒暗森林」を読んでほしい!
羅輯(ルオ・ジー)と章北海(ジャン・ベイハイ)2人の主人公
面壁者である羅輯と、宇宙艦隊の指揮官、章北海.
2人は作中で一切接触しませんが、下巻での章北海の行動と、それによって引き起こされる「暗黒人類の戦闘」が、羅輯の思考を補強し、ラストシーンにつながる、と言う構成になっています。
黒暗森林の主人公は羅輯ですが、彼が表の主人公なら、章北海は裏の主人公と言えるでしょう。
ある意味、第5の面壁者 章北海(ジャン・ベイハイ)
章北海は「究極的な勝利主義者」として周りを、読者すらも欺き、孤独な戦いを続けます。
刻印族、という意図しなかった要素も計画に組み込みつつ、最後の最後に手の内を明かす、このシーンは本当に痺れました。
章北海の行動によって、当てのない暗黒の旅路に向かうこととなった戦闘艦ですが、続編の「死神永生」ではこの艦が人類の切り札に。
章北海がこの展開まで予想していたかは不明ですが、物語への影響と、本心を最後まで隠していたところを考えると、章北海はは5人目の面壁者(ウォール・フェイサー)と言えるのかもしれません。
羅輯(ルオ・ジー)の怠惰な生活にドン引き!?
面壁者としての地位を一方的に与えられた羅輯。
なぜ自分が面壁者に選ばれたかわからないまま、強大な権限を与えられ、三体文明から命を狙われ、三体文明を打ち負かす方法も思い浮かばず、何が何だかわからない!と自暴自棄に。
羅輯はその地位を濫用して、豪邸を手に入れ理想の女性「荘顔(ジュアン・イエン)」と結婚し、子供を作って幸せに生活し始めます。
そんな簡単に相思相愛の理想の女性が現れるはずないやん、絶対に何かの罠やろ。と、思っていましたが、、、
別に罠ではなかった
読者が思わずおいコラ!と叫びたくなるような幸せな結婚生活。この生活パートがそんなに面白くないという。ルオジーが理想の女性を妄想する場面も、読みながらちょっとヒいてました。
もちろん、この幸せな生活がなければ、羅輯が面壁者としての責務を果たす動機も生まれなかったので、決して無駄なシーン、というわけではないのですが。
ところで羅輯と荘顔がルーヴル美術館で眺めた「モナリザ」。続編の死神永生の終盤に登場するのですが、このシーンがまた切ない。ぜひ死神永生をチェックしてみてくださいね。
超テクノロジー「水滴」の恐怖
黒暗森林で最大の山場となるのが下巻の「水滴」シーン。
勝利への希望に満ち溢れていた人類文明をとことんまで絶望に突き落としてくれました。
三体シリーズはネットフリックスでのドラマ版配信が決まっているので、このシーンがどう描かれるか、今からとっても楽しみです。
三体文明の超兵器「水滴」の原理はなに?
水滴は、作中の描写によれば
- 水滴を構成する分子が一切振動せず結合している
- よってその温度は絶対零度(−273.15 °C)
- 水滴を構成する分子は
強い相互作用 で結合している
となっています。なるほどわからん。
原子核の中に存在する「陽子と中性子」がバラバラにならずくっついていられるのは、この「強い相互作用」のおかげ。
素粒子「グルーオン」がゴム紐のような力で、陽子と中性子(を構成するクオーク)をくっつけていると考えられています。
しかし、強い相互作用は原子核の直径(10^15メートル)しか届きません。水滴のような大きなものをこの力でカッチカチに結びつけるのは、無理があります。
だからこそ理論物理学者である丁儀(ディン・イー)は、この水滴から三体文明のはかりしれない技術力を察知し、絶望したのですね。
強い相互作用を含む、素粒子物理学については、「宇宙は何でできているのか」という本がわかりやすいです。わんこたんのような物理素人でも理解できるよう丁寧に説明しているので、ぜひ読んでみてくださいね。
戦争の物語でありながら、ミステリーのような謎解きがとにかくおもしろい
前作「三体」も ものすごかったのですが、
今作は私の想像する「SF」の枠組みを大きく飛び越えていて、
心理学的洞察もめちゃめちゃ深いうえに、
バディものとしてのエンターテイメント性もあり、、、
さらにさらに希望と絶望の振れ幅がとてつもないので
私の精神は第4戦速状態の艦隊の中身さながら、
ぐっちゃんぐっちゃんになりました(グロいw)
端的にストーリーをご紹介すると、
限られた条件の中、どうやったら人類は宇宙の他文明の侵略を
防ぐことができるのか?
というのを200年かけて考える、一種の思考実験、パズル
といったところでしょうか。
<限られた条件>
・「三体文明」は人類側と比較して
テクノロジーに大幅なアドバンテージがある。
・人類側は「三体文明」の妨害をうけており、
物理学(量子力学とかそういうの)が、一切発展しない。
・「三体文明」は人類には観測不能なスパイマシンを
送り込んでいて、人類側の行動、会話、機械のデータ等は
すべて「三体文明」に「即時で」筒抜け。
・三体文明は人間の「思考」は観測できない。
頭の中にとどめている限り「三体文明」に情報は洩れない
・上記4事項について人類側も把握している。
・人類側はコールドスリープ技術が利用可能という前提。
これらのパズルのピースが順を追って提示されていくところから
まずワクワクするし、
ここからどうやって「三体文明」を打ち負かすのか?
という読者の予想をどんどん飛び越えていく展開が
めちゃくちゃたまらないのです。
マクロとしての地球人類の戦いとミクロの庶民の戦い
地球人類全体の戦いとは同時並行的に描かれるのが、地球の各個人の姿
危機紀元3年に登場する3人の老人(ミャオ、ジャン、ヤン の姿から、
地球の庶民がこの危機の中でいかに立ち回ろうとするかが、ドラマチックに描かれるのも、本作の魅力です。
この3人の会話シーン、Audibleで聴くと、声質で3人をきっちり演じ分けていて、声優さんの技術に感服すること間違いなし
危機に対応する軍の変化、地球統治の変化
三体危機に直面した地球文明は敗北主義を根本から否定するという方針をとります。それに伴う市民生活の変化、軍内部での軋轢がリアルに描かれて、SFにおさまらない社会的なリアリティがありました。
流石のダーイー
黙っていること、決して口に出さないこと。それが勝利への条件。
前半でダーイーがルオジーにアドバイスした内容が、結末に生きてきます。さすが
あまりに綺麗な結末、しかし、、、?
3部作の中の2作目であはありますが、
結末は予想以上にきれいに着陸。でも、これ、続くんですよね。
一体どうなってしまうのか。はやく続きが読みたい。ああ読みたい。
邦訳~がんばれ~
<追記>
続編の邦訳も発売されました!読みました!
続編に向けて気になる部分
①
二隻の「暗黒の船」の運命があまりにも切ない、、、
同時多発的にお互いの戦艦を攻撃する場面で
「火の鳥-未来篇-」でメガロポリスが同時に滅亡するシーンを、
当てのない宇宙への旅に出る彼ら「新人類」(暗黒人類?)の場面では
「火の鳥-宇宙篇-」に登場する、軌道を離れて徐々に交信不能となる
脱出カプセルのことを思い出しました。
アレは子供心に怖かったな、、、
この2隻は「負文明」として続編に登場するのでしょうか?
②
太陽系から離れ、資源不足でさまよう「三体」の艦隊を、
人類は救出に行くのでしょうか。(あるいは三体文明側で救出?)
結末では示されていませんでしたが、
どうか、ふたつの文明が手を取り合って、暗黒の宇宙を照らしてほしい、
と思わずにはいられませんでした。
まさに宇宙の文明同士の「愛」ですね。
まあ、人類側は「三体文明」側にめちゃくちゃにやられて
かなりの犠牲を出しているわけなので、おいそれと救出にはいけないのかもしれませんが。
③
敗北の精神刻印がされた「刻印族」の存在について、
結局どうなったのか、本当に存在していたのか、
という問いの答えは明示されませんでした。
第3部で触れられるのかも?
④
「三体文明」が敗北主義者を危険視する理由。
思考に読めない人類が太陽系外に散らばることを危惧している、と、
三体文明からウォールブレイカー2号に説明するシーンがありますが、
それでけではなく、
人類が宇宙にちりぢりになることで「太陽系」の位置情報が
他文明に伝わり、「三体文明」が脅かされることを
嫌気したのかな?と解釈しています。
⑤
物理学関連の描写がかなり細かいのに対し
生物学関連の描写はわりとざっくりだったな、という印象。
コールドスリープ技術は当たり前のように使用できるし、
白血病や未知の感染症など、未来の超技術で特に障害もなく完治しているし、
まあそこはフィクションと割り切ってとして、
あまり気にしないほうがいいのかもしれません笑
⑥
安定の大史
1作目で放射線浴びまくって白血病になるも、ばっちり治して
本作でも大活躍。お願い、続編にも登場して、、、笑
とりあえず1作目の「三体」からまた読み返して、
もうちょっと余韻にひたりたいなとおもいます。
1作目の感想文はこちら
おしまい!
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1つ後の感想文はこちら