作者のお名前は「いすかり ゆば」と読みます。
どんな時代でも、惑星でも、世界線でも、最もSF的な動物は人間であるのかもしれない……。
火星の新生命を調査する人間の科学者が出会った、もうひとつの新しい命との交流を描く表題作。
太陽系外縁部で人間の店主が営業する“消化管があるやつは全員客"の繁盛記「宇宙ラーメン重油味」。人間が人間をハッピーに管理する進化型ディストピアの悲喜劇「たのしい超監視社会」
ほか全6篇を収録。稀才・柞刈湯葉の初SF短篇集。
斬新なSFアイデア+ドライな人間たち
登場するSF的アイデアはどれも驚きに満ちていて新鮮。
ただの科学的考証に留まらず、科学的な変化・発展が
文化面・精神面に与える影響を丁寧に想像しているところがよかったです。
一方で、人物描写はタンパクで意地悪な書き方をすれば
登場するのはどれも似たようなキャラクター、となっています。
みな、冷静で、淡々(あるいは飄々と?)としていて、
状況を俯瞰して考え、感情的になりにくいタイプの人物たち。
SFとして驚きを楽しむならよし、一方で人間ドラマとして読もうとすると、
ちょっと物足りないかな、という印象でした。
以下、気になった作品について個別に
冬の時代
気候変動で凍りついた日本を南下する兄弟。
気候変動に備えて遺伝子操作で寒さに強い野生動物を開発して野に放ち、
後世の人々の食糧難を防ぐ
とか
寒冷化ゆえにこどもの名づけに南方の植物の名前をつける傾向とか
そういう細かい設定描写がよかったです。
たのしい超監視社会
全体主義国家による超監視社会を描いたジョージ・オーウェルの「一九八四年」の、
その後を描いた作品。
「一九八四年」をベースにしたSF作品はいろいろあります。
(といいつつ、以前に読んだ作品名を思い出せない、、、すみません)
が、ここまでポジティブな国民生活を描いた作品はめずらしいのでは。
相互監視用のディスプレイをyoutubeみたいに使うなw
とはいえ、国民に「まあこんな社会でも別によくね?」と思わせてしまう国家、
ちょっとユルっとしているようで、反体制派の芽はきっちり摘んでいて
逆に恐怖を感じたり。
人間たちの話(表題作)
「生命の定義」について話し合う人間たち。
でも、それはあくまで「人間たち」の都合の話
本書の中では、もっとも人間の「感情」に触れている作品かもしれません
多孔質の岩石の中で生命活動(のような挙動)を示す、という生物のアイデアは
斬新だなと思いました。
私の認識では、地球上の生命体は全て、「外界と内界を隔てる『膜』」や
「特定の機能をもつ器官をつつむ『膜』」を
もっていると思うのですが、この「膜」を「岩石の孔」で代替している、
というコンセプトなのかな、、、?
宇宙ラーメン重油味
「消化管のあるやつは全員客」というコンセプトのラーメン屋。
今日も今日とていろんな客(宇宙人)がやってきます。
さりげない伏線やオチも含めて、エンタメ要素の強いお話。
楽しかったです。
ところで、、、
消化管を「口から肛門までを結ぶ、食物の通り道、体内をつらぬく一本の管」
と定義するならば、地球上の動物はほぼ全て消化管をもっているのですが、
一部持っていないやつもおります。(アメーバのような原生生物など)
「消化管のあるやつは全員客」とすると、一部この定義から外れてしまいそうな
宇宙人もいそうですが、、、
きっとこの店長さんならなんとかしてくれるのでしょう!
おしまい。
本自体はずいぶん前に読み終わっていたのに、
感想書くのめっちゃ遅くなりました、、、