でも三体だけじゃもったいない!
邦訳版の劉慈欣作品の制覇を目指す管理人、わんこたんが、劉 慈欣作品の魅力と、「三体の次に読みたい」劉 慈欣作品について、語りつくします。
三体シリーズは全作品「聴く読書」Audibleの聴き放題対象(2024年2月現在)
祐仙 勇さんの朗読により、各キャラの感情がダイレクトに伝わってきます。未読の方にはもちろん、シリーズ既読の方にこそ、おすすめしたいです。
特に史強の、冷徹さと頼もしさのこもったセリフは、ファン必聴!思わず聴き入ること、間違いなし。
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他の劉 慈欣作品「超新星紀元」や「白亜紀往事」も聴き放題対象なので、登録するだけで劉 慈欣ワールドにどっぷり浸かれます。
洗濯物干しながら耳から物語にどっぷり!さいこー!
- ずばり、三体の次に読みたい1冊はこれ!
- 劉 慈欣さん どんな作家なの?
- 三体の次に読みたい!おすすめの劉 慈欣作品
- SFブームに沸く中国の背景
- 劉 慈欣作品の魅力とは
- まとめ とにかく劉慈欣作品はおもしろい!
ずばり、三体の次に読みたい1冊はこれ!
わんこたん一押しはSF短編集の「流浪地球」。
どの収録作品もクオリティがえげつない「全部おもしろい短編集」になっています。
劉 慈欣さん どんな作家なの?
著書の後書きやインタビュー等から確認できた、劉 慈欣さんの略歴を、関連作品とともにまとめました。
作家デビューは1999年
1963年北京市生まれ。山西省東部の炭鉱町、陽泉市で育ちました。
華北水利水電大学の水力発電エンジニアリング学部を卒業し、発電所のコンピューターエンジニアとして働き始めます。
三体0【ゼロ】球状閃電では、電流測定に関わる詳しい描写がありますが、著者自身の経験が生かされているのかもしれませんね。
コンピューターエンジニア時代から SF 短編を書き始め、1999年の「鯨歌」を皮切りに、5作品が中国の SF 雑誌「科幻世界」に掲載。SF 作家としての道を歩み始めます。
なお、「鯨歌」は2021年発売の短編集「円」に収録されており、日本語で読めます。粗削りですが、大胆な発想、印象的なキャラ、そして「ハイテクとローテクの対比」というテーマ性に、劉 慈欣パワーの片鱗を感じます。
三体の連載開始から「中国の至宝」と呼ばれるまで
中国では長らく、SFやホラー、ミステリといった作品では「文学ではない」という見方をされていましたが、その伝統を打ち破ったのが「三体」でした。
2006年に中国のSF雑誌「科幻世界」で三体の連載を開始、2008年に同国内で単行本出版、その人気っぷりは中国国内でも社会現象に。
2015年に、ケン・リュウ氏による英訳版がヒューゴー賞(SFの世界的なすんごい賞)を受賞。アメリカ元大統領のオバマ氏が絶賛するなど、世界的な人気作品となり。複数の制作会社でドラマ化もスタートしています。
テンセント版もNetflix版も、どちらもめちゃくちゃ良かったです
今やSF作品は中国国内でも文学の一大ジャンルとして確立。まさに中国のSFの歴史を塗り替えた作家、といえますね。
三体の次に読みたい!おすすめの劉 慈欣作品
劉 慈欣作品、最初はやっぱり三体シリーズからがおすすめですが、三体以外にも邦訳で読める名作がたくさん!
短編と長編に分けて紹介します。
以下の記事で、三体シリーズの魅力をネタバレなしで紹介しています。
おすすめ短編作品
2024年現在、発売中の邦訳短編集は以下3冊。劉 慈欣さんの全短編41のうち、23編がこの3冊で読めます。
- 流浪地球
- 老親介護
- 円 劉慈欣短編集
流浪地球/老神介護
原著は1冊の短編集でしたが、邦訳に際し、ボリュームの都合で2冊に。
太陽系から脱出を図る人類の旅路を描いた表題作「流浪地球」、地球に突如現れた神様と、人類文明誕生にかかわる重大な秘密を描いた表題作「老神介護」など、壮大なテーマと、想像を超えた展開が魅力の2冊です。
収録短編はストーリーの内容を考慮して分けられており、緩やかなテーマ性があります。
2冊に分かれたことで、テーマの「差」が和音のようになって、美しい余韻に。個人的にはナイス分冊化だったと思います。
ぜひ2冊セットで読んで、壮大な劉慈欣ワールドを堪能してほしい!
円 劉慈欣短編集
流浪地球、老神介護は壮大な展開の作品が多一方、ですが、こちらの「円」では、「社会」「個人」というミクロな部分にフォーカスした作品が多め。
貧困問題や環境破壊、中国の歴史(始皇帝とか)といったトピックも盛り込まれ、SFであることを忘れるほどのリアリティがたまりません。
特に、収録作品の「円」は三体のワンシーンを短編用にアレンジした作品。(このアレンジの仕方がまた最高!)
長編の三体を読むのはハードルが高いけど、短編なら、読んでみたい。というあなたにおすすめの一冊です。
「流浪地球」⇔「老神介護」⇔「円」で作品の重複はないので、その点もご安心を!
※「円」収録の「詩雲」は、「流浪地球」収録の「呑食者」の続編なので、先に「流浪地球から読むのをおすすめします。
劉 慈欣さんの短編作品一覧
未邦訳も含む、短編を初出の時系列順に一覧にしました。邦訳版の短編集に掲載済みのものは、カッコ書きで収録タイトルを示しています。
- 流浪地球→(流)
- 老神介護→(老)
- 円 劉慈欣短編集→(円)
- 未邦訳→(未)
- その他は個別に記載
また、★マークはわんこたんイチ押し作品です。ひとこと感想つき。
※量が多いので、以下をクリックしてお読みください
ここをクリックで開きます
- 「中国2185」 - (未)
- 「鲸歌」(邦題:鯨歌)1999年6月 (円)
- 「微观尽头」 - 1999年6月 - (未)
- 「宇宙坍缩」 - 1999年7月 - (未)
- 「带上她的眼睛」(邦題:彼女の眼を連れて)1999年10月(老)
★中国では国語の教科書にも掲載されたそう。壮大で切なくてすばらしい作品なのですが、こどものうちにこれを読んだら恐くてトラウマになりそう - 「地火」(邦題:地火(じか))2000年2月(円)
★迫りくる災害のリアリティがすごい。SF版プロジェクトXのような。 - 「流浪地球」(邦題:さまよえる地球/流浪地球)2000年7月(流)
★映画化もされNetflixで配信中。ひたひたと迫る絶望感と、大衆の愚かさと、かすかな希望も - 「乡村教师」(邦題:郷村教師)2001年1月(円)
★貧困にむしばまれる農村の描写、教育を守ろうとする姿に涙 - 「微纪元」(邦題:ミクロ紀元)2001年4月(流)
★流浪地球のIF世界版という感じ。こちらもよき。 - 「全频带阻塞干扰」2001年8月(未)
- 「纤维」(邦題:繊維)2001年8月(円)
- 「命运」 2001年11月(未)
- 「信使」(邦題:メッセンジャー)2001年11月(円)
- 「中国太阳」(邦題:中国太陽)2002年1月(流)
- 「梦之海」 2002年1月(未)
- 「朝闻道」 2002年1月(未)
- 「混沌蝴蝶」(邦題:カオスの蝶)2002年1月(円)
- 「天使时代」 2002年6月(未)
- 「吞食者」(邦題:呑食者)2002年11月(流)
★地球侵略者との戦い。結末も好き - 「西洋」(邦題:西洋)2002年12月(邦訳は華語文学の新しい風 (サイノフォン)収録)
- 「詩雲」(邦題:詩雲)2003年3月(円)※「吞食者」の続編
- 「光荣与梦想」(邦題:栄光と夢)2003年8月(円)
- 「地球大炮」 (邦題:地球大砲)2003年9月(老)
★すごかった。恐怖と絶望からの、希望の持っていき方が絶妙なのよ - 「思想者」 2003年12月(未)
- 「圆圆的肥皂泡」[邦題:円円(ユエンユエン)のシャボン玉]2004年3月(円)
★めずらしく(?)、ハートフル - 「镜子」 2004年12月(未)
- 「创世纪」2005年1月 長編『超新星纪元』からの一部抜粋(未)
- 「赡养上帝」(邦題:神様の介護係/老神介護)2005年1月(老)
★子供に自分の介護を依存しないようにしよう、と決意したくなる - 「欢乐颂」2005年8月(未)
- 「赡养人类」(邦題:扶養人類)2005年11月)(老)
- 「山」(邦題:山)2006年1月(流)
- 「2018年4月1日」(邦題:二〇一八年四月一日)2009年1月(円)
- 「月夜」(邦題:月の光)2009年2月(円)
- 「人生」(邦題:人生)2010年1月(円)
- 「太原之恋」(「太原诅咒」)(邦題:呪い5・0)2010年2月(流)
★超おバカSF。作品に登場する劉 慈欣さん本人に注目 - 「时间移民」 2010年4月(未)
- 「海水高山」 - 既出短編「山」の短縮版。2014年9月(未)
- 「圆」(邦題:円)「三体」からの一部抜粋・改編による短編 2014年12月(円)
★これを読んでドはまりしたわんこたん。そこから三体を読んで、はまる。 - 「不能共存的节日」 2016年4月(未)
- 「烧火工」(邦題:火守)2016年6月)(邦訳は物語絵本「火守」として出版
- 「黄金原野」2018年5月(未)
いずれ全部邦訳されるかな?楽しみ!
おすすめ長編作品
三体0【ゼロ】球状閃電
三体0【ゼロ】球状閃電は三体シリーズ本編の前日譚として邦訳ば販売されていますが、実は物語上のつながりはほとんどありません。
共通の登場人物はいますが、三体シリーズ未読でも、まったく問題なく楽しめます。
量子物理学をベースに「球電」の謎にいどむ科学者たち、球電を軍事利用しようとする政府、そして「兵器」に翻弄されるひとりの女性。
徐々に明らかになる球電の正体と、その結末に驚かされること間違いなし!劉 慈欣さんの想像力のものすごさに、驚き、ワクワクすること、請け合いです。
白亜紀往事
それはありえたかもしれないもうひとつの「白亜紀」。恐竜と蟻は、相互補完的に繁栄し、高度な文明を築いていました。その2つの文明が対立したとき、もたらされるものとは、、、
わんこたんは残念ながらまだ未読のこの作品。実は短編バージョンも存在し、短編版は「老神介護」に収録されています。(めっちゃおもしろかった)
蟻と恐竜。「人間不在」でここまでの物語をつむぐ、この発想力!
なお、劉 慈欣さんは蟻に思い入れがあるのでしょうか。三体シリーズの2作目「黒暗森林」では、冒頭とラストに、「蟻=無知な人類文明」に見立てた印象的なシーンが登場します。
そして、そんな黒暗森林を意識したためか、テンセントドラマ版三体では、「蟻」や「虫」を意識したオリジナルシーンがちょいちょい登場したり。
見どころを以下の記事で紹介中!
超新星紀元
1999年末、超新星爆発によって発生した放射線バーストが地球に降り注ぎ、1年後に13歳以上の大人すべてが死にいたることが判明。
地球の運命はこどもたちに託された!
劉 慈欣さんの長編デビュー作にして、膨大なエネルギーを発散させたような、攻めに攻めた問題作。正直に言うと、かなり好みの分かれる作品です。
上にあらすじを書きましたが、あなたがあらすじから想像したであろうストーリーと、全く違う方向に、物語は突っ走っていきます。
怖いもの知らずの方、ぜひぜひチャレンジを。
日本語で読める!劉 慈欣作品の邦訳まとめ
ここまで紹介した「三体シリーズ」以外の、日本語で読める劉慈欣作品は、以下の通り。ぜひ「三体シリーズの次に読みたい本」として、チェックしてみてくださいね。
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劉慈欣さんの新作予定は?
劉慈欣さんの長編の著作は「三体シリーズ」が最後。2024年現在、新作の発売予定はありません。
短編の執筆も(わんこたんが調べた限りでは)2018年が最後です
一方で、2022年の以下インタビューで、三体などとは違う物語を書こうとしている、とも述べています。
中国SF小説「流浪地球」の劉慈欣氏、宮崎駿監督や「エヴァ」「銀河英雄伝説」から影響:朝日新聞GLOBE+
新技術がインターネットであっという間に広がるこの時代、「新しい発想」を見つけ出すのに苦労されているそう。
わんこたんはいちファンとして新しい作品が出るのを、静かに座して待ちたいと思います。
既存作品の映像化も進んでいますので、まだまだ劉慈欣ワールドを堪能したいですね!
SFブームに沸く中国の背景
中国では三体をきっかけに空前の科学、SFブームが巻き起こります。その社会的・歴史的背景をまとめました。
SF小説の人気を高めた、中国の背景事情
三体のヒューゴー賞受賞以降、「中国文化を世界に知らしめる」手段として、SFは国家的にも支持されるようになりました。
国全体が「SF」「科学」「宇宙」に沸き立っているようです。
実は日本にもあった、SFブーム
かつて日本にも「SFブーム」があったのをご存じでしょうか。
1960-1970年代、まさにアポロ計画のさなか、アポロ11号が月面着陸を果たし、(運よくテレビ中継を見せてくれた学校では)子供たちが月に降り立つアームストロング船長にくぎ付けになっていた時代。
小松左京さん、星新一さん、広瀬正さん、筒井康隆さんなどの作家さんを筆頭に、多くのSF作品が出版され、ブームとなっていました。
日本のSFブームと中国のSFブームは似ている?
そのころの中国、毛沢東の大躍進政策の失敗による飢餓、文化大革命による知識層への迫害、、、など、「それどころではない」という状況でした。
改革が進み、経済が発展し、科学技術もおおきく進歩。2003年には中国で初めての有人宇宙飛行を実現させました。
かつて日本でも起きたような科学・宇宙開発ブームが、中国という巨大な国、今まさに起きている。このことも、劉慈欣ブーム、SFブームの原動力になっているのかもしれません。
劉 慈欣作品の魅力とは
わんこたんの考える、劉 慈欣さんの作品の魅力をまとめました。
劉慈欣作品で描かれる、歴史、農村の貧困
劉慈欣作品では、中国の問題点とでもいうべき部分のリアルな描写も特徴。
例えば文化大革命で多くの科学者が弾圧され、命を落とすシーン。三体では、文化大革命での弾圧と、現代パートで起こる科学者の自殺が、まるで歴史のリフレインかのように描かれます。
文化大革命について、中国でここまで書いて出版できるんだ!と正直驚きました。
もちろん、政治的に書けないこともあるでしょう。「三体」作中の文化大革命のシーンも中国の出版時には冒頭から中盤に移されたそうです。
何かと話題になる私達の隣国、中国。そこに住む人たちが何を読み、何を楽しんでいるのか、そのような目線から、三体シリーズを読むのもおもしろいですね。
劉 慈欣作品の特徴と魅力とは
SFらしい想像を超えたダイナミックな発想、そこに個人の感情のゆらぎ、社会思想のうねりを織り込んでいくバランスが絶妙なんです!
例えば
- 三体 黒暗森林で、地球の技術発展によって三体人の侵略への恐怖感が薄れ、幸福感に溢れた人類社会
- 流浪地球(流浪地球収録)で、「とある理由で」民衆が暴動を起こすシーン
- 地球大砲(老神介護)で、とある巨大事業への評価が時代によって大きく変わるシーン
- 円(劉慈欣短編集 円 収録)での、始皇帝と荊軻の関係性の変化
空想と現実が地続きになったような、そんな没入感が劉慈欣作品の魅力ではないかでしょうか。
科学技術の進化を、肯定も否定もしない。フラットで冷静な視点
進歩した科学技術が思いも寄らない災厄を引き起こす、、、
SF作品ではよくある展開。劉慈欣作品にもそのようなシーンは存在します。
白亜紀往事で、文明の技術が地球にもたらす危機のように。
一方で、技術の進歩で思いも寄らない幸福を人類にもたらす、そんな場面も。
科学を賛美しすぎず、かと言って警鐘を鳴らすだけでもない、あくまで物語を動かすのは人間たち。そんな冷静でフラットな視点も魅力です。
まとめ とにかく劉慈欣作品はおもしろい!
「三体シリーズ」で一躍世界的SF作家になった劉慈欣さん。三体シリーズ以外にも、脳汁ドバドバな面白い作品をたくさん執筆しています。
ぜひ、読んでみてくださいね。
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劉 慈欣作品以外の、おすすめ小説
三体シリーズと鏡合わせのような展開に注目!
「元気の出る」大人気SF作品。映画公開前に要チェックです!
劉 慈欣作品では意外と少ない、タイムスリップSF。
軽いのから壮大なのまで。古今東西のタイムスリップSFを集めました。
三体とは違うジャンルでおもしろいSFを読みたいあなたへ。
おすすめの小説を集めました。