その前日譚(とされる)三体0【ゼロ】球状閃電 / 劉慈欣のネタバレありの感想・解説です。ぜひ最後までお読みください!
三体0【ゼロ】あらすじ・登場人物
- 激しい雷の日、14歳の誕生日に「球電」によって両親を失い、球電研究にのめりこむ陳(チェン)
- 兵器を愛し、球電兵器の実現を目指す若き女性少佐、林雲(リン・ユン)
- 世界的に有名な理論物理学者・丁儀(ディン・イー)
3人は球電の真実を解き明かすべく、研究と実験を進めるが、球電の正体は現代物理学を根底から揺るがすもので……
三体0【ゼロ】球状閃電と三体のつながりは?
三体0【ゼロ】球状閃電は三体シリーズ本編の前日譚と銘打たれていますが、実は物語上の繋がりはほとんどなし。三体シリーズ未読でも、いきなり【ゼロ】から読んでOK。
※著者的には、ゆるやかなシリーズのようなものと考えていた、とのこと。
日本では三体シリーズのあとに「ゼロ」が発売されましたが、原著の刊行日は2005年で、「三体(三体シリーズ 1作目)」の発売よりも前。
そもそも本作の原題は「球状閃電」で、「三体0【ゼロ】」というタイトルは日本版オリジナルなんです。
邦訳版に「三体0【ゼロ】」というタイトルが付けられたのは、翻訳者である大森氏のアイデアがきっかけだったそう。タイトルを含め、邦訳版発売にまつわる興味深いエピソードは、以下に掲載の、大森氏のあと書きで紹介されています。
世界中で大ヒットし、映像化もされた、国発のSF小説シリーズ!
以下の記事で、シリーズについて詳しく解説しています。
\シリーズ1作目はこちらから/
※以下、本記事では三体0【ゼロ】球状閃電を「球状閃電」と表記します。
球状閃電は三体シリーズ本編未読でも楽しめる
球状閃電と三体シリーズ本編はほとんど繋がりはなく、三体シリーズ未読でも思いっきり物語を楽しめます。
量子物理学をベースに球電の謎に真っ向からいどむ科学者たち、球電を軍事利用しようとする政府、そして「兵器」に翻弄されるひとりの女性。
徐々に明らかになる球電の正体と、その結末に驚かされること間違いなし!ワクワクすること、請け合いです。
読むのが止まらない!寝不足!
丁儀(ディン・イー)が大活躍!
球状閃電と三体シリーズで、唯一共通で登場し、物語の接点となるのが天才物理学者の丁儀(ディン・イー)。
三体シリーズ本編に登場する丁儀は、やや人を見下したかのような態度をとるものの、ある程度良識的なキャラクター。
一方球状閃電時代の丁儀は同じく天才でありつつも、より荒削り。周囲を見下す孤高の存在として振る舞います。主人公をはじめ、まわりは振り回されつつも、丁儀の天才的な頭脳とアイデアで、球電の正体に迫る、という筋書き。
球状閃電の結末にショックを受けた丁儀が、続く三体シリーズで少し丸くなった、もしくは厭世的になったのかも?と、想像するのも楽しい!
ちょっと嫌味だけど、憎めないキャラなのよ
ちなみに、丁儀は三体シリーズ本編の2作目「黒暗森林」に登場し、とある「衝撃的なシーン」に立ち会うことに。
球状閃電を読んだら、ぜひ三体シリーズ本編も読んでみてくださいね。
\\読むならまずはここから。1作目三体//
映像化された丁儀(ディン・イー)のビジュアルは?
三体シリーズ1作目は、Netflixと中国テンセントの2制作会社でそれぞれドラマ化されています。
丁儀がはっきり原作通りに描かれているのは中国テンセント版。ちょっとオダギリジョーさんに似ていて、かっこいい!
中国テンセント版のドラマ三体は、2024年7月現在Amazonプライムビデオ等で配信中。(プライム会員は見放題)。全30話と長いですが、丁儀(ディン・イー)は序盤に登場しますので、ぜひチェックを。
Netflix版とテンセント版の違い、試聴方法、感想など、以下の記事にまとめています。
▶ドラマ三体 WOWOW版(テンセント版)とNetflix版の違いは?最新映像化情報 - わんこたんと栞の森
球状閃電解説〜アクセル全開の量子力学SF!〜
2022年のノーベル物理学賞に選ばれたことで、一躍有名になった量子力学。
量子力学では、電子が原子の周りのどこにいるか、その確率を波動関数で表します。その理論をもとにしつつ、極上のSFエンタメとして描いたのが球状閃電!
球状閃電の世界について、できるだけわかりやすく解説しました。
以下、球状閃電のストーリーのネタバレに触れる箇所があります。
電子の位置は「観測」で確定する
そもそも電子は、原子核の周りを軌道を描いてビュンビュン飛び回っているというイメージがありますが、量子力学的には 電子は原子核の周囲のどこかに存在し、
そんな電子の挙動を、ミクロの世界から眺めたらどう見えるのか?という点について、SF的想像を膨らませたのが、球状閃電という作品なのです。
日本のSF作家、小林泰三さんは見晴らしのいい密室収録の短編、忘却の侵略で、観測すると姿が確定する、量子力学的なモンスターを描いています。
ややこしい物語ですが、球状閃電を読んだあなたならきっと楽しめる!?
球電の正体は!?球状閃電で想像されるマクロ宇宙
球状閃電では、私たちのいるこの世界は、実はミクロ世界。その外にはマクロ宇宙が存在している、とされます。
マクロ宇宙の電子は、ミクロ世界から見ると「目に見えないけどそこに存在する巨大な球体」。そこに巨大なエネルギーを与えて励起させると……!?
球電という、昔からあるオカルト現象をマクロ宇宙と繋げる、ダイナミックな発想。度肝を抜かれました。
昔から多くの目撃談が報告されており、実在する現象のようですが、その正体はよくわかっていません。▶参考:大気発光現象
うねうね動く「弦」マクロ◯◯の姿
球電を兵器に転用しようと研究を続ける中、丁儀らはある存在に行き着きます。発見された「それ」はうねうね動く「弦」の形状をしていて……
量子力学の分野では原子を構成する最小単位 クオークはヒモのような形状なのでは?と考えられています。
そんなヒモ理論を視覚的に見せるアイデアも、面白い!
三体シリーズに登場する「智子(ソフォン)」や「水滴」のような、一応説明はあるけど、いやいやこんなの無理でしょ!?というアイデアを、物理学的なはったりで描写し、物語を引っ張る構成がほんとうにうまいんですよね。
ああ、劉 慈欣SFだなあ、と感服。
私たちは外から観測されている?
観測すること電子の存在が確定する、という量子力学の理論をエンタメ化した球状閃電。
私たちの世界が「確定」しているのは、世界の外から私たちを観察している存在がいるのでは?などというアイデアも登場します。
SFでよく出てくる「外からの観察者」のテーマを量子力学な文脈に落とし込んでいて、想像が膨らみます。考え始めると眠れなくなりそう。
手塚治虫マンガ作品の「火の鳥 未来編」では、1つの原子の中に、入れ子上に宇宙が存在する「ミクロコスモス」の姿が描かれていますが、それを彷彿とさせる描写でした。
「球状閃電」で描かれる大国間戦争と兵器
球状閃電はSF小説でありつつ、大国間の戦争を描いた小説でもあります。
敵国名について明記はありませんが……うん、どう見ても中国対アメリカ。中国人作家が描く、対米(対欧)戦争、というだけで、なんかハラハラ。
そこに球電がどのようにかかわってくるのか?単なるエンタメSFに終わらない、現実の歴史を反映したかのような皮肉な展開になるのも見どころです。
球状閃電の次に読みたいおすすめ作品
ハードSFを中心に、次に読んでほしいオススメ作品を集めました。
他の劉 慈欣作品にチャレンジ!
三体シリーズが有名な劉 慈欣さんですが、実はSF短編集もめちゃくちゃおもしろい!管理人わんこたんイチ押しは流浪地球です。
三体は長すぎてちょっと……というあなた。ぜひお試しを。
以下の記事では劉 慈欣作品を横断的に解説しています。合わせてどうぞ
日本のハードSFといえば、小林泰三さん!
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