その前日譚(とされる)三体0【ゼロ】球状閃電 / 劉慈欣 のネタバレありの感想・解説です。ぜひ最後までお読みください!
三体0【ゼロ】あらすじ
- 激しい雷の日、14歳の誕生日に「球電」によって両親を失い、球電研究にのめりこむ陳(チェン)
- 兵器を愛し、球電兵器の実現を目指す若き女性少佐、林雲(リン・ユン)
- 世界的に有名な理論物理学者・丁儀(ディン・イー)
3人は球電の真実を解き明かすべく、研究と実験を進めるが、球電の正体は現代物理学を根底から揺るがすものだった。 ”《三体》シリーズ幻の"エピソード0(ゼロ)"
三体0【ゼロ】 球状閃電は三体シリーズの前日譚?
三体0【ゼロ】球状閃電は三体シリーズ本編の前日譚と銘打たれていますが、
日本では三体シリーズのあとに「ゼロ」が発売されましたが、原著の刊行日は2005年で、「三体(三体シリーズ 1作目)」の発売よりも前。
そもそも本作の原題は「球状閃電」で、「三体0【ゼロ】」というタイトルは日本版オリジナルなんです。
邦訳版に「三体0【ゼロ】」というタイトルが付けられたのは、翻訳者である大森氏のアイデアがきっかけだったそう。タイトルを含め、邦訳版発売にまつわる興味深いエピソードは、以下に掲載の、大森氏のあと書きで紹介されています。
「三体シリーズ」とは?
世界中で大ヒットし、ネトフリでの映像化も決定している、中国発のSF小説シリーズ!
※以下、本記事では三体0【ゼロ】球状閃電を「球状閃電」と表記します。
球状閃電は三体シリーズ本編未読でも楽しめる
球状閃電と三体シリーズで、唯一共通で登場し、物語の接点となるのが天才物理学者の「丁儀」。
逆に言えば、その点以外で、「球状閃電」と三体シリーズ本編は一切繋がりはなく、
量子物理学をベースに「球電」の謎に真っ向からいどむ科学者たち、球電を軍事利用しようとする政府、そして「兵器」に翻弄されるひとりの女性。
「確率の雲」の理論をもとに、徐々に明らかになる球電の正体と、その結末に驚かされること間違いなし!ワクワクすること、請け合いです。
読むのが止まらない!寝不足!
天才「丁儀(ディン・イー)」が大活躍!
「三体シリーズ」本編に登場する天才物理学者「丁儀」は、やや人を見下したかのような態度をとるものの、ある程度良識的なキャラクター。
一方
「球状閃電」結末の「出来事」によって、ショックを受けた丁儀が、続く三体シリーズで「少し丸くなった」、もしくはより「厭世的になった」のかも。と、想像するのも楽しいです。
ちょっと嫌味な天才だけど、憎めないキャラなのよ
ちなみに、丁儀は三体シリーズ本編の2作目「黒暗森林」に登場し、とある「衝撃的なシーン」に立ち会うことに。
\\ 三体シリーズ本編 第1作目「三体」//
「球状閃電」解説〜アクセル全開の量子力学SF!〜
2022年のノーベル物理学賞に選ばれたことで、一躍有名になった「量子力学」。
量子力学では、電子が原子の周りのどこにいるか、その確率を「波動関数」で表します。その理論をベースに、「球状閃電」では「マクロ電子」の不可思議な挙動をSFエンタメとして描いています。
「球状閃電」の世界の量子力学について、できるだけわかりやすく解説しました。
電子の位置は「観測」で確定する
そもそも電子は、「原子核の周りを軌道を描いてビュンビュン飛び回っている」というイメージがありますが、量子力学的には 電子は原子核の周囲のどこかに存在し、
そんな電子の挙動を、ミクロの世界から眺めたらどう見えるのか?という点について、SF的想像を膨らませたのが、「球状閃電」という作品なのです。
「球電の正体はマクロ電子」球状閃電で想像されるマクロ宇宙
「球状閃電」作中では、私たちのいるこの世界は、実はミクロの世界であり、その外には「マクロ宇宙」が存在している、とされます。
マクロ宇宙の電子は、ミクロ世界から見ると「目に見えないけどそこに存在する球体」です。巨大なエネルギー(例:落雷)を受けることで励起され、光り輝く「球電」として姿を表します。
球電という、昔からあるオカルト現象を「マクロ世界の電子」と解釈することに、度肝を抜かれました。
昔から多くの目撃談が報告されており、実在する現象のようですが、
参考:大気発光現象
うねうね動く「弦」マクロ原子の姿
球電を兵器に転用しようと研究を続ける中、丁儀らは「マクロ原子」の存在に行き着きます。発見したマクロ原子はうねうね動く「弦」の形状をしていました。
量子力学の分野では「原子を構成する最小単位 クオークはヒモのような形状なのでは?」と考えられています。
「弦」は、この「
私たちは外から観測されている?
観測すること電子の存在が確定する、という量子力学の理論を紹介しましたが、「球状閃電」の終盤では
私たちの世界が「確定」しているのは、世界の外から私たちを観察している存在がいるのでは?私たちは自分では気づいていないだけで「不確定」な世界に生きているのでは?
などというアイデアも登場します。
SFでよく出てくる「外からの観察者」のテーマを量子力学な文脈に落とし込んでいて、想像が膨らみます。考え始めると眠れなくなりそう。
手塚治虫マンガ作品の「火の鳥 未来編」では、1つの原子の中に、入れ子上に宇宙が存在する「ミクロコスモス」の姿が描かれていますが、それを彷彿とさせる描写でした。
「球状閃電」で描かれる大国との戦争と兵器
本作品後半では球電現象の謎が解明され、兵器として転用されることに。
敵国めいについてはっきり明記はされませんが、中国対アメリカとの大戦の様子が描かれます。
中国人作家が描く、対米(対欧)戦争、というだけで、なんかハラハラしちゃう
さらに「マクロ原子核」による新たな抑止力とは。単なる「SF」に終わらない、現実の歴史を反映したかのような皮肉な展開になるのも見どころです。