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妄想解説&考察 アリス殺し/小林泰三

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

夢の世界での死は現実世界での死。リンクする殺人事件の謎を解く!
ダークでメルヘンなミステリー。アリス殺し/小林泰三の感想と解説です。
 
アリス殺し
アリス殺し
 

 

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アリス殺し あらすじ

不思議の国でハンプティ・ダンプティが塀から落ちて死ぬ夢を見た後、亜理が大学に行くと、玉子というあだ名の人物が転落死。グリフォンが生牡蠣を食べて死んだ夢の後には、牡蠣を食べた教授が急死。

夢の世界の死は現実の死?亜理は同じ夢を見ているとわかった同学年の井森と、真犯人を捜しもとめるが……

 

  • 著者:小林泰三
  • 発売:東京創元社 2013/9/21
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象外

 

アリス殺しの著者 小林泰三さんと、メルヘン殺しシリーズについて

小林泰三(こばやしやすみ)さんはホラー、ハードSF、サスペンスを得意とする小説家です。

1995年、玩具修理者で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞しデビュー。翌年単行本化され、ベストセラーに。

 

玩具修理者
玩具修理者
 

 

玩具修理者の紹介記事はこちら

めくるめく悪夢のような世界観。著者を代表する、ハードSF×ホラーの真骨頂!
玩具修理者 酔歩する男 小林泰三作品 最初に読むならやっぱりこれ! - わんこたんと栞の森

 

アリス殺しはメルヘン殺しシリーズの1冊目。

以降、クララ殺しドロシイ殺しティンカーベル殺しと続きます。

 

実は文庫版(上段)と単行本版(下段)で表紙デザインが違うというお楽しみも。かわいい~全部そろえたい~

※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。

 

クララ殺し
ドロシイ殺し
ティンカー・ベル殺し
クララ殺し
ドロシイ殺し
ティンカー・ベル殺し

 

アリス殺し 感想と解説

アリス殺しの感想と解説をまとめました。

 

不思議の国と小林泰三さんの相性がぴったりすぎる

不思議の国のアリスといえば、迷い込んだアリスを翻弄する、おかしなキャラの不条理でかみあわない会話劇。

この不条理メルヘンワールドと、小林泰三さんお得意の会話劇が、とにかく相性ぴったり!

不思議の国のアリスと、小林泰三さんのハードSFホラーな世界観がこんなにマッチするなんて、誰が予想したでしょうか。

 

小林泰三さんのおすすめ作品

ミステリーよりも、実はSF作品のほうが多い小林泰三作品。初心者向けから玄人向け(?)まで、他のおすすめ作品を以下の記事で紹介しています。

小林泰三さんの最高傑作は?ヤスミストがおすすめ作品を紹介します - わんこたんと栞の森

 

ミステリーとしての驚きもばっちり

もちろん、ミステリーらしい驚きの仕掛けもばっちり。めちゃくちゃな世界のように見えて、絶妙なバランスでミステリーとして成立しています。

ミステリーとして成立させながら、あのラスト。まるで絵本をぱったり閉じて、遊びの時間はおしまい、良い子は寝なさい、とでもいうような、ダークメルヘンっぷりがたまらない。

 

読み返すと、実は超序盤の会話の中に、ちゃんとヒントが散りばめられているんです。でも不思議の国のキャラの噛み合わない会話劇に翻弄されて、読者はヒントに気づけない。この辺りの構成がうまいなあと。

 

異世界転生もの的な、ワクワク感

現実世界と異世界の登場人物がリンクする、というのは異世界転生ものっぽくて、近年の流行に通じるものがありますね。

現実世界ではパッとしない人物が異世界で大活躍、というギャップは、定番のカタルシスですが、アリス殺しではどんなギャップが描かれるのか?という点に注目すると、より楽しいかも。

 

また、登場人物が不思議の国と現実世界との間でリンクする、といっても種族も人格も性別も大幅に違っていて……という設定が、読者に対するめくらましのような効果を生んでいることに注目。

あなたもぜひアリス殺しを読んで、騙されてみてはいかがでしょう?

 

容赦ないグロ描写がアリスを襲う!

小林泰三さんは、気味の悪い描写に定評はありつつ、他作品ではそこまでグロ描写が多いわけではありません。しかしアリス殺しは直接的なグロ表現マシマシとなっています。

 

あまりにも人体の扱われ方が雑で、グロいのに笑ってしまいそうなほど。酷い目に合うのは不思議の国の登場人物ばかりだし、ラストの死刑シーンはもはやギャグ。

とはいえグロいことに変わりはないので、苦手な方は要注意!

 

アリス殺しの謎を考察

アリス殺しで、あれ?ここよくわからなかったぞ?となりそうな部分を管理人わんこたんなりに考察しました。

 

CAUTION!

以下、アリス殺しのネタバレを含みます。ご注意ください。

 

スナークはブージャムだったという合言葉をアリスが知っていたのはなぜ?

冒頭でビルが「スナークは」と合言葉の続きを言う前に、アリスは「ブージャムだった」とこともなげに答え、ビルが驚くシーン。

 

スナークとは、不思議の国のアリスを生み出したルイス・キャロルの詩編『スナーク狩り』に登場する生きもの。スナークの一部はブージャムであり、見たものを消滅させてしまう、という恐ろしい設定です。

 

つまりアリスはメタ的に「スナーク狩り」の物語を知っていた、と言うことになります。他にもハンプティダンプティといえば落ちて割れるものでしょ、などと発言するなど、「現実世界の物語(マザーグースなど)をメタ的に知っている」かのような描写があります。

 

しかしアリス殺しを最後まで読めばわかるように、この世界は不思議の国が本体で、現実世界だと思っていた世界は仮想現実でした。

しかもアリスは現実世界で⬛︎⬛︎⬛︎だったので、現実世界(仮想現実)経由でスナーク狩りやマザーグースを知った訳ではなさそう。

 

わんこたんの考察(妄想)では、不思議の国、と同じように物語の国が宇宙にはたくさんあって、そんな他の物語と「混線」のような現象が起き、アリスはメタ的な知識を無意識に得ていた……と、どうでしょう?妄想しすぎ?

 

気になるビルの身長

表紙に描かれた小さなトカゲは、ビルでしょうか。ビル、意外と小さい。

その一方で、本文中には以下のような記載も。

「こいつの正体だが、大きさから見てティラノサウルスじゃないだろう。おそらくヴェロキラプトルだ」

「それを言うなら、ディノニクスだろ。ヴェロキラプトルなんて子犬ぐらいの大きさしかないんだから」

ディノニクスサイズなら、相当大きいのでは。とはいえ、ヴェロキラプトルを子犬ぐらい、と表現しているので、不思議の国の大きさの感覚は、我々とは違うのかも。

 

「あなた、どこから来たの?」

「ビルの背中に隠れてたんだ。狭いから結構苦しかったよ」

ビルの背中に隠れていたという三月兎。背中に隠れられるなら、それなりの大きさがありそうなものですが……

 

個人的には、ビルはそれなりに身長が高くて、アリスと肩を並べて歩いていたんじゃないかな、と予想しています。なんとなくその方がかわいいし!

 

アリス殺し 登場キャラクターを解説

意外と登場人物が多い上に、原典「不思議の国アリス」「鏡の国のアリス」を知らないと分かりにくい部分も。

原典と比較しながら解説します。

 

栗栖川亜理

大学生。毎晩続く不思議の国の夢に悩まされている。中沢研(大学の研究室)に所属している

 

アリス<不思議の国>

ポケットに眠り鼠を入れた少女。ハンプティダンプティやグリフォン殺しの疑いをかけられる。

 

田中李緒

亜理と同じ大学、1学年上の大学院生。

 

白兎<不思議の国>

いつも時計を取り出しながら「遅れてしまう!」と慌てている。公爵夫人に命じられ、女王陛下の庭を巡視している。

 

井森建

石塚研に所属。アリスと同学年の男性。現実世界で亜理とともに、殺人事件の謎を追う。

 

蜥蜴のビル<不思議の国>

不思議の国でアリスと一緒に事件の謎を追う。

しかし頭の回転が遅く記憶力はほぼ皆無。間抜けすぎて、不思議の国では誰もビルの証言を真面目に取り合わない。

 

現実世界では超優秀なのに、不思議の国で著しく知能が下がる蜥蜴のビルは、可哀想でありつつ愛おしいキャラクターとなっています。続編にも登場!

 

眠り鼠<不思議の国>

アリスのポケットでいつも寝ている。と思いきや意外と起きている。

 

メアリーアン<不思議の国>

白兎の屋敷でお手伝いをしている。

 

原典(不思議の国のアリス)では?

メアリーアンは、当時の女中を意味する俗称。白ウサギがアリスを女中と間違えて、革手袋と扇子を持ってくるように命じるシーンがあります。

原典で白ウサギがアリスとメアリーアンを間違えていたことを知っていた方は、もしかするとアリス殺しの展開が予想できたかもしれませんね。

 

谷丸警部と西中島巡査

現実世界の大学で起きた殺人事件(?)を操作している刑事。ちなみにこの二人は、同じ小林泰三さんの著作大きな森の小さな密室からの友情出演(?)だったりします。

小林泰三さんは、別作品で同じキャラクターを登場させることが多いので、探してみると楽しいかも!?

大きな森の小さな密室

一風変わったミステリーを集めた短編集。だいぶ変化球なので、小林泰三作品に慣れてから読むのがおすすめ!

 

大きな森の小さな密室
大きな森の小さな密室
 

 

紹介記事はこちら▶大きな森の小さな密室 感想と解説 - わんこたんと栞の森

 

三月兎と頭のおかしい帽子屋

いつもおかしなお茶会をしている2人だが、転落死したハンプティダンプティを殺人事件として捜査している。

帽子屋は女王陛下より正式に捜査の任命を受けている。

 

ハンプティダンプティ<不思議の国>

女王の庭の塀から落ちて死んだ卵(?)。中は意外と赤黒い。

死んでも組織単位では生きてピクピク動いているが、統合たるハンプティダンプティは死んだ。という表現があるので、不思議の国の生命概念は現実世界と違うのかもしれません。

 

王子玉男(おうじ たまお)

中之島研究室に所属の博士研究員(ポスドク)。大学構内で屋上から転落死する。玉子とあだ名されるほどの丸い体型。

 

チェシャ猫<不思議の国>

原作同様、いきなり現れたり消えたりするニヤニヤ顔の猫。目撃者を探すなど、ハンプティダンプティ殺しの調査に協力している。

 

公爵夫人<不思議の国>

女王陛下から庭(ハンプティダンプティ殺害現場)の管理を一任されていた。頭のおかしい帽子屋を殺人事件の捜査官に任命する女王陛下の決定に異を唱える。

 

原典(不思議の国のアリス)では?

公爵夫人はチェシャ猫の飼い主で、醜い顔をし、赤ちゃんを育てています。アリスに赤ちゃんのお守りを押し付けますが、アリスが抱いた赤ちゃんはいつのまにか子豚に変わってしまいます。

 

海象(せいうち)

海岸で牡蠣の子供を騙す。なおディズニー映画、不思議の国アリスでは、セイウチが牡蠣の子供たちを騙して食べてしまうシーンがあり、ディズニー映画屈指のトラウマシーンとして有名。

このかわいそうな子牡蠣たち、ヤングオイスターという名前で最近グッズ化されました。なぜ。

▶︎【公式】ディズニーストア.jp | ヤングオイスター グッズ

 

 

篠崎教授

牡蠣を食べて死ぬ。

 

グリフォン

牡蠣を食べて死ぬ。

 

広山衡子 准教授

亜理の通う大学の准教授 篠崎研所属。

 

田畑順二助教

亜理の通う大学の助教。広山准教授にこき使われているシーンが妙にリアルですが、理系の大学院出身の小林泰三さんの実体験が反映されていたりして……(こわい!

 

ドードー

いつも同じ場所を走り回って服を乾かしている。

 

レッドキング

◯◯が死ぬ間際にこいつの名前をしゃべります。その正体は、、、?

 

原典でのレッドキングは?

レッドキングは鏡の国のアリスに登場する、チェスの駒のキャラクター。いびきをかいて眠っている様子が描かれます。

レッドキングはアリスの夢を見ている、つまりアリスは夢の中の存在に過ぎないのであって、レッドキングが目覚めればアリスも消えてしまう、と説明されています。

 

武者砂久

大学に突然現れて亜理の目の前で◯◯を刺殺。自身も首にナイフを突き立てて自殺する。

 

 

 

アリス殺し
アリス殺し
 

 

アリス殺しの次に読みたいおすすめ作品

アリス殺しのような、不思議な世界をテーマにしたダークな小説を集めました。

 

海を見る人

不思議な世界と翻弄される人類(?)の姿を描いた短編集。不思議な世界の描写は、きちんと物理的に計算されており、小林泰三さんを代表するハードSF小説です。

もちろん、科学のことはわからなくても純粋に人間ドラマとしても楽しむのもおすすめ!

 

海を見る人
海を見る人
 

 

 

感想記事はこちら▶︎ハードSF短編集 海を見る人 不思議な世界と人間たちの物語 - わんこたんと栞の森

 

〔少女庭国〕

卒業式を迎えた羊歯子は気がつくと、ひとり部屋に閉じ込められていた。ドアには卒業試験を告げる貼り紙。ドアを開けるとまた1人卒業生が。卒業生は次々と増えていき……

これはデスゲームなのか?それとも……読者を驚愕の世界へ導く、理解不能系SF!

少女庭国
少女庭国
 

 

感想記事はこちら▶︎

【地獄のような奇書】少女庭国 / 矢部 嵩 感想と考察 - わんこたんと栞の森

 

読み始めたらとまらない作品、揃ってます