★WOWOWでドラマ版配信中!「三体」の解説はこちら★

シーズン2決定!Netflixドラマ三体今後の展開を予想します

 

続編制作が正式に発表されたNetflixドラマ「三体」。シーズン1の情報と、原作の内容をもとに、シーズン2の内容について、原作ファンの管理人わんこたんが好き勝手に語ります。

 

 

Netflixドラマ三体 シーズン2制作決定!

シーズン2制作決定の速報は以下リンクの通り。

Netflixドラマは人気がないとシーズン1で打ち切りになることもあるので、まずは一安心、という心境です。

Netflix版「三体」続編が製作決定「観客を宇宙の果てまで」 - 映画ナタリー

 

シーズン2の配信予定はいつ?

シーズン2の配信日は全くの未定。

同じく原作ありの人気Netflixドラマ「ゲームオブスローンズ」はシーズン1 → シーズン2で約1年空いているので、同様であれば三体シーズン2は2025年4月以降に配信開始と予想します。

 

Netflixドラマ三体 ウィルはどうなる?原作情報をもとに考察

シーズン1視聴者にとって一番気になるのは、ウィルがこれからどうなるのか?という点でしょうか。

 

ウィルに関する伏線は2つ残っています。

  • 階梯計画で地球側のスパイとして、三体艦隊方向に射出された、ウィルの脳みそのゆくえ。射出は成功するが、アクシデントで予定軌道をはなれてしまい、脳みそは宇宙の彼方にロスト(シーズン1 エピソード8)

  • ウィルが星群計画で大金を払ってジンに贈った401.5光年先の恒星 DX3906
    (シーズン1 エピソード6)
    ※ちなみにDX3906というコード名は原作と同じ。

 

当然、ウィルの出番はこれでおしまい......とはなりません。

 

原作ではウィルの役割を担うのは雲天明(ユン・ティエンミン)という人物。雲は無事(?)三体艦隊に回収され、2279年に雲は愛する女性程心(チェンシン)に再会。彼女におとぎ話を伝えて去っていく、という筋書きです。

 

おとぎ話ってどゆこと?てか2279年って?400年後に三体艦隊が来るって話はどうなったの?

 

と、そのあたりは観ての(あるいは原作を読んでの)お楽しみ!

おとぎ話が語られるのは原作では三体シリーズ3作目 死神永生の下巻冒頭です。

Netflixドラマ三体はベニオフ監督の構想によれば、全3〜4シーズンになる可能性が濃厚。シーズン2ではウィルの生存について、におわせる程度にとどめ、本格的にウィルが活躍するのはシーズン3以降になると、わんこたんは予想します。

 

Netflixドラマ三体シーズン1では、かつてジンがウィルに、Fairy Tale(おとぎ話)の本を贈っていた、という描写がありました。

表紙を開くと、ジンの手書きの赤ずきんと狼のイラストに「私たちの関係はコレよりましだといいね」のメッセージ。

 

この描写もなにかヒントになっているのでしょうか?Netflixドラマ版でおとぎ話部分がどのように描かれるか。今からとっても楽しみ。

 

ウィルの活躍は原作とは違う演出になるかも?

原作では、雲天明(ユン・ティエンミン)の脳が三体艦隊にとらわれてから、愛する女性と再会するまで、雲がどのように過ごしてきたかは、はっきりした描写はありません。

 

※ただし、原作者公認の二次創作 三体X観想之宙では、二次創作ながらも、雲の様子が細かく描写されており、原作ファン必見です。

 

また、原作では雲の程心への恋心は一歩通行で、スパイとして送る脳の候補に雲を提案したのは、他ならぬ程心。脳が冷凍される直前まで程心は雲の気持ちに気がつきませんでした。

 

一方のNetflix版ではウィルとジンは最初から強い友情で結ばれています。ジンが最初から最後まで階梯計画へのウィルの参加に反対していたのも、原作とは大きく違う点。

2人の関係性がグッと深まったNetflixドラマ版。

Netflix版では、ウィルはどんな運命をたどり、愛する人と再会するのか??

あるいは三体人に回収される以外のストーリーが用意されるのか??

原作にはないオリジナル描写に期待したいですね。

 

オックスフォード・ファイブ、復活なるか?

こちらは超個人的な妄想ですが、オックスフォード・ファイブが復活して5人揃うシーンが来てほしい。

脱落した2人。1人は脳みそが残ってますし、もう1人も直前までVRゲーム三体をプレイしていた脳スキャンデータが残っていて…なんて、ハッピーエンド過ぎるかな?

 

原作と異なり、Netflix版ドラマ「三体」では、ゲームプレイヤーの脳をスキャンしている描写があるので、これが「脳みそデータをもとに復活するフラグ」だと、わんこたんは信じています!笑

 

原作のラスト(3作目「死神永生」)は、それはもう壮大ですさまじいものなので、それがNetflix版でどう描かれるか、楽しみ!

 

\\3作目は上下巻。6月に文庫化予定なので、購入時はご注意を//

三体Ⅲ 死神永生 上
  

 

 

読者を翻弄するミステリー 見晴らしのいい密室 感想と解説

閉ざされた核シェルター内で胴体を切断された遺体。不可能犯罪の真実は……?

そんな結末あり??で、読者を翻弄しまくる系SF短編集「見晴らしのいい密室」の感想と解説を書きました。
 
見晴らしのいい密室
見晴らしのいい密室
 

 

あらすじ

タイトルだけ読むと密室ミステリーのようですが、決してミステリー短編集ではありません。

小林泰三初心者には絶対おすすめできない、「開いた口が塞がらない」SF短編集!

各話のあらすじは記事後半の「感想」からどうぞ。

 

  • 著者:小林 泰三(こばやし やすみ)
  • 発売:早川書房 2013/6/15
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象外

 

著者 小林泰三さんについて

小林泰三(こばやしやすみ)さんはホラー、ハードSF、サスペンスを得意とする小説家です。

1995年、「玩具修理者」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞しデビュー。翌年単行本化され、ベストセラーに。

 

2020年11月に残念ながら逝去。未来からの脱出(角川ホラー文庫)が遺作となりました。

 

以下に代表作を並べました。(書影クリックでAmazonのページへ)

玩具修理者
殺人鬼にまつわる備忘録
海を見る人
アリス殺し
ティンカーベル殺し
未来からの脱出

 

当ブログでは、小林泰三さんの代表作をいくつか記事にしています。ぜひ読んでみてくださいね。

 

小林泰三作品 おすすめ記事

 

 

見晴らしのいい密室 各話のあらすじと感想・解説

1話目から小林ワールド全開!この剛速球の大暴投にあなたはついてこられるか!?

 

見晴らしのいい密室

どんな謎もたちどころに解いてしまう、探偵Σ(シグマ)。彼の元には警察からの捜査協力依頼がひっきりなし。

この日、彼の元に舞い込んだのは、出入りすらままならない核シェルターの中で胴体を切断された遺体の謎。果たしてΣは謎を解けるのか、、、

 

多くの読者を1話目からふるい落とす、驚天動地のミステリー、いやバカミスかな、、、どうか読み終わっても本書を壁にぶん投げることのないよう。まだ6話残っておりますので!

 

目を擦る女

引っ越しの挨拶のため隣の部屋を訪れた操子。部屋の住人の不気味な女は、なぜか「自分は眠っている」と言い張るのだが、、、

小林泰三さんらしい、不気味さと湿っぽさ全開のホラーSF。この世界は現実か?それとも誰かの夢なのか?

目を擦ることで2つの世界が入り混じるシーンが印象的でした。

 

探偵助手

作中に現れるQRコードから音声を聴き、謎を解く。その名も「きこえる」という新感覚のミステリーが2023年に出版されました。(著者はあの道尾秀介さん)

が、まさかその10年以上前に小林泰三先生がQRコードミステリーを生み出していたとは。しかも初出は「数学セミナー」という小説に関係ない雑誌。どういうことなの。

 

きこえる
きこえる
 

 

 

イラスト風のQRコードを読み取ると、(身も蓋もない)真実が明らかに!果たして心を読める探偵助手の秘密とは……?

 

実は記事を書くために8年ぶりに再読したところ、私のandroidスマホやiPad miniではQRコードが文字化けして読み取れないことが発覚。悲しすぎる。

以下のサイトでは読み込めたので、どうぞご活用ください。

 

どうしても読めなくてお困りの方は、コメント欄でご連絡いただけたらなんとかします!笑

 

忘却の侵略

突如増え始めた、通り魔のニュース。僕はそれを人類に対する侵略者の攻撃と考えている。

そんななか、夕暮れの校舎で僕と裕子は何者かに襲われて……

 

僕の妄想(?)から、いきなり裕子との痴話げんか、からいきなりの襲撃。唐突な場面展開が連続する上に、敵は「相手の記憶を消す」ので、読み手としてはかなり混乱する一作。

 

消える記憶、なぜかビデオファイルをなんども削除する僕、増える手のひらの傷。

波動関数の収束と発散を下敷きに描き出される、量子力学的な敵。デビュー作「酔歩する男(玩具修理者収録)」をほうふつとさせるような、これぞ小林泰三SF!とファンとして拍手したくなる一作です。

 

玩具修理者
玩具修理者
 

 

初めて読んだときはわけわかんなかったけどね

 

未公開実験

丸鋸遁吉(まるのこ とんきち)は怒っていた。

「ターイムマスィーーン」を発明して、何度も歴史を改変しているのに、友人3人がちっとも理解してくれないからだ。

今日こそ「ターイムマスィーーン」の偉大さを知らしめててやると、丸鋸は3人を呼び出して実演を始めるのだが……

 


シミュレーション仮説、をベースにしたタイムマシン短編ですが、丸鋸と3人のアホアホすぎる会話劇のせいで全く頭に入ってきません。なんなんだこの本は。

 

シュミレーション仮設とは?

私たちの生きているこの世界は、実は丸ごとシュミレーション空間である、という仮設。

シュミレーション内にいる人物は、その世界がシュミレーションかどうかを認識できない、と考えられています。

参考▶︎第10回「シミュレーション仮説」|コラム KYOEI Lab.|協栄産業株式会社

 

魏志倭人伝を改変して邪馬台国の場所を詳細不明にしてやった、などと豪語する丸鋸ですが、友人3人はピンと来ない様子。

もう一度歴史を変えてやる、と過去に出発しようとする丸鋸を待ち受ける、衝撃のオチ。ギャグみたいな展開から、この結末は、さすがすぎる。

 


ところで、「ターイムマスィーーン」と言いながら両手で奇妙なポーズを決める必要があるのですが、どんなポーズかは不明。読者の想像で補いましょう。

 

みんなでポーズを考えよう!

 

囚人の両刀論法

とある理由で地球を追放されたイデアルはアケルナル系の宇宙人に保護される。アケルナル人の思想に、地球を救うヒントがある、と気づいたイデアルは、アケルナルの宇宙船で地球への帰還を目指しますが、、、

 

タイトルにある「囚人の両刀論法」は、一般的には「囚人のジレンマ」とよばれ、ゲーム理論を説明する代表的なモデルとして有名です。

参考記事▶囚人のジレンマとは?ゲーム理論の代表例を「パレート最適」と「ナッシュ均衡」とともに解説|ferret

 

意思疎通のできない2者が、各人にとって最適な選択肢を選ぼうとすると、一番合理的な選択を逃してしまう、というのがこの理論。

 

意思疎通のできない2者というのを、宇宙の遠く離れた星に住む、2つの宇宙人にあてはめたらどうなるか?というのがストーリーの核となります。

 

この構造、実は今大ヒットしているSF小説「三体/劉 慈欣」とよく似ておりまして。

「囚人のジレンマ」理論は三体シリーズ2作目「黒暗森林」の鍵に。

また、地球を追放された人間が宇宙人に拾われる、という展開は三体シリーズ3作目「死神永生」を想起させられます。

 

※三体シリーズと囚人の両刀論法の出版順は以下の通り

  • 三体シリーズ 1作目「三体」 2008年 中国で出版
  • 三体シリーズ 2作目「黒暗森林」 2008年 中国で出版
  • 囚人の両刀論法 『S-Fマガジン』2010年2月号 初出
  • 三体シリーズ 3作目「死神永生」 2010年11月 中国で出版

 

\\「三体」 2月に文庫版になりました//

三体

 

決して、パクリだとかをいいたいわけではありません。

同じ時期に2つの国のSF作家が、同じアイデアをベースにこれだけテイストの違う作品を生み出す奇跡に、管理人わんこたん。めちゃくちゃ感動。

小林泰三さんも劉 慈欣さんもすごいなあ。日本SF界は惜しい人を亡くしたんだなあ。と、しみじみ思わされます。

 

 

ちなみに、囚人の両刀論法に登場する「ダイソン球」ですが、同じく小林泰三さん作品の「時計の中のレンズ(海を見る人)」や、S.バクスターの「タイム・シップ」にも登場します。

ダイソン球は進化した文明を象徴する、SFの必須アイテムですね。

 

海を見る人 感想記事はこちら
海を見る人
海を見る人
 

 

感想記事はこちら▶ハードSF短編集 海を見る人 不思議な世界と人間たちの物語 - わんこたんと栞の森

 

タイム・シップ 感想記事はこちら
タイム・シップ
タイム・シップ
 

 

感想記事はこちら▶元祖タイムトラベルSFを読む!タイム・マシン(HGウェルズ著)とタイム・シップ(Sバクスター)」感想 - わんこたんと栞の森

 

予め決定されている明日

算盤人(そろばんびと)のケムロは、算盤玉を弾いてひたすら計算を繰り返す、過酷な仕事を強いられていた。

そんななか、電子計算機の存在を知ったケムロ。この機械さえあれば、自分はこの状況から脱出できる!電子計算機をなんとか使用して状況を脱しようと、ケムロは一計を案じるのだが……

 

ケムロの正体が、そして「予め決定されている明日」というタイトルの意味が徐々に明らかになる展開がおもしろい。ケムロのいる世界には3次元ではなくω次元で、「電子」が存在しないとのこと。いったいどんな世界なのでしょう?

 

次に読みたいおすすめ作品

「見晴らしのいい密室」の次に読みたいおすすめ書籍をまとめました。

 

おすすめ1

小林泰三作品にも通じるハードSFな雰囲気を下敷きにしつつ、人間や歴史・社会といった要素にも触れているのが、劉 慈欣作品の特徴。

記事中で紹介した「三体」が有名ですが、短編集もめちゃくちゃ面白いので、ぜひ読んでみて。

 

円 劉慈欣短篇集
円 劉慈欣短篇集
 

 

感想記事はこちら▶「円 劉慈欣短編集」のネタバレ感想。短編から味わう劉慈欣SFの魅力! - わんこたんと栞の森

 

おすすめ2

以下の記事では「未公開実験」のような傑作タイムトラベル作品を紹介中。

▶時をかける!タイムトラベルSFな オススメ名作小説8選 - わんこたんと栞の森

管理人わんこたんのイチ押しは「マイナス・ゼロ」。昭和ノスタルジーなタイム・トラベルをどうぞお楽しみください。

 

マイナス・ゼロ(広瀬正小説全集1)
マイナス・ゼロ(広瀬正小説全集1)
 

 

感想記事はこちら▶︎ 日本を代表するSF小説 マイナス・ゼロの感想と考察 - わんこたんと栞の森

 

読み始めたらとまらない作品、揃ってます

 

見晴らしのいい密室
見晴らしのいい密室
 

 

感想 スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選

子供の頃、あるいは大人になっても「テレビゲームにハマった」経験のある方は多いのでは。
そんな「ゲーム」をテーマにしたSF短編集「スタートボタンを押してください」の感想を書きました。
 
スタートボタンを押してください(ゲームSF傑作選)
書籍名
 

 

スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選の情報

ビデオゲームをテーマにした短編SFアンソロジー「Press Start  to Play」(2015)の邦訳版です。原書は26編収録ですが、邦訳では、うち厳選された12編を収録。

 

  • 著者:ケン・リュウ、桜坂洋、アンディ・ウィアーなど
  • 翻訳:中原 尚哉 、古沢 嘉通
  • 発売:東京創元社 2018/3/12
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象外

 

スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選 感想

2010年前後の作品がメインで、うち2編がテキストアドベンチャーを扱った短編。最近のゲームの進化が著しいことも相まって、「レトロ感」が強いので、好みは分かれそう。

 

わんこたんは、ゲーム小説=明るくて楽しくてポップなストーリーというイメージを持っていましたが、この本の収録作は、どことなく暗くて、内省的で、孤独で、楽しげな表紙とは裏腹にじめじめした雰囲気の作品が多いです。

期待していた作品イメージとはちょっと違っていた、というのが正直な感想。もちろん、面白い作品もあったけどね!

 

以下に各短編のあらすじと感想を書きました。特に良かった作品には★をつけています。

 

リスポーン/桜坂洋

 

救助よろ/デヴィッド・バー・カートリー★

ゲーム没頭しすぎて大学をやめた元彼を探すべく、ゲームにログインしたメグ。メグのもとに、彼から「救助よろ」というメッセージが届く。

 

現実世界のはずなのに、大剣を身につけたり巨大蜘蛛が出てきたりと、冒頭から違和感マックス。ゲームの世界は楽しいはずなのに、陰鬱な雰囲気がなぜか拭えない。そして結末は……

 

この世界はどこまで本物なのか?シュミレーション仮説を彷彿とさせる、ホラーな後味の物語でした。

 

1アップ/ホリー・ブラック ★

オンラインゲーム仲間の訃報。残されたゲーム仲間の3人は、亡くなった友、ソレンの葬儀で初めて顔を合わせる。

葬儀を終え、ソレンの部屋に入る3人。そこに残されていたのはソレンが自作したテキストアドベンチャーゲームだった。

 

テキストアドベンチャーゲームを解いて真実を見つける、ミステリー風味の作品。もう少し長編で、がっつりゲームと謎解きを楽しんでみたかった。ゲームで生まれる友情。ベタだけどいいよね。

 

NPC/チャールズ・ユウ

 

猫の王権/チャーリー・ジェーン・アンダース

病気で脳に障害を負い、強い神経症状で日々を無気力に過ごしている女性と、パートナーのわたし。

脳機能のリハビリのため、王国勃興シュミレーションゲーム「猫の王権」を彼女に与えたところ、驚くべきプレイスキルを発揮する彼女。そこにゲームのリアルトーナメント大会への招待状が届く。

 

彼女の中で、ゲームの世界は現実の一部になったのでしょうか。取り残された「わたし」の寂しさが伝わります。

 

神モード/ダニエル・H・ウィルソン

 

リコイル!/ミッキー・ニールソン

 

サバイバル・ホラー ショーナン・マグワイア

 

キャラクター選択/ヒュー・ハウイー ★

小さな娘の昼寝の時間だけ、夫のFPSゲームをプレイするジェイミー。戦場で敵を殺しポイントを稼ぐこのゲームで、ジェイミーが1人も殺さずやり遂げたこととは、、、?

 

ゲームの「隠し要素」をテーマにしたこの作品。

隠し要素:ゲームのわかりづらい場所にアイテムが隠されていたり、ゲーム内である行動をすると、特定のイベントが発生したり、条件を達成すると秘密のステージに行けたり。クリアには関係ないけど見つけると嬉しくなる要素のこと

 

平和主義のジェイミーだからこそ発見できた隠し要素。でも最後の謎は、夫(ゲームで敵を倒しまくって次のステージに進んでいる)という演出がニクイ。

 

赤ちゃんが寝ている最中のゲームに罪悪感を感じるなど、キャラの心情も細やかでよかたです。

 

ツウォリア/アンディ・ウィアー

主人公ジェイクにいきなり話しかけてくる謎のプログラム「ツウォリア」。その正体は、、、

 

作者のアンディ・ウィアーは、映画化されるようなヒット作を連発する人気SF作家。「火星の人」「プロジェクト・ヘイル・メアリー」など、わんこたんも大好き。

 

火星の人(上)
火星の人(上)
 

 

プロジェクト・ヘイル・メアリー
 

 

 

「ツウォリア」も、作品自体は面白いんですが、訳がいまいち。

ツウォリアは「30年前のネットスラング」でしゃべる設定。それを「漏れ」とか「香具師」に訳しているので違和感がすごい。

無理して日本のネットスラング(というか2ch用語?)にしなくても良かったのでは。

 

アンダのゲーム/コリイ・ドクトロウ

 

時計仕掛けの兵隊/ケン・リュウ

 

ゲームSF傑作選の次に読みたい!おすすめ作品

ゲームにまつわるおすすめSF作品を集めました。

 

世界を席巻したVRゲーム「三体」

世界に迫る危機の謎を解くヒントが隠された、VRゲーム「三体」に主人公がいどみます。このゲーム描写が文明勃興シュミレーション風で、そこだけでもめちゃくちゃ楽しい!

 

\\原作小説「三体」 2月に文庫版になりました//

三体

 

紹介記事はこちら▶読む順番は?文庫化は?三体シリーズ徹底解説&「聴く読書」無料体験も! - わんこたんと栞の森

 

 

冷凍睡眠×ゲーム世界?海を見る人 より 「キャッシュ」

SF短編集「海を見る人」に収録されている、短編の「キャッシュ」。長期間航行する宇宙船。冷凍睡眠中の乗員が過ごす仮想世界に、ある日事件が起こります。

 

「魔点」による仮想世界の経済システムなど、短編ながら設定が良く練られた傑作。他の収録作品もおもしろいので、ハードSF好きならぜひお試しを。

 

海を見る人
海を見る人
 

 

紹介記事はこちら▶ハードSF短編集 海を見る人 不思議な世界と人間たちの物語 - わんこたんと栞の森

 

日本を代表するゲーム×ホラーの傑作!

さえない中年男性がある日目覚めると、そこは火星のような荒れ果てた大地だった!「デス・ゲームもの」の元祖ともいえる、サバイバルゲームホラー小説。

アイテム選択やルート選択が、後の展開に大きく影響し、、、ゲームとホラーがうまく融合した傑作です。

 

クリムゾンの迷宮
クリムゾンの迷宮
 

 

 

以下の記事ではSF、ミステリー中心に「とまらない」作品を紹介中。ぜひご覧ください。

「とまらない」傑作 そろってます

 

スタートボタンを押してください(ゲームSF傑作選)
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三体に登場する智子(ソフォン)の仕組みを徹底解説!

智子(ソフォン)とは、SF小説「三体」及びそのシリーズ続刊に登場する、敵勢力のスパイマシン。
物語の鍵を握る重要アイテムですが、仕組みが難解でややこしい存在でもあります。
そんな智子(ソフォン)の仕組みを、できるだけかみ砕いて説明してみました。

 

\\原作小説「三体」 2月に文庫版になりました//

三体

 

 

CAUTION!
  • この記事にはSF小説「三体シリーズ」の重大なネタバレを含みます
  • 本記事の物理学の記載は、管理人わんこたん(非専門家)の限られた知識と、三体作中の描写をもとにしており、実際の物理現象とは異なる場合があります。

 

智子(ソフォン)の仕組み・目的・弱点は?

三体は原作小説をもとに複数ドラマ化されており、原作とドラマでも智子(ソフォン)の描かれ方が異なっています。

原作とドラマ版での違いも含めて、智子(ソフォン)の仕組みを解説していきます。

 

「三体」には3つのバージョンがあります

 ドラマ版「三体」の情報・配信サービスの比較はこちら

▶:ドラマ「三体」WOWOW版(テンセント版)とNetflix(ネトフリ)版の違いは?最新映像化情報 

 

これだけ分かればOK 智子(ソフォン)の基本情報

智子(ソフォン)は敵である三体星系から地球へ、通信・偵察・妨害機として送り込まれた陽子です。

 

陽子、とは物質を構成する原子、を構成する超ちっちゃな粒。

 

人間側から観測するとただの1個の陽子ですが、それは11次元に折りたたまれた姿。2次元の姿は、惑星を覆うほどに広がる超巨大コンピューターです。

(2次元だと巨大でペラッペラッ。どんなに大きくても質量は陽子1個分)

 

これだけおさえておけばOK!

智子とは

  • ただの陽子なのにすごいコンピューターを搭載
  • 光速で移動可能。4光年の彼方にある三体星系とリアルタイムで通信
  • 人類の科学の発展を妨害、人類の情報は全て三体星人に筒抜け

と理解しておけば、ストーリーを楽しむ分には問題なし!

智子(ソフォン)のせいで、人類側の基礎物理研究はストップし、人類の情報は全て三体星人にばれています。

この絶望的状況をどうひっくり返すか?が三体シリーズ2作目「黒暗森林」の展開となります。

 

\\2024年4月21日 待望の文庫化!//

三体Ⅱ 黒暗森林(上)

 

智子(ソフォン)の仕組み

陽子にすごいコンピューターを搭載するためには、陽子に集積回路をのせなければなりません。しかし、陽子はとても小さいので、作業台の上において、ピンセットで、というわけにはいかず。

 

そこで三体星人では、「高次元構造の陽子にめちゃくちゃエネルギーを与えて、魚を開きにするように、2次元構造(=でっかい平面)に展開し、そこに集積回路を乗せる」という方法をとります。

 

すさまじいですね、わけがわかりません。

原作では丁儀(ディン・イー)博士がもう少しわかりやすく説明しています。

三体の智子(ソフォン)の仕組みを解説したイラスト

3次元構造のタバコのフィルターをほぐすと広い面積の2次元構造があらわれるように、11次元を内包した陽子を展開すると、膨大な情報を書きこめる、、、という理屈らしい。

三体文明の超技術っぷりがよくわかる場面ですね。

 

なお原作では1作目三体の終盤に、三体星人が智子(ソフォン)を製造する描写があります。

 

何度か失敗し、予定していた2次元以外の次元に展開してしまう、というお茶目な(?)描写も。ドラマ版ではカットされていて残念。

 

三体

 

智子(ソフォン)の目的

智子の目的は3つ。

 

  1. 地球世界に「奇跡」を起こすこと
  2. 地球世界の、素粒子レベルの基礎物理科学の発展を阻害すること
  3. 地球世界の情報をリアルタイムで傍受すること

 

智子の目的は、原作小説でもドラマ版でも大きな違いはありません。

 

1.「奇跡」について

1作目 三体の主人公汪森/ワンミャオ(※Netflix版ドラマ三体ではオギー)が襲われたように、網膜にカウントダウンを映し出したり、スクリーンのように地球を覆って映像を映す行為が該当。

 

奇跡(のような現象)を起こして、三体文明を崇拝させたり、非科学的な思想をはびこらせて、科学的で冷静な議論を妨げたりする効果を狙っています。

 

2.科学の発展の阻害について

智子は陽子サイズなので、大型の加速器で行われる粒子の衝突実験のような、最先端の物理学実験を妨害できます。

妨害によって地球の科学技術発展はストップ。次元操作のような三体文明の技術水準まで追いつけないようにします。

 

3.地球世界の情報をリアルタイムで傍受

三体星系と太陽系は4光年の距離があるため、通常の通信では往復で8年の時間がかかります。しかし、なんと智子(ソフォン)同士はどんなに離れていてもリアルタイムで通信可能。どうやって?

 

智子は、2個の智子ペアで1セット。陽子は「量子もつれ」によって互いのスピンの向きを検知し、片方のスピンの向きが変われば、即時にもう片方のスピンの向きも変わるという性質を持ちます。

 

Netflix版ドラマにも「量子もつれ」が登場

Netflix版ドラマ、日本語字幕では2個の陽子を「量子レベルでつなげた」と言っている部分

英語では"Each pair is entangled, connected on the quantuim level"となっており、量子もつれを意味する"entangle"が使われていることからも、量子もつれを利用したリアルタイム通信を行っていることが、わかります。

 

陽子が互いにどんなに離れてもその効果を失わないため、4光年離れた三体星系に、地球の情報すべてを伝えることができる、という設定です。

 

智子(ソフォン)は本当に三体星系とリアルタイム通信できるのか?

どんなに離れていてもリアルタイムで通信できると書きましたが、実際には情報伝達速度には限界があるようです。

量子もつれの伝達速度限界を解明 | 理化学研究所

 

そもそも理論上智子(ソフォン)を製造することが可能なのか、だいぶアヤシイですが、そこはSF、おおらかな気持ちで読みましょう。

 

あくまで智子は作品の舞台装置。舞台装置をどうやってぶっ壊すか?という思考バトルが三体の面白さの本質です。

たとえ智子が、理論上作成不可能だとしても、それが三体という作品の面白さを損ねるものではないとわんこたんは考えています

 

陽子のスピンについて

そもそもどうして陽子はスピンするのでしょうか?

そこには陽子を構成する素粒子、クオークやグルーオンが関わっているようです。

www.riken.jp

 

素粒子?クオーク?グルーオン?興味はあるけどよくわからない、という方にぜひお勧めしたいのがこの本「宇宙は何でできているのか」。

素粒子物理学分野の第一線で活躍する著者が、「素粒子」の秘密を宇宙の成り立ちと絡めて楽しく解説してくれる、良書です。

 

宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎
宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎
 

 

紹介記事はこちら

 

智子(ソフォン)の弱点は?

智子(ソフォン)には、というか、三体星人には、ある重大な弱点があります。

ネタバレすぎるので記載は控えますが、三体シリーズ2作目「黒暗森林」の冒頭で明かされるので、未読の方はぜひチェックしてみてくださいね。

 

\\「黒暗森林」は4月に待望の文庫化!//

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

 

智子(ソフォン)の攻撃力は?人体への影響は?

智子(ソフォン)は三体艦隊より先に地球に到着しており、智子(ソフォン)で攻撃できれば艦隊到着前に人類を滅亡させられるような気がします。

原作ではそのような展開にはなりませんが、智子の攻撃機能について考察(妄想)してみました。

 

2次元展開したソフォンは、大きな鏡になる

原作1作目 三体でも、Netflixドラマ版でも、2次元展開したソフォンが惑星を覆う巨大な鏡になる、という描写があります。

鏡ならば、地球全体を覆って太陽光を地球外に全反射→地球を寒冷化させたり、凹面鏡のようにして太陽光を収束→地表を熱攻撃できたかもしれません。

 

一方でソフォンの2次元展開の開閉にはそれなりに時間がかかる、という描写もあり、2次元展開した状態で人類側から攻撃されればソフォンは壊れてしまうでしょう。

 

そうしたリスクを避けるためか、ソフォンの2次元展開で地球を攻撃する、という展開にはなりませんでした。

 

ソフォンは人体に影響する?

ソフォンの人体への影響は、原作とドラマ版で描写に若干の違いがあります。

 

  • 原作小説「三体」: 人体に影響なしと明記。網膜にカウントダウンや文字を映すことは可能。

  • テンセントドラマ版「三体」: 網膜にカウントダウンを映すほか、強い光を見せて標的を発狂させることが可能。

  • Netflixドラマ版「三体」: 網膜にカウントダウンを映すほか、ありえない映像を見せて偽装工作をする描写あり?

 

原作2作目「黒暗森林」では、物理学者の丁儀博士が「ソフォンは人体に影響しない」と明言しています。ミクロの粒子なので、1作目「三体」で汪森の網膜にカウントダウンを映したような嫌がらせレベルの介入しか、できない、という設定でした。

 

テンセントドラマ版では、網膜に強い光を感じさせ、標的を発狂させるという描写が。標的となった人物は大怪我をしていたので、その点では人体を攻撃できる、と言えそうです。

 

Netflixドラマ版では、より進んで、網膜にありえない映像を映しているかのような描写があります。

 

ソフォンが人体を直接攻撃したら?

陽子1個で人体を攻撃することは可能なのでしょうか。

 

例えば、放射線の一種であるα線は陽子2個と中性子2個からなる小さな「粒」が高速で飛んでいる状態です。

α線は人体への影響が高く、プルトニウムなどが体内に入ってしまった場合の内部被ばくの原因となります。ただし、遮蔽されやすく、紙1枚でも防ぐことが可能です。

 

ソフォンは陽子1個。α線の4分の1の質量ですが、人体を光速で飛び回れば、もしかすると、α線のように遺伝子を破壊してがんを引き起こすくらいは可能だったかもしれません。

 

智子(ソフォン)原作とドラマ版の違い

人体への影響の他にも原作とドラマ版では智子(ソフォン)の描写に違いが。

原作と同じ部分、違う部分をまとめました。

 

原作と同じ ソフォンの特徴
  • 網膜にカウントダウンや文字を映す
  • 三体世界とのリアルタイム通信(量子もつれ効果による)
  • 地球人の行動、通信を見張る
  • 2次元状態で巨大なスクリーンになる

 

原作と異なる Netflix版ソフォンの特徴
  • 網膜に映る情報を欺瞞する?(ジャック◯◯シーンが外から見えない)
  • 電子データの改竄?(タチアナが監視カメラに映らない、いろいろなデバイスに文字を表示)
  • 巨大なスクリーン状態になって、肉眼でわかるくらい夜空を点滅させる
    (原作では宇宙背景放射の点滅のみ、肉眼では見えない)
  • 巨大なスクリーン状態になって、鏡のように地表を映したり目玉を表示させたり
  • 地球上には2機しかいない?(原作では、当初2機だったが、後から追加で送られてくる描写あり)

以下で、重要そうな点を解説します。

 

智子(ソフォン)の数は?

当初、地球には2個のソフォンが到達。原作2作目「黒暗森林」では、後からたくさんのソフォンがやってきていて、ソフォンに対し手がつけられない状態であると描写されています。

 

Netflixドラマ版では、ウェイドが「ソフォンは製造に時間がかかるので、追加のソフォンは来ない」とやたら強調していました。

ソフォンを妨害するため、地球にも月にも加速器を作って、ソフォンを忙しくしてやろう、という発言も。

 

もしかすると、Netflix版では人類側がソフォンを攻略するという、オリジナルの展開が見られるかもしれませんね。

 

智子(ソフォン)は電子データを改竄できる?

Netflix版ドラマ「三体」では、監視カメラに暗殺者(タチアナ)が映らない、という描写が2箇所あります。

原先にはないこのシーン、本当にソフォンの仕業なのかは不明。

 

ソフォンが電子データを改竄。できなくはなさそうですが、そうなるともはや「なんでもあり」。

人類の科学の発展を妨害する以前に、電子データの改竄によって人類は何もできなくなり、物語して破綻するリスクもありそう。

 

原作ファンとしては、今後のNetflix版ドラマ「三体」シーズン2に向けて、心配している点だったりします(余計なお世話)

 

ソフォンの仕組みについて、まとめ

ここまで解説してきましたが、やっぱり難解な「ソフォン」。しかし、こいつの存在が三体という作品をグッと面白くしてくれています。

 

科学的には実現不可能かもしれませんが、この「ハッタリ」こそ、SFの醍醐味といえるでしょう。

人類はソフォンを打ち破れるのか?気になる方はぜひ原作2作目「黒暗森林」を読んでみてくださいね。

 

\\「黒暗森林」は4月21日に待望の文庫化!//

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

 

収録すべてが傑作ぞろい!珠玉のSF短編集 流浪地球 老神介護

大人気SF作家 劉 慈欣さんのSF短編集「流浪地球」「老神介護」。どれを読んでも傑作!そんな奇跡の短編集 全収録作品の感想を書きました。
 

2冊どちらから読んでもOK。2024年1月に文庫化され、お求めやすくなりました。

 

流浪地球
流浪地球
 

 

老神介護
老神介護
 

 

 

流浪地球 / 老神介護 基本情報

中国を代表するSF小説作家、劉 慈欣さんによるSF短編集!2冊同時に発売されていますが、短編集なので、片方だけでも、どこから読んでも楽しめます。

各話のあらすじは、本記事後半「流浪地球/老神介護の感想」をご覧ください。

 

  • 著者:劉 慈欣 (りゅうじきん/リウ・ツーシン)
  • 翻訳:大森 望、古市 雅子
  • 発売:KADOKAWA 2022/9/7
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象外

 

著者 劉 慈欣さんについて

SF小説シリーズ「三体」のヒューゴー賞受賞によって、その名を世界中に轟かせた希代のSF小説作家 劉 慈欣さん。三体シリーズはドラマ化もされ、ファンを魅了し続けています。

 

その三体、シリーズ一覧は以下の通り。左上が1作目「三体」です。
※画像クリックでKindleストアのページにジャンプします

 

三体ばかり注目されがちな劉 慈欣さんですが、そのSF作品世界の素晴らしさは、「流浪地球」をはじめとする短編にこそ、凝縮されている、とわんこたんは思います。

 

以下の記事では日本で読める全著作を解説中。

劉 慈欣さんの著作情報はこちら

 

流浪地球/老神介護の感想

どの作品も最高におもしろい短編集って、なかなか出会えないんですよね。2冊ともすばらしかった!

 

もともと1冊だった短編集を邦訳時にボリュームの都合で2分冊に。そのため、2冊それぞれに独立したテーマ性がうまれました。

分冊化で価格はあがってしまいますが、2冊の「テーマの違い」が和音のように響き合うことで、独特の読後感を生み出しています。

 

流浪地球/老神介護 収録作品のテーマ

あくまで管理人わんこたんの私見です。

  • 流浪地球:「既存世界からの別離」「滅び」
  • 老神介護:「出会いと別れ」「地球と人間」

予算に余裕があれば、ぜひ2冊セットで、読んでいただきたいなあと。

以下に各短編の感想を。どれも面白いんですが、特におすすめ作品には★をつけています。

 

流浪地球より「流浪地球」★

太陽が爆発する!?

というわけで、巨大ロケットエンジンを建設し、太陽の重力を利用して推力を得つつ、太陽系外の恒星をめざすことに。さらば太陽系。

 

あらすじは壮大ですが、過酷な環境に翻弄される人の精神、社会のうねりといったリアリティ溢れる描写。まさに劉 慈欣SFの真骨頂、という作品。

太陽への恐怖と、元の地球への望郷の思いが入り混じる描写に、美しさすら感じます。

 

ちなみに中国国内では映画化され、これが大ヒット。原作とは異なり、映画版では地球が木星衝突の危機に。VFXモリモリのアクション作品となっています。(映画版の感想は後述)

 

流浪地球より「ミクロ紀元」★

「流浪地球」と同じく、「太陽によって地球が滅びる」物語ですが、こちらの人類は、また違った道を歩みます。

 

ネタバレになるのでこれ以上は書けませんが、サイズが小さい方が生存に有利、という発想が面白い!

「三体」もそうなんですが、劉 慈欣作品では「太陽」の存在感が大きいですね。

 

\\原作小説「三体」 2月に文庫版になりました//

三体

 

流浪地球より「呑食者」★

地球をまるっと呑み込む巨大サイズの宇宙船でやってきた侵略者「呑食帝国」と人類の決死の戦いを描いた作品。圧倒的戦力に対し、どのように立ち向かうのか?その作戦は、三体シリーズ2作目「黒暗森林」のワンシーンを彷彿とさせます。

 

何もかもが規格外に大きい呑食帝国の姿は「ミクロ紀元」との対比になっているように感じました。結末や、呑食帝国の意外な正体など、予想外の爽やかな描写。カラッと楽しめる作品です。

 

ちなみに呑食者の続編「詩雲」は早川書房出版の「円 劉慈欣短編集」に収録されています。(この短編集もめちゃ面白くておすすめ!)

 

円 劉慈欣短篇集
円 劉慈欣短篇集
 

 

流浪地球より「呪い5.0」★

男女関係のもつれから、生まれたコンピューターウイルス。最初は呪いの言葉をディスプレイに表示するだけのかわいいものでしたが、徐々にウイルスは進化して……!?

 

著者 劉 慈欣さんが売れないSF作家として実名で登場する、なんともお茶目な作品。あまりにもアホアホな展開に、口角が緩みっぱなしのバカSFです。

最後に呪いがどこまで進化するのか。ゲラゲラ笑いながら読みましょう。

 

流浪地球より「中国太陽」

貧しい農村から宇宙へ。明るい世界とお金を求める主人公のサクセスストーリー。彼が最後に求める場所とは、、、?

劉 慈欣作品、地方の貧困や環境問題、それを解決しようとする技術、という構図が結構出てきます。「地火」「郷村教師」「円円のシャボン玉」など。←3作全て「円 劉慈欣短編集」に収録されてます。

 

流浪地球より「山」★

友人をチョモランマ登頂で死なせてしまった過去から、山を離れ、海洋地質調査船で働く主人公。彼が海で出会った、巨大な山とは……

 

異星とのファーストコンタクトと登山を掛け合わせた、異様な物語。さらにそこで語られる異星の歴史がすさまじい。私たちの知る宇宙は、実は大きな世界のほんの一部なのかも、と思わせられる作品です。

 

老神介護より「老神介護」★

いきなり地球に大量の老人がやってきて「ワシらは人類を作った神様なんじゃがみんな年取りすぎて自力でなんにもできなくなったから創造してやったよしみで介護してくれ」と言ってきた件

 

介護のために文明ひとつを作ってしまうという神様。迷惑すぎるけどどこか憎めない、いや、やっぱり迷惑かも...

全家庭で神様を扶養することになった人類。その結末は、、、?

 

老神介護より「扶養人類」

老神介護より「白亜紀往事」★

もし恐竜が絶滅しなかったら?もし恐竜と蟻が共生関係を築いていたら?

そんなIFの地球史を描いた作品。やがて恐竜と蟻の関係に綻びがうまれ……

 

恐竜の生み出す巨大な社会、有機化学反応コンピューターが活躍する小さな社会、など想像がむくむく膨らむような世界観はさすが。

私たち人間が生まれる前に、別の種族が地表を支配していたら?なんて考えたくなる1作です。

 

収録されているのは短編ですが、白亜紀往時には、別に長編も存在し、こちらは早川書房から出版。読め次第レビューします!

 

白亜紀往事
白亜紀往事
 

 

老神介護より「彼女の眼を連れて」★

無重力空間に漂う彼女は、僕に美しい自然を見せて、と言った。

宇宙で働く人々のために、視覚共有デバイスで地球観光を共有することが一般的になった時代。彼女に頼まれるまま、美しい花を、月を、見つめる僕と彼女。そんな彼女は最後に、日の出を見たがるのですが……

 

中国の国語の教科書に掲載されるほど、美しく心に刻まれる作品。ですが、最後に真実を知った瞬間、絶望と恐怖で心が苦しくなりました。

人によっては相当なトラウマになるのでは、どうぞ心してお読みください。

 

老神介護より「地球大砲」★

冷凍睡眠から目覚めた直後から、なぜか命を狙われる男。どうやら、彼の息子の事業に原因があるらしいが……

「彼女の眼を連れて」の物語と地続きになったような世界観。SFといえば、三体のような「宇宙」をテーマにした作品を思い浮かべがちですが、劉 慈欣さんは意外にも「地下」をテーマにした作品が多く書いていたりします。

(円 に収録されている「地火」など)

 

地球大砲はとにかくその発想がすごい。子供の空想に出てくるような荒唐無稽なアイデアを、形にしつつ、現実社会に落とし込む。その構成が素晴らしかったです。

 

流浪地球の映画版「流転の地球」感想

こちらNetflixで映画版が日本語字幕で観られます。

中国で大ヒットしたアクションSF大作!観てみた感想は……

  • 迫力がすごい。宇宙ステーションの造形、極寒の地上、やたらゴツい乗り物や地上用スーツ(マイナスー70度で気生身では生存できない)、巨大な地球エンジンなどがバンバン描かれます。

  • どこか静けさを感じる原作とは違い、ハラハラドキドキ、泣けるエンタメSF。
    「俺を犠牲に先に行け!」「みんなで力を合わせてせーの!」「子どもたちよ、、、生きろ!」みたいな、どこかでみたようなストーリー展開のつなぎ合わせ、と言えなくもない。

  • そ原作の流浪地球にあった、美しいまでの寂寥感、静けさ、虚無感、望郷の思いは、すっかり無くなっていました笑 

  • 地下街がなぜか小汚いサイバーパンクな無法地帯と化していたり、なぜかエンジン再起動のためにやたら重たい「着火石」を遠路はるばる運ばなければならなかったり(近くに置いとけばいいのに)。「なぜ?」と突っ込みポイント多数

と、いうわけで気楽に見るくらいがちょうど良さそう。というか、Netflixでは劉 慈欣さんの代表作、三体のドラマ版が見られますので、そちらから観る事をを強くお勧めします。

 

Netflixドラマ版三体 感想はこちら

原作読了済みの方向けの記事です。

 

流浪地球・老神介護の次に読みたいおすすめ作品

SF作品を中心におすすめ作品を紹介します。

元気の出る傑作SF!プロジェクト・ヘイル・メアリー

SFでもあり、謎解きミステリー要素もあり、、、

ネタバレ厳禁の大ヒットSF。映画製作も決定しており、公開前に原作を要チェックです。

プロジェクト・ヘイル・メアリー
 

紹介記事はこちら(途中までネタバレなしで読めます)

文庫化はいつ?映画化も?プロジェクト・ヘイル・メアリー イラスト付き感想と解説 - わんこたんと栞の森

 

とことんハードなSFならこれ!海を見る人

あなたの想像を超える不思議な世界と、そこであり得たかもしれない人間たちの物語。物理的なバックボーンをとことん突き詰めた、ハードSFの傑作短編集です。

 

海を見る人
海を見る人
 

紹介記事はこちら

ハードSF短編集 海を見る人 不思議な世界と人間たちの物語 - わんこたんと栞の森

 

とまらない小説ならこれ!

読み始めたらとまらない!管理人わんこたん厳選のおすすめ小説を以下の記事で紹介しています。

 

まとめ

 

流浪地球
流浪地球
 

 

老神介護
老神介護
 

 

Netflix版ドラマ三体 原作との違いは?ファンの正直な評価・感想を書きました

Netflix版ドラマ「三体」。
原作のストーリー構成を大幅に変更し、再配置。緊張感を保ちつつ、よりわかりやすい物語になっていました。さすがはデヴィッド・ベニオフ&D・B・ワイス監督!

三体原作大ファンの管理人わんこたんが、Netflix版ドラマ三体 シーズン1全8話について、原作と比較しつつ、できるだけネタバレなしで感想をかきました。

 

視聴はこちら▶三体 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

 

※au・UQモバイルユーザーは1か月無料でNetflixを視聴できます。

 

\\原作小説「三体」 2月に文庫版になりました//

三体

 

原作三体シリーズは、Amazonの本朗読サービス「Audible」の聴き放題対象です。
5分間の試聴はこちら

活字が苦手な方にこそ、物語に没入できる、新感覚の聴く読書がおすすめ!管理人わんこたんも、家事をしながらの読書に、愛用中です。

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Netflix版ドラマ「三体」 原作との違いは「構成」

原作から構成を一新したドラマ版。その違いをキャラクター、ストーリーの2点から解説します。

 

原作と大きく異なるキャラクター構成

原作三体シリーズは3部作で、各話異なる主人公で物語が展開していきます。

原作の主人公は以下の通り。程心(チェンシン)以外は全員男性です。

 

原作「三体シリーズ」のネタバレなし解説はこちら

読む順番は?文庫化は?三体シリーズ徹底解説&「聴く読書」無料体験も!

 

一方、Netflix版ドラマ三体は、登場キャラクターを大幅に刷新。

オックスフォード5(ファイブ)と呼ばれる、大学の物理学教室に所属していた元級友5人組をメインに、登場人物の要素を「再配置」しています。

 

オックスフォード・ファイブは以下の5人

  • オギー・サラザール:ナノテクノロジー研究センターCSO
  • ジン・チェン:理論物理学の上級研究員
  • ウィリアム(ウィル)・ダウニング:ジンに恋心をよせる大学講師
  • ジャック・ルーニー:ジャックススナックス(お菓子会社)の創設者で資産家
  • ソール・デュランド:オックスフォードの粒子加速器 研究員 32歳

 

1人で原作の2人・3人分を兼ねていたり、逆に原作では1人が担当している役割を複数名で分担していたり。

 

オギーは、原作の汪森(ワンミャオ)ポジションかな?羅輯(ルオジー)はいったい誰だ?などと、予想しながら観るのが、めちゃくちゃ楽しかった!

 

原作と大きく異なるストーリー構成

Netflix版ドラマ三体は、原作3部作の3つの物語を同時進行していく形式。

いい感じに緊張感が保たれて、ダレないストーリー構成への改変は、原作ファンからみても、「アリ」だと感じました。

 

Netflix版ドラマ三体 基本情報

配信話数など、基本情報をまとめました。

 

Netflix版 ドラマ三体 は全何話?

Netflix版ドラマ三体 シーズン1は全8話。それぞれのサブタイトルは以下の通り。

原作を読んだ方には、サブタイトルだけで、「え、原作の2作目、3作目のあれやこれやが、もう登場するの?」という驚きが伝わるはず。

 

  1. 第1話 カウントダウン
  2. 第2話 紅岸
  3. 第3話 世界の破壊者
  4. 第4話 我が主よ
  5. 第5話 審判の日
  6. 第6話 星群計画
  7. 第7話 前進あるのみ
  8. 第8話 面壁者

 

Netflix版 ドラマ三体 シーズン1は原作のどこまで進む?

ストーリーを再構成しているので、「ここまで」と説明するのは難しいですが、おおよそ以下の範囲までカバーしています。

 

全8話(60分×8話)でここまで進むとは、予想外でした。少し駆け足でしたが、ラストはシーズン1の幕引きにふさわしい、続きが気になる終わり方。

シーズン2に期待が高まります。

 

シーズン2まで待てない!原作で続きを読みたい場合は?

 

Netflix版ドラマ「三体」シーズン1の続きから原作で読みたい場合は、原作2作目「黒暗森林」から読むのがおすすめです。

黒暗森林は上下巻。2024/4/23に文庫化されました。

 

\\待望の文庫版は上下巻で4/23発売!//

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

 

CAUTION!

以下、Netflix版のドラマ三体の内容に触れる記述があります。ご注意ください。

 

Netflix版ドラマ三体のVRゲームについて

タイトルにも使われている「三体」を象徴するのが、この「VRゲーム『三体』」

原作ファンが(たぶん)一番期待していたであろう、VRゲームの描写。原作ファンわんこたん個人の感想を書き殴ります。

 

VRゲーム「三体」はどうだった?

Netflixドラマ版のVRゲームシーン。決して悪くはない!悪くはないのですが……

期待よりもあっさりな印象。先に放送されていた「テンセント版ドラマ三体」のVRゲームシーンが良すぎて、そのイメージを超えられなかった、と感じました。

 

テンセント版ドラマ「三体」について

当初はWOWOWのみ配信でしたが、VOD各社でも配信が始まりました。

料金の最安はauスマートパスプレミアム詳しい料金比較は、下の記事の中ほどをご覧ください。

ドラマ「三体」WOWOW版(テンセント版)とNetflix(ネトフリ)版の違いは?最新映像化情報 - わんこたんと栞の森

 

  • あっさりポイント① ゲーム内の天体運行説明を大幅カット

    原作では、「なぜゲーム世界では太陽がおかしな動きをしているのか?」というミステリー要素からはじまり、段階的にヒントが提示され、読者もキャラと一緒に推理を楽しめます。
    Netflix版ドラマ三体では、ヒントが削られすぎてて、視聴者の推理余地なし。
    (ゲームをプレイするキャラが天才すぎて、すぐに核心に気づいてしまう)

    2つの〇〇がでてくるシーンや「凶兆の三飛星」の説明があれば、視聴者も一緒に謎解き気分を味わえたかな~と思いました。

  • 人力コンピューターの説明カット
    原作のANDやORなどの演算システムを説明するところ、わんこたんはすごく好きだったのですが、そこもカットされていて残念……

ちなみに、始皇帝のシーンはフビライ・ハンに(字幕はクビライ・カン)、フォン・ノイマンはアラン・チューリングに変更。

変更したところで特にストーリーに影響はないですが、理由は不明。より欧米で認知度の高いキャラに変えた、ということでしょうか。

 

テンセント版ドラマ版「三体」ではNetflix版では削られてしまったVRゲームシーンを、原作どおりにきっちり再現。迫力ある破滅のシーンにわんこたん大興奮でした。(VRゲーム初登場シーンは第7話。わんこたんの大好きな始皇帝のシーンは第15話)

 

2024年4月現在、auスマートパスプレミアム なら、月額548円でテンセント版ドラマ「三体」をみることができます。

よかったらチェックしてみてくださいね。

 

\初回加入30日間、無料で試せます/

※最新の配信状況をご確認のうえ、登録をお願いします

 

各キャラを原作と比較しながら解説

Netflix版ドラマ三体に登場するキャラクターを、原作と比較しながら解説してみました。

 

三体原作の人気キャラ「史強」→Netflix版では「クラレンス史」へ

史強(シー・チアン)はベネディクト・ウォン演じる「クラレンス・史」として、原作と同じく捜査官役で登場。

見た目は「小汚くて体はでかい捜査官。一見すると不審者」という感じですが、原作通りキャラクターを守ったり助けたりと活躍します。

 

原作とは異なり、奥さんはすでに他界。息子が「やばい事業」に手を出すところは原作通り。シーズン2での活躍が今から楽しみ!

 

ストーリーを再構成してはいますが、シーズン1のラスト、史がドライブに誘うシーンは、原作1作目「三体」と同じ。史のセリフに胸が熱くなります。

 

一方で、原作では主人公と史強(シー・チアン)がコンビで活躍するシーンが多かったのですが、Netflixドラマ版では主人公が5人組に変更。バディでの活躍、絆を感じさせるシーンが減ったのは、ちょっと残念。

 

(小ネタ)クラレンスのセリフ「テキーラ」の意味

Netflix版第5話で、クラレンスがオギーに「メキシコのマフィアがその妻を殺した理由は?」と質問し「テキーラ(殺すため)」と答えてはぐらかすシーン。

テキーラ=殺すため どういう意味?

おそらくテキーラの発音と「to kill her(殺すため)」をかけたジョークと思われます。だから何、と言われればそれまでですが。

 

葉 文潔(イエ・ウンジェ)の描かれ方

葉 文潔は、原作「三体」でも、すごく微妙な感情を併せ持つキャラクターで、重要キャラでありながら、描き方の難しい人物。

  • 人類への強い怒りと失望
  • 科学を愛し、物理学者の父親を敬愛する心
  • 子どもや教え子を慈しみ、導こうとする心

相反する感情を、どのように表現するのか、気になっていました。

 

Netflix版ドラマ三体の葉 文潔は、原作よりも感情を強く表していたような。怒りに満ちたまなざしが、マジで怖かった。

三体文明による人類の変革に期待を寄せますが、その結果は……

最終的に、葉が三体文明に対し、どのような姿勢をとるのか。ぜひNetflix版ドラマ三体で見届けてほしいと思います。

 

VRゲーム三体に登場する少女

ゲーム中に毎回同じ顔の少女NPCとしてが登場します。ゲーム内世界は何度も滅びを繰り返すので、当然少女も……

 

原作にはないこの演出、ゲームプレイヤーの精神をゆさぶってくる効果があって、良改変だなと思いました。

 

ところでこの少女、一瞬登場する、とある写真と同じ顔です。見逃した方はNetflix版ドラマ三体の第7話を再チェック!

 

原作2作目 章北海(ジャンベイハイ)が、意外な形で登場?

原作2作目「黒暗森林」で超重要な役割を果たす章北海(ジャンベイハイ)ですが、同じ役回りと思われるキャラが、違う名前、人種で早くも登場。

 

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

 

登場は第1話ですが、わんこたんが「こいつが章北海か!」と確信したのは第5話。意外な人物の抜擢に驚きました。

 

宇宙艦隊の設立を見抜き、その候補に志願する「彼」。彼の結末が原作通りのものになるかどうか、シーズン2以降で注目です。早く観たい!

 

章北海についてはこちらの記事でも(原作読んだ方向け)

シリーズ屈指の人気作!三体2黒暗森林 ネタバレ感想と解説 - わんこたんと栞の森

 

赤ずきんとエヴァンズと人類の嘘

赤ずきんの物語をきっかけに、三体人の「思考の弱点」が明らかになるシーン。原作では2作目「黒暗森林」の冒頭で登場しますが、Netflix版では第4話という、かなり早い段階で提示されました。

 

三体人が「艦隊が出発した」とか「ソフォンは全部で4個、うち2個が地球に到着している」とか、重要情報をさらっと流しているのは、この「思考の弱点」が原因。

 

その後の「三体人のとある行動」について、原作のエヴァンズは、なんとなく予想していたような、達観していたような雰囲気がありますが、Netflix版のエヴァンズは、めちゃくちゃ焦っていたのが面白かったです。

 

原作から大幅に進化したヴェイドの活躍に注目!

Netflixドラマ版で、捜査官史の上司として登場するトマス・ウェイド。

軍隊を指揮するなどやたら強大な権限を持っていそうなこの人。頭の切れる冷徹な軍師として、敵を、時には味方をも翻弄する、印象的なキャラクターでした。

 

実は原作でヴェイドが登場するのは3作目の死神永生のみ。ドラマ版ではこんな序盤から登場するとは!驚きです。

 

原作1作目で、史の上官として登場する常偉思(チャンウェイスー)の役割が、Netflixドラマ版ではウェイドに割り当てられてるようですね。

原作2作目では、本来ウェイドは登場しないのですが、Netflixドラマ版ではどのようになるのかな?シーズン2が楽しみ!

 

\\3作目は上下巻。6月に文庫化予定なので、購入時はご注意を//

三体Ⅲ 死神永生 上
  

 

智子(ソフォン)は何ができるの?考察してみました

智子(ソフォン)は、三体文明の偵察機。極小のスーパーコンピューターを搭載した陽子です。

 

Netflix版では智子(ソフォン)の動きや機能が派手に。原作にはない、一般人がソフォンによる超常現象に驚くシーンや、監視カメラの映像を改ざんしているようなシーンも追加されていました。

ソフォン自体がかなりチート存在なので、あまり機能が増え過ぎると、物語が破綻しそうな気がしますが……うまくまとめてくれる事を期待します!

 

そもそもソフォンの仕組みは?

原作で説明されている智子(ソフォン)の仕組みや、原作とドラマ版でのソフォンの違いを解説しています。

三体に登場する智子(ソフォン)の仕組みを徹底解説! - わんこたんと栞の森

 

シーズン2以降はどうなる?予想します!

Netflix版ドラマ三体のシーズン2制作は未定(シーズン1の成績次第)ですが、この人気ならきっと制作されるはず!

というわけで、シーズン2以降の展開と見どころを予想しました。

 

シーズン2 舞台は400年後へ

原作通り、シーズン2で物語の舞台が400年後(三体艦隊到着時期)に移るのは確定でしょう。冷凍睡眠技術も示され、シーズン1で生き残った主要キャラは、400年後にも登場しそうです。

 

次の山場は、原作通りなら「水滴」のシーン。そこから、原作2作目のタイトルにもなっている「黒暗森林」の謎を解くところまでいけるかどうか。

原作2作目「黒暗森林」どおりなら、シーズン1で出番の少なかったソールやラジの活躍に期待したいですね。

シーズン1は壮大なプロローグ。本番は「黒暗森林」からなのよ…!

 

シーズン2の話数は不明ですが、シーズン1と同じく全8話構成だと、クライマックスまで描き切るのには足りない気が。シーズン3にも期待大!

 

原作では描かれなかった、キャラクターの活躍に期待!

原作では1作目の主人公、汪森が2作目以降登場しなかったり、1作目と2作目で活躍する史捜査官が3作目に登場しなかったり。巻ごとに登場人物がガラリと入れ替わっていました。

 

Netflix版ドラマ三体では、原作の1作目〜3作目のストーリーが同時並行的に進んでいるので、原作とは違う、キャラクターの活躍が見られそうです。

 

例えば3作目「死神永生」の舞台に汪森や史がいたらどうなるのか?原作ファンとして、ワクワクが止まらない!

 

ところでウィルはどうなるのでしょう?シーズン1で階梯計画に志願し、宇宙に取り残されたウィルの■■■の行方は。

シーズン2以降でのウィルの活躍については、以下の記事で原作をもとに予想しているので、ぜひご覧ください。

シーズン2決定!Netflixドラマ三体今後の展開を予想します - わんこたんと栞の森

 

シーズン2を待つ間にこれだけはチェック!

(まだ制作予定未定の)シーズン2が待ちきれないというあなたに。おすすめのコンテンツを紹介します。

 

まずはやっぱり原作チェック

三体シリーズ原作制覇済みのあなたも、そうでないあなたも、予習復習はいかがでしょう。わんこたんも3作目 死神永生を再読して、いろいろ考察を深めたい…!

 

原作シリーズは全5冊(+スピンオフの「三体0球状閃電」)で、2024年2月より、順次文庫化予定。お求め安くなるのは嬉しい!(管理人わんこたんはハードカバーで全冊買っちゃったけど笑)

 

↓左上の「三体」が1作目です。※画像クリックでKindleストアのページにジャンプ

 

書籍で読むのも良いですし、既読の方は気分を変えてAudibleで聴いてみるのも〇。「こんな重要セリフがあったのか!」などと、新たな発見があっておすすめです。

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同じ原作者によるSF短編の映画版が、Netflixで観られます

三体の原作著者、劉 慈欣さんによるSF短編「流浪地球」を映画化した「流転の地球」がNetflixで観られます。

太陽の爆発から逃れるため、地球に巨大なエンジンを付け太陽系を脱出することになった人類。しかし、軌道のずれによって木星衝突の危機に。人類の運命は…!?

流転の地球 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

 

この映画、迫力あるVFXとアクション、親子愛を盛り込み、中国で大ヒット。

確かに面白いんですが、アクションと感動を盛り込みまくったために、原作にあった美しい滅びの情緒・太陽系への惜別のようなものが薄れてしまい、わんこたんはちょっと不満でした。

 

SF短編集「流浪地球」にはこの他にも珠玉の短編5篇を収録。ぜひチェックしてみてくださいね

 

流浪地球
流浪地球
 

 

 

動画でNetflix版ドラマ三体の復習はいかが?

管理人わんこたんの本好きともだち、ほろろさんのYouTubeチャンネル「ほろろのドラマ追いますチャンネル」では、Netflix版ドラマ三体を解説中!

動画を見逃さないよう、気になる方はぜひチャンネル登録を!

 

劉 慈欣さんの著作をチェック

劉 慈欣さんのSF作品は三体以外も名作揃い!以下の記事で解説中です。

 

まだまだ終わらない三体ワールド。ドラマ版シーズン完走まで、一緒に楽しんでまいりましょう!

ポジティブ思考で火星から生還せよ!火星の人 原作小説の感想と解説

火星に一人残された男の、生き残りをかけた孤独な戦い。独りぼっちでもへこたれない!科学の力ととポジティブ思考で生還せよ!
アンディ・ウィアーのデビュー作、「火星の人(原作小説)」の感想を書きました。
 

 

大ヒット映画「オデッセイ」の原作小説!文庫版上下巻です。

 

火星の人(上)
火星の人(上)
 

 

「火星の人」あらすじ

有人火星探査プロジェクト「アレスミッション」。しかしその3回目のミッションは、火星の嵐の影響で着陸後数日で中止に追い込まれます。

 

その撤退作業中、嵐で吹き飛んだアンテナが刺さり、ミッションメンバーのひとり、マーク・ワトニーが吹き飛ばされる事態に。救出もできず、残りのメンバーは悲しみの中、火星から脱出。死んだものと思われていたワトニーですが、、、

 

ところがどっこい、生きていた!

火星に1人。通信は途絶。どうなるワトニー、どうするワトニー!?

 

  • 著者:アンディ ウィアー 
  • 翻訳: 小野田 和子
  • 発売:早川書房 2015/12/15
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象外

 

映画「オデッセイ」と原作「火星の人」の違いは?

「火星の人」は、2015年に映画化。邦題は「オデッセイ」です。

原作は上下巻にわたる長編。映画版では、ほとんど原作通りにストーリー展開しつつ、細かいトラブルのエピソードや計算過程をカット。テンポよくストーリーが進みます。

特に原作と映画版で違う箇所を、以下にまとめました。

 

  • 映画版では細かい科学的説明や作業シーンをカット
  • 原作にあったローバーでの移動中の砂嵐遭遇や、NASAとの通信途絶トラブルを映画では全てカット
  • ラスト、ワトニーをキャッチしたいが届かないシーン。原作では却下された案を映画版では採用。この改変はリドリースコット監督に称賛を贈りたい!
  • 映画版では、原作では描かれなかったエピローグシーンが挿入されています

気になる方はぜひ、映画版/原作両方を見比べてみてくださいね。映画版はPrime Videoで視聴することもできます。

 

また、2024年4月現在、Netflixでも配信中。

▶Netflix オデッセイ(公式)

 

主演のマット・デイモンは、ポジティブさを忘れないマーク・ワトニーを好演。普段SF小説を読まない人にもオススメしやすい、笑って感動できるエンタメ作品に仕上がっています。

 

ちなみに公開当時、火星でサバイバルに挑む主人公の様子から、日本では「火星ダッシュ村」なんて呼ばれバズっていました。

 

オデッセイ[Blu-ray]
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著者 アンディ・ウィアー氏について

「火星の人」はSF小説作家、アンディ・ウィアー氏のデビュー作。プログラマーとして働くかたわら、自身のWebサイトで「火星の人」を連載。これを2011年にKindle出版したところ大ヒットとなりました。

 

「火星の人」に引き続き、その後に執筆した長編小説「アルテミス」「プロジェクト・ヘイル・メアリー」全て映画化が決定!まさに、いま注目のSF作家のひとり。

著作を以下に並べました。

 

※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。

火星の人(上)
プロジェクト・ヘイル・メアリー(下)
火星の人(下)
アルテミス(上)
アルテミス(下)

 

「はずれなし」のアンディ・ウィアー作品。「火星の人」以外のおすすめは?

長編最新作「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は、科学思考の楽しさ、謎解きのワクワク、孤独な宇宙を照らす一筋の暖かい光がミックスされた「ネタバレ厳禁の超オモシロSF」として、日本でも大ヒット!

わんこたんも読みましたが、めちゃくちゃ良かったです。

 

プロジェクト・ヘイル・メアリー
 

 

 

火星の人 感想

「火星の人」について、わんこたんの感想をまとめました。

 

主人公、めっちゃポジティブ

アンディ・ウィアーの全作品に共通していますが、主人公の知識量が半端なくて、冷静かつポジティブなので、安心して読めます。(※アルテミスの主人公はちょっと違うかもですが)

 

まずは状況を整理し、救出までのの目標期間、使える資材と使えない資材をリストアップ。需要(酸素とか水とかカロリー)と供給のギャップを計算し、足りないものをどう確保するかを考える。

 

たった1人しかいないので。目標を決めたらもくもくと作業。宇宙飛行士だから当たり前ではありますが、冷静かつ超優秀です。読んでるこちらが、なぜか元気になってきます。

 

火星サバイバルに必要な道具・用語たち

ワトニーは有能かつポジティブなので、難しい科学用語をわかりやすく、ユーモアあふれる例えで説明してくれます。

とはいえ、いくつか「おや?」と感じる言葉もあったので、以下ですこし解説。

 

①EVA

EVA=extravehicular activity=宇宙遊泳 船外活動

一般的には宇宙服でふよふよと、船外に出て宇宙空間で活動することを指しますが、「火星の人」では有圧有酸素の滞在空間(ハブ)から外に出て、宇宙服を着て活動することを指しています。

 

②水再生器

長期間の地球外活動では水は貴重品。「火星の人」では尿などの体液を「水再生器」を使って再利用する描写がありますが、これはすでにISS(国際宇宙ステーション)でも2009年から使用されています。

参考:ISSでは尿を処理して飲料水にしているとのことですが、安心して飲めるのでしょうか? | ファン!ファン!JAXA!

 

③酸素供給器

ワトニーにとっては幸運なことに、火星には酸素供給器がありました。作中ではいとも簡単に火星の大気の二酸化炭素(CO2)から酸素(O2)を取り出していますが、この仕組みはまだ開発途上。

 

火星での実験に成功したというニュースが2021年に報じられているので、実用化される日も近いかもしれません。

参考:NASA探査車、火星で酸素の生成に成功 小さな木1本分(1/2) - CNN.co.jp

 

地球以外の星で生き延びるにはどうしても酸素が必要。

同作者の「アルテミス」は月が舞台ですが、こちらでは斜長石と呼ばれる月の石からアルミニウムと酸素を居住空間に供給するエコシステムと、その裏で暗躍するマフィアが描かれています。

 

アルテミス(上)
アルテミス(上)
 

 

最大の奇跡:ジャガイモ

ワトニー生存の最大の功績者は、やはりジャガイモ。冷蔵でよかった。冷凍だったら詰んでた。

 

映画「オデッセイ」でも有名になったジャガイモ栽培シーン。ジャガイモのカロリーは1キロあたり770キロカロリー。重量に対するカロリー比は米や小麦に劣りますが、作付面積当たりのカロリーは米や麦をしのぐ、優秀な食料。

参考:食料安全保障といも(北海道庁のWebサイトより)

 

とはいえ、火星での耕作可能面積を考えると全然足りない。ワトニーが農地に費やした面積は126m^2、だいたい学校の教室2個分。人一人が食べて、生きていくのってものすごく大変だと実感しました。

 

こうして飢えずに生きていけて、ちょっとスーパーに行けば食料が手に入るこの社会システム、すごいなあ、と、火星SFなのに変なところで感動したり。

 

都合のいい展開もあるけれど

酸素供給器があったり、たまたま冷蔵のジャガイモがあったり。都合が良すぎるシーンと言えなくもないですが、それだけの奇跡がないと生き延びられない。

 

ひたすらワトニーを殺そうとするかのような、火星の厳しい環境はリアルで恐怖を感じます。

 

プロジェクト・ヘイル・メアリーと比較して、単調さは否めず。

「火星の人」は著者デビュー作ということもあってか、おもしろいのですが展開は単調。ピンチ→試行錯誤→ピンチ脱出の連続で、後半のマンネリ感は否めません。

 

地球側の登場人物も「みんないいやつ」なので、よくいえば応援したくなりますが、悪く言えば「画一的」。

 

映画「オデッセイ」では、原作からいくつかエピソードを省いてストーリーの山場をあえて絞ったことで、物語にメリハリがつき、単調さが無くなっていた点は良かったです。

 

その後、「アルテミス」「プロジェクト・ヘイル・メアリー」と作品を重ねるにつれて物語の展開の仕方、キャラクターのバリエーションなどが進化し、より面白い作品に!

 

特に「プロジェクト・ヘイル・メアリー」序盤は謎解きミステリとしての構成をしつつ、そこからのサプライズ、さらに結末がもう最高!「火星の人」はイマイチ、、、と感じた方にこそ、ぜひ読んでほしい作品です。

 

プロジェクト・ヘイル・メアリー
 

 

あいつが活躍する!胸熱展開も

ワトニーは火星でひとりぼっち、、、ですが、火星には実は先客がいました。1997年に火星に到着したあいつが、、、

こいつがワトニーを助けてくれる展開は、小説でも映画でも本当にワクワクするシーン。ぜひ読んで(観て)みてくださいね。

 

まとめ

火星に置き去りにされたらどう生き残る?

映画化もされた話題のSF小説「火星の人」。冗談と悪態をつきまくりながらなワトニーの姿が、読む人に元気をくれる火星サバイバル冒険譚。

 

映画よりも詳しくワトニーの冒険を知りたい方あなたは、ポジティブになりたいあなたにおすすめです!

 

火星の人(上)
火星の人(上)
 

 

「火星の人」の次に読みたい!おすすめ作品と記事

  • クリムゾンの迷宮/貴志祐介
    火星(っぽい場所)で、恐怖のデスゲーム!

    わけもわからず連れてこられた場所は、、、火星?限られたアイテムと武器を奪い合う、恐怖のデスゲーム開始!


    緻密なゲーム設計に読む手がとまらなくなる、ジャパニーズホラーの傑作です。グロ表現にちょっぴり注意!

     

    クリムゾンの迷宮
    クリムゾンの迷宮
     
  • マイナス・ゼロ/広瀬正
    置き去りにされたのは、、、過去!?

    タイムマシンでやってきたのは。18年前の空襲で行方不明になった、思い出のあの人だった!

    戦前の東京。その温かさと懐かしさが心にしみる、ちょっとおかしくて不思議な、時を超える物語です。

    マイナス・ゼロ(広瀬正小説全集1)
    マイナス・ゼロ(広瀬正小説全集1)
     

    紹介記事はこちら:

    日本を代表するSF小説 マイナス・ゼロの感想と考察 - わんこたんと栞の森

  • おすすめ小説他にもいろいろ!
    「とまらない小説」あります

    読み始めたらとまらない!?寝不足注意なおすすめ小説を、以下の記事で紹介しています。

作品の感想やおすすめの本などを、ぜひコメント欄で教えてね!

三体だけじゃない 次に読みたいおすすめ劉慈欣作品を一挙解説!

「三体シリーズ」で一躍世界に名を馳せた、中国人SF小説作家の劉 慈欣さん。
でも三体だけじゃもったいない!

邦訳版の劉慈欣作品の制覇を目指す管理人、わんこたんが、劉 慈欣作品の魅力と、「三体の次に読みたい」劉 慈欣作品について、語りつくします。
 
代表作「三体シリーズ」文庫版は2024/2/21より発売中!
三体

 

 

三体シリーズは全作品「聴く読書」Audibleの聴き放題対象(2024年2月現在)

祐仙 勇さんの朗読により、各キャラの感情がダイレクトに伝わってきます。未読の方にはもちろん、シリーズ既読の方にこそ、おすすめしたいです。

特に史強の、冷徹さと頼もしさのこもったセリフは、ファン必聴!思わず聴き入ること、間違いなし。

 

※リンク先で「▶Audibleサンプル」ボタンを押下してください

他の劉 慈欣作品「超新星紀元」や「白亜紀往事」も聴き放題対象なので、登録するだけで劉 慈欣ワールドにどっぷり浸かれます。

洗濯物干しながら耳から物語にどっぷり!さいこー!

 

 

ずばり、三体の次に読みたい1冊はこれ!

わんこたん一押しはSF短編集の「流浪地球」。

どの収録作品もクオリティがえげつない「全部おもしろい短編集」になっています。

 

流浪地球
流浪地球

 

 

劉 慈欣さん どんな作家なの?

著書の後書きやインタビュー等から確認できた、劉 慈欣さんの略歴を、関連作品とともにまとめました。

 

作家デビューは1999年

1963年北京市生まれ。山西省東部の炭鉱町、陽泉市で育ちました。

華北水利水電大学の水力発電エンジニアリング学部を卒業し、発電所のコンピューターエンジニアとして働き始めます。

 

三体0【ゼロ】球状閃電では、電流測定に関わる詳しい描写がありますが、著者自身の経験が生かされているのかもしれませんね。

 

三体0【ゼロ】球状閃電
三体0【ゼロ】球状閃電
 

 

コンピューターエンジニア時代から SF 短編を書き始め、1999年の「鯨歌」を皮切りに、5作品が中国の SF 雑誌「科幻世界」に掲載。SF 作家としての道を歩み始めます。

 

なお、「鯨歌」は2021年発売の短編集「円」に収録されており、日本語で読めます。粗削りですが、大胆な発想、印象的なキャラ、そして「ハイテクとローテクの対比」というテーマ性に、劉 慈欣パワーの片鱗を感じます。

円 劉慈欣短篇集

三体の連載開始から「中国の至宝」と呼ばれるまで

中国では長らく、SFやホラー、ミステリといった作品では「文学ではない」という見方をされていましたが、その伝統を打ち破ったのが「三体」でした。

三体

 

2006年に中国のSF雑誌「科幻世界」で三体の連載を開始、2008年に同国内で単行本出版、その人気っぷりは中国国内でも社会現象に。

 

2015年に、ケン・リュウ氏による英訳版がヒューゴー賞(SFの世界的なすんごい賞)を受賞。アメリカ元大統領のオバマ氏が絶賛するなど、世界的な人気作品となり。複数の制作会社でドラマ化もスタートしています。

 

三体のドラマは2種類 観る方法をチェック!

テンセント版もNetflix版も、どちらもめちゃくちゃ良かったです

 

今やSF作品は中国国内でも文学の一大ジャンルとして確立。まさに中国のSFの歴史を塗り替えた作家、といえますね。

 

三体の次に読みたい!おすすめの劉 慈欣作品

劉 慈欣作品、最初はやっぱり三体シリーズからがおすすめですが、三体以外にも邦訳で読める名作がたくさん!

短編と長編に分けて紹介します。

 

やっぱり最初は三体から!

以下の記事で、三体シリーズの魅力をネタバレなしで紹介しています。

 

三体

 

おすすめ短編作品

2024年現在、発売中の邦訳短編集は以下3冊。劉 慈欣さんの全短編41のうち、23編がこの3冊で読めます。

 

  • 流浪地球
  • 老親介護
  • 円 劉慈欣短編集

 

流浪地球/老神介護

流浪地球
流浪地球
 

 

原著は1冊の短編集でしたが、邦訳に際し、ボリュームの都合で2冊に。

 

太陽系から脱出を図る人類の旅路を描いた表題作「流浪地球」、地球に突如現れた神様と、人類文明誕生にかかわる重大な秘密を描いた表題作「老神介護」など、壮大なテーマと、想像を超えた展開が魅力の2冊です。

 

老神介護
老神介護
 

 

収録短編はストーリーの内容を考慮して分けられており、緩やかなテーマ性があります。

 

  • 流浪地球:「宇宙への旅立ち」「既存世界からの別離」「滅び」
  • 老神介護:「出会いと別れ」「地球と人間」

2冊に分かれたことで、テーマの「差」が和音のようになって、美しい余韻に。個人的にはナイス分冊化だったと思います。

ぜひ2冊セットで読んで、壮大な劉慈欣ワールドを堪能してほしい!

 

円 劉慈欣短編集

円 劉慈欣短篇集

流浪地球老神介護は壮大な展開の作品が多一方、ですが、こちらの「円」では、「社会」「個人」というミクロな部分にフォーカスした作品が多め。

 

貧困問題や環境破壊、中国の歴史(始皇帝とか)といったトピックも盛り込まれ、SFであることを忘れるほどのリアリティがたまりません。

 

特に、収録作品の「円」は三体のワンシーンを短編用にアレンジした作品。(このアレンジの仕方がまた最高!)

 

長編の三体を読むのはハードルが高いけど、短編なら、読んでみたい。というあなたにおすすめの一冊です。

 

「流浪地球」「老神介護」⇔「円」で作品の重複はないので、その点もご安心を!

※「円」収録の「詩雲」は、「流浪地球」収録の「呑食者」の続編なので、先に「流浪地球から読むのをおすすめします。

 

劉 慈欣さんの短編作品一覧

未邦訳も含む、短編を初出の時系列順に一覧にしました。邦訳版の短編集に掲載済みのものは、カッコ書きで収録タイトルを示しています。

  • 流浪地球→(流)
  • 老神介護→(老)
  • 円 劉慈欣短編集→(円)
  • 未邦訳→(未)
  • その他は個別に記載

また、★マークはわんこたんイチ押し作品です。ひとこと感想つき。

 

  • 「中国2185」 - (未)
  • 「鲸歌」(邦題:鯨歌)1999年6月 (円)
  • 「微观尽头」 - 1999年6月 - (未)
  • 「宇宙坍缩」 - 1999年7月 - (未)
  • 「带上她的眼睛」(邦題:彼女の眼を連れて)1999年10月(老)
    ★中国では国語の教科書にも掲載されたそう。壮大で切なくてすばらしい作品なのですが、こどものうちにこれを読んだら恐くてトラウマになりそう

  • 「地火」(邦題:地火(じか))2000年2月(円)
    ★迫りくる災害のリアリティがすごい。SF版プロジェクトXのような。

  • 「流浪地球」(邦題:さまよえる地球/流浪地球)2000年7月(流)
    ★映画化もされNetflixで配信中。ひたひたと迫る絶望感と、大衆の愚かさと、かすかな希望も

  • 「乡村教师」(邦題:郷村教師)2001年1月(円)
    ★貧困にむしばまれる農村の描写、教育を守ろうとする姿に涙

  • 「微纪元」(邦題:ミクロ紀元)2001年4月(流)
    ★流浪地球のIF世界版という感じ。こちらもよき。

  • 「全频带阻塞干扰」2001年8月(未)
  • 「纤维」(邦題:繊維)2001年8月(円)
  • 「命运」 2001年11月(未)
  • 「信使」(邦題:メッセンジャー)2001年11月(円)
  • 「中国太阳」(邦題:中国太陽)2002年1月(流)
  • 「梦之海」 2002年1月(未)
  • 「朝闻道」 2002年1月(未)
  • 「混沌蝴蝶」(邦題:カオスの蝶)2002年1月(円)
  • 「天使时代」 2002年6月(未)
  • 「吞食者」(邦題:呑食者)2002年11月(流)
    ★地球侵略者との戦い。結末も好き

  • 「西洋」(邦題:西洋)2002年12月(邦訳は華語文学の新しい風 (サイノフォン)収録)
  • 「詩雲」(邦題:詩雲)2003年3月(円)※「吞食者」の続編
  • 「光荣与梦想」(邦題:栄光と夢)2003年8月(円)
  • 「地球大炮」 (邦題:地球大砲)2003年9月(老)
    ★すごかった。恐怖と絶望からの、希望の持っていき方が絶妙なのよ

  • 「思想者」 2003年12月(未)
  • 「圆圆的肥皂泡」[邦題:円円(ユエンユエン)のシャボン玉]2004年3月(円)
    ★めずらしく(?)、ハートフル

  • 「镜子」 2004年12月(未)
  • 「创世纪」2005年1月 長編『超新星纪元』からの一部抜粋(未)
  • 「赡养上帝」(邦題:神様の介護係/老神介護)2005年1月(老)
    ★子供に自分の介護を依存しないようにしよう、と決意したくなる

  • 「欢乐颂」2005年8月(未)
  • 「赡养人类」(邦題:扶養人類)2005年11月)(老)
  • 「山」(邦題:山)2006年1月(流)
  • 「2018年4月1日」(邦題:二〇一八年四月一日)2009年1月(円)
  • 「月夜」(邦題:月の光)2009年2月(円)
  • 「人生」(邦題:人生)2010年1月(円)
  • 「太原之恋」(「太原诅咒」)(邦題:呪い5・0)2010年2月(流)
    ★超おバカSF。作品に登場する劉 慈欣さん本人に注目

  • 「时间移民」 2010年4月(未)
  • 「海水高山」 - 既出短編「山」の短縮版。2014年9月(未)
  • 「圆」(邦題:円)「三体」からの一部抜粋・改編による短編 2014年12月(円)
    ★これを読んでドはまりしたわんこたん。そこから三体を読んで、はまる。

  • 「不能共存的节日」 2016年4月(未)
  • 「烧火工」(邦題:火守)2016年6月)(邦訳は物語絵本「火守」として出版
  • 「黄金原野」2018年5月(未)

 

いずれ全部邦訳されるかな?楽しみ!

 

おすすめ長編作品

三体0【ゼロ】球状閃電

三体0【ゼロ】球状閃電
三体0【ゼロ】球状閃電
 

三体0【ゼロ】球状閃電は三体シリーズ本編の前日譚として邦訳ば販売されていますが、実は物語上のつながりはほとんどありません。

共通の登場人物はいますが、三体シリーズ未読でも、まったく問題なく楽しめます。

 

量子物理学をベースに「球電」の謎にいどむ科学者たち、球電を軍事利用しようとする政府、そして「兵器」に翻弄されるひとりの女性。

 

徐々に明らかになる球電の正体と、その結末に驚かされること間違いなし!劉 慈欣さんの想像力のものすごさに、驚き、ワクワクすること、請け合いです。

 

三体0【ゼロ】球状閃電 感想はこちら

 

白亜紀往事

白亜紀往事
白亜紀往事
 

それはありえたかもしれないもうひとつの「白亜紀」。恐竜と蟻は、相互補完的に繁栄し、高度な文明を築いていました。その2つの文明が対立したとき、もたらされるものとは、、、

 

わんこたんは残念ながらまだ未読のこの作品。実は短編バージョンも存在し、短編版は「老神介護」に収録されています。(めっちゃおもしろかった)

蟻と恐竜。「人間不在」でここまでの物語をつむぐ、この発想力!

 

なお、劉 慈欣さんは蟻に思い入れがあるのでしょうか。三体シリーズの2作目「黒暗森林」では、冒頭とラストに、「蟻=無知な人類文明」に見立てた印象的なシーンが登場します。

 

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

そして、そんな黒暗森林を意識したためか、テンセントドラマ版三体では、「蟻」や「虫」を意識したオリジナルシーンがちょいちょい登場したり。

 

WOWOWで見られるテンセントドラマ版三体

見どころを以下の記事で紹介中!

 

超新星紀元

超新星紀元
超新星紀元
 

 

1999年末、超新星爆発によって発生した放射線バーストが地球に降り注ぎ、1年後に13歳以上の大人すべてが死にいたることが判明。

地球の運命はこどもたちに託された!

 

劉 慈欣さんの長編デビュー作にして、膨大なエネルギーを発散させたような、攻めに攻めた問題作。正直に言うと、かなり好みの分かれる作品です。

 

上にあらすじを書きましたが、あなたがあらすじから想像したであろうストーリーと、全く違う方向に、物語は突っ走っていきます。

 

怖いもの知らずの方、ぜひぜひチャレンジを。

超新星紀元の感想はこちら

 

日本語で読める!劉 慈欣作品の邦訳まとめ

ここまで紹介した「三体シリーズ」以外の、日本語で読める劉慈欣作品は、以下の通り。ぜひ「三体シリーズの次に読みたい本」として、チェックしてみてくださいね。

 

※書影クリックでAmazonのページにジャンプします

流浪地球
老神介護
三体0【ゼロ】球状閃電
白亜紀往事
超新星紀元

 

劉慈欣さんの新作予定は?

劉慈欣さんの長編の著作は「三体シリーズ」が最後。2024年現在、新作の発売予定はありません。

短編の執筆も(わんこたんが調べた限りでは)2018年が最後です

 

一方で、2022年の以下インタビューで、三体などとは違う物語を書こうとしている、とも述べています。

中国SF小説「流浪地球」の劉慈欣氏、宮崎駿監督や「エヴァ」「銀河英雄伝説」から影響:朝日新聞GLOBE+

 

新技術がインターネットであっという間に広がるこの時代、「新しい発想」を見つけ出すのに苦労されているそう。

わんこたんはいちファンとして新しい作品が出るのを、静かに座して待ちたいと思います。

 

既存作品の映像化も進んでいますので、まだまだ劉慈欣ワールドを堪能したいですね!

 

SFブームに沸く中国の背景

中国では三体をきっかけに空前の科学、SFブームが巻き起こります。その社会的・歴史的背景をまとめました。

 

SF小説の人気を高めた、中国の背景事情

三体のヒューゴー賞受賞以降、「中国文化を世界に知らしめる」手段として、SFは国家的にも支持されるようになりました。

国全体が「SF」「科学」「宇宙」に沸き立っているようです。

 

実は日本にもあった、SFブーム

かつて日本にも「SFブーム」があったのをご存じでしょうか。

1960-1970年代、まさにアポロ計画のさなか、アポロ11号が月面着陸を果たし、(運よくテレビ中継を見せてくれた学校では)子供たちが月に降り立つアームストロング船長にくぎ付けになっていた時代。

 

小松左京さん、星新一さん、広瀬正さん、筒井康隆さんなどの作家さんを筆頭に、多くのSF作品が出版され、ブームとなっていました。

 

日本のSFブームと中国のSFブームは似ている?

そのころの中国、毛沢東の大躍進政策の失敗による飢餓、文化大革命による知識層への迫害、、、など、「それどころではない」という状況でした。

 

改革が進み、経済が発展し、科学技術もおおきく進歩。2003年には中国で初めての有人宇宙飛行を実現させました。

 

かつて日本でも起きたような科学・宇宙開発ブームが、中国という巨大な国、今まさに起きている。このことも、劉慈欣ブーム、SFブームの原動力になっているのかもしれません。

 

劉 慈欣作品の魅力とは

わんこたんの考える、劉 慈欣さんの作品の魅力をまとめました。

 

劉慈欣作品で描かれる、歴史、農村の貧困

劉慈欣作品では、中国の問題点とでもいうべき部分のリアルな描写も特徴。

 

例えば文化大革命で多くの科学者が弾圧され、命を落とすシーン。三体では、文化大革命での弾圧と、現代パートで起こる科学者の自殺が、まるで歴史のリフレインかのように描かれます。

 

文化大革命について、中国でここまで書いて出版できるんだ!と正直驚きました。

もちろん、政治的に書けないこともあるでしょう。「三体」作中の文化大革命のシーンも中国の出版時には冒頭から中盤に移されたそうです。

 

何かと話題になる私達の隣国、中国。そこに住む人たちが何を読み、何を楽しんでいるのか、そのような目線から、三体シリーズを読むのもおもしろいですね。

 

劉 慈欣作品の特徴と魅力とは

SFらしい想像を超えたダイナミックな発想、そこに個人の感情のゆらぎ、社会思想のうねりを織り込んでいくバランスが絶妙なんです!

 

例えば

  • 三体 黒暗森林で、地球の技術発展によって三体人の侵略への恐怖感が薄れ、幸福感に溢れた人類社会
  • 流浪地球(流浪地球収録)で、「とある理由で」民衆が暴動を起こすシーン
  • 地球大砲(老神介護)で、とある巨大事業への評価が時代によって大きく変わるシーン
  • 円(劉慈欣短編集 円 収録)での、始皇帝と荊軻の関係性の変化

 

空想と現実が地続きになったような、そんな没入感が劉慈欣作品の魅力ではないかでしょうか。

 

科学技術の進化を、肯定も否定もしない。フラットで冷静な視点

進歩した科学技術が思いも寄らない災厄を引き起こす、、、

SF作品ではよくある展開。劉慈欣作品にもそのようなシーンは存在します。

白亜紀往事で、文明の技術が地球にもたらす危機のように。

 

一方で、技術の進歩で思いも寄らない幸福を人類にもたらす、そんな場面も。

科学を賛美しすぎず、かと言って警鐘を鳴らすだけでもない、あくまで物語を動かすのは人間たち。そんな冷静でフラットな視点も魅力です。

 

まとめ とにかく劉慈欣作品はおもしろい!

「三体シリーズ」で一躍世界的SF作家になった劉慈欣さん。三体シリーズ以外にも、脳汁ドバドバな面白い作品をたくさん執筆しています。

ぜひ、読んでみてくださいね。

 

※書影クリックでAmazonのページにジャンプします

流浪地球
老神介護
三体0【ゼロ】球状閃電
白亜紀往事
超新星紀元

 

劉 慈欣作品以外の、おすすめ小説

三体との対比がポイント?プロジェクト・ヘイル・メアリー

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日本を代表するSF小説 マイナス・ゼロの感想と考察

日本のタイムマシンSFを代表する小説、「マイナス・ゼロ」。単行本化から50年以上たった今なお愛される、この傑作小説の感想と思い出を語ります。
 
マイナス・ゼロ(広瀬正小説全集1)
マイナス・ゼロ(広瀬正小説全集1)
 

 

あらすじ

1945年。少年 浜田俊夫は空襲によって死ぬ間際の「先生」と、ある約束をします。

 

18年後の1963年、32歳となった俊夫が、先生との約束の場所(現・及川邸)に訪れると、空襲で行方不明になっていたはずの先生の娘、伊沢啓子さんが、当時そのままの姿で現れて、、、

戦前戦後の東京を情緒豊かに描いたタイムマシンSFの大傑作。直木賞の候補作にもなった、少しややこしくてほんのり暖かい、不思議な旅と家族の物語です。

 

  • 著者:広瀬 正
  • 発売:1965年発表、1970年単行本化 
    現在刊行されているのは2008年発売の集英社文庫の改訂新版
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象外

 

著者 広瀬正さんの作品情報

広瀬正さんは1924年生まれ。タイムトラベルを題材としたSF小説を多く手がけた、日本を代表するSF作家の1人です。1972年に残念ながら逝去。

 

2024年現在、広瀬正作品は、以下全6冊の単行本シリーズで読むことができます。「ツィス」「エロス」など、なんじゃこりゃ?というタイトルの作品もありますが、タイトルで敬遠したらもったいない面白さなのです。

 

※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。

マイナス・ゼロ(広瀬正小説全集1)
ツィス(広瀬正小説全集2)
エロス(広瀬正小説全集3)
鏡の国のアリス(広瀬正小説全集4)
T型フォード殺人事件(広瀬正小説全集5)
タイムマシンのつくり方(広瀬正小説全集6)

装丁画は、全冊ご覧のとおり和田誠さん。素朴さとノスタルジーに溢れてる!

 

マイナスゼロ 感想と考察

主人公の浜田俊夫。タイムマシンで昭和7年に到着するも、帰れなくなってしまい大慌て。しかしそこに悲壮感はいっさいなし。

 

東京のオヤブン一家はじめ、あたたかい人たちに囲まれて、ラジオやヨーヨーを作ったり、前向きに人生を歩む姿が痛快で、楽しく読めます。

 

未来の技術を過去に持ち込もうとするあたりは、今で言う「異世界転生無双もの」に通じるものがあります。

 

散りばめられた伏線にニヤニヤ

タイムマシンSFである本作。序盤から、あ、これ伏線だな、と思われる描写が立て続けに登場。

以下の伏線がどう回収されるのか?を考えながら読むのも、見どころのひとつですね。

 

  • なぜか昭和7年に存在する、32歳の俊夫にぴったりのツイード
  • タイムマシンに入れてあるお金、の中にまぎれたおもちゃの紙幣
  • 女優の小田切美子そっくりの娘、伊沢啓子さん
  • 俊夫の進学・就職を助けてくれた、匿名の援助者

 

レイ子さんと白木屋の火災

悲しい別れもありました。レイ子さんと恋愛関係になるも、彼女は白木屋デパート火事(1932年)で帰らぬ人となり。

俊夫は未来から来たのに、1932年の白木屋火事という過去のできごとを失念していたのです。この結末は変えられたはず、レイ子さんを救えたはず、と悔やむ俊夫。

 

白木屋の火事で、女性が下着を着用するようになった?

オヤブンとの会話で、火事からの救出時、ズロース(下着)を着用していなかったために、スカートの裾を気にして救助ロープから手を離して女性が亡くなった、というエピソードが語られています。

 

実際、白木屋の火災をきっかけに、日常生活での女性の下着着用の必要性等が叫ばれ、女性の下着着用につながったといわれています。
参考:東京消防庁サイト

 

一方で、レイ子とそのまま結ばれていたら、将来の俊夫の家族(〇〇家)は存在しなくてなってしまうんですよね。

 

この「マイナスゼロ」では一貫して「自分が観測して知っている未来は変えられない」ことが示唆されているので、レイ子さんの事件は、俊夫にとって変えられない運命だったのかもしれません。

 

レイ子さんは俊夫の運命に気づいていた?

レイ子さんが亡くなった後、俊夫は彼女の残したメモを見つけます。

俊夫はそのメモの意味に気が付きませんでした、そこには、浜田俊夫と及川氏、伊沢啓子と女優、小田切美子の年齢的なつながりがはっきりと書かれていました。

 

聡明なレイ子さんは俊夫の正体と運命に気づいていたのでしょう。そして自分が俊夫と結ばれる運命ではないことも、なんとなく察していたのかも。

 

まるで目の前にあるかのような、戦前の東京の姿、人々の暮らしぶり

このマイナスゼロのすごいところは、昭和7年(1932年)の東京の街並み、文化の描写がめちゃくちゃ細かくて、リアリティがあること。人々の息づかいがそのまま伝わってくるような、全く古びていない描写に驚きます。

 

この作品を書くために、著者の広瀬さんは、アサヒグラフをはじめ当時の資料を相当集めたことが、解説(星新一さんによる)からわかります。

 

一例をあげると

  • 昭和の子どもたちの娯楽。雑誌の付録で組み立てる戦艦や戦闘機、のらくろ上等兵などの連載

  • 新宿や銀座の街並み。建設中の三越デパート、縞模様の信号機

  • 本当にただの「田園」だった田園都市
    ※田園都市株式会社(現 東急)が設立されたのが1918年(大正11年)

  • 松屋デパートの水着マネキン実演販売
    ※当時のマネキンは、人形ではなく、生身のモデルだった

  • 同じく松屋デパート6階で販売されている、高級冷蔵庫やラジオ

  • 蛍光管がなく、原色のネオンサインあふれる夜の銀座

 

とにかくこの細かくていきいきとした描写を見るだけでも楽しい!マイナスゼロは1965年発表の作品ですが、今でもまったく色あせていなんです。

 

あまりにもややこしい人生になってしまった、及川家の人々。

最終的に俊夫は及川家の家主となるわけですが、ラストシーンで美子が記憶を取り戻し、その複雑な成り立ちが明らかになります。複雑すぎて初めて読んでときはすぐに理解できなかったなあ。

 

イラストにまとめてみました。(ネタバレ注意!)

読んだけどどうしてもわからなかった、、、という方のみ、どうぞご覧ください。

ここをクリックでイラストが開きます

広瀬正作 マイナスゼロの時系列と人物相関のイラスト

啓子さんが産んだ子供が、、、という、円環構造になっているのがわかります。

自分の産んだ子が自分自身、というのは下手するとかなりホラーな展開。ですが、本作ではそうはならない。ま、そんなこともあるよね。くらいのでサラッとした軽やかさが、いいですね。

 

俊夫が啓子さんに「手を出した」描写が一瞬すぎて、読み返すまでわからなかったのも、またご一興

 

唯一の謎、伊沢先生はどこからやってきたのか?

タイムマシンをこの世界に持ち込んだとされる、伊沢先生の出自についてはあまり説明がありません。

俊夫の予想では未来(それも、十進法の社会が12進法に切り替わり、言葉が全く変わってしまうほどの遠い未来)からやってきた未来人ですが、真相は不明です。

 

作中では啓子が伊沢先生の亡くなった娘さんにそっくりだったので、伊沢先生は啓子を養子にとった、と説明されています。

娘さんが亡くなったことと、伊沢先生がこの世界(昭和12年ごろ?)にやってきたのは、何か関係があるのかもしれませんね。

 

伊沢先生も驚いた?タイムトラベルの元祖小説

伊沢先生も読んでいたらしい、ウェルズの「タイム・マシン」については、こちらの記事で紹介中です。

bowbookwow.com

 

 

まとめ

ちょっと不思議で、暖かい、タイムトラベル小説の傑作「マイナスゼロ」。古い作品ですが、本当に面白いです。

ぜひ読んでみてくださいね。

 

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マイナス・ゼロ(広瀬正小説全集1)
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ハードSF短編集『海を見る人』不思議な世界と人間たちの物語

海を見る人は、小林泰三さんによるSF短編集。
あなたの想像を超える不思議な世界と、そこであり得たかもしれない人間たちの物語。その感想を書きました。
 

 

海を見る人
海を見る人
 

 

 

海を見る人 あらすじ

旅をする世界。対立する2つの国の世界。逆さまの世界。。。。

かなり不思議で、ちょっぴりホラーな世界と、そこに生きる人間たちの少し切ない物語を集めた、小林泰三ワールド全開のハードSF短編集!

 

  • 著者:小林泰三
  • 発売:早川書房 2002/5/1
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象外

 

著者 小林泰三さんについて

小林泰三(こばやしやすみ)さんはホラー、ハードSF、サスペンスを得意とする小説家です。

1995年、「玩具修理者」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞しデビュー。翌年単行本化され、ベストセラーに。

 

2020年11月に残念ながら逝去。未来からの脱出(角川ホラー文庫)が遺作となりました。

 

以下に代表作を並べました。(書影クリックでAmazonのページへ)

玩具修理者
殺人鬼にまつわる備忘録
海を見る人
アリス殺し
ティンカーベル殺し
未来からの脱出

 

当ブログでは、小林泰三さんの代表作をいくつか記事にしています。

ぜひ読んでみてくださいね。

 

小林泰三作品の記事一覧

 

 

海を見る人 感想

海を見る人 各短編の感想を書きました。

 

時計の中のレンズ

崑崙を旅する遊牧民。彼らが目指すのは「カオスの谷」を超えた先にある「楕円体世界」

彼らは「歪んだ円筒世界」を抜け出すことができるのか?

 

と、あらすじだけでも、特殊用語のオンパレード。「ぬれもの細工」やら「かたもの細工」やら、も登場し、独自の世界観に圧倒される、小林泰三ワールド全開な作品です。

 

故郷の惑星(おそらくは地球?)から、人類はどうしてやってきたのか?

という謎が謎を呼ぶ世界ですが、特に解説はなし。想像がかき立てられます。(投げっぱなし、ともいう?)

 

潰れた砂時計の真ん中にレンズがハマったような、不思議な世界。中心には太陽がわりの光柱があるようです。

 

レンズ側と砂時計側の接線に位置する山脈の名前はそれぞれ「崑崙」「須弥山」。宗教観も世界観もごた混ぜのこのネーミングも世界観もわんこたん好み。

崑崙?須弥山?
  • 崑崙(こんろん)
    仙人が住むとされる中国の伝説上の山。マンガ「封神演義」でも登場するので、聴いたことある、という方も多いかも。

  • 須弥山(しゅみせん)
    古代インドの世界観で、世界の中心にあるとされた巨大な山。この概念はそのまま仏教にも伝播されています。

    ところで、須弥山をはじめとする古代インド発祥の世界観は光瀬龍さんのSF作品「百億の昼と千億の夜」にも登場します。

    (読了)読書感想文 百億の昼と千億の夜 / 光瀬 龍


    なぜか古代インドはSFと親和性があるらしい。

 

イラストにしてみましたが、うーん、難しい。

海を見る人収録作品、時計の中のレンズの世界のイラスト

「楕円体世界」と「歪んだ円筒世界」どんな世界だろう、、、

 

ちなみに<いろもの物理学者>こと、前野昌弘氏(琉球大学 准教授)は、ご自身のwebサイトで、この世界の物理学的描写を計算で検証しています。これは強い。

いろもの物理学者のかってに解説「海を見る人」

 

後書きで小林泰三さんも、電卓片手に読んでほしいと書いてます。興味ある方はぜひ挑戦していただきたいですが、わんこたんには無理だあ。

 

独裁者の掟

対立する民主連邦と第一帝国

帝国の大使の娘、カリヤは、連邦の少年、チチルと出会う。2人は交流を深めていくが、一方で帝国の総統は民主連邦への攻撃準備をはじめていた。

 

ブラックホールからエネルギーを取り出すという奇想天外な社会システム。

その歴史とそこから生まれた2国の対立という世界設計も面白いし、「総統」と「カリヤ」の物語が繋がるミステリ的な構造も楽しいです。

 

結末も素敵。小林泰三作品としては珍しい?ちょいビターなハッピーエンドなのです。

 

天獄と地国

重力が地面→空に向かってはたらく世界。

人々は地面に穴を掘ったりへばりついたりして、時々あらわれる「空賊(パイレーツ)」に怯えながら暮らしていた。

その世界には古来から伝わる、伝説があって、、、。

 

気を抜けば真空の宇宙に真っ逆さまという奇想天外な世界での冒険物語。

物語はこの世界の真実を仄めかす形で終わりますが、好評だったようで、本作をもとにした長編小説「天獄と地国」も執筆されています。

 

天獄と地国
天獄と地国
 

 

キャッシュ

長期間の宇宙航行を可能にした人類。航行中、人工冬眠による記憶へのダメージを防ぐため、冬眠者の意識を仮想世界で生活させるシステムが作られる。

 

その仮想世界の中で探偵業を営む、「わたし」の元にやってきた無名の依頼者。依頼者が告げたのは、この世界が崩壊の危機に瀕している、という事実だった。

 

仮想世界で魔法を使えて楽しめるようになる「魔点システム」に、仮想世界の計算資源を節約するための「キャッシュシステム」。この2アイデアでここまでの話を組み上げてしまうとは恐れ入ります。

オチも含めて綺麗にまとまった作品でした。

 

母と子と渦を旋る冒険

純一郎くんはお母さんの元から離れて宇宙を飛び回ります。宇宙の秘密を調べてお母さんに伝えるために。

 

純一郎くんて誰やねん?という感じですが、人格を持った探査機の様子。探査機といっても、観測システムを搭載したメカのようでもあり、生き物のようでもある、謎の構造をしています。

 

そして、純一郎くんもお母さんも、人類らしい。何があった人類。

 

海を見る人

表題作。山の村の少年は、浜の村からやってきた少女に恋をします。山の村の祭りで、また会おう、と約束する2人ですが、山の村と浜の村では時間の流れる速度が違っているのでした。

 

浦島太郎のような世界に、SF的な骨組み、さらに恋愛を組み合わせた表題作。山の村で行われる超「光」速だんじりの部分はぜひ本場、岸和田の方に読んでもらいたい。

 

どうやらこの世界

  • 海に近いほど時間の流れが遅い
    (山の村での3日が浜の村では40分=100倍くらいの差?)
  • 海に近いほど重力が強く働く

などなど不思議な現象が起こるのですが、終盤で、この世界が◯◯のすぐ近くに存在することが明かされます。◯◯の重力で光が捻じ曲げられるので、普通の光ではなく「超光」というもので世界を見るように、人の子は進化した、らしい。

 

他にも本作では重力の影響による不思議な現象がいろいろ描写され、それも面白いのですが、それを凌駕するラストの愛(狂気)に圧倒されます。

 

量子テレポート技術によって、宇宙のあちこちに進出し、それぞれ独自に発展を始める人類文明。

ある少人数居住区にやってきた、太陽系からの艦隊。艦隊の艦長を名乗る少女は、居住区に対し一方的な通告を開始し、、、

 

最後にして、この短編集を作品として編み上げる糸のような作品。

結果と原因が逆転した世界で、最後の苺ミルフィーユがいい味出しています。

 

この「門」がきっかけとなり、「海を見る人」に登場する様々な歴史と物語がうまれた、と解釈して良いのかな?

 

なお「円」は「時計の中のレンズ」でご紹介した前野昌弘氏の物理学の講演に触発されて書いた作品、とのこと。

 

まとめ

短編集でもあり、様々な世界を紡ぐひとつの巨大な物語、でもある「海を見る人」

電卓片手にSF考察を楽しむもよし、人間ドラマに浸るもよし。

小林泰三さんらしい、少しホラーで少しミステリな、ハードSFの世界。読んだことのない方は、ぜひお試しを!

 

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