アンディ・ウィアーのデビュー作、「火星の人(原作小説)」の感想を、その映画版「オデッセイ」と比較しながら書きました。
大ヒット映画「オデッセイ」の原作小説!文庫版上下巻です。
「火星の人」あらすじ
有人火星探査プロジェクト「アレスミッション」。しかしその3回目のミッションは、火星の嵐の影響で着陸後数日で中止に追い込まれます。
その撤退作業中、嵐で吹き飛んだアンテナが刺さり、ミッションメンバーのひとり、マーク・ワトニーが吹き飛ばされる事態に。救出もできず、残りのメンバーは悲しみの中、火星から脱出。死んだものと思われていたワトニーですが、、、
ところがどっこい、生きていた!
火星に1人。通信は途絶。どうなるワトニー、どうするワトニー!?
- 著者:アンディ ウィアー
- 翻訳: 小野田 和子
- 発売:早川書房 2015/12/15
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
映画「オデッセイ」と原作「火星の人」の違いは?
「火星の人」は、2015年に映画化。邦題は「オデッセイ」です。
原作は上下巻にわたる長編。映画版では、ほとんど原作通りにストーリー展開しつつ、細かいトラブルのエピソードや計算過程をカット。テンポよくストーリーが進みます。
特に原作と映画版で違う箇所を、以下にまとめました。
- 映画版では細かい科学的説明や作業シーンをカット
- 原作にあったローバーでの移動中の砂嵐遭遇や、NASAとの通信途絶トラブルを映画では全てカット
- ラスト、ワトニーをキャッチしたいが届かないシーン。原作では却下された案を映画版では採用。この改変はリドリースコット監督に称賛を贈りたい!
- 映画版では、原作では描かれなかったエピローグシーンが挿入されています
気になる方はぜひ、映画版/原作両方を見比べてみてくださいね。映画版はPrime Videoで視聴することもできます。
また、2024年4月現在、Netflixでも配信中。
主演のマット・デイモンは、ポジティブさを忘れないマーク・ワトニーを好演。普段SF小説を読まない人にもオススメしやすい、笑って感動できるエンタメ作品に仕上がっています。
ちなみに公開当時、火星でサバイバルに挑む主人公の様子から、日本では「火星ダッシュ村」なんて呼ばれバズっていました。
著者 アンディ・ウィアー氏について
「火星の人」はSF小説作家、アンディ・ウィアー氏のデビュー作。プログラマーとして働くかたわら、自身のWebサイトで「火星の人」を連載。これを2011年にKindle出版したところ大ヒットとなりました。
「火星の人」に引き続き、その後に執筆した長編小説「アルテミス」「プロジェクト・ヘイル・メアリー」全て映画化が決定!まさに、いま注目のSF作家のひとり。
著作を以下に並べました。
※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。
「はずれなし」のアンディ・ウィアー作品。「火星の人」以外のおすすめは?
長編最新作「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は、科学思考の楽しさ、謎解きのワクワク、孤独な宇宙を照らす一筋の暖かい光がミックスされた「ネタバレ厳禁の超オモシロSF」として、日本でも大ヒット!
わんこたんも読みましたが、めちゃくちゃ良かったです。
火星の人 感想
「火星の人」について、わんこたんの感想をまとめました。
主人公、めっちゃポジティブ
アンディ・ウィアーの全作品に共通していますが、主人公の知識量が半端なくて、冷静かつポジティブなので、安心して読めます。(※アルテミスの主人公はちょっと違うかもですが)
まずは状況を整理し、救出までのの目標期間、使える資材と使えない資材をリストアップ。需要(酸素とか水とかカロリー)と供給のギャップを計算し、足りないものをどう確保するかを考える。
たった1人しかいないので。目標を決めたらもくもくと作業。宇宙飛行士だから当たり前ではありますが、冷静かつ超優秀です。読んでるこちらが、なぜか元気になってきます。
火星サバイバルに必要な道具・用語たち
ワトニーは有能かつポジティブなので、難しい科学用語をわかりやすく、ユーモアあふれる例えで説明してくれます。
とはいえ、いくつか「おや?」と感じる言葉もあったので、以下ですこし解説。
①EVA
EVA=extravehicular activity=宇宙遊泳 船外活動
一般的には宇宙服でふよふよと、船外に出て宇宙空間で活動することを指しますが、「火星の人」では有圧有酸素の滞在空間(ハブ)から外に出て、宇宙服を着て活動することを指しています。
②水再生器
長期間の地球外活動では水は貴重品。「火星の人」では尿などの体液を「水再生器」を使って再利用する描写がありますが、これはすでにISS(国際宇宙ステーション)でも2009年から使用されています。
参考:ISSでは尿を処理して飲料水にしているとのことですが、安心して飲めるのでしょうか? | ファン!ファン!JAXA!
③酸素供給器
ワトニーにとっては幸運なことに、火星には酸素供給器がありました。作中ではいとも簡単に火星の大気の二酸化炭素(CO2)から酸素(O2)を取り出していますが、この仕組みはまだ開発途上。
火星での実験に成功したというニュースが2021年に報じられているので、実用化される日も近いかもしれません。
参考:NASA探査車、火星で酸素の生成に成功 小さな木1本分(1/2) - CNN.co.jp
地球以外の星で生き延びるにはどうしても酸素が必要。
同作者の「アルテミス」は月が舞台ですが、こちらでは斜長石と呼ばれる月の石からアルミニウムと酸素を居住空間に供給するエコシステムと、その裏で暗躍するマフィアが描かれています。
最大の奇跡:ジャガイモ
ワトニー生存の最大の功績者は、やはりジャガイモ。冷蔵でよかった。冷凍だったら詰んでた。
映画「オデッセイ」でも有名になったジャガイモ栽培シーン。ジャガイモのカロリーは1キロあたり770キロカロリー。重量に対するカロリー比は米や小麦に劣りますが、作付面積当たりのカロリーは米や麦をしのぐ、優秀な食料。
参考:食料安全保障といも(北海道庁のWebサイトより)
とはいえ、火星での耕作可能面積を考えると全然足りない。ワトニーが農地に費やした面積は126m^2、だいたい学校の教室2個分。人一人が食べて、生きていくのってものすごく大変だと実感しました。
こうして飢えずに生きていけて、ちょっとスーパーに行けば食料が手に入るこの社会システム、すごいなあ、と、火星SFなのに変なところで感動したり。
都合のいい展開もあるけれど
酸素供給器があったり、たまたま冷蔵のジャガイモがあったり。都合が良すぎるシーンと言えなくもないですが、それだけの奇跡がないと生き延びられない。
ひたすらワトニーを殺そうとするかのような、火星の厳しい環境はリアルで恐怖を感じます。
プロジェクト・ヘイル・メアリーと比較して、単調さは否めず。
「火星の人」は著者デビュー作ということもあってか、おもしろいのですが展開は単調。ピンチ→試行錯誤→ピンチ脱出の連続で、後半のマンネリ感は否めません。
地球側の登場人物も「みんないいやつ」なので、よくいえば応援したくなりますが、悪く言えば「画一的」。
映画「オデッセイ」では、原作からいくつかエピソードを省いてストーリーの山場をあえて絞ったことで、物語にメリハリがつき、単調さが無くなっていた点は良かったです。
その後、「アルテミス」「プロジェクト・ヘイル・メアリー」と作品を重ねるにつれて物語の展開の仕方、キャラクターのバリエーションなどが進化し、より面白い作品に!
特に「プロジェクト・ヘイル・メアリー」序盤は謎解きミステリとしての構成をしつつ、そこからのサプライズ、さらに結末がもう最高!「火星の人」はイマイチ、、、と感じた方にこそ、ぜひ読んでほしい作品です。
あいつが活躍する!胸熱展開も
ワトニーは火星でひとりぼっち、、、ですが、火星には実は先客がいました。1997年に火星に到着したあいつが、、、
こいつがワトニーを助けてくれる展開は、小説でも映画でも本当にワクワクするシーン。ぜひ読んで(観て)みてくださいね。
まとめ
火星に置き去りにされたらどう生き残る?
映画化もされた話題のSF小説「火星の人」。冗談と悪態をつきまくりながらなワトニーの姿が、読む人に元気をくれる火星サバイバル冒険譚。
映画よりも詳しくワトニーの冒険を知りたい方あなたは、ポジティブになりたいあなたにおすすめです!
「火星の人」の次に読みたい!おすすめ作品と記事
- クリムゾンの迷宮/貴志祐介
- マイナス・ゼロ/広瀬正
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