ホラー小説「忌憶」の概要
- 著者:小林 泰三(こばやし やすみ)
- 発売:2007/3/1 角川書店
「記憶」「意識」にまつわる、悪夢のような世界に囚われた主人公らによる、3つの物語を掲載。
3つはそれぞれ別々の物語ながら、世界観は微妙にリンクしています。
生理的な嫌悪感をまとった、なのに、論理的な恐怖の世界。小林 泰三作品のファンなら、随所でニヤリとしながら楽しめること間違いなし!
著者のエッセンスが強く出た物語となっており、小林泰三作品が初めて、という方は「忌憶」の前に、著者のホラー系代表作である
を、先に読むのがオススメ!
特にデビュー作である「玩具修理者」は聴く読書「Audible」の聴き放題対象。
「小林泰三」の名前を一躍世に知らしめたこの作品。プロの声優さんの朗読術によって、包みこまれるような悪夢の世界を楽しめます。
以下に小林泰三さんの代表作を並べました。(書影クリックでAmazonのページへ)
著者 小林泰三氏について
小林泰三(こばやしやすみ)さんは1962年うまれ。ホラー、ハードSF、サスペンスを得意とする小説家です。1995年、「玩具修理者」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞しデビュー。翌年単行本化され、ベストセラーに。
2020年11月に残念ながら逝去。未来からの脱出(角川ホラー文庫)が遺作となりました。
ホラー小説「忌憶」各短編のあらすじとネタバレ感想
収録されている3編のあらすじと感想をまとめました。感想には一部ネタバレを含みます。ご注意ください。
「奇憶」
典型的ダメ人間の藤森直人。大学の単位を落とし、友人から借りた金を踏み倒し、バイトは平気でサボり、、、
徐々に荒んでいく直人の生活、しかし原因は自分ではなく、並行世界の記憶のせいだと言い張る直人。
小林泰三氏は、汚い部屋、クズ人間を描くのが本当にうまい。
汚い部屋、というのも、ただモノがあふれているだけではない、床に変な液体が滲み出てパリパリに固まっていたり、よくわかんない砂粒のようなもので家具が覆われていたり。
そういうやばい淀みにあふれた部屋、不快感を催す人間像、というものを本当に見てきたように描く。
直人の妄想は、やがて、現実世界を侵食し、、、クズ人間の末路、恐怖もありますが、どことなく哀愁を感じる作品でもあります。
「器憶」
「奇憶」で登場する藤森直人の元カノ「博美」。
その「博美」の今カレである「僕」が主人公。
ちょっとした見栄から、博美に腹話術を披露することになった僕。腹話術の習得に苦労していると、自律して喋る不思議な人形に出会います。
それが恐怖の始まりと知らずに。
小林泰三しらしい、モヤモヤ、ゾワゾワする結末。腹話術人形のセリフは発音しにくい唇音(マ行、バ行、パ行)に独特のルビが振られていますが、これがまさかの伏線でした。
ラスト、主人公は助かったのか!と思いきや、、、
博美の意識は?僕の意識は?誰が誰に乗っ取られたのか?想像の余地がひろがる、恐怖のラストをお見逃しなく。
「垝憶」
事件に巻き込まれた際の怪我が原因で、事件以降の記憶が一定時間しか保てなくなってしまった男。田村二吉。
唯一頼りになるのは、肌身離さず持っている、自身のことを書き連ねたノート。
しかし、ノートには「自信が殺人を犯した」こと、「冷凍庫に入った男性の遺体を少しずつ解体、処分している」ことが記載されていました。
「奇憶」で藤木直人の友人として登場した二吉が主人公の作品。どうやらチーマーに襲われた直人を助ける際に、大怪我を負い、記憶に障害を負ってしまったようです。
二吉はかなり常識人的思考の持ち主ですが、記憶が保持できず意味不明な行動をしてしまう姿がなんとも哀れ。
やがて部屋からノートのバックナンバーを発見した二吉。ある恐ろしい可能性に気が付きます。ノートの記録は本物なのか?二吉の人格はどこにあるのか。
実は、この作品「垝憶」を抜粋・改編した長編作品が「殺人鬼にまつわる備忘録」。こちらに登場する二吉は、殺人鬼と対峙する正義の人間として描かれています。
冷凍庫の遺体の男性「夏生」は、女性として、生きた姿で登場。
2作品の二吉は同一時間軸の存在なのか、あるいは直人の提唱する並行世界の別の二吉なのか?2作品を比較して読むのも面白いですよ。
まとめ
小林泰三氏らしい、思考の限界に挑むようなホラー小説。「忌憶」
初心者向け、とはいいがたいですが、サクッと楽しめるホラー短編として、楽しめるでしょう。Kindle版は500円以下で購入できますので、(2024年2月現在)ぜひ読んで見てくださいね。
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