心理戦にひきこまれる、2度読み必至のサイコ・ミステリー!十戒/夕木春央の感想と解説を書きました。
十戒 あらすじ
リゾート開発の視察ため、孤島の別荘を訪れた9人。しかし島内はテロリストに利用され、大量の爆弾が残されていた。
そんななか、不動産会社の社員が殺され、犯人からは「十戒」が届く。
「殺人犯を探してはならない」ことを強制された、8人の運命は、、、
- 著者:夕木春央
- 発売:講談社 2023/8/9
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
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>特設サイトはこちら:『十戒』読者専用ネタバレ解説
「十戒」著者 夕木春央さんについて
2019年「絞首商会の後継人(出版時には「絞首商會」に改題)」で第60回メフィスト賞を受賞し、デビュー。
「方舟」と、それに続く十戒のヒットで、今大注目のミステリー作家さんです。
以下に著作を並べました。※書影クリックでAmazonのページにジャンプします。
方舟→十戒と続けて読んで、驚きとニヤニヤがとまらない!
十戒のネタバレあり感想
十戒はサイコスリラーとしての構成が本当に秀逸!最後まで読むと、これまで見てきたストーリーの意味合いが全く変わって、ゾワッとすること間違いなしです。
以下、十戒の読了を前提とした感想を書いています。未読の方はご遠慮ください。
十戒の登場人物 相関図
- 大室里英(わたし)
本作の1人称視点を担当する主人公。大室家の末っ子で芸大志望だが、二浪中。 - 大室脩造 里英の伯父。故人。和歌山県の白浜から沖に5kmの枝内島および島内の不動産を所有していたが、急な交通事故で亡くなる。
- 大室
里英の父。兄、脩造の死後、枝内島リゾート化計画をもちかけられる。 - 沢村 日陽観光開発社員で枝内島および大室脩造の担当者。脩造が亡くなったことで、里英の父に、枝内島のリゾート化計画をもちかける。
- 綾川 日陽観光開発の研修社員
- 草下 草下工務店 社長
- 野村 草下工務店 設計士
- 藤原 羽瀬蔵不動産
- 小山内 羽瀬蔵不動産
- 矢野口 亡くなった大室脩造の友人。所持品にどことなく成金趣味を感じる男
大室里英の視点から見た物語
十戒は、主人公 大室 里英の一人称で物語が進みますが、ラストで里英が、事件発生当初から■■■だったことが明かされます。
つまり、ここまで里英が語ってきた「犯人」という言葉は「〇〇さん」に、「〇〇さん」という言葉は「犯人」に置き換えられるということ。
里英がずっと、読者の想像とは違う感情で事件と対峙していたことが明らかになる、という仕掛け。すべてを知ってから読み直すと、里英の恐怖がひしひしと伝わってくる構成はさすが。
単なる里英視点のサイコホラーで終わらずに、伯父との約束と、犯人との約束を重ね合わせるエンディングも、美しかったです。
最後まで読むと意味がわかる!実は重要だったシーンを解説
読み返すと気が付くあれこれを。ネタバレにつながる箇所は伏字にしています。
あたりを見回す目つきも、勝手を知っているような様子である。Kindle版37ページ
以前からこの島を利用していた■■■が、9人に紛れ込んでいました。勝手知ったる様子が、ちゃんと書かれていましたね。
もう暗いし、今からどうにか出来るって訳でもないでしょ?どうせ Kindle版63ページ
島でみつかった爆弾をそのままに、警察も呼ばないまま、一泊するという流れになってしまったのは、この発言のせい。
○○に訊きたいことがあったのだけれど、頭がぼんやりして、考えが纏まらなかった。Kindle版 74ページ
2日目の朝を迎えた里英のモノローグ。そりゃ聞きたくもなる。あんなものを持って部屋に入ってきたのだから。
ある意味里英の運命を決定づけたシーン。ここでもし聞いていたら、どうなっていたのでしょうか……
〇〇さんは、殺されたのだ。誰に?それは―― Kindle版76ページ
1人目の死体を発見した直後の里英のモノローグ。すごい、こんなあからさまに、書かれていたなんて。でも気づけなかったなあ。
精一杯冷静な表情をつくって、○○さんを安心させるよう努めた。 Kindle版81ページ
1回目と2回目で読み取れる意味が全然違う文章ナンバーワン。
一見、異常な事態にも冷静にふるまおうとする里英の強さを感じるセリフに見えますが、再読すると、殺される恐怖に押しつぶされそうになりながらの発言だったことがわかります。
この時間に、犯人は起爆装置の操作を行ったのだろうか? 犯人以外の誰もが気になっているようだったけれども、もちろん、詮索はしない。Kindle版86ページ
詮索しない。そんなこと、恐ろしくてできるはずもない。ここも再読すると印象がかなり変わるシーンでした。
「疑問があった時、犯人に返事を貰えた方がいいってことですよね」Kindle版 88ページ
お客様の要望を取り入れて改善案を提案する。すばらしいホスピタリティに脱帽です。
犯人には、この方法に不服はないはずである。Kindle版90ページ
里英のモノローグ。不服はないはずである。という断定口調はよくよく考えれば不自然でした。誰が犯人だか分かっていなかったら、こんな断定はできないはず。
「〇〇さんは、ずっと隣で寝てた。だから、○○さんが犯人じゃないっていうのは間違いないよ」 Kindle版109ページ
里英の運命を決定づけたセリフその2。ただのアリバイ証言のようで、ここで大きくストーリーが動いていました。構成に、ただただ脱帽です。
反転する表紙がいい!
十戒の表紙は、青い海原に枝打ち島がポツンと浮かんでいるという意匠。
前作、方舟と比べるとややシンプルです。が、特筆すべきはその配色。島の部分が真っ黒に塗られていて、海に浮かんでいる島、というよりは、海にぽっかり空いた真っ黒な穴に見えるという。
この色調、立体感の反転は、ラストにひっくり返る本作のストーリーを暗示しているのかもしれません、深読みしすぎかな!?
方舟との関係性は
ネタバレになるのでここには書けません。が、方舟と十戒はセットで読むのがおすすめ。十戒は読んだけど方舟は未読で……というあなた。
どこかでネタバレを見る前におすすめです!
\方舟 未読のあなたはぜひ/
犯人が最高に魅力的なので続編に期待しちゃう件
おそらく方舟の読者であれば、十戒の途中で〇〇さんの正体に気づいた人も多いでしょう。(以下、Zと呼称)
方舟で登場したZは、生存できるのが1人か2人という状況で、自分の生存のために躊躇なく他者を切り捨てる冷静さと、判断の早さを読者に見せつけました。
一方、十戒では、無駄な殺しはしない。できるだけ約束は守る。というZなりの「芯」の輪郭がよりくっきりしていたと思います。
Zとしては、全員爆殺、自分だけ逃げだすこともできたはずですが、そうはしなかったんですよね。
(もっとも、全員爆殺だと事件として目立ってしまい、今後のZの生活に影響するから、という打算があったのかもしれませんが。)
方舟の主人公「僕」はZの期待に応えられませんでした。十戒の里英は、犯人にとって初めて「期待を裏切らなかった人」だったのかもしれません。
里英をはげましたり、時にはたしなめるなど、意外にも保護者気質があるのもおもしろかったり。
わんこたんは方舟、十戒と2冊読んで、Zの虜になっちゃいました。ラストで躊躇なく開錠ボタンをタップするところも、かっこよすぎる。Zの内面をもっと知りたい。Zの1人称視点のミステリーも読みたいなあ。なんて。期待しすぎ?
最後に連絡先を交換しているのが、気になりすぎる!
ミステリーとしてはツッコミどころも
まず1番気になるのは、外部犯の可能性にほとんど触れられていない点。
テロリストのアジトとして使われ、最近人が居住していた形跡すらあるのに、島のどこかに9人以外の誰かが潜んでいる可能性に、誰も触れないのは不自然。何か外部犯を否定する材料は欲しかったです。
また、みんなが犯人の指示に律儀に従いすぎるのもやや不自然でした。現実だったら、無視して警察に連絡しようとする人が1人くらいいても、おかしくない。というか、指示があまりにも多くて細かい(なにせ10個もある)ので、うっかり破ってしまいそう。
最後に犯人からきた指示文も長すぎて、理解するのがちょっと大変でした。
また、石と貝殻を使ってこっくりさんをするシーン。要所要所で犯人に伺いをたてるわけですが、犯人が期待するシーンでこっくりさんをしてくれるかわからないわけで、これもだいぶ綱渡りな部分だったかと思います。
もちろん、急遽必要になった犯罪なので、あちこちにボロがあるのは致し方ないかもしれません。犯人もその時の心労を、疲れた、緊張したなどと吐露していました。
方舟はその点、地下なので外部犯の存在は否定できるし、指示文を使って犯人以外をコントロールすることなく、シンプルな構成だったのはよかったです。
十戒の次に読みたい!オススメ作品
十戒のような、「犯人に引き込まれるミステリー」や「孤島のミステリ」やをご紹介します。
おすすめ1 爆弾/呉勝弘
爆破を予告する、スズキタゴサクの不気味な言動に、警察も読者も引きづり込まれます。Audible(朗読版)だと、不気味さがより際立つので、ぜひお試しを
おすすめ2 そして誰もいなくなった
イギリスの孤島の別荘に呼び出された10人。
童謡をなぞるように一人ずつ殺されて、、、
「孤島のミステリー」発祥ともいえる歴史的傑作です。
以下の記事では、「そして誰もいなくなった」をはじめとするクローズドサークルミステリーについて紹介しています。
▶︎最初に読みたい!クローズドサークルな小説 おすすめ3冊 - わんこたんと栞の森
読み始めたらとまらない作品。他にもいろいろ!