あらすじ
タイトルだけ読むと密室ミステリーのようですが、決してミステリー短編集ではありません。
小林泰三初心者には絶対おすすめできない、「開いた口が塞がらない」SF短編集!
各話のあらすじは記事後半の「感想」からどうぞ。
- 著者:小林 泰三(こばやし やすみ)
- 発売:早川書房 2013/6/15
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 小林泰三さんについて
小林泰三(こばやしやすみ)さんはホラー、ハードSF、サスペンスを得意とする小説家です。
1995年、「玩具修理者」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞しデビュー。翌年単行本化され、ベストセラーに。
2020年11月に残念ながら逝去。未来からの脱出(角川ホラー文庫)が遺作となりました。
以下に代表作を並べました。(書影クリックでAmazonのページへ)
当ブログでは、小林泰三さんの代表作をいくつか記事にしています。ぜひ読んでみてくださいね。
- 記憶喪失者VS殺人鬼!勝ち目はあるのか?読みはじめたら止まらないノンストップサスペンス「殺人鬼にまつわる備忘録」
感想はこちら。
▶殺人鬼にまつわる備忘録/小林泰三 あらすじとネタバレ感想
- 小林泰三さんのデビュー作にして、一番最初に読みたい度No1作品!
(わんこたん調べ)
「玩具修理者」
感想はこちら。
- ふしぎな世界と人間。傑作ぞろいのハードSF短編集「海を見る人」
感想はこちら。
▶ハードSF短編集 海を見る人 不思議な世界と人間たちの物語 - わんこたんと栞の森
見晴らしのいい密室 各話のあらすじと感想・解説
1話目から小林ワールド全開!この剛速球の大暴投にあなたはついてこられるか!?
見晴らしのいい密室
どんな謎もたちどころに解いてしまう、探偵Σ(シグマ)。彼の元には警察からの捜査協力依頼がひっきりなし。
この日、彼の元に舞い込んだのは、出入りすらままならない核シェルターの中で胴体を切断された遺体の謎。果たしてΣは謎を解けるのか、、、
多くの読者を1話目からふるい落とす、驚天動地のミステリー、いやバカミスかな、、、どうか読み終わっても本書を壁にぶん投げることのないよう。まだ6話残っておりますので!
目を擦る女
引っ越しの挨拶のため隣の部屋を訪れた操子。部屋の住人の不気味な女は、なぜか「自分は眠っている」と言い張るのだが、、、
小林泰三さんらしい、不気味さと湿っぽさ全開のホラーSF。この世界は現実か?それとも誰かの夢なのか?
目を擦ることで2つの世界が入り混じるシーンが印象的でした。
探偵助手
作中に現れるQRコードから音声を聴き、謎を解く。その名も「きこえる」という新感覚のミステリーが2023年に出版されました。(著者はあの道尾秀介さん)
が、まさかその10年以上前に小林泰三先生がQRコードミステリーを生み出していたとは。しかも初出は「数学セミナー」という小説に関係ない雑誌。どういうことなの。
イラスト風のQRコードを読み取ると、(身も蓋もない)真実が明らかに!果たして心を読める探偵助手の秘密とは……?
実は記事を書くために8年ぶりに再読したところ、私のandroidスマホやiPad miniではQRコードが文字化けして読み取れないことが発覚。悲しすぎる。
以下のサイトでは読み込めたので、どうぞご活用ください。
どうしても読めなくてお困りの方は、コメント欄でご連絡いただけたらなんとかします!笑
忘却の侵略
突如増え始めた、通り魔のニュース。僕はそれを人類に対する侵略者の攻撃と考えている。
そんななか、夕暮れの校舎で僕と裕子は何者かに襲われて……
僕の妄想(?)から、いきなり裕子との痴話げんか、からいきなりの襲撃。唐突な場面展開が連続する上に、敵は「相手の記憶を消す」ので、読み手としてはかなり混乱する一作。
消える記憶、なぜかビデオファイルをなんども削除する僕、増える手のひらの傷。
波動関数の収束と発散を下敷きに描き出される、量子力学的な敵。デビュー作「酔歩する男(玩具修理者収録)」をほうふつとさせるような、これぞ小林泰三SF!とファンとして拍手したくなる一作です。
初めて読んだときはわけわかんなかったけどね
未公開実験
丸鋸遁吉(まるのこ とんきち)は怒っていた。
「ターイムマスィーーン」を発明して、何度も歴史を改変しているのに、友人3人がちっとも理解してくれないからだ。
今日こそ「ターイムマスィーーン」の偉大さを知らしめててやると、丸鋸は3人を呼び出して実演を始めるのだが……
シミュレーション仮説、をベースにしたタイムマシン短編ですが、丸鋸と3人のアホアホすぎる会話劇のせいで全く頭に入ってきません。なんなんだこの本は。
私たちの生きているこの世界は、実は丸ごとシュミレーション空間である、という仮設。
シュミレーション内にいる人物は、その世界がシュミレーションかどうかを認識できない、と考えられています。
魏志倭人伝を改変して邪馬台国の場所を詳細不明にしてやった、などと豪語する丸鋸ですが、友人3人はピンと来ない様子。
もう一度歴史を変えてやる、と過去に出発しようとする丸鋸を待ち受ける、衝撃のオチ。ギャグみたいな展開から、この結末は、さすがすぎる。
ところで、「ターイムマスィーーン」と言いながら両手で奇妙なポーズを決める必要があるのですが、どんなポーズかは不明。読者の想像で補いましょう。
みんなでポーズを考えよう!
囚人の両刀論法
とある理由で地球を追放されたイデアルはアケルナル系の宇宙人に保護される。アケルナル人の思想に、地球を救うヒントがある、と気づいたイデアルは、アケルナルの宇宙船で地球への帰還を目指しますが、、、
タイトルにある「囚人の両刀論法」は、一般的には「囚人のジレンマ」とよばれ、ゲーム理論を説明する代表的なモデルとして有名です。
参考記事▶囚人のジレンマとは?ゲーム理論の代表例を「パレート最適」と「ナッシュ均衡」とともに解説|ferret
意思疎通のできない2者が、各人にとって最適な選択肢を選ぼうとすると、一番合理的な選択を逃してしまう、というのがこの理論。
意思疎通のできない2者というのを、宇宙の遠く離れた星に住む、2つの宇宙人にあてはめたらどうなるか?というのがストーリーの核となります。
この構造、実は今大ヒットしているSF小説「三体/劉 慈欣」とよく似ておりまして。
「囚人のジレンマ」理論は三体シリーズ2作目「黒暗森林」の鍵に。
また、地球を追放された人間が宇宙人に拾われる、という展開は三体シリーズ3作目「死神永生」を想起させられます。
※三体シリーズと囚人の両刀論法の出版順は以下の通り
- 三体シリーズ 1作目「三体」 2008年 中国で出版
- 三体シリーズ 2作目「黒暗森林」 2008年 中国で出版
- 囚人の両刀論法 『S-Fマガジン』2010年2月号 初出
- 三体シリーズ 3作目「死神永生」 2010年11月 中国で出版
\\「三体」 2月に文庫版になりました//
決して、パクリだとかをいいたいわけではありません。
同じ時期に2つの国のSF作家が、同じアイデアをベースにこれだけテイストの違う作品を生み出す奇跡に、管理人わんこたん。めちゃくちゃ感動。
小林泰三さんも劉 慈欣さんもすごいなあ。日本SF界は惜しい人を亡くしたんだなあ。と、しみじみ思わされます。
ちなみに、囚人の両刀論法に登場する「ダイソン球」ですが、同じく小林泰三さん作品の「時計の中のレンズ(海を見る人)」や、S.バクスターの「タイム・シップ」にも登場します。
ダイソン球は進化した文明を象徴する、SFの必須アイテムですね。
予め決定されている明日
算盤人(そろばんびと)のケムロは、算盤玉を弾いてひたすら計算を繰り返す、過酷な仕事を強いられていた。
そんななか、電子計算機の存在を知ったケムロ。この機械さえあれば、自分はこの状況から脱出できる!電子計算機をなんとか使用して状況を脱しようと、ケムロは一計を案じるのだが……
ケムロの正体が、そして「予め決定されている明日」というタイトルの意味が徐々に明らかになる展開がおもしろい。ケムロのいる世界には3次元ではなくω次元で、「電子」が存在しないとのこと。いったいどんな世界なのでしょう?
次に読みたいおすすめ作品
「見晴らしのいい密室」の次に読みたいおすすめ書籍をまとめました。
小林泰三作品にも通じるハードSFな雰囲気を下敷きにしつつ、人間や歴史・社会といった要素にも触れているのが、劉 慈欣作品の特徴。
記事中で紹介した「三体」が有名ですが、短編集もめちゃくちゃ面白いので、ぜひ読んでみて。
以下の記事では「未公開実験」のような傑作タイムトラベル作品を紹介中。
▶時をかける!タイムトラベルSFな オススメ名作小説8選 - わんこたんと栞の森
管理人わんこたんのイチ押しは「マイナス・ゼロ」。昭和ノスタルジーなタイム・トラベルをどうぞお楽しみください。
感想記事はこちら▶︎ 日本を代表するSF小説 マイナス・ゼロの感想と考察 - わんこたんと栞の森