年代も、背景もバラバラな、定時制高校の生徒たち。一度は挫折を経験しながらも、学校に通うことを諦められない彼らが、教室に火星を作り出す!?
直木賞受賞で話題となった伊予原新による青春科学小説、宙わたる教室の感想を書きました。ドラマ版の感想もあわせてどうぞ。
どの章も、泣かせるよお
宙わたる教室 あらすじ
都立東新宿高校 定時制課程。さまざまな事情を抱えた生徒たちが通う、「夜の高校」に、赴任した理科教師の藤竹。
藤竹は、年代も背景もバラバラな生徒を集め科学部を結成。果たして「火星のクレーター」は再現できるのか?
NHKでドラマ化もされた、今いちばん熱くなれる、青春科学小説!
- 著者:伊与原 新 → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:文藝春秋 2023/10/20
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象
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管理人わんこたんは洗濯物干しながらの読書に愛用中。
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著者 伊与原 新氏について
大阪府吹田市生まれ。
神戸大学理学部地球科学科卒、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。専攻は地球惑星科学という、小説家としては異色の経歴ながら、平成22年に お台場アイランドベイビー で横溝正史ミステリ大賞を受賞してデビュー。
2025年1月には、第172回直木賞を 藍を継ぐ海 で受賞し、話題となりました。
管理人わんこたんは、宙わたる教室が初めての伊予原作品でしたが、めちゃくちゃ良かったので、他の作品も読んでいきたい!
以下に著者の作品の一部をご紹介。※書影クリックでAmazonのページにジャンプ
宙わたる教室 感想と、ドラマ版との違い
日本地球惑星科学連合2017年大会、高校生によるポスター発表で優秀賞を獲得した、大阪府立大手前高等学校定時制課程と、大阪府立春日丘高等学校定時制課程の研究をきっかけに生まれた、宙わたる教室。
全7章ですが、各章で視点(一人称)が変わり、それぞれ別のキャラクターが掘り下げられていくので、短編集的な楽しさもあります。
そしてどの章もめちゃくちゃ泣かせるんだなこれが。
各章の見どころと感想を、ドラマ版との違いも含めて書きました。
第一章 夜八時の青空教室
科学部部長となる柳田岳人のメインエピソード。
大麻とかタバコとか、ダメ人間の象徴なのかもしれない。けど、これらがきっかけで藤竹は岳人の才能に気づき、岳人は科学部に興味をもつんですよね。
他の章でもそうですが、宙わたる教室は、各キャラクターを象徴するアイテムを否定せず、前向きに転換するシーンがたくさんあって、心がほっとします。
自動的にはわからない
とにかく手を動かす
このなにげない第一章での藤竹先生のセリフが、最終章でまた登場しますが、これがまたいいんだよなあ。
- ドラマ版でも教室で青空を作りますが、原作ではさらに雲を作ります。ドラマ版でカットされたのは、尺の都合なのか、タバコの煙をアレするのがだめだったのか……
他にもドラマ版ではカットされている実験シーンがあるので、ぜひ原作も読んでみてほしい! - ドラマ版では、第一話から英語教師の木内先生(陽気!)と佐久間先生が登場。木内先生のひとことで、岳人の「青空」への興味に藤竹先生が気づくってのが、良演出でした。
第二章 雲と火山のレシピ
科学部メンバー、越川アンジェラのメインエピソード。
まずタイトルが童話みたいでいいのよ。雲と火山という雄大な存在。それが、こどもの頃に学校に行きたくても行けず、大人になって飲食店を営むアンジェラの人生と結びつく、これまた泣かせる章です。
アンジェラみたいなオーバーステイの子供に出会ったら、支援の窓口につなげられる大人になりたい。
【支援に関する情報】オーバーステイなどビザ(在留資格)のない子どもに出会ったら
- ドラマ版では、藤竹先生がアンジェラの良さを、雲を生み出す対流になぞらえて話すオリジナルシーンがあって、グッときます
- 全日制の生徒の筆箱の盗難を定時制生徒のせいにされた結果、アンジェラは退学の危機に。
怒った岳人が昼間の全日制の校庭に怒鳴り込むシーンもドラマ版オリジナルです。これがきっかけで、盗難事件は急展開を見せ……!?
原作で登場する、お味噌汁の対流セルの動画がありました。お味噌汁のモワモワが細胞にみえて、ちょっとキモイのは、私だけじゃなかったのかあ。
第三章 オポチュニティの轍
科学部メンバー、名取 佳純のメインエピソード。佳純は保健室登校の定時制1年生です。佳純の書いた、ノートの記録に、藤竹先生が目を止めて……
どの章も最高なんですが、第三章は特に大好き。
読書が好きで、火星の人や、星を継ぐものを読む佳純。管理人わんこたんも大好きな作品たちなので、嬉しかったです。
紹介記事はこちら▶ポジティブ思考で火星から生還せよ!火星の人 原作小説の感想と解説 - わんこたんと栞の森
- 星を継ぐものは、月面で発見された「宇宙服を着た5万年前の遺体」の謎を探るSFミステリー小説。科学と理論で謎を解き、壮大な物語を浮かび上がらせていくその様子は、科学部に通じるものがあって、エモいのです。佳純の言う通り、最初はちょっと読みづらいけどねw
紹介記事はこちら▶謎の死体 チャーリーの正体は?星を継ぐもの 感想 - わんこたんと栞の森
- 夏への扉は、時間旅行を題材にした古典的名作。今の時代に読むと、ジェンダー感など若干古い表現もありますが、発想がすごいんです。佳純はこれをきっかけにSF小説にはまったようです。
佳純にはリストカットの跡がありますが、これを「轍」と表現する。佳純のこれまでの歩みを肯定する、優しい表現に涙。
一方で、三章は「全ての生徒は救えない」。という現実を突きつけられる、暗い章でもあるんですよね。
自分を救おうとしている人間しか、私は手助けできない。
上記は養護教諭の佐久間先生のセリフ。学校にはなんだってある。そこからどうがんばるかは自分次第、という、藤竹先生の思いと通じるものがあります。
- 佳純の保健室仲間(?)松谷真耶の、その後についてフォローが入り、原作よりも、救いのある内容になっています。
- 「あんた、このままだと人生詰むよ」そう冷たく言い放つ佳純の姉ですが、ドラマ版ではその後の姉妹の関係性に進展が……!?
火星のクレーターが、他の天体のクレーターと違うことに気づく佳純の観察力がすごい。結果的に、科学部の「研究テーマ決め」に重要な役割を果たします。
第四章 金の卵の衝突実験
科学部メンバー、長嶺 昭三のメインエピソード。
金の卵とは、戦後に高度経済成長を支えた若年労働者を指す言葉。
彼らはいわゆる団塊の世代の一部でもあり、その中には、高校に進学できず悔しい思いをした人たちも多く存在しました。(わんこたん、宙わたる教室を読むまで、金の卵とか、集団就職とか、知りませんでした)
クラスで「長老」と呼ばれる長嶺もその1人。
授業中に何度も質問を繰り返す長嶺。勉強の妨げになると、他の若いクラスメイトと対立してしまいますが……
もうね、長嶺の奥さんのエピソードで涙腺崩壊よ。第三章で涙は涸れはてたと思ったのに、まだ搾り取ってくんのよw
団塊の世代のことを、高度経済成長期を謳歌した老害、だなんて言う人もいるけどさ、これ読んだらそんなこと言えないよ……
- 長嶺が若い世代とクラスで対立したとき、原作では英語の木内先生が、とあるメッセージを黒板に書くんですが、ドラマ版ではこのシーンがなくなってました。ちょい残念。
- ドラマ版では、長嶺さんの奥さんが冒頭で登場しないので、誰が病気で入院しているのか、後から判明する構造になっています。この演出、良かったなあ。
- ドラマ版では、とある施設に入っていく岳人を長嶺が目撃。そこで長嶺が見たものは……
第5章 コンピューター室の火星
丹羽 要のメインエピソード。
要は全日制のコンピューター部の部長。コンピューター用の部屋を科学部に貸すことに、要は難色を示しますが、科学部の奮闘する姿は要に影響を与えはじめ……
要には、不登校の弟がいますが、岳人の言葉で、要は弟の気持ちをに対する見方を改めます。
辛かったら学校に行かなくてもいい、学校に行かなくても、通信制でも、不登校でも勉強はできる。
だけど……やっぱり学校でしか得られないなにかがある。それを取り戻すのに、遅すぎるなんてことはない。そんな暖かいメッセージを感じる章です。うん、やっぱり泣いた。
- 情報オリンピックにむけた要の練習の様子が、ドラマ版だとより詳しく。めちゃくちゃ難しそうな問題を解いてます。すごーい
- 幼い頃の、要くんと弟の様子が、ドラマ版だとまた泣かせるのよ〜
第6章 恐竜少年の仮説
第6章は満を持して(?)藤竹先生の章。
JAXAの旧友のもとを訪ねる藤竹先生。そして明らかになる藤竹先生の「実験」目的とは。
藤竹先生の「実験」は、生徒をモルモット扱いしているといわれても、仕方がないのかもしれない。(佳純の指摘のとおり、実験というよりも、藤竹先生の個人的な願望を試している、といった方が正確かもですが)
でも教育って、試してみないとわからない、のも事実。いろんな指導を試して、今後のよりよい教育方法を模索する。
生徒にとっては迷惑かもしれないけれど、適切な教育方法は、実験しないとわからないよね。
- やっぱりドラマ版だと、実験の様子が映像で見られて感動!
- 原作だと、実験設備まわりは長嶺さんがひとりで担当していましたが、ドラマ版では岳人も長嶺さんの工場で作業していて、なんだかほっこり。
- ドラマ版ではプレゼン練習に、科学部以外のメンバーも協力し……!?
ちなみに、実験で登場する二層エジェクタ・クレーターは、以下の記事の図5の(d)実物を観ることができます。
第7章 教室は宇宙をわたる
人生こそ、自動的にはわからない
世界の扉などというのは、多分ありません。入った部屋で偶然に誰かと出会い、あれこれ手を動かしてみて、次の扉をえいやと選ぶだけです。
この藤竹先生のセリフ、冒頭で連立方程式のテストを返却する時の言葉をリフレインしているんですよね。えいやっと飛び込む、あれこれ手を動かす。
簡単なように見えて、誰にでもできることではない。でも、誰にでもチャンスはある。勇気が出て、気持ちが引き締まるセリフでした。
学会発表の最後「今後は太陽系の他の天体の重力も作り出し、様々な衝突実験を行ってみたい」と締めていましたが、その後のラストシーンで、岳人が金星を眺めているんですよね。次はそっちの天体にいくぞ、宇宙を渡るぞ、という未来を想像させられます。
海浜幕張駅から発表の行われたメッセへの道のりには歩道橋がいくつかあるんですが、岳人もこのどこかから、ラストシーンの夕焼けと金星を見上げたのかなあ。
原作も、ドラマ版もどちらも良かった!
宙わたる教室、原作は全7章なのに対し、NHKドラマ版は全10話。
原作ではちょい役だったり、少ししか触れられていないエピソードを、ドラマ版ではいい感じに膨らませていました。(ドラマ版はアマプラで視聴可能です。)
- あの登場人物にかわいいお子さんがいたり!?
- あの教授、この教授の確執が、より細かく描かれたり!?
- JAXAの相澤さんが、プレッシャーでヒイヒイ言ってたり!?
- 三浦や朴とのあれこれも、フォローされていたり!?
とくに、朴くんは原作でも印象的だったのに、終盤の動向が不明だったので、ドラマ版ではフォローしてくれて嬉しかった!
DVDは2025年6月27日に発売。NHKのサイトで購入すると、なにやら怪しげなキャラカードがついてくるようです笑
ラストシーン、藤竹先生と岳人の会話シーン。小説版とドラマ版でちょっと違うんですよね。個人的には、ドラマ版の方が、岳人の成長が感じられて好きでした。
宙わたる教室の次に読みたい おすすめ作品
人生の思いがけないひとかけらが、クイズの答えにつながっていたり、科学の力で地球を救ったり……
そんなオススメ作品を紹介します。
君のクイズ /小川 哲
宙わたる教室では、アンジェラの経験が意外な部分で科学部を助けますが、君のクイズでは、経験がクイズを解く鍵に!?
クイズ大会の決勝で、問題文の読み上げ前に回答した対戦相手の謎。そこには、今まで歩んできた人生の道のりが隠れていて……読めば、ちょっとだけ自分を好きになれるかも!
感想記事はこちら▶︎きっと人生が好きになる 君のクイズ 感想 - わんこたんと栞の森
プロジェクト・ヘイル・メアリー /アンディ ウィアー
宙わたる教室で佳純が愛読していた、火星の人 の著者の最新作。
記憶なし、仲間なし、孤独な空間で一人目覚めた男の運命は!?とにかくネタバレなしで読んでほしい、大傑作です。2026年に映画公開予定!
感想記事はこちら▶︎文庫化はいつ?映画化も?プロジェクト・ヘイル・メアリー イラスト付き感想と解説 - わんこたんと栞の森
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