先祖を探る探偵のおはなし……それっておもしろいの?
何気なく読んだ先祖探偵/新川帆立 でしたが、自分のルーツを見つめなおすキャラクターへの優しい視点と、先祖への愛とほろ苦さに溢れた、暖かく切ない物語に心打たれました。
Audible(朗読版)で聴いた、感想を書きました。
先祖探偵 あらすじ
「あなたのご先祖様を調査いたします」 東京は谷中銀座の路地裏で、先祖を探す探偵事務所をひらいている邑楽風子(おうら ふうこ)。
「夏休みの宿題で、先祖を調べたい」「先祖の霊のたたりを知りたい」訪れる様々な調査依頼をうけ、風子は全国津々浦々を飛び回る。いつか、自分の母が見つかることを願いながら。
- 著者:新川帆立 → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:角川春樹事務所 2022/07/18
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象
▶︎5分間の試聴はこちら(リンク先で「▶プレビューの再生」を押下)
朗読がとにかく暖かく、耳にやさしくて、癒されました。特に、途中で出会うおばあちゃんたちの声がとってもすてき。ぜひ聴いてみてほしいなあと思います。
合わなければ体験中の解約OKで安心
聴く読書っていつ聴いたらいいの?Audibleの取り入れ方を解説しています▶聴く読書Audibleっていつ聴けばいいの?ぴったりハマる時間があるんです。
著者 新川帆立氏について
新川帆立先生の作品には、弁護士出身というご経歴ゆえか、法律を扱う場面が多いです。
法律に関する丁寧な描写が作品のおもしろさに直結しているのも魅力のひとつ。
さらに、元最高位戦日本プロ麻雀協会所属のプロ雀士でもあったという、異色の経歴の持ち主。
管理人わんこたんは、元彼の遺言状から始まる「剣持 麗子シリーズ」を読んで、新川先生の作品にはまりました!
以下に著者の作品の一部をご紹介します。※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ。
先祖探偵 感想
タイトルの「探偵」からミステリーをイメージしそうですが、戸籍にまつわる人間ドラマ、といったほうが近いです。(オカルト要素もあったり)
読む前は、先祖を探す探偵の物語、、、ておもしろいの?と半信半疑。新川帆立さんの作品じゃなかったら手に取らなかったかも。
でも読んでみると、日本独自ともいえる戸籍制度から巻き起こる人間ドラマに、夢中になってしまいました。戸籍にまつわる法律周りのまめ知識も、面白い。
物語は五章にわかれ、最初の四章でそれぞれの依頼の謎を解きつつ、風子の来歴にせまる、という流れ。最終章で明らかになる風子の母親の「理由」には胸打たれました。
以下に、各章のあらすじと感想を。
第一章 幽霊戸籍と町おこし
長寿を祝う町おこしのため、自分の曽祖父の現況を調査してほしい、という依頼人。風子は、曽祖父の現住所である宮崎県日南市に飛ぶが、そこで明らかになる、曾祖父の波乱万丈な人生とは……?
他の章もそうなんですが、この先祖探偵では、風子の食事の場面が、食べ物小説ばりにしっかりと、おいしそうに描かれます。(このシーン、Audible版で聴くと、まためちゃくちゃおいしそうで、よだれが。)
先祖を探るということは、その郷土を探るということ。郷土に根差した食事をおいしく味わうことも、また先祖を知ることにつながる……のかも。
第二章 棄児戸籍と夏休みの宿題
中学校の夏休みの宿題で、自分のご先祖さまを明らかにしたいので、手伝ってほしいという依頼人。
自分の同級生のご令嬢がたをぎゃふんといわせられるような、すごい先祖を見つけたい、というその子だが、調査で明らかになる意外な先祖とは……?
第二章では、そもそもどうやって先祖を探すのか、という具体的な手順が説明されていて、豆知識的に楽しめます。
先祖はさかのぼればさかのぼるほど増えていくので、(8世代前なら2^8=256人!)方向性を絞らないといけないよ、という風子の意見。たしかに。
もちろん書類だけでなく(戸籍がさかのぼれるのは、最長でも明治まで)、現地に足を運び、郷土の資料を探して……という地道な作業が必要です。
立派な先祖を見つけたい!農民の先祖は嫌だ!と「先祖に縛られる」人もいれば、先祖の来歴を知り、心のよりどころにする人も。
管理人わんこたんは、そこまで自分のルーツに興味はなかったのですが、第二章を読んで、ちょっと調べてみたくもなりました。
第三章 焼失戸籍とご先祖様の霊
子どもが急におかしなことを口走るようになった、先祖の霊のたたりなのではないか、という、これまたオカルトチックな依頼。
第三章では先祖の霊を憑祈祷(よりきとう)で呼び寄せたり、「探偵もの」とは思えない、不気味な展開にゾワゾワ。祈祷の部分は、朗読版だとなかなかの迫力。実際に憑祈祷を目の前で見ているようでした。
第四章 無戸籍と厄介な依頼者
日本にはいろいろな理由で無戸籍の方がいて、けっこうな社会問題になっていますが、そんな無戸籍にまつわる、物語。
突然、粗暴な態度の男性、西口から、自分の先祖を明らかにしてほしいといわれた風子。どうやら西口は生まれつき無戸籍であり、戸籍を得る為には自分の生まれを証明する必要があるようなのですが……
この西口の態度がまた、厄介で。人の話を理解できない。家庭に問題があって、文章を理解するための教育を受けていないから、根本から話が噛み合わない。そして話を理解できないのは、相手が自分に合わせようとしないから、自分を騙そうとしているからだと怒り出す。そしてコミュニケーション不全に。
なんというか、根本から噛み合わない人、の描写がめちゃくちゃ解像度高くて、きつかったです。(褒め言葉)
第五章 棄民戸籍とバナナの揚げ物
ついに風子の来歴が明らかに?それはブラジルへの移民の歴史から始まる、物語。
風子のルーツがブラジルにあるのでは?というのは第一章で匂わされていましたが、真相は……
日本という国って、いろんなルーツがある人々から形成されていて。そこには戸籍がなかったり、見た目が日本人じゃない人もたくさん含まれていて。そういう部分に目を向けさせてくれる。素敵な物語でした。
ところで、ブラジルには、今も日系移住者の方が暮らしていますが、そんな人たちを支えるボランティアがあるのをご存知でしょうか。
日系移住者の中には、現地の言葉を話せず病院での診察を受けることができない方がまだ多くいらっしゃるのです。そんな方のために巡回診療を行っています。
▶︎ブラジル巡回診療支援プロジェクト(Japanese Brazilian Health Promotion Project)
興味があれば、ぜひ、活動内容をリンクから見てみてくださいね。
先祖探偵の次に読みたい おすすめ作品
先祖探偵のように、自分の、他者の、ルーツに迫る。そんな切り口のおすすめ書籍をまとめました。
君のクイズ /小川 哲
クイズグランプリの決勝。どちらの解答者もあと1問の正解で優勝、そのタイミングで、僕の対戦相手は、問題文の読み上げ前にボタンを押し、正答する。
これはやらせではないのか?クイズという名の「不可能犯罪」の謎を解く、一気読み必至のクイズミステリー。クイズの答えを探しながら、自分の人生を見つめなおしてく、という構成がおもしろかった!
感想記事はこちら▶︎きっと人生が好きになる 君のクイズ 感想 - わんこたんと栞の森
ザリガニの鳴くところ/ディーリア・オーエンズ
沼地で見つかった男性の変死体と、湿地に捨てられ一人生きる少女。
事件の真相を暴くミステリーでありながら、自然の中で生きる少女のルーツにせまる描写が本当に秀逸。明らかになっていく真相に、全ての読者を欺く衝撃のラストをお見逃しなく。
おすすめ作品、他にもいろいろ!
当ブログでは、他にもさまざまな小説を紹介中。ぜひブクマして、気になる記事をチェックしてみてくださいね。