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文化女中器ってなんだ?夏への扉/ロバートAハインライン 感想と解説

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

日本のSFファンから長年愛され続ける、往年の名作SF「夏への扉」
文化女中器など、強烈な訳語におどろかされますが、古い作品とあなどるなかれ、令和の今だからこそ、読んで新たな発見があるかも!
「夏への扉」の魅力をちょっぴり辛口コメントも添えてご紹介します。
夏への扉 新版
夏への扉 新版

 

夏への扉 あらすじ

1970年 アメリカ。

家庭用の便利ロボット「文化女中器」を開発し、売り出していたダン・デイヴィス。

 

会社は順調だったが、創業からの仲間であるマイルズと、婚約者ベルの策略により、会社を奪われ、コールドスリープで未来へ送られてしまう。

 

目覚めた先は2000年!ダンの運命は?

 

  • 著者:ロバート・A・ハインライン
  • 翻訳:福島 正実
  • 発売:1958年 新版は2020/10/3 早川書房より
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(朗読版):あり。ただし聴き放題対象外
    ※リンク先の「▶サンプル」から、冒頭5分を試聴できます

 

「文化女中器=ハイヤードガール」はルンバみたい!驚きの未来予想

あらすじにでてきた「文化女中器」って、なんだ??

原作ではハイヤードガール(Hired Girl )と表記されるこの物体。

正体は自動で動くお掃除ロボット。

  • 24時間休みなく掃除
  • 場所によって掃き掃除、拭き掃除、吸引、磨き上げを使い分け
  • ある程度の大きさのものは吸い込まず上部の受け皿に取り置き
  • 人がいる場所には入ってこない。
  • 動力が切れれば自動で所定の場所に行きチャージを始める

なんという高性能ルンバでしょう。21世紀、時代がついにハインラインに追いつき始めた!?

文化女中器の文化ってなんだ?

戦後1950~1960年代の日本では、新しくてよいもの、のイメージをあらわすために、「文化」を付けることがありました。文化包丁、文化鍋、文化住宅などなど。

文化シャッターという会社がうまれたのもこの時代。

コーポレートブランド - シャッター等を扱う総合建材メーカー|文化シヤッター株式会社

 

Hired Girl=は日本語で女中(女性のお手伝いさん)ですが、それを翻訳するにあたり、「文化」と、機械を意味する「器」があわさって「文化女中器」がうまれました。

 

邦訳版が世に出た1958年にはぴったりの訳語だったのですね。

2023年現在では意味が伝わりづらくなってしまいましたが、「夏への扉」を象徴する単語です。

 

夏への扉 著者・翻訳者情報

「夏への扉」の著者・翻訳者についてまとめました。

著者:ロバート・A・ハインライン氏について

アメリカを代表するSF作家(1907-1988)。

アイザック・アシモフ氏、アーサー・C・クラーク氏と並んでSF小説を発展させた功労者の1人です。

日本では「夏への扉」が圧倒的に有名ですが、不思議なことに「夏への扉」が人気なのは日本特有。アメリカでの人気投票では「月は無慈悲な夜の女王」「異星の客」「宇宙の戦士(映画:スターシップ・トゥルーパーズの原作)」が上位にあがるんだとか。

他の作品も読みたいなあ。

※書影クリックでAmazonのページに飛びます

 

翻訳者:福島正実氏について

夏への扉を日本で初めて訳したのは、ハヤカワの編集者でもあった福島正実氏。日本語版の初版は1958年発売です。

先ほど解説した「文化女中器」を生み出したのも福島氏。改訂を繰り返し、訳語・表現をアップデートしながら、現在でもひろく愛されています。

2020年に新版が発売されました。

2020年発売 夏への扉「新版」の特徴
  • 扉を探すピートとデイヴィスの後ろ姿があしらわれた、おしゃれな表紙

  • 表現・訳語をアップデート
    (例)
    2010年版では「文化女中器(ルビ:ハイヤードガール)」だった箇所が
    2020年版では「ハイヤードガール(ルビ:文化女中器)」に

  • 評論家 高橋良平氏の解説つき

 

夏への扉 新版

夏への扉 旧訳版(福島訳)と新訳版(小尾訳)の違いは?

実は、夏への扉は福島氏の訳のほかに、新訳版も存在します。

訳したのは小尾芙佐(おび ふさ)氏。2009年に発売されましたが、現在は残念ながら絶版になっているようです。

(ハヤカワ・オンラインでは注文不可。Amazonでは中古も含めてまだ在庫あり)

夏への扉 旧訳版と新訳版の主な違い
  • 全体的に現代風の読みやすい日本語になっている。

  • (旧訳)文化女中器 → (新訳)おそうじガール
    わかりやすいけど、なぜかちょっと寂しいような

  • ピートの鳴き声に、気持ちを表すルビがふられている

  • 福島訳で省略された箇所が、きちんと訳されている

  • 青を基調とした、さわやかな表紙

 

理由はわかりませんが、旧訳版(福島訳)では原文から大幅にカットしている箇所があるようです。

参考:https://note.com/heelindog/n/n551875d214cc

これらが新訳版ではきちんと翻訳されていることを確認しました。

 

個人的にはこの新訳版の表紙もかわいくてお気に入り。中古も含めればまだAmazonに若干の在庫がありますので、よかったらチェックしてみてくださいね。

夏への扉[新訳版]
 

 

夏への扉の感想と解説

夏への扉、わんこたんの感想と解説です。

 

「6週間戦争後」という仮想の1970年

夏への扉は1956年の作品。日本が戦後10年経過し、着々と復興を進める一方で、世界はソ連と米国の対立による冷戦のただなかにありました。

 

作品の舞台は東西冷戦が実際の戦争となった仮想の1970年。

アメリカは6週間戦争によってマンハッタン(ニューヨークのあるとこ)に核爆弾を投下されるも、冷凍睡眠技術の応用で勝利した、という世界です。

 

1956年当時の読者は、こんな未来がきたら、、、、と震えながら読んだかも?

 

さらに、作中は1970年パート(主人公が冷凍睡眠に入る前)と2000年パート(冷凍睡眠後)に分かれており、1956年当時にハインラインが想像した、1970年、2000年という、2段階の未来予想を楽しめます。

 

主人公のダン・デンヴィス、性格に難あり??

以前読んだときは、会社を乗っ取られたかわいそうな主人公の奮闘記、と感じた記憶があるのですが、改めて読むと、、、

主人公の性格、微妙じゃない?

主人公:ダン・デイヴィス、なかなかワガママなことを言ってるんですよね。

会社の経営、成長のことを考えずに自分の理想だけ追い求めるタイプの技術職。でも会社の株を過半数もっているから、やりたい放題。

マイルズが会社からデイヴィスを追い出したくなる気持ち、今ならわかる気がします。

 

さらに、リッキー(デイヴィスと仲良しの少女。1970年当時10歳)に対するデイヴィスの態度もなかなかの気持ち悪さ。

  • リッキーなら僕を助けてくれるはず
  • リッキーとなら、結婚するのも悪くない
  • リッキーはまだ大人の体に成長してないから、安心(色気で誘惑して主人公を騙したベルとの比較)

これはほんとうに無理~~!

1950年代の小説であるがゆえなのでしょうか、現代のジェンダー感だと受け入れがたく感じてしまう部分です。

 

とにかくかわいいオス猫ピート、こと護民官ペトロニウス

わんこたん、猫は飼いませんが、夏への扉に登場する主人校ダンデイヴィスの愛猫、ピートは本当にかわいい。

ただごろごろにゃーんしているだけではないのです。猫としての矜持を示しつつ、飼い主のダンを心配したり、時に代わって戦ったり。

 

冒頭、人生に絶望した主人公ダンが、ピートと一緒に冷凍睡眠させろと保険屋にゴネるシーンがあります。

生存率8割程度の冷凍睡眠に巻き込まれる猫としては、迷惑な話かもしれませんが、、、

 

実は著者のハインライン氏も猫を飼っていました。その猫が年老いて尿毒症を患ってしまった際は、その辛さを手紙に残しています。

 

苦しみがつづく段階になったら、痛みがおさまる手助けをしなければならないでしょうし、彼がずっと探してきた夏への扉をついに見つけることを願うでしょう。わたしたち 夫婦は、いささか精神的にまいっています…… この小柄な猫に度をこす愛着を抱くよう になっていたのです。

ロバート A ハインライン. 夏への扉〔新版〕 (ハヤカワ文庫SF) (p.328). 株式会社 早川書房. Kindle 版. より抜粋

 

冷凍睡眠してでもずっと一緒に生きていたい。いき過ぎかもしれないけど、猫への愛が伝わってくるシーンといえるでしょう。

 

シンプルでわかりやすい、王道のタイムトラベルSF

夏への扉は、1970年→2000年→ふたたび1970年へと旅するタイムトラベル作品。

そのため一定期間の間、主人公のダン・デイヴィスが2人同時に存在するという不思議な状況に。

 

2000年と1970年で不整合(タイムパラドクス)が起きないようにしつつ、どうすれば「夏への扉=素晴らしい未来」を開けるのかが、デイヴィスがどのように行動するのかが、ストーリーの山場となります。

 

別作品では過去を改変することで歴史が分岐し、未来が変わってしまうタイムトラベルのパターンもありますが、この作品では歴史の分岐は起きず、時系列は1本道。

シンプルかつ王道のタイムトラベルSFと言えますね。

 

ハインラインも愛したウェルズの作品

夏への扉はタイムトラベル小説ですが、その生みの親はイギリスのHGウェルズ。

1985年に「タイム・マシン」という小説を世に送り、現在まで続く「タイムトラベルもの」の元祖となりました。

 

また、夏への扉でも紹介されている、HGウェルズの「冬眠者めざめるとき」はハインライン氏の大好きな作品で、なんとウェルズ本人から、この本にサインを書いてもらったそうですよ。

 

ウェルズの「タイム・マシン」はこちらで解説

 

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夏への扉 新版
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