君のクイズ あらすじ
早押しクイズQ -1グランプリの決勝。どちらの解答者もあと1問の正解で優勝、そのタイミングで、僕の対戦相手、本庄絆は、問題文の読み上げ前にボタンを押し、正答し、優勝を手にする。
これはやらせではないのか?釈然としない僕は、不可解な正答の謎を解くべく、本庄絆について調べ始めるが……。
クイズという名の「不可能犯罪」の謎を解く、一気読み必至のクイズミステリー!
- 著者:小川哲 ▶︎Amazonの作品一覧ページを見てみる
- 発売:朝日新聞出版 2022/10/7
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 小川哲さんについて
SF、ミステリージャンルで高い評価を受けている小川さん。ユートロニカのこちら側でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。2023年には地図と拳で直木賞を受賞しました。
ジャンル越境的(※)とも評されるその作風からは、SF、ミステリーという枠に縛られない軽やかさを感じます。管理人わんこたんが今とっても気になっている作家さん!
※嘘と正典 鷲羽巧さんの解説より
以下に小川哲さんの作品を並べました ※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ。
過去に答えを探し求め、あるいは過去に囚われ、あるいは過去に立ち向かう人々を描いた、SF風味の短編集!
君のクイズ 感想
クイズの謎を解いているようで、実は人生という名のミステリーを解いていたとは。
問題文が一文字も読まれない中で正答する「不可能犯罪」のトリックが鮮やかに解かれていく、素晴らしいミステリーでした。
以下、君のクイズの内容に触れる箇所があります。未読の方はご注意を!
クイズプレーヤーならではの思考が楽しい
クイズプレーヤーである主人公は、ついつい思考がクイズに。そんなクイズプレーヤーあるある(?)な脳内描写が楽しい!
思考して、クイズを解いて、また思考。
でも、解答の背景には人生での経験が積み重なっていて……そんな構造が次第に明かされていきます。
兄との思い出、別れた彼女、出張先の朝食ビュッフェ。
そんな人生の瞬間がクイズを解く武器になっていた、というのが面白いし、同時に僕と、対戦相手の本庄絆の強さの裏付けにもなっていく、というのがすごくいい。
日常のちょっとしたことが,光り輝くクイズのひとかけらになるような、そんな美しさすら感じました。
クイズプレーヤーならではの戦略、豆知識も楽しい
確定ポイントという概念も面白いし、確定ポイントを押さえた上での読ませ押し、と言った戦略の開示も面白い。
こういう豆知識が楽しい小説って、やっぱり名作だよなあ〜と思うなど。
問題文が読み上げられることで、無限大の正当の選択肢が狭められ、確定ポイントで1つに収束する、というのはなんだかSF的で、好きな書き方。
人生のエピソードが解答につながっている、という演出
人生の一場面が正答につながる、という物語の構造について、映画スラムドッグ$ミリオネアを思い起こす方も多いかも。
インド・ムンバイのスラム街出身で無学の青年ジャマールは、TV番組「クイズ$ミリオネア」で最終問題までたどり着き、一夜にして億万長者となるチャンスをつかむが、不正を疑われてしまいます。
なぜ彼は問題を解くことができたのか?そのヒントは彼の半生の中にあって……
▶Prime Videoでの視聴はこちら
一方で、君のクイズでは、そこに出題者側の思惑も重なり、謎解きを奥深くしている点に注目。
生放送のクイズ番組を確実に盛り上げる、演出の虚構も相まって、スラムドッグ$ミリオネアとはまた一味違った奥深さを味わえました。
出題者側の思惑について、序盤に伏線があった
君のクイズ 冒頭に登場する以下の描写。主人公がファイナルの様子について振り返るシーンです。
Q -1グランプリのファイナル。その日の僕はクイズ人生でも最高に調子が良かった。
これが、まさか伏線だったとは、こんな序盤からすでに布石が貼られていたのですね。そして主人公に先んじて◯◯の思惑に気づいていたのが、対戦相手の本庄絆でした。
このクイズ、ヤラセか?魔法か?
本庄の回答はヤラセだったのか、それとも魔法だったのか。
これは冒頭、僕のクイズ仲間の富塚さんの発言。同作者の嘘と正典に収録されている「魔術師」の、マジックなのか?本物のタイムトラベルなのか?を彷彿とさせる展開です。
噓と正典 紹介記事はこちら▶嘘と正典 感想と解説 - わんこたんと栞の森
これは魔法なのか?現実なのか?という流れで読者の興味を惹きつけるのが本当にうまい。
クイズプレーヤーの高度な技術は、一見魔法にしか見えない。
その魔法を丁寧に紐解く本作。プロフェッショナルへのリスペクトを感じるし、クイズ番組に出場するプレーヤーたちを、応援したくなります。
君のクイズ 結末での本庄絆とのやりとりについて
君のクイズは決してハッピーエンドではありません。本庄絆の選択に、人によっては失望するかも。
本庄と◯◯は、ある種いいコンビだったのですよね。
◯◯はクイズ番組を盛り上げるためなら、なんでもやる。本庄も◯◯から求められた役割を完璧にこなしていく。けれど、最後に本庄は◯◯を切り捨てます。
自分を舞台装置としてしか見ていない◯◯から離れ、自分の力で未来を切り開いていこうとする姿は痛快だし、わんこたんは本庄のことを嫌いにはなれませんでした。主人公の僕も同じ気持ちを抱いたのかも。たぶん。
みんながみんな、「クイズの成功」のためにまっすぐなんですよね。主人公も、対戦相手の本庄絆も、〇〇も。結末はほろ苦いかもしれないけど、前を向いて頑張りたくなる。そんな不思議な爽快感を感じました。
君のクイズ の次に読みたい おすすめ作品
ふとした瞬間が謎解きになる。変わらぬ日々が、非日常に変わる。日常/非日常の謎をテーマにした作品を、わんこたんの独断と偏見で選んでみました。
アニメ化で話題となった本作品ですが、原作版もおすすめ!
省エネ高校生・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間とともに、学校に潜む謎を解き明かします。
そんな中、折木の灰色の日常も、少しずつ変化して……?
感想記事はこちら▶︎氷菓 青春×ミステリーな原作小説はやっぱりおもしろい - わんこたんと栞の森