
軌道娼界ハニカムで目覚めた、冥王斑患者のキリアン。性的奉仕を生業とする美少女ロボットたちに囲まれ、ひたすら性行為して…うーん、これなんの物語だっけ?
シリーズ屈指の問題作、天冥の標Ⅳ 機械じかけの子息たち 感想と解説を書きました。
天冥の標Ⅳ 機械じかけの子息たち あらすじ
冥王斑患者のキリアンが目覚めると、そこは宇宙の娼館だった。
キリアンに肉体関係を迫る美少女ロボットたち。彼ら彼女らには、ある切実な願いがあって……
- 著者:小川 一水 → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:早川書房 2013/02/27
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 小川 一水 氏と天冥の標シリーズについて
SF作家の小川一水氏による、大河SF 天冥の標シリーズは、2009年に刊行開始。10年をかけ全10巻・17冊で2019年に完結し、2020年に第40回日本SF大賞および第51回星雲賞・日本長編部門賞の両賞を受賞。
壮大でありつつ、ライトノベルような軽やかさも併せ持つ、小川一水さんの代表作!
以下にシリーズを並べました。※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ。
天冥の標Ⅳ 機械じかけの子息たち感想・解説
感想を交えつつ、勢力関係や登場人物についておさらいしていきます。
前作 天冥の標Ⅲ アウレーリア一統までのおさらいとその後
第1~3巻とのつながりを中心に解説します。
- 201X年 冥王斑の流行と、救世群(冥王斑の回復患者群)の登場
この部分の経緯は2作目 救世群にて。
2作目 救世群の解説記事はこちら - 21世紀のころ
人類は小惑星帯への進出を進めていきます。小惑星帯には氷や生命に必要な有機物や資源が見つかって……というのが天冥の標シリーズの設定。 - 2222年 クアッド・ツー締結。
正式名称は第三次拡張ジュネーブ条約。先制的に大規模殺戮につながる宇宙戦闘を禁止。要するに宇宙で大規模核戦争すんな。小惑星国家が一発で滅亡しちゃうだろ。という理屈。
この条約を施行し、違反者に罰をくだす組織が、後のロイズ非分極保険社団の原型となります。←この組織、重要なので要チェック。
大規模殺戮兵器が宇宙戦争で使えなくなり、白兵戦に特化した勢力、アンチオックス<酸素いらず>が活躍。 -
2249年 ドロテアワット探索と、ケープコッド・地球連合軍による戦争
木星に巨大エネルギー炉 、ドロテアワットが存在することが明らかに。 - 2310年 ドロテアワットをめぐる攻防。
小惑星世界の正義を執行するアンチオックスの勢力と、海賊エルゴゾーンが、ドロテア・ワットをめぐって激突 。アンチオックスが辛くも勝利。
この部分は3作目 アウレーリア一統にて。
3作目の解説はこちら
結局ドロテア・ワットは、正体不明のまま小惑星社会を牛耳る巨大組織、ロイズ非分極保険社団のものとなり、小惑星セレスにおかれます(というか、誰も操作していないのに、ドロテア・ワットが勝手にセレスに移動) - 第3巻の、その後
冥王斑患者の集団 救世軍連絡会議 PPLのトップ、グレア・アイザワは、アンチオックスとエルゴゾーンの双方からドロテアワットを強奪しようとし、騒乱を引き起こした罪に問われます。
アンチオックス集団の母国 ノイジーラント主教国がPPLの後見につくことになり、PPLは主権を奪われ弱体化を余儀なくされました。
この記事で紹介する天冥の標Ⅳは2313年が舞台。ドロテアワットの攻防から3年後の話になります。
1作目の舞台、2803年の惑星ハーブcまでどのように物語がつながっていくのでしょうか
天冥の標Ⅳは、賛否両論の問題作?
作中の大部分が軌道娼界ハニカムという、小惑星帯のバカでかい娼館の場面であり、つまり露骨な性行為シーンが大変多いのです。
この第4巻があるせいで、このシリーズ、とてもじゃないけど若年層には勧められないどころか、成人の知り合いに勧めるのすら、憚られるんだよなあ。
じゃあエロ大好き!な読者(?)にオススメかというと…そうでもないのが大問題。
ハニカムで客に相手をするのは<恋人たち>と呼ばれるロボット。彼らは客に奉仕することを至上の喜びとし、客の無茶な要求にも答えようとします。
よって、倫理的に大問題なあんなプレイやこんなプレイがこれでもかと登場。なかにはロボットたちを破壊してしまうようなプレイまで。
よほどストライクゾーン広めの方でない限り、「さすがにこのプレイはちょっと……」とドン引きすること間違いなし。つまりエロいのが好きそうな人(?)にも勧めづらい。じゃあ誰に勧めればいいんだ。となっちゃうんでよね。
どのような作品を書くかは著者の自由、なのは大前提として「他の人に勧めづらい」というのは、作品ファンとして辛いものがあります。なぜこんなにも露骨な性的シーンまみれなのか?もうちょっと直接的な描写を避けて表現することもできたのでは?
ま、ブログではこういう際どい作品も遠慮なく紹介しちゃいますけど。
なお、この巻に登場する「性愛」のテーマはのちのち重要なキーワードになってくるうえに、重要な伏線があちこちに登場するので油断ならない。
大師父 ウルヴァーノと<恋人たち>誕生の経緯
「匠なる大師父さま」
と、<恋人たち>から偉大な感じで呼ばれていますが、これ、第3巻で登場した、ウルヴァーノ(アダムスアウレーリアの艦をデザインした変態おじいちゃん)のことなんですよね。
宇宙工業デザイナーのレオニダス・ゲオルギウス・ウルヴァーノ、第3巻でアダムスの艦を修理する裏で、こんなとんでもない変態趣味作品を作っていたなんて……
<恋人たち>は大師父=ウルヴァーノを探し求めていましたが、肝心のウルヴァーノは2311年に死去してしまったようです。(第3巻のドロテアワット事件のすぐ後かな)
ウルヴァーノの親戚のゲルトルッドやアウラ(第3巻に少しだけ登場)をモチーフに制作されたのが、<恋人たち>のゲルトルッドとアウラということでしょうか。
ロボットのゲルトルッドやアウラが生まれたとき、ウルヴァーノはすでに死去していたと思われるので、ウルヴァーノの血縁者の記録が、ロボットのデータに反映されたのかも。(自分の親戚の少女がモデルの娼婦ロボットってのも、気持ち悪いなあ……)
<恋人たち><ハニカム><聖少女警察(VP)><師父シナン・シー>が生まれた経緯を改めて整理します。(わんこたんの想像も含まれます)
- ウルヴァーノは性的に満たされない人生を送っていた。
↓ - さらに性的な不満を解消するため、<恋人たち>と<ハニカム>を作った
多様なセックスコンテンツについても教育した。
↓ - だけど無制限に増殖し与えられる愛だと、魅力が薄まることに気づいた
(※意訳:奉仕ばっかりするMばっかりだと飽きちゃうよね)
↓ - 敵対組織<聖少女警察(VP)>を作って、<ハニカム>を攻撃させ常に緊張感を維持させていた
(※意訳:Sも大事だよね)
↓ - <恋人たち><聖少女警察(VP)>を管理するため、ウルヴァーノ自身のコピーロボット<師父シナン・シー>作成した。
つまり、<ハニカム>と<聖少女警察(VP)>の対立は、ぜーんぶウルヴァーノの変態趣味が原因の、マッチポンプによるものだったという……
アンドロイドたちは、ウルヴァーノの内なる想い(※すんごいセックスしたい!)を目指して稼働させられ、いい具合にバランスとるように内紛させられていたわけです。身もふたもねぇ。
ただ、このウルヴァーノがロボットたちに説いた思想変態嗜好である「混爾<merge>」が、後に現れる<真の敵>を圧倒する切り札になるんですよね。
人を守りなさい、人に従いなさい、人から生きる許しを得なさい。
人は性愛を求めるものである。だが人がそれ、性愛に満ち足りることは少ない。だからそれ、性愛の奉仕をもって人に喜ばれなさい。
なお<恋人たち>たちは蛋白機械(プロトボット)と呼ばれる技術で作られています。ノイジーラントの生物工学から発想を得たものらしい。
ウルヴァーノにはノイジーラントに思いを寄せる相手がいた。とも匂わされていますが、誰なのかは不明。デイム・グレーテル(ノイジーラント元首であり小柄な121歳の高齢女性であり最強の戦士)、だったりして……年齢的に近そうだし……
目覚めるキリアンと、キリアンを求めた<恋人たち>
ハニカムで目覚めたキリアン、本名キリアン・クルメーロ・ロブレスが第4巻の主人公。キリアンはそこで出会った少女 アウローラに何度も性行為をしながら(させられながら?)日々を過ごすことに。
第3巻でルシアーノ・クルメーロ・ロブレス、という救世群連絡会議(PPL)の副議長が登場しますが、キリアンはその弟で、同じく冥王斑患者。
兄ルシアーノは、PPLのグレア・アイザワ(同じく第3巻で登場)の配偶者ですが、弟キリアンは、グレアに許されない感情を抱いていており……
一方のハニカムのロボット<恋人たち>は、切実な理由でキリアンを求めていました。
- 自分たちを攻撃している<聖少女警察(VP)>を倒したい
- 戦力としてアダムス・アウレーリア(第3巻登場)に力を貸してほしい
- だから、ノイジーラント大主教国の後見を得ている救世群<プラクティス>を通じて、アダムスの力を借りたい!
- 救世群の要人、キリアンをとりあえず連れてきた(が、大事故でキリアンは瀕死の重傷)
キリアンを人質にしようとしたところで、事故が起き、気密が破られキリアンは瀕死状態に。<恋人たち>はキリアンを救おうとしますが……
ラゴス、登場!
第4巻では、ついに、ハニカムの古株ロボット「ラゴス」が登場します。
第1巻で恋人たち<プロスティテュート>を率いていたあのラゴス。
2500年の惑星ハーブcの7勢力の一つ、恋人たち<プロスティテュート>の始祖がここで明らかに。
ところで、第4巻の終盤、ラゴスが、宇宙船シェパード号を準備しようとるすシーンがあるのですが、これはいったい……?
第1巻では、シェパード号は移民船であり、2500年に人々を惑星ハーブcに運ぶ役目を担っていた、と語られていますが、どうやら宇宙船シェパード号はラゴスの工房船。となると、とても移民船のような規模感の船とは思えないのですが……
最終的にラゴスは、軌道娼界ハニカムのロボット<恋人たち>の魂を一手に引き受け、大工<カーペンター>のラゴスとなりました。その魂の中にはキリアンも含まれて……
ロイズの教化兵器 純潔<チェイス>と遵法<ロウフル>
4作目で登場するロイズ非分極保険社団の倫理兵器、純潔<チェイス>と遵法<ロウフル>
- ハレンチな行いをしているやつの脳波を見つけて
- とにかく殲滅する(※クアッド・ツー条約によりで致命的攻撃はできないので、周りを破壊する)
というえげつない機械でした。
「われわれ『惑星伝統の管理者』は全会一致で案件Uの教化を決定しました」
「ロイズ非分極保険社団では、案件Uの体現する分極を是正するため、あなた方と契約させていただきます」(※案件U=ウルヴァーノの作った<恋人たち>)
ロイズは、「分極」を嫌がっているんですよね。非分極、つまり均一でどこまでも等質な世界を作りたいってことらしい。
- 風紀の乱れ(性的な奔放さ?)=分極
という理屈がいまいちよくわからんのですが、
小惑星国家間の道徳観念の対立(非分極)がいらん対立を生んで保険の支払いが増える。
↓
だから道徳観念を均一化させたい
というのが建前のようです。
3作目でもロイズが、ノイジーラントのような「極端な」価値観を薄れさせ、平均化させることを目論んでいる描写がありますが、4作目でも引き続き、ロイズは「非分極」を推し進めようとしているようです。
なお、倫理兵器、純潔<チェイス>と遵法<ロウフル>は、MHD(マツダ・ヒューマノイド・デザイン社)製ロボット。 MHD社はロイズの資金提供を受けていますので、「MHD社=ロイズの手下」 てな感じで覚えておきましょう。
サーチストリーム……て誰だっけ?
倫理兵器、純潔<チェイス>と遵法<ロウフル>は、<ハニカム>を攻撃し続けていましたが、彼らを妨害している存在がいました。
それが、サーチストリームくん。
「サーチストリーム」という名前は4作目が初出ですが、3作目 アウレーリア一統 で、フェオドールに搭載されていたネットワーク知性体、その分流(ストリーム)のひとつのようです。
サーチストリームは<ハニカム>のネットワークに居候し、倫理兵器(=ロイズの勢力)を妨害するために手を貸していました。
最終的にサーチストリームは自爆して消滅しましたが、その情報は大元の「ダダー」に送られたようです。
勢力が大きく動いた、4作目
性行為ばっかり印象に残る4作目 機械じかけの子息たち ですが、結果的に冥王斑回復患者である救世群と、<恋人たち>は、手を取り合う関係になりました。
これがどのような影響をもたらすのか……? 天冥の標Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河 に続く!
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