天冥の標Ⅱ 救世群の感想と解説、続巻につながるポイントをまとめました。シリーズを読んでいたけど途中で挫折しちゃったあなたも大丈夫!ぜひ思い出しながら読んでみてくださいね。
天冥の標 Ⅱ 救世群 あらすじ
西暦201X年、謎の疫病がパラオで発生。国立感染症研究所の児玉と矢来が現地で目にしたものは、激烈な症状と高い致死率の犠牲になった、リゾート客の無惨な姿だった。奇跡的に感染者の少女の1人が一命を取り留めるが、事態は世界的パンデミックへと拡大し……
シリーズ1作目 天冥の標 メニーメニーシープから過去に遡ること800年。すべての発端を描く、シリーズ第2巻!
- 著者:小川一水 → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:早川書房 2010/3/5
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 小川一水さんと天冥の標シリーズについて
小川一水さんはSF作家。ライトノベルから重厚なSF作品まで、様々な作品を発表し続けています。
大河SF 天冥の標シリーズは、2009年に開始。10年をかけ全10巻・17冊で2019年に完結し、2020年に第40回日本SF大賞および第51回星雲賞・日本長編部門賞の両賞を受賞しました。
壮大でありつつ、ライトノベルような軽やかさも併せ持つ、小川一水さんの代表作と言えるでしょう。
以下に天冥の標シリーズ一覧を紹介します。この他の作品は、Amazonの著者作品一覧ページをチェックしてみてくださいね。
※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。
1作目 メニー・メニー・シープ(上下)の紹介記事は以下をどうぞ
天冥の標Ⅱ 救世群 感想
いやーびっくりしたよね。だって天冥の標Ⅰが超未来の遠いどこかの惑星の話だったのに、いきなり現代の地球が舞台なんだもん。
ここから先、なにがどうなってハーブcに行きつくのか、否が応でも期待が高まるわけです。2作目を読んで、天冥の標シリーズのとりこになった方も多いのでは。
(わんこたんもその1人)
まるでコロナ禍!?リアルなパンデミックの様子
本作は2010年の出版ですが、パンデミックへの対応の様子がコロナ禍の対応とそっくり!という点でも、当時話題になりました。
冒頭のパラオでのWHOと感染症研究所派遣チームとの鍔迫り合いや、原因不明の患者への対応などもかなりリアル。
感染初期に嗅覚が減退するとこなんか、コロナそっくりです。
新幹線の中で「皆様の健康のためにマスクをご着用ください」てアナウンスされたり、屋外検査場、隔離場が設けられるとこなども、未来予知か!?てなぐらい生々しいです。
冥王斑は、メニーメニーシープを襲った仮面熱と同じなのか?
天冥の標Ⅰで猛威を振るった仮面熱は、冥王斑と症状がかなり似ていますが、相違点もあります。
- 冥王斑には治療薬が存在しないが、仮面熱には治療薬がある。(カドムの自宅になぜか治療薬が保管されていた)
- 冥王斑は一度罹患すると、治っても生涯にわたり感染能を持ち続ける。
治療薬で治癒した仮面熱にそのような描写はない - 冥王斑の感染者は目の周りに生涯消えない斑紋が残る。
治療薬で治癒した仮面熱にはそのような描写はない
201X年と2800年とで,冥王斑の治癒後の経過に差があるのはなぜか。これもまた、メニーメニーシープの謎を解く鍵になるのでしょうか。
そして、天冥の標Ⅰのメニー・メニー・シープで病原体をばら撒いたイサリ。このイサリは人間とかけ離れた姿をしていますが、冥王斑の感染者集団である救世群<プラクティス>となにか関係があるのでしょうか?
クトコトについて
冥王斑パンデミックの元凶とされる謎の生物 クトコト。
パンデミックに襲われたニハイ村の生き残り、ジョプは、このクトコトのことを「天空に潜む紺霊(ミスチフ)の使い」と呼び、忌まわしいものとして殺します。
もともとクトコトはニハイ族の族長とその近しい者しか知らない秘密の存在。族長はクトコトのマナを受けることで、芳香をまとい一族を統率してきた、とあります。
つまり、クトコトは
- 当初は病原性は持っていなかった
- 芳香を発して他人を誘惑する作用だけを持っていた
それがなぜか突然病原性を持ち始め、ニハイ村の住人に牙をむいた、ということになりそうです。突然の病原性に、今後説明はあるのか。
6本足で子猫ほどの大きさ。哺乳類のような見た目ですが、高温(1000度)の環境で卵殻を焼却しないと、孵化できない、という、謎の生態を持ちます。
まるで、宇宙から大気圏に突入することで、孵化するような……
矢来 華奈子について
天冥の標Ⅱ 主人公となる児玉圭伍の同僚。フェオドール・ダッシュの所有者となり、その後も救世群と関わる道を選びます。
明確に彼女の子孫とされる人物は登場しませんが、「カナコ」という名前自体は後世にも伝わっていくようで……
ジョプは華奈子のことを、初対面の印象から「怒ると雷のように恐ろしいが、美しくて公平で信頼でき、水をくれる女精霊」と呼びます。
フェオドール登場!
天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープでカドム家で働いていたフェオドールと、同じ名前の少年が、800年前の世界にも登場しました。2800年の惑星ハープcと201X年の現在の地球との明確な接点になりそうです。読者的にはかなり気になる!
製薬会社の御曹司で、強い好奇心と高いスキルを持つフェオドール。最終的に、フェオドールが作った、彼自身のアバター「フェオドール・ダッシュ」は矢来 華奈子のPCに居候することになります。
檜沢千茅(あいざわちかや)について
女子高生。冥王斑の初期の感染者・回復者であり、冥王斑患者群連絡会議(プルートスポット・プラクティス・リエゾン)の創設者。
感染、隔離、偏見、暴力、という苦難にさらされながらも、その冷静さ、芯の強さは、患者たちの心の拠り所になっていきます。
同じ感染者であるジョプを従者のように従え、天冥の標Ⅱのラストではメキシコの感染者、クルメーロと手を組む様子が。
チカヤ、ジョプ、クルメーロの名前は、天冥の標Ⅲ以降も何度か登場するので、要注目!
紀ノ川青葉について
千茅が冥王斑に感染する前に、学校で喧嘩しそのままになっていた女子。感染をきっかけに、千茅と交流を深めることになり……
実は!天冥の標の最終巻近くになって名前が再び登場。そこは読んでのお楽しみ。
断章Ⅱとは何か
天冥の標Ⅱの途中に突如挟まれる「断章Ⅱ」。
え、いきなりなんだ?しかもいきなり「Ⅱ」って。Ⅰはどこ行った?と、読者を困惑させる断章ですが、物語の重要な伏線になっているので、じっくり読みましょう。
断章Ⅱでは非展開体、という名の情報生命体が、2000年前の地球上の羊のDNAに<情報>として侵入していたことが、唐突に明かされます。
この被展開体、自身のことをダダーと名乗りますが、天冥の標Ⅰでは亡霊<ダダー>という機械の青年が登場しています。被展開体とダダーの関係はいったい……?
やがて羊のDNA情報がコンピューターに読み込まれたことで、ダダーの<情報>はコンピュータのデータとなり、何もできないDNAの状態(第4準位活動状態)から、もうちょっと自由度の高い第3準位活動状態へと展開します。
そして、天冥の標Ⅱでフェオドールが作った疑似人格、ふぇおドール・ダッシュの中に潜り込みます。
いったいダダーはどこから来たのか。敵なのか、味方なのか。そのあたりが明らかになるのはもうちょっと先の話になります。
天冥の標Ⅱに関連する(かもしれない)おすすめ作品
特に、感染症に関連するおすすめ書籍をまとめました。
ホット・ゾーン エボラ・ウイルス制圧に命を懸けた人々/リチャード・プレストン
1989年、米国の首都ワシントン近郊の町レストンに、エボラ・ウイルスが突如現れた。世界的ベストセラーとなった、ノンフィクションです。
この作品、文字だからこその巧みな表現でエボラウイルスの恐ろしさを克明に描き出しています。ちょっとしたホラーよりもホラーしてる。
人間たちの混乱っぷり、権力闘争、隠ぺいなどの生々しい行動にも注目。
血清空輸作戦 Sky Lift /ハインライン(時の門 に収録)
冥王星の基地で致死的なパンデミックが発生。治療用の血清を急いで輸送するという筋書き。
1953年の作品なので、科学的な描写にはさすがに古さがありますが、人類の活動範囲が広がったとき、感染症にどう対応するのか?というテーマを描いた、記念碑的作品、といえるかも。
感想記事はこちら▶︎時の門/ハインライン 時間をめぐる傑作SF小説の感想 - わんこたんと栞の森