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博識すぎる猫の語りがおもしろい 吾輩は猫である/夏目漱石の感想

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

 

吾輩は猫である。名前はまだ無い。

珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)先生はじめ、明治の人間模様をおもしろおかしく描いた「誰もが冒頭を知っている、猫小説」の感想を書きました。

 

吾輩は猫である (角川文庫)
吾輩は猫である (角川文庫)
 

 

 

吾輩は猫である あらすじ

時は明治、1905年。
さえない英語教師、珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)先生のもとに転がりこんだ名もなき雄猫の視点から、猫の生態やら、おかしな人間もようやらを、をユーモラスに描きます。

珍野家に出入りするのは、教師、実業家、美学者、哲学者、いたずら学生に泥棒まで!個性豊かすぎて、吾輩、飽きる暇なし……?

 

  • 著者:夏目 漱石 → Amazonの著者作品一覧はこちら
  • 発売:KADOKAWA 2014/10/25
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):対象
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著者 夏目 漱石について

言わずと知れた、明治~大正時代を代表する日本の文豪。

吾輩は猫である は漱石の処女作。1905年に『ホトトギス』に読み切りとして掲載され、人気を博しました。

登場する胃弱で偏屈な英語教師、珍野苦沙弥先生は漱石自身がモデルになっているそう。実際、漱石は英語教師であったり神経衰弱に苦しんだ経緯があり、苦沙弥先生にそっくり。

夏目漱石の他の作品は、以下の通りKindle(青空文庫)で無料で読めます。

三四郎
それから
門
彼岸過迄
行人
こころ

 

管理人わんこたんは青空文庫版の吾輩は猫であるを読みました。注釈がないため古い言葉遣いや単語など、やはり読みづらさはありますが、十分楽しめます。

角川文庫版には丁寧な注釈入り。お好みでどうぞ。

 

吾輩は猫である (角川文庫)
吾輩は猫である (角川文庫)
 

 

小学生~向けにすべての漢字に読み仮名の入った、講談社青い鳥文庫版もあります。表紙がかわいい。

 

吾輩は猫である(上) (新装版)
吾輩は猫である(上) (新装版) (講談社青い鳥文庫 69-5)
 

 

吾輩は猫である 感想

猫の目からみた人間たちへの風刺が面白い。そしてするどい。

これが普通の風刺小説なら、嫌味っぽくなりそうなのだけど、語り部の「吾輩」自身も、頭でっかちだったりカラスやネズミに負けて退散したりと、いい具合に抜けているので、嫌味にならずに楽しく読めるんですよね。

明治時代の市中の人々の暮らしぶりも、令和の世から見ると新鮮。

 

吾輩は猫である  の個性豊かな登場キャラクター

主要な登場人物をご紹介。個人的には迷亭君がお気に入り。

 

吾輩

名前のない猫。本作物語の主人公にして、日本で一番有名な猫、かも。

珍野家に転がり込み、自由気ままに暮らしつつ、飼い主 珍野苦沙弥先生ら人間たちの珍妙な行動をおかしみつつ丹念に描写しています。

文字が読めるので、苦沙弥先生の読む本で知識を得ているのか、作中年齢1歳にして、かなり博識。しかも撫でられながら相手の読心までするので、人間たちの心理描写まで鮮やかにこなします。

 

自分をモデルに絵を描こうとする主人のために、がんばってあくびをがまんしたり、家に泥棒が入ってきたので、ニャーと鳴いて家人を起こそうとしたり(起きなかったけど)、珍野家に嫌味をいってくる金田家を偵察してあげたりなど、ちょっとだけがんばってあげ……なくもない。かわいい。

猫などはそこへ行くと単純なものだ。食いたければ食い、寝たければ寝る。

 

珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)先生

珍野家の主人の英語教師であり、本作のもう一人の主人公。胃が弱いのと、幼少期の天然痘であばた面なのが悩み。

あまのじゃくで、頑固で、人の言うことを聞かず、偏屈。

と思いきや、何かに影響されるとすぐ飛びついたり。妙なプライドで張り合ったり。

この平凡ダメ人間の生活を、吾輩の視点から面白おかしく描き出すのが、吾輩は猫であるの、メインテーマです。

明治時代の英語教師って、現代より貴重な存在なのかなあと思うのですが、給料が安くて貧乏生活をしている様子。

 

苦沙弥先生の妻

頑固で偏屈な苦沙弥先生としょっちゅう喧嘩している奥さん。時代が時代なので、お互いの意に添わぬ結婚だったのかもしれませんが、それにしても仲が悪い。

苦沙弥先生に嫌味ばかりいわれて、現代の感覚だとちょっとかわいそう。

吾輩によると

この細君は煮物に使う三盆(佐藤)を用箪笥へ入れるくらい場所の適不適と云う観念に乏しい女である

との評。いーじゃん。砂糖をタンスにいれるくらい。(学生時代に部屋が狭くて食器を勉強机に収納していた管理人)

 

珍野家の3人娘

上2人は幼稚園生、一番下は3歳。吾輩は1歳でこんなにも博識なのに、人間の3歳はなんでこんなにも智識の発達が鈍いのかと、吾輩くんに呆れられています。

3歳だもの、しゃあないて。

子供らの寝相の悪さも、吾輩くんはしっかり描写。ほんとになんで子どもってこんなに寝相悪いんだろうね。

姉のとん子は、姉の権利はこんなものだと云わぬばかりにうんと右の手を伸ばして妹の耳の上にのせている。

 

迷亭

くしゃみ先生の友人の美学者。とにかく話好きで嘘八百を並べ立てるのが大好き。羅馬(ローマ)人、希臘(ギリシャ)人のエピソードがぽんぽん出てきますが、どこまで真実かは不明。

「鼻」の起源を創作して滔々と語るなど、おちゃらけキャラがおもしろい。でもたまに鋭いことをいうので油断ならなかったり。

 

美学(者)とは?

18世紀に西洋で成立した「美学 Aesthetics」をもとに、美・芸術・感性をひとまとめにして探究を行う研究者。

参考▶美学 | 日本大学文理学部学科

美学者迷亭なら、「鼻」をテーマに一大論文を書いてくれそう。

 

皮肉屋の吾輩くんと、偏屈な苦沙弥先生だけでは、作品はずいぶん暗いものになっていたかもしれません。

吾輩は猫であるがヒットしたのは、迷亭くんの明るいキャラクターによるところも大きいのでは(管理人わんこたんの個人的な意見です)

あんまり人の云うことを真に受けると馬鹿を見るぜ。一体君は人の言う事を何でもかんでも正直に受けるからいけない。

 

水島寒月

苦沙弥先生の旧門下生。現在は苦沙弥先生のおしゃべり&散歩仲間。

なかなかに整った顔つきで、金田家のご令嬢 富子に思いを寄せられていたが、本人は全く意に介しておらず、結局別の女性と結婚。

首縊りの力学、団栗(どんぐり)のスタビリチーと天体の運行、などを論じたり、カエルの眼球の研究のため、ひたすらガラス玉を磨いたり、変わり者でもす様子。

 

珍野邸に泥棒が入るエピソードでは、泥棒と寒月の顔が瓜二つのそっくりさんで、吾輩くんが驚く場面があるが、特に関係性はないようである。なんなの、この泥棒。

 

越智 東風(おち とうふう)

詩人で、寒月の友人。芸術に傾倒している。朗読会を開催しており、苦沙弥先生にも賛助会員として協力してほしいと申し出る。

文学に熱をあげているためか、自分の名前は「おち とうふう」ではなく、あくまで「おち こち」と訓読するよう主張。

 

八木独仙

「電光影裏に春風をきる」という句がお気に入りの哲学者。

 

電光影裏に春風をきる とは

無学祖元(むがくそげん)という僧侶の言葉。

「稲妻が春風を切ってもなんの影響もないように、体を切りつけられてもなんの影響もない」という、禅における空の概念を表した言葉なのだそう。

寺に兵が侵入し、刃を向けられた際、無学祖元はこの言葉を述べ、兵を圧倒した、とされています。

参考▶電光影裏斬春風 | 禅語 | 臨黄ネット

 

独仙は消極的修養、なるものを苦沙弥先生に説きます。

苦沙弥先生、いったんは独仙の話に感銘を受けるのですが、後で迷亭に「あいつは口だけ立派なやつだ」と言われ動揺し、結局「別段見習うにも及ばない人間のようである」と結論。

さすが先生、すぐ人の話に影響されちゃうんだから。

独仙の影響を受けたものはきちがいになるとされ、天道公平(立町老梅)なる人物はそのせいで巣鴨の病院に入っているらしい。独仙パワーおそるべし。

 

多々良三平 

もと珍野家の書生(その家に下宿し、学問をしながら下働きなどをこなす学生)であり、今は「実業家の芽生」とされる人物。

今でもよく珍野家に遊びに来て、山の芋を贈ったり、子どもたちと遊んだりともしている様子。唐津出身でなまりがあります。(山の芋は泥棒に盗まれてしまうのですが……)

「まだ食いなさらんか、早く御母さんに煮て御貰い。唐津の山の芋は東京のとは違ってうまかあ」

 

曾呂崎

苦沙弥先生の下宿時代からの親友。腹膜炎で死去し、苦沙弥先生により「天然居士」の墓碑名をつけられる。

第三章でくしゃみ先生、曾呂崎のことを文章に書いているのだが、もてあました苦沙弥先生、原稿用紙に鼻毛を植え付けていたりする。ひどい。

 

鈴木藤十郎

苦沙弥先生の下宿時代からの友人で、実業家。

作中では、富豪 金田家の使い走りのようなことをしており、金田家の令嬢と水島寒月の縁談がうまくいくように、骨を折っている。

お金があって偉ぶっているけど、長いものに巻かれる、実業家を戯画化したような立ち位置のキャラクター。

 

吾輩は猫である  明治時代の文化描写もおもしろい

作中時代から120年余が経過。吾輩は猫であるには、当時の文化的・歴史的描写もふんだんに盛り込まれていて、これがまた新鮮で面白いのです。

 

ジャム

苦沙弥先生、ジャムが好きなのかしょっちゅう舐めています。ジャムの舐めすぎでお金がかかると奥さんに怒られる場面も

「元来ジャムは幾缶なめたのかい」

「今月は八つ入りましたよ」

「八つ?そんなに舐めた覚えはない」

「あなたばかりじゃありません、子供も舐めます」

国内でジャムが販売され始めたのは1880年頃のこと。今ほど一般的な品物ではなかったようですが、一般庶民にもジャムが広まり始めた時代のようです。

さすがに苦沙弥先生のはジャム舐め過ぎですが。

参考▶ジャムの起源|ジャムの豆知識|知る・見る・体験する|アヲハタ

 

旅順が落ちた

旅順が落ちたので市中は大変な景気ですよ

1905年初の日露戦争での旅順陥落のことを指すとともに、吾輩は猫であるの作中年代を特定する重要な情報だったり。

この描写を見る限り、当時の日本は好景気に沸いていたようです。

 

タカジヤスターゼ

苦沙弥先生が飲んでいる胃薬。1984年に高峰譲吉が発見した、でんぷんを消化する酵素「ジアスターゼ(=アミラーゼ)」を含有し、日本国内のみならず海外でも販売されたヒット商品です。(本来の商品名はタカジスターゼ)

アドレナリンの発見者としても有名な高峰譲吉は、1913年に、日本における「タカジアスターゼ」の独占販売権を持つ三共(現在の第一三共)の初代社長に就任。

参考▶今も脈々と受け継がれるDNA。三共株式会社初代社長高峰譲吉のイノベーションへの熱い想い - Our Stories - 第一三共株式会社

 

上記の第一三共株式会社のページでは、タカジアスターゼについて「吾輩は猫であるに登場する」と、紹介していますが、苦沙弥先生、「それは利かないから飲まん」と言っていたり(小声)。

実は今でも第一三共胃腸薬に配合されているのです。

第一三共胃腸薬プラス| 第一三共胃腸薬|第一三共ヘルスケア

 

丸善

おお、この時代にも書店の丸善があったとは。

早矢仕有的(はやしゆうてき)が1868年に創業。創業当時の社名は「丸屋」でしたが、1880年に丸善商社となりました。

苦沙弥先生、ここで読みもしない本をたくさん取ってきて、月末の支払いに苦労すると、奥さんが嘆いています。

勝手に丸善へ云っちゃ何冊でも取って来て、月末になると知らん顔しているんですもの、去年の暮なんか月々のが溜って大変困りました

参考▶書店「丸善」の創設者 早矢仕有的 | 岐阜県図書館

 

オタンチン・パレオロガス

東ローマ帝国最後の皇帝コンスタンチン・パレオロガスにかけたしゃれ。

「それだから貴様はオタンチン・パレオロガスだと云うんだ」

というくしゃみ先生の暴言に、奥さんも負けずに

「オタンチン・パレオロガスの意味を聞かして頂戴」

「あなたはよっぽど私を馬鹿にしていらっしゃるのね。きっと人が英語を知らないと思って悪口をおっしゃったんだよ」

とやり返します。

作中の、くしゃみ先生の妻への態度はけっこうひどくて、世が世ならXに投稿されてモラ夫などと炎上すること間違いないレベルではあるんですが、この夫婦の漫才のような掛け合いには思わずニヤリ。

 

吾輩は猫である  お気に入りのシーン

 

吾人の評価は時と場合に応じ吾輩の目玉のごとく変化する。吾輩の目玉はただ小さくなったり大きくなったりするばかりだが、人間の品隲(シツ)とくると真逆かさまにひっくり返る。

運動をしないのが下等民なのか、する方が下等民なのか、人の世の評価はころころと移り替わる、というのを猫の目に例えるのがいかにも吾輩らしい。

でもそれも悪いことじゃない、コロコロかわるから、世の中進歩するのだと結論づける吾輩くんなのでした。

と、賢そうに論じつつ、いろいろ理由をつけてなかなか運動しない吾輩くんも、またかわいい。

 

丸いものが三角に積まれるのは不本意千万だろうと、ひそかに小桶諸君の意を諒とした

風呂屋を訪れた吾輩くん。丸桶が三角形に積み上げられているのをみて桶に同情する。そんな視点で桶を見たことなかったwこれから温泉で桶見るたびに思い出しそう。

風呂屋のシーン、猫から見るとよほど奇妙キテレツだったのか、裸の人間たちの様子が、かなりねちっこく描写されています。

 

およそ世の中に何が賤しい家業だと云って探偵と高利貸しほど下等な職はないと思っている。

金田家にしのびこむにあたっての吾輩の言。

といっても、吾輩くん、実は続編(?)では探偵の仲間になって活躍しちゃったりするんですが、それはまた別のお話。

 

「それから床を出て障子を開けて、椽側へ出て甘干しの柿を一つ食って……」 

最終章では苦沙弥独仙人迷亭多々良寒月東風の主要変人が珍野家に勢ぞろい。寒月と多々良がそれぞれ結婚するだの、寒月がバイオリンを買おうとして、なかなか買わずひたすら柿を食う、といった、くだらないエピソードが延々と語られます。

吾輩くんはほとんど登場しないんですが、このぐだぐだ感も好きなんだよなあ。

 

吾輩は猫である  結末に納得いかない!

さて、吾輩は猫である、その結末は……

ネタバレはここには書きませんが(気になる方は、青空文庫で最後の数十行を読めばわかります▶夏目漱石 吾輩は猫である)これはなかなかショッキング。

管理人わんこたんでさえ、ええ~っとなったので、猫好きの読者だったら、なおさらこの結末に納得いかないのでは。漱石先生、さすがに適当に終わらせすぎじゃあありませんかね?

 

そんなあなたに朗報、実は続編(?)があるのです!それがこの『吾輩は猫である』殺人事件/奥泉 光

 

『吾輩は猫である』殺人事件
『吾輩は猫である』殺人事件
 

 

目を覚ました吾輩くんはなぜか上海に。

そこに飛び込んでくる、苦沙弥先生殺害の報。先生を殺したのは誰なのか?事件の裏に渦巻く凶悪の陰謀とは??吾輩くんと猫仲間の大冒険が始まる!

漱石の文体を絶妙にトレースしつつ、原作のありとあらゆる場面を引用する。徹底ぶりがすごい!「わがねこ」ファンなら要チェックの一冊です。

 

 

吾輩は猫である の次に読みたい おすすめ作品

動物たちが大活躍!おすすめ作品を集めました。

 

吾輩も猫である

 

やっぱり猫が読みたい!

夏目漱石没後100年&生誕150年記念アンソロジー!

漱石の「猫」に負けない!いろんな猫が詰まってます。

 

吾輩も猫である
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感想記事はこちら▶︎パーフェクト・ブルー/宮部みゆき 感想 - わんこたんと栞の森

 

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