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2025年の最高傑作を読んでしまったかも ブレイクショットの軌跡 感想

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

 

 逢坂冬馬氏の著書3作目にして、最高傑作との呼び声も高い、ブレイクショットの軌跡。管理人わんこたんは、しばらく他の本が読めないほどの衝撃と感動を受けました。

過去作も傑作なのに、それを軽々と越えてくるなんて!感動冷めやらぬまま、感想を書きました。

 

感動しすぎて情緒壊れた

 

ブレイクショットの軌跡
ブレイクショットの軌跡
 

 

 

ブレイクショットの軌跡 あらすじ

自動車期間工の本田昴は、同僚がSUVブレイクショットのボルトをひとつ車体の内部に落とすのを目撃する。

1台のSUV、1つのボルトから連なる8つの物語。投資会社の経営陣、板金工と才能ある息子、悪徳不動産会社の社員、アフリカの少年兵、、、移り変わっていくブレイクショットの所有者によって紡がれる、物語の行方は……

すべてがつながり、組み上がる。絶望と希望と衝撃の協奏曲。

 

ブレイクショットの軌跡 イメージイラスト

 

 

著者 逢坂 冬馬氏について

デビュー作 同志少女よ、敵を撃て でいきなり2022年の本屋大賞受賞。2作目の歌われなかった海賊へ も近代の戦争が主題でしたが、3作目のブレイクショットの軌跡は、一転、現代が舞台に。

戦争ものが得意な作家さんなのかな?という読者の思い込みを、いい意味で裏切ってくれる、すばらしい作品がうまれました。

以下に著作を並べました。※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ

同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA)
歌われなかった海賊へ
文学キョーダイ‼ (文春e-book)

 

 

ブレイクショットの軌跡 感想

とにかく、すさまじく良かった。これにつきる。

逢坂冬馬先生は、過去2作 同志少女よ、敵を撃て歌われなかった海賊へ が、近代戦争もので、どちらも素晴らしくて。

だから戦争テーマの作品が得意なんだなと勝手に思い込んでいました。

でもそれはただの一読者の思い込み。ブレイクショットの軌跡のような現代世界の物語を見事に書きこなし、しかも、過去2作以上に心をえぐってくるとは。

 

第173回直木賞へのノミネートも納得の内容でした。

残念ながら、受賞は逃してしまいましたが、(というか、芥川賞も直木賞も該当作なしっていう……)賞があろうがなかろうが関係ない!良い作品は良い作品なのだ!

というわけで、この記事では、ブレイクショットの軌跡のよかったところを、できるだけストーリーの核心に触れず、ひたすら褒めちぎってまいります。

 

丁寧で細かい背景描写の力

まず背景描写が非常に丁寧。とにかくそれだけで引き込まれます。

  • 自動車工の作業内容や給与体系。
  • 中央アフリカでの戦闘や武装勢力の装備の描写。
  • あわやインサイダー取引という投資会社のきわどい駆け引き。
  • やくざや闇バイトの手口
  • 資産形成セミナーの運営側の目線 などなど

これらの描写によって、読者が人物像を理解するのを助け、立体性を際立たせています。まるでフィクションであると錯覚しそうなくらいに。

ブレイクショットの軌跡には、善人も悪人も、その中間も、いろいろなキャラクターが登場しますが、それぞれの行動がリアルで、違和感がないのは、背景が丁寧に作り込まれているから。

 

難しそうなのにわかりやすく、納得感ある展開

細かいだけでなく、なんていうのか、きちんとしている。

金融取引や生活保護など、法律周りもきちんとフォローしてくれるから、物語にすごく納得感があるんですよね。

だからといって、説明ばっかりでクドいわけじゃない、むしろ面白い。そこがすごい。

 

旬のネタを取り入れつつ、ネタをネタで終わらせない

ブレイクショットの軌跡には、近年、特にネット上のトレンドだった「〇〇大・○○シティ」のような経済塾・資産形成コミュニティネタ、「Xの収益化」ネタなど、時事ネタがかなり取り込まれています。

 

でも、ネタはただの舞台装置や集客装置で終わりません。

一例を挙げます。

とある経済塾で受講生のモチベーションをあげるために、「複利の効能」「投資するべき理由」の説明のために、アインシュタインやピケティなどの言葉を紹介する場面。

  • 複利は人類最大の発明
  • r>g(資本収益率>経済成長率)

など、資産形成を目指したことがある人なら、一度は目にしたことが「名言」が飛び出します。

そういった切り抜かれたネタを出しつつ、本当にそれでいのか、短文で情報を消費して理解した気になっていないか、原典をあたったか、出典を探したのか、という痛烈なメッセージをぶちかましてくる。

断片的な言葉じゃなくて、もっと深いところで知識を、社会を理解しようよ、というメッセージが、ドクドク心に流し込まれます。

 

マイノリティを描くということ

ブレイクショットの軌跡には、一般的に「マイノリティ」と呼ばれる人たちが複数登場します。

その彼ら彼女らに対しても非常に細やかに描いている。というか、すべての人への配慮が行き届いている。

かといって、なんでもかんでも優しく許すわけじゃない、悪は悪として断罪され、なにか深い事情があったにせよ、許されないものとして描かれる。

よりそう優しさと、公正な目線との、バランス感も絶妙でした。

途中で登場する「アクティブソナー」「パッシブソナー」の例えも絶妙でした。これは「兵器好き」を公言する逢坂先生ならでは表現なのかな。

 

構成が巧みで、エンタメ性だってすごい

ここまでブレイクショットの軌跡のよかった点を書いてきましたが、どんなに良い本でも、面白くなきゃしょうがない。

 

じゃあおもしろいのかって?超絶おもしろいです。

まず伏線回収がすごい。作中に登場する「おや?」という違和感。カケラ一つ残さず、すべて回収されます。

個人的に好きなのは以下の部分

  • 自動車期間工の本田昴くんと、その彼女の鈴木世玲奈さん。なんじゃこの名前、ネタかよ?wと思いきや……
  • どうやってあの人物が、アルファードを購入したのか
  • 後藤氏と、霧山氏の、電車の中での一瞬の邂逅が及ぼすもの

 

実は少しミステリー的な「トリック」も仕込まれています。物語の中盤で、あれ?となって、冒頭を読み返す。そして読者は気が付いて愕然とします。

そうか、そうだったのかと。

 

そして何より、感動する。

最後までどうなるかわからない、バタフライエフェクト的な物語。最後はきちんと着地し、そしてまた始まっていく。

以下は帯に書かれた佐藤究さんのコメント

気づけば正多面体が出来上がっているような展開に魅了された。

まさにそれなんです。

全部がつながるどころじゃない、全部が「組み上がる」そんな物語。

過去2作で戦争で傷つく人々があったように、辛いパートはとことんつらい。けれど、またそこから再生して物語が始まっていく。児童書 ネバーエンディングストーリーで、ひとつの物語から無数の物語が派生していくように。物語は無数に広がっていくんです。

物語がはじまって、人と人が、人生と人生が、お金とお金が、どんどんつながって、世界が組み上がっていく。

本当にすばらしい読書体験でした。ぜひ多くの方に読んでみてほしいです。

ブレイクショットの軌跡 帯の写真

ていうか、帯に書いてあること、一言一句その通りなのよ。私も心の中でスタンディングオベーションしたよ……

 

ブレイクショットの軌跡
ブレイクショットの軌跡
 

 

ブレイクショットの軌跡の次に読みたい おすすめ作品

自動車が活躍する作品、SNSが鍵を握る社会派作品を集めました。

 

ガソリン生活 /伊坂 幸太郎

 

車がしゃべってとにかくかわいい!

車同士が楽しくおしゃべりする、唯一無二の世界感!

望月家の愛車、緑のデミオこと「みどデミ」はじめ、個性豊かで愛らしい自動車たちが愛おしい、ミステリー小説です。

(SUV、ブレイクショットだったら、一体何を語ってくれるのかなあ、なんて)

 

ガソリン生活
ガソリン生活
 

 

感想記事はこちら▶︎主人公は緑のデミオ!ガソリン生活/伊坂幸太郎の感想と解説 - わんこたんと栞の森

 

何者(新潮文庫) /朝井 リョウ

 

SNSで暴かれる、本音と建て前

就活対策で集った4人の就活生。

互いに本音を隠しつつ、SNSに気持ちをのせる。そんな彼らがたどりつく、衝撃のラストとは。

SNS黎明期の作品ながら、今でも色あせないのは、この作品に「人間」の本質が描かれているせいかもしれません。黎明期のSNSって、バズるよりも、こっそり本音をつぶやく場所だったなあ。

 

何者(新潮文庫)
何者(新潮文庫)
 

 

感想記事はこちら▶︎読むのがつらい小説「何者/朝井リョウ」をわたしが好きな理由 - わんこたんと栞の森

 

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