ネトフリでドラマ配信中!三体原作の解説はこちら

大人こそ読むべき、海賊たちの物語 歌われなかった海賊へ 感想

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

 

デビュー作同志少女よ、敵を撃てで、いきなり本屋大賞受賞となった、逢坂冬馬さん。

その待望の2作目が、この記事で紹介する、歌われなかった海賊へ。舞台は第二次世界大戦終戦間際のドイツですが、そこには現代の私たちにつながる物語が。

感想を書きました。

 

歌われなかった海賊へ
歌われなかった海賊へ
 

 

前作よりも好きな結末だったな……

 

 

歌われなかった海賊へ あらすじ

1944年、ナチス体制下のドイツ。

父を処刑された少年ヴェルナーは、体制に抵抗しヒトラー・ユーゲントに戦いを挑むエーデルヴァイス海賊団の少年少女に出会う。

市内に建設された線路の先に強制収容所を目撃した、彼らを待ち受ける運命は……

 

  • 著者:逢坂 冬馬 → Amazonの著者作品一覧はこちら
  • 発売:早川書房 2023/10/18
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):聴き放題対象
    ▶︎5分間の試聴はこちら(リンク先で「▶プレビューの再生」を押下 )
    耳で聞く読書なら、洗濯ものを干しながら、物語の世界に没入できます。小林親弘さんの落ち着いた声、癒される……
    //合わなければ体験中の解約OKで安心\\

Audibleって正直どう?メリットデメリットはこちらの記事をどうぞ▶本好きが正直に全部書く! 聞く読書Audibleのメリットとデメリット 

 

 

歌われなかった海賊へ著者 逢坂冬馬さんについて

デビュー作 同志少女よ、敵を撃て で2022年の本屋大賞を受賞した逢坂冬馬さん。歌われなかった海賊へは、受賞後の第1作となります。

同志少女よ、敵を撃ては、ドイツ軍をと戦うソ連の女性狙撃兵の物語。リアルな戦闘描写と、少女たちの過酷な運命、そして「敵」の正体に、最初から最後まで引き込まれっぱなしで、面白かった!

歌われなかった海賊へ はその2年後の敵国、ドイツを舞台にしているので、続編ではありませんが、歴史として地続きの作品といえるかも。

 

同志少女よ、敵を撃て
同志少女よ、敵を撃て
 

 

同志少女よ、敵を撃て について

こちらの記事で紹介中▶︎

同志少女よ、敵を撃て/逢坂冬馬 あらすじと感想 - わんこたんと栞の森

 

逢坂冬馬さん。2025年に新刊が出ます!

 

3作目は現代日本を舞台にした8篇からなる連作長編とのこと。楽しみ〜!

 

以下に著作とそのコミカライズ版を並べました。(書影クリックでAmazonの詳細ページへ)

なお文学キョーダイ‼︎は、実姉でロシア文学者の奈倉有里さんとの対話集です。

同志少女よ、敵を撃て
同志少女よ、敵を撃て 1 (ハヤコミ(ハヤカワ・コミックス))
文学キョーダイ‼ (文春e-book)

 

歌われなかった海賊へ 感想

1944年のドイツが舞台の作品ですが、意外にもその物語は現代ドイツからスタート。

教師、担任する問題児、優しかった祖母、その祖母を批判する偏屈な老人が現れ、過去に何が?、と謎を提示することで、読者を歴史の舞台に引き込む展開がいいですね。

 

少年少女が主人公の、ティーンズ向け小説、と思いきや。

同志少女よ、敵を撃てでは、冒頭ショッキングな展開から始まりました。

本作歌われなかった海賊へは主人公こそ、父親を処刑され亡くしているものの、エーデルヴァイス海賊団の他のメンバーは、家族が裕福だったり、ナチスの幹部が親であったりと、そこまでの悲壮感はありません。

 

少年少女たちも、なにか高潔な理念を持っているわけではなくて、気に入らないこと(ナチ)を正そう、とか、爆弾を作ってみたい、といった、半分は正義感、半分は好奇心のような動機で行動しています。

 

強制収容所を訪ねる道のりで、強盗したりも。なんだか遊びの延長のようにも見える彼らの言動は幼く、当初は自分世代(30代)にはあんまり合わないかなぁ。もっと若い世代向けの作品なのかなぁと思って読んでいたのですが……

その思いはラストで見事にひっくり返されることになりました。

 

これは、大人たちへの物語だった

終盤、この作品のメッセージが、実はわれわれ大人たちに宛てたものであった、ということが明かされます。

 

エーデルヴァイス海賊団の活動の裏で、敗戦・降伏間近のドイツの大人たちは、判断を迫られていました。

降伏間近の状況でナチスの指示を守り続けていれば、もうすぐやってくる連合軍によって戦争犯罪人として裁かれるのは必然。

とは言え、連合軍がいつやってくるかは不明。早々にナチスに見切りをつければ、連合軍到達より前に、ナチスによって処刑されてしまうかもしれない。

 

そんなジレンマに陥った大人たちは、大人らしい冷静で残酷な決断をします。その決断の犠牲になるのは……

 

遅効性の毒、と呼ばれた歌

ラストシーン。彼女はあの歌を歌っていました。エーデルヴァイスのあの歌を。

歌うのが遅いよ。今さら歌って何になるんだ、という気持ちと、あの時代、あの場面で歌う勇気が、どれだけの大人にあっただろうか。と切ない気持ちがないまぜに。胸を打つ場面です。

 

かつて、エルフリーデが遅効性の毒、と読んだ歌は、ずっとずっと彼女を苦しめていたのかもしれない、と思ったり。

 

追い詰められたときに、正義を守り、清いことを遂行する夕木追い詰められるとできない。そして、この1944年のドイツで終わった物語ではなく、今の日本に世界にずっと地続きで横たわっている物語なんですよね。

私たちは平和である。今でこそ人間性を発揮して、相手を思いやりましょうとか、親切は我が身のためならずなんて綺麗事を言えるけど。私たちはその時時に歌えるかと言う鋭いとずっと突きつけられてる気持ちです。。

 

登場人物について

現代パートと、戦時中1944年パートに分かれています。あの人がかつては……という事実が明らかになっていくところも、歌われなかった海賊へ の読みどころ。

 

  • クリスティアン・ホルンガッハー(現代パート/ドイツの歴史教師)
    毎年恒例の「この市と戦争」というレポートを生徒に課す。とあるきっかけで、エーデルヴァイス海賊団について知ることに。

  • アマーリエ・ホルンガッハー(現代パート/30年前に死去 戦時パート/教師)
    クリスティアンの祖母で、優しい教師だったと評判。すでに死去しているが、存命中は、同じ市内に住むフランツ・アランベルガーのことを、なぜか嫌悪していた。

  • フランツ・アランベルガー(現代パート/市内に住む偏屈な老人 戦時パート/少年)
    「歌われなかった海賊へ」という冊子を、クリスティアンに託す。
    どうやら、エーデルヴァイス海賊団と、何らかの関係があったようで…

  • レオンハルト・メルダース(戦時パート/エーデルワイス海賊団の一員)
    街の名士の息子。父親トーマス・メルダースは軍靴製造メーカーの創始者であり、後のメルダースブランドに。現代では、ドイツを代表するスポーツ用品メーカーとなっている。

  • エリアス・メルダース(現代パート/クリスティアンの生徒)
    「この市と戦争」の課題に、祖母からの聞き取りと強制収容所の記念館への実地調査をもとに、優秀なレポートを提出。トーマス・メルダースのひ孫にあたる。
    読了後にこのレポート、もう一度読み返すと……

  • ムスタファ・デミレル(現代パート/クリスティアンの生徒)
    移民にルーツを持ち、周囲から孤立しがちで、クリスティアン悩みの種。フランツ・アランベルガー氏と知り合いらしい。

    ドイツにおけるトルコ系移民の歴史は古く、1960年代に遡るのだそう。1970年代にドイツに留学していた管理人わんこたんの母は、トルコ系移民のお店でドライフルーツを買っていたとか。
    トルコ系移民も、その二世も、現代ドイツではさして珍しくない存在、というのが、ダミアンを理解するひとつのキーポイントになってきます。

  • ヴェルナー・シュトックハウゼン(戦時パート/エーデルヴァイス海賊団の一員)
    本作の戦時パートの主人公。父親を処刑され、ナチスの体制に反感を抱く。

  • エルフリーデ・ローテンベルガー(戦時パート/エーデルヴァイス海賊団の一員)
    街の名士の娘。「歌」を作った人物

  • ドクトル(戦時パート/エーデルヴァイス海賊団の一員)
    爆弾に興味津々の少年。海賊団のメカニック的存在。

 

歌われなかった海賊へ の次に読みたいおすすめ作品

「戦時下のドイツ」を描いた、一味違うSF(!)作品をご紹介。

 

ありえたかも?ナチス躍進のディストピア

NSAは本来アメリカ国家安全保障局の意味なんですが、この作品では……すべてを監視する超社会。不気味な結末がいやすぎる!(誉め言葉)

 

NSA 上
NSA 上
 

 

戦争×タイムトラベル!

ウェルズが1895年に発表した、あの「タイムマシン」の公式続編、タイムシップでは、タイムトラベルが戦争に使われて……!?

ドイツ軍から逃れるため主人公たちが行きつく地とは。未来に過去に縦横無尽。ワクワク&壮大な冒険物語です。

 

タイム・シップ
タイム・シップ
 

 

感想記事はこちら▶︎

元祖タイムトラベルSF!タイム・マシン(HGウェルズ著)とタイム・シップ(Sバクスター)」感想 - わんこたんと栞の森

 

読み始めたらとまらない作品、揃ってます

 

歌われなかった海賊へ
歌われなかった海賊へ