
ロシア文学者の姉・奈倉有里氏と、小説家の弟・逢坂冬馬氏。文学キョーダイ!!な、おふたりの語らいが、私たちに教えてくれるものとは?
日本と世界、戦争と平和。混迷を深め、不安に押しつぶされてしまいそうな世界を生きていくための、知性とやさしさと発見が詰まった1冊です。
文学キョーダイ‼ あらすじ
ロシア文学者の姉・奈倉有里氏と、小説家の弟・逢坂冬馬氏による姉弟対談集。
こども時代のこと、ロシア留学のこと、作家デビューのこと、さらには、本屋大賞受賞作 同志少女よ、敵を撃て の裏話まで……!?
鋭さとやさしさに満ちた2人のお話が、すっと心に入ってきます。読んだ後は、世界の見え方が変わっていること、間違いなし!
- 著者:奈倉有里 → Amazonの著者作品一覧はこちら
逢坂冬馬 → Amazonの著者作品一覧はこちら - 発売:文藝春秋 2023/9/22
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 奈倉有里氏について
ロシア文学研究者・翻訳者にしてエッセイストの奈倉有里氏。ペテルブルグの語学学校でロシア語を学び、その後ロシア国立ゴーリキー文学大学を日本人として初めて卒業しました。
2024年5月刊行の ロシア文学の教室 は、大学生の主人公たちが、教室から19世紀ロシア文学の世界へとワープするという、異色の体験物語。ウクライナ侵攻が行われるなかで、ロシアという国をどう受け止めるか?考えたくなる一冊です。
以下に著書の一部をご紹介。※書影クリックでAmazonのページにジャンプ
著者 逢坂冬馬氏について
デビュー作 同志少女よ、敵を撃て でいきなり2022年の本屋大賞受賞。2作目の歌われなかった海賊へ も心に残りましたし、3作目のブレイクショットの軌跡は、過去2作をさらに塗り替える大傑作でした。
文学キョーダイ!!の対談は1作目と2作目の間に行われたようで、 同志少女よ、敵を撃て での出版裏話なんかも語られ、ファンとしてはニヤリとできる場面も
以下に著作を並べました。※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ
文学キョーダイ‼ 感想
ああ、ここの言葉いいな、とか。ここ覚えておきたいな、とか。そんな箇所にマーカーをひいていたら、あちこちにマーカーだらけに笑
それぐらい、記憶の1ページにしたい、心にインデックスしておきたい、宝物のような言葉がたくさんでてきました。
姉弟で、方向性は違えど文学の道を歩み、豊かな知識を蓄え、互いにリスペクトのある2人の関係性だからこそ成せる、深く豊かで暖かい対談になっています。読み終えれば、心の中に、道しるべのように光がともる、そんな対談集でした。
家族が、あったかい
対談はお2人の子供時代のことから始まります。
お2人の意見を大切にうけとめるご両親をはじめ、ほっこりエピソードがたくさん。
<奈倉先生>三十歳くらいまで好きなことを探していていいよと(ご両親が)いう。
こういわれて「30歳、意外と時間ないな」と冷静に考える奈倉さんもしっかりしてておもしろかったり。
特にお母様のエピソードがまたいいんです。
学生時代に語学の道に進まなかったことを後悔したお母様。で、やっぱり語学をやりたいんじゃー!と、年を取ってからドイツ語にスペイン語、さらに韓国語を勉強しはじめたのだそう。
<逢坂先生>家じゅうの物に覚えたい外国語の単語が書いてある(笑)。
若い時にあれやっておけば、なんて後悔しない。学びたいときに学べばいい、すてきだな~~!
管理人わんこたんも、何度も英語を勉強し始めては挫折してるので笑 でも、遅くたって、挫折したって、何度でもやり直せばいいじゃん、って、なんだか勇気がわいてきました。
小説家デビューのお話
逢坂先生は、当初研究者を志望し、でもめぐり合わせの不運もあり、一度は会社員に。けれど、自分にはあわないな~と、小説を書き始めます。
そこからは、何度も何度も応募しては落選。最初はラノベレーベルに応募していた??などなど、紆余曲折エピソードがまたおもしろくて。(ご本人は大変だったでしょうが)。勝手に早川書房に送りつけるとか。
でもそこから 同志少女よ、敵を撃て のドラマチックな快進撃が始まるんですよね。
また新しい作品を出さなければ、という焦りを語る逢坂先生ですが、その後しっかりと歌われなかった海賊へ、ブレイクショットの軌跡、と立て続けにヒット作を出していくのだから、さすがとしか。
同志少女よ、敵を撃て の裏話
文学キョーダイ!! には同志少女よ、敵を撃ての裏話がたくさんでてきます。もはや副読本というレベルなので、作品ファンは、文学キョーダイ!!も絶対読んだ方がいい。うん。
戦争は女の顔をしていない/スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチに影響され、自分の小説の世界に生かしたいと考えた逢坂先生。
資料もそろえ、いざ戦争とジェンダーという大テーマで作品を書き上げたところで、奈倉先生からロシア考証に関する怒涛のダメだしがw
なかにはラストの展開にかかわる重要な指摘もあったそうで、詳しいところはぜひ文学キョーダイ!!を読んで笑ってみてほしいのですが、そんな苦労を乗り越えたからこそ、骨太の作品にしあがったのだろうなと。
<逢坂先生>すいません、って言いながらお願いしてた。「ありとあらゆる編集者との打ち合わせよりあんた(奈倉先生)のが一番恐ろしい」と言いながら。
作品への丁寧な思い
逢坂先生、めちゃくちゃ作品の出し方、キャラクターの描き方について考えていらっしゃる。
<逢坂先生>戦争とジェンダーというテーマを真剣に考えないと、若い女性が銃持って戦う姿というのは、それ自体が性的フェティシズムになっちゃうんです。
「キャラを性的消費させたくない」こういう姿勢を打ち出してくださる作家さん。読者としても安心できるし、心強い。
「カチューシャ」という、女性の無垢性を強調したロシア流行歌と、セラフィマとの対立につながるという構図も意識したそうで。ここのとこは気づかなかったので、もういいちど 同志少女よ、敵を撃て を読み直さないとなあ。
さらに、ちょうど本屋大賞受賞の直前に始まったウクライナへの侵攻。
同志少女よ、敵を撃て は、決して親ロシア小説ではないし、家族を失った復讐に武器を取ることを賛美する小説ではない。これは明確な、戦争に反対する論理の小説なんだぞって、著者である自分が、作品の外でも言っていかないと、という逢坂先生の姿勢。
作品ファンとしても、こういうことを著者がきちんと発信してくだ去るのは嬉しいです。(読めば、明確に反戦テーマであることはわかるんですが、世の中、読まずに語る人も多いから……)
読書って、いいよね
<奈倉先生> 本って人間の現実の記憶に近い世界が頭の中にひとつできるでしょう。好きな本の場合は、自分が安心できる記憶、いつでも帰って行ける場所が読書によってできる。
ゲーテとトルストイとお友達になれて、教えを請える。でも「そこは違うんじゃない」ってけんかしたっていい。本に対する自由で軽やかな視点が、本当にすてき。
いま、小説を読んでいるという自意識が消滅する
よく、本の世界にのめりこむ、という言い方をするけど、この表現も好き。
面白いな、という自意識すら忘れて読んでしまう。作品の一部を自分の記憶と勘違いしてしまう。その感覚、わかるわかる。
そして奈倉先生の著作 ロシア文学の教室 では、不思議な力をもつ枚下先生が、学生の意識をほんとにロシア文学の世界に連れてっちゃうんだそうで、これは俄然読みたくなってきたぞ…..
本の持つ、力を信じたい
ウクライナ侵攻発端にいろんな報道が増えて、ロシア語を勉強していくことでいいんだろうか。これから大丈夫だろうか。と、不安に思う学生がいる、という話題
<奈倉先生>だから、どんなときでも安心して、思いっきり勉強していいんだよという環境を大学は作らなきゃいけない。
心強い言葉。
こんなときだからこそ、ロシアてどんな国なんだろう?ロシアの人ってどんなことを考え、どんな本を読むんだろう?て、興味関心をもつのは自然なことだと思うんですよね。
(日中関係が悪化している、といわれて久しいですが、管理人わんこたんも中国でどんな物語が読まれているかずっと気になっていて、中国作家のSFをいろいろ読んでいます。て、これは私がSF好きなだけか)
ただ、ロシア文学というと、ドストエフスキーとかトルストイしか浮かばない日本人がほとんどで(あ、私だ)。やっぱりそこで重要なのは「翻訳の力」なんですよね。
幸運なことに、奈倉先生はベラルーシの作家サーシャ・フィリペンコの「赤い十字」を翻訳・出版することができました。不正選挙でルカシェンコ大統領が権力を握り続ける国で生まれ、ベラルーシでは出版できないため、むしろロシア国民の共感をうんだ文学。
これも読みたい!
<奈倉先生>本は根本的にどこかで平和とつながっていると思うんです。
たとえ敵対する国家。嫌いな国家であっても、本という媒体で、相手の国のことを知れるならば。そうやって、互いの国家に対する勝手なイメージの断裂が、解消されていったらいいな。と、そんなことを感じました。
文学キョーダイ!! お2人のおすすめ作品たち
お2人とも、おすすめ文学作品の紹介がめちゃくちゃうまくて、読みたいゴコロをめちゃくちゃくすぐってくるのよ。
- マルクス主義と言語哲学
著者がバフチンかヴォロノシフなのかで、いまだに論争があるみたい - 8日目の蝉/角田光代
- タラント/角田光代
- 憲法と君たち/佐藤功
日本国憲法の制定に関わった著者が、当時のこどもに向けて書いた解説の本が復刊されたそうです。憲法が君たちを守る。君たちが憲法を守る。という言葉が熱い。
他にもあるのですが、9冊並べてみました。読みたい本がどんどん増えちゃうよう。
大学は、知的に独立した人間を育てる場である
(逢坂先生)高等教育のありかたって、言ってみれば国家から独立した人間を育てる過程でもあるわけですよね。一元的な教育から離れて、知的に独立した人間を作るという。
国家から知的に独立するということは、国家や社会的な権威を、根本的に見直せる思考を持つという事。
権威者から見たら、そういう思考を持つ人物ってのは都合が悪い存在なのかも。なぜなら自分たちの権威をおびやかすから。(そういうのが行き過ぎた歴史的な事例もありますよね。知識人を大量に粛清した、ポル・ポト政権の話とか。)
でも大局的にみれば、知的に独立した人間というのは、国家に足りないものを補ってくれる、大切な人材になると思うのです。
(話はずれるのですが)「日本のここがすごい!!」みたいなことを投稿する外国ルーツのアカウントやコンテンツって、SNSとか動画サイトですごく人気なんですよね。日本人の自尊心をくすぐってくれるから。
自分の国を誇ることは大切。でも私は日本のここが変だよ、って指摘する視点も同じくらい大切にしたいな、と感じました。
そういう点でも、逢坂先生の高等教育のあり方についての言葉は、とってもグサリときたな。私は知的に独立できているだろうか?誰かの言葉を借りているだけ、になっていないか?というのは、常にふりかえっていたい。
戦争と、平和と
文学キョーダイ!!の後半では、戦争と平和、言論と政治についての話題も。
この辺り、奈倉先生と逢坂先生の間でどんどん議論が深まっていって。本当によみごたえがあります。
途中でかなり脱線したりはするんだけどwそういう脱線も含めて読者をひとつうえの視点に導いてくれるような。この姉弟ほんとにすごいなと。
(逢坂先生)……他国に住んでいる人は自分たちとは国民性、すなわち内面が違うんだという結論にまで容易に到達してしまうんです。そういうところから、国を異にする他者の痛みに対する、絶望的なまでの鈍感さが醸成されていく。
国を異にする他者の痛みという言葉の鋭さよ。
「日本では日本人の幸せを第一に考えるべき」「日本人ファースト」
こういった、近年よく聞くスローガンの言葉の浅さ。そんな狭い心で、日本という国や、日本人でいることを誇ろうとするなんて、なんて寂しい国になっちゃったんだろう、と管理人わんこたんは思うんです。
他者の痛みを慮れるって、文明社会で、心と生活に余裕があるからこそなせる思考ですよね。そういう思考を持ち続けられる国であること、誇るべきことだなって。
小説家だって、政治的なことを言っていい
(逢坂先生)バッシングに委縮して、作家がなにも政治的なことを言わなっくなっちゃったら本当にまずいので。僕は小説も書くし、デモだって行く。
小説家だろうがなんだろうが、政治的な発言をするのは自由。多種多様な作家が言いたいことを言えばいい。
これも本当にそうだよなあ、とうなずいた言葉。
(誰かに害を及ぼさない限り)自由に意見を表明していいんだよ、と勇気づけられたし、むしろそういったことを含めたこの国の自由を、守っていかないとな。と背筋がのびる気持ちになりました。
文学キョーダイ‼ の次に読みたい おすすめ作品
次に読みたいおすすめ書籍をまとめました。ロシア語翻訳にまつわるエピソードや、身近なものと世界とのつながりを感じられる作品たちです。
ガセネッタ&シモネッタ /米原 万里
もし、あなたが同時通訳者だとして、現場で突然「他人のフンドシで相撲を取る」という表現が出てきたら、どうする…..?
次にどんな言葉が出てくるかわからない、スリル満点な世界!同時通訳者の仕事のリアルや舞台裏を知れる、エッセイ集です。
感想記事はこちら▶︎(読了)読書感想文/ガセネッタ&シモネッタ - わんこたんと栞の森
ゼロからトースターを作ってみた結果 /トーマス トウェイツ
トースターをゼロから、つまり原材料から作ることは可能なのか?
思い立った著者は、鉄鉱石やら銅やらをかき集め、じゃがいもでんぷんからプラスチック作りにチャレンジ!
トースター(らしきもの)を作りながら考察する、現代社会を支えるモノとコストと世界のつながりを、笑って学べる科学ドキュメンタリーです。
おすすめ作品、他にもいろいろ!
当ブログでは、他にもさまざまな小説を紹介中。ぜひブクマして、気になる記事をチェックしてみてくださいね。




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