多重解決ミステリー小説の、元祖にして、傑作!
「真実はいつもひとつ」とは限らない??ミステリーの定番スタイルに一石を投じた、超有名作品、毒入りチョコレート事件の感想と解説を書きました。
毒入りチョコレート事件 あらすじ
毒物が仕込まれたチョコレートを食べてしまった夫妻。夫は一命を取り留めたものの、夫人は死亡する。だが、そのチョコレートは夫妻ではなく他人へ送られたもので……
警察の依頼を受け独自に調査を重ねつつ、一晩ずつ推理を披露する犯罪研究会のメンバーたち。この推理合戦に勝利するのは誰なのか?
- 著者:アントニイ・バークリー → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 翻訳:高橋 泰邦
- 発売:東京創元社 2009/11/13 (原著の発表は1929年)
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 アントニイ・バークリーと、毒入りチョコレート事件を解説
アントニイ・バークリーは1893年うまれの英国の小説家。
ディテクションクラブ(CWA 英国推理作家協会の前身)を創設したことでも知られ、同じく会員のジョン・ディクスン・カーらとも交友がありました。1971年没。
以下に邦訳作品の一部をご紹介。※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ。※中古品のみ取り扱いの作品を含みます。
ミステリー史のマイルストーンであり、解説の杉江松恋さんの言葉を借りるなら、マスターピースとなった、毒入りチョコレート事件。
犯人の存在よりも推理の工程を楽しむエンタメ小説、といえる本作品ですが、当のバークリーは、本来犯罪にいたる犯人の心理を重視する作家だったよう。第二の銃声は、その心理学的手法の集大成とされています。
確かに、毒入りチョコレート事件でも、トリックと同じくらい、犯人の動機について考察されていますね。
その後、毒入りチョコレート事件に追随するかのように、多くの多重推理モノが、世に送り出されました。
- 五匹の赤い鰊 1931年
- 海のオベリスト 1932年
- 三人の名探偵のための事件 1936年
毒入りチョコレート事件では6人の探偵が6つの解答を披露しますが、後にクリスチアナ・ブランドは、新たな第7の解決を発表しています。
「毒チョコ」は後世の多くの作品・作家に影響を与えてきた、といえますね。
毒入りチョコレート事件 感想
正直に申しましょう、この作品、大変読みづらいです。
邦訳が古いためもあるのか(1970年ごろ?)、各探偵の推理披露は回りくどく、代名詞や二重否定が多用され、理解しやすい文章とはいいがたい。
おまけに重要な手がかりが後から出てきたり、確実な証言だと思っていたのがひっくり返されたり、ちょっとずるい!と思いたくなるシーンも。
それでも!ラスト到達の爽快感はなかなかのもの。頑張って読んでよかった!と、心から思いました。
ラストシーン、犯人は◯◯、と匂わせつつも、解釈は個々人の判断で。というのが、この作品のオチ、という風に理解しています。
これがミステリー史のマスターピース!ミステリー好きなら、読めばちょっと得意な気持ちになれることでしょう。
犯罪研究会のメンバーの個性が楽しい
探偵役となる6人の犯罪研究会のメンバーは、みな個性的で。各々のキャラに合った推理を披露するシーンは、毒入りチョコレート事件の一番の見どころです。
次の探偵の決定的な推理によって、前の探偵がけちょんけちょんにされる流れに、思わずニヤリ。
特に主人公であり、犯罪研究会会長のロジャー・シェリンガム。当初は会長として自信満々で推理しつつも、他のメンバーの推理を聞いて、あれ?自分の推理あってる?てだんだん自信がなくなってくるところが、かわいいですねw
迷えるロジャーの心の右往左往っぷりにも注目です。
ロジャーは レイトン・コートの謎 でも探偵役として初登場しますが、そそっかしいミスをしてモレスビー警部にたしなめられるとか。
以下に、登場する犯罪研究会のメンバーについてまとめました。
- ロジャー・シェリンガム 会長、小説家
- チャールズ・ワイルドマン卿 刑事弁護士
心理学的な点より、事実を重視する堅物タイプ。殺人事件で誰が利益を受けたのか?等、堅実な推理を展開。 - フィールダー・フレミング夫人 劇作家
劇作家らしく(?)、おごそかで、もったいぶった様子で推理を披露。
そんな彼女が指摘する犯人は、まさかの……?? - モートン・ハロゲイト・ブラッドレー 推理作家
傲慢で遠慮のない態度でしばしば相手を怒らせる。
他のメンバーが発表しようとしている容疑者の名前を、先に言ってしまうなど、「はなはだしゃくに障る」青年。
確率論に基づいた、数学的な推理を披露する。 - アリシア・ダマーズ 小説家
今をときめく女流作家。完璧ともいえる推理を披露するが……!? - アンブローズ・チタウィック
他の会員と違い、これといった肩書がなく目立たない存在。
当初から推理に不安を見せながらも、重要な指摘を放つ。
英国の有閑貴族の日常がうらやましい
被害者、ベンディックス氏をはじめ、作中には有閑貴族階級と思われる人々が多く登場します。
ベンディックス氏は重役会議や商談に出席するなど、企業経営者のようですが、仕事がなければひまをもてあまし、クラブでダラダラすごす……(その際に、不運にも毒入りチョコレートを入手してしまいますが)
うーん、うらましい。ただ、当時の娯楽の少なさを思えば、当人たちは暇すぎてどうしようもなかったのかも……?
毒入りチョコレート事件 の次に読みたい おすすめ作品
毒入りチョコレート事件は日本でも多くの作品に引用されています。代表的な2作品をご紹介!
愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ /米澤 穂信
撮影途中のミステリー映画の犯人をあてられるか?おなじみ青春ミステリーの金字塔、古典部シリーズの第2作。
毒入りチョコレート事件のオマージュというところで、毒入りならぬ「ウイスキー入り」チョコが登場します。食べすぎにはご用心……?
インシテミル /米澤 穂信
こちらも米澤穂信氏の作品。時給112,000円の求人につられた応募者に殺人をさせる、デスゲーム空間。
参加者には、有名ミステリーに登場する各種の「武器」が与えられますが、毒入りチョコレート事件で凶器となった「ニトロベンゼン」も、どこかに登場するかも?
デスゲーム×本格ミステリ愛な、傑作小説です。
感想記事はこちら▶︎インシテミル 原作小説の感想と、作中登場ミステリーの解説 - わんこたんと栞の森
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