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本郷の真意とタイトルを解説 愚者のエンドロール シリーズ2作目

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

 

文化祭に出展されるはずの自主制作ミステリー映画は、未完成のままで終わっていた。映画の中で被害者を殺したのは誰か?その方法は? 
相変わらずの好奇心のかたまり、千反田に巻き込まれるかたちで、古典部メンバーが結末探しに挑む! 
ほろ苦い青春ミステリシリーズの2作目 愚者のエンドロールの感想を書きました。 
 
愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ
愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ
 

 

愚者のエンドロール あらすじ

神山高校文化祭。2年F組は自主製作のミステリー映画を発表することを決めるが、脚本担当の女生徒が倒れてしまったことで、撮影途中で「犯人不明」となってしまう。

映画に登場するのは6人。「犯人役」は誰なのか?またしても千反田に巻き込まれる折木奉太郎をはじめ、おなじみ古典部メンバーの1年生が謎に挑む!

氷菓に続く「古典部シリーズ」の2作目です。

 

  • 著者:米澤穂信 → Amazonの著者作品一覧はこちら
  • 発売:2002年7月31日
  • Kindle Unlimited:対象外
  • Audible(聴く読書):聴き放題対象
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    目の前に千反田が。ホータローが。古典部といっしょにいるかのような、没入感120%の読書体験を、お試しあれ!
    ※ただし、愚者のエンドロールは劇場の見取り図をもとに推理が展開されるので、音声のみのAudible版は、ちょっとわかりづかったです。残念。
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Audibleって正直どう?メリットデメリットはこちらの記事をどうぞ▶本好きが正直に全部書く! 聞く読書Audibleのメリットとデメリット 

 

著者 米澤穂信さんと、古典部シリーズについて

直木賞受賞作家である米澤穂信さんのデビュー作 氷菓。その続編となるのが愚者のエンドロールです。

 

氷菓 「古典部」シリーズ
氷菓 「古典部」シリーズ
 

 

 

省エネ主義で、灰色の高校生活を自負する折木奉太郎が、仲間と共に日常の謎を解くシリーズ。

2作目の愚者のエンドロールは、作中作である映画の謎を解く、というある種のメタミステリのようなストーリー展開が楽しい!

 

以下に小説 古典部シリーズを並べました。1作目氷菓 → 2作目愚者のエンドロール →3作目クドリャフカの順番 の順にどうぞ。

※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。

氷菓 「古典部」シリーズ
愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ
クドリャフカの順番 「古典部」シリーズ
遠まわりする雛 「古典部」シリーズ
ふたりの距離の概算 「古典部」シリーズ
いまさら翼といわれても 「古典部」シリーズ

 

愚者のエンドロール 感想と解説

いつもの古典部メンバーのやりとりを楽しみつつ、いろんなミステリー(あるいはアンチミステリー)の要素が含まれていて、思わずニヤニヤ

 

本郷の真意はどこにあったのか?

1作目、氷菓ではきらびやかな青春、誇り高き闘争のかげで、犠牲になるものを描いていましたが、そのほろ苦さは愚者のエンドロールでも引き続き。

 

脚本担当の本郷は「人が死なないミステリー」を作りたかった。しかしクラスメンバーはその思いを(意図せずとはいえ)踏みにじっていました。

そして、入須もクラス制作映画を成功させるために。映画をヒットさせるために。本郷の作りたかった作品を切り捨て、古典部を利用して、必要な脚本を得ることに成功。しかも、古典部も意図せずとはいえ、そこに加担する形に。

 

しかも、本郷は入須のことを恨んではいないんですよね。むしろ製作途中で脱落してしまった自分を入須が助けてくれたことに感謝している。実際それもまた事実ではあるのでしょうが。

本郷の親友でもある江波は、入須を手伝いながら、どう思っていたのか、を想像すると、切ない気持ちになります。

 

愚者のエンドロールというタイトルについて

作中でタロットカードの「愚者」をあてはめられている、千反田のセリフで、物語が閉じられることから「愚者のエンドロール」とタイトルづけた。と考えるのが自然でしょう。

 

タロットカードの「愚者」

作中では、冒険心、好奇心、行動への衝動を表すとされており、福部 里志いわく「千反田さんに奉るよ」とのこと。

 

しかし、もうひとつ。「愚者」をあえて言葉通りの意味で「愚か者」ととらえてみるのも面白いのかも。

その場合は「愚か者=入須先輩に踊らされた奉太郎=エンドロールにのせられる脚本家(探偵ではない)」という意味合いがうまれてきそうです。

奉太郎には申し訳ないけどね!

 

愚者のエンドロール 登場人物

今回は自主製作映画が題材ということで、ちょっと登場人物が多め。以下にまとめました。

 

いつもの古典部メンバー
  • 折木 奉太郎 省エネがモットーの主人公。自分でも理由はわからないが、映画は苦手らしい
  • 千反田 える いつもの好奇心でいつものように奉太郎を巻き込む
  • 福部 里志 古典部と手芸太総務委員会を掛け持ち。記憶力抜群のデータベース。
  • 伊原 摩耶花 

 

映画の登場人物

2年F組で制作した映画に登場する6人。このメンバーで廃村を探検しにいく、という筋立てです。

  • 海藤武雄 映画の登場人物1
  • 杉村二郎 映画の登場人物2
  • 山西みどり 映画の登場人物3
  • 瀬之上真美子 映画の登場人物4
  • 勝田竹男 映画の登場人物5
  • 鴻巣友里 映画の登場人物6

 

映画の登場人物以外の2年F組
  • 本郷真由 自主制作映画の脚本担当。脚本未完成のまま、制作から離脱してしまったようだが……

  • 入須冬美 脚本未完成となった映画の問題を解決するため、試写会を千反田にもちかける。千反田えると並ぶ、名家のお嬢様。

  • 江波倉子 入須の指示で古典部を、2年F組のメンバーと引き会わせる。本郷のことは「親友」

  • 中城順哉(撮影班)ドラマ性を重視したストーリーの代案を考える。

  • 羽場智博(小道具班)トリックを重視したストーリーの代案を考える。

  • 沢木口美崎(広報班)ホラー性を重視したストーリーの代案を考える。

 

愚者のエンドロールは、古典部のあたたかさが身に染みる物語

奉太郎は自分の能力を信じて事件の謎をといた、はずが実は……というのが愚者のエンドロールのクライマックスシーン。

その奉太郎の間違いを古典部メンバーはちゃんと指摘してくれるんですよね。しかもみんな気を遣って、他のメンバーがいないところで、奉太郎と2人きりのときに指摘してあげるところ、優しい!古典部の絆を感じる場面です。

 

その優しさ、きっと奉太郎はわかっている。そして、余計に自分のふがいなさに身もだえしてそうw

 

それから三日間の俺の心境を述懐するのはあまり気の進む作業ではない。

愚者のエンドロールより引用

 

福部 里志が憧れるのはシャーロッキアンではなくホームジスト とはどういう意味か

「あこがれるのはシャーロッキアンじゃなくってホームジストなんだけど……」

さてはて、どう違うのやら。

愚者のエンドロール より引用

 

上記の里志のセリフ、さてはて、どういう意味なのか。

シャーロッキアン、はシャーロックホームズの愛好家という意味の言葉ですが、ホームジストという言葉は米澤穂信先生の造語と思われます。

わたしが疑問に答えます。(自分の) さんの記事で考察しておられるように

  • シャーロッキアン=シャーロックホームズの愛好家
  • ホームジスト=謎を解くもの

と見なしたうえで、ホームジストに憧れているという文を改めて読み直すと……

 

データベースを自称する里志は、自分は謎を解けない、と自嘲していますが、本当は謎を解きたい。探偵になりたい。という思いがあるのかもしれない。

それゆえに、謎を解く力のある折木奉太郎と一緒にいられるのを嬉しく思っているのか、折木奉太郎にこっそり憧れているのか、はたまた、自分は折木奉太郎にはなれないのだと諦観しているのか。

 

お前がどう思っているかは知らんが、俺はお前をもう少し高く買う。なろうと思えばお前はいつか、日本でも指折りのホームジストになれると思う。

愚者のエンドロールより引用

 

上記は奉太郎から里志へのセリフ。奉太郎からすれば友人からの優しさをこめた言葉なのかもしれません。それを聞いて微笑する里志は、何を思っていたのでしょうね。

 

実はミステリー作品の小ネタが仕込まれていた

 

毒入りチョコレート事件
毒入りチョコレート事件
 

 

毒入りチョコレート事件は、ある事件の犯人を推理談義する形式の作品。あとがきにもあるように、愚者のエンドロールはこの「毒チョコ」系の作品。

ウイスキーボンボンを食べ過ぎて、千反田が酔っ払うはこのことを意識した演出なのかな。えるたそかわいいよえるたそ。

 

 

なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?
なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?
 

 

愚者のエンドロールの表紙に書かれているWhy didn't she ask EBA? これは、作中に登場する千反田のセリフを英語で意訳した文章です。

 

なぜ入須さんは、江波さんなどの本郷さんと親しい人に、用意したトリックはどんなものか訊くように頼まなかったのか、です

愚者のエンドロール より引用

 

元ネタはアガサクリスティの作品、なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?

ミステリー好きの方ならすぐに気づいたのかな?管理人わんこたんは以下の記事で初めて知りました。

Junk Head な奴ら 米澤穂信 「愚者のエンドロール」 感想(ネタバレ注意)

 

 

探偵映画
探偵映画
 

 

こちらはあとがきで愚者のエンドロールの先例として、著者自身が紹介している作品。映画監督が失踪し、残されたスタッフで映画の脚本を捻り出す、というミステリーです。

我孫子武丸さん、殺戮にいたる病が有名ですが、こういう作品もあるんですね。読んでみよっと。

 

 

愚者のエンドロールの次に読みたい おすすめ作品

愚者のエンドロールは「映画の謎」でしたが、こちらでは「舞台の謎」をテーマにした、おすすめ作品を集めました。

 

君のクイズ/小川哲

 

前代未聞のクイズショー×ミステリー

賞金のかかったクイズの決勝。その対戦相手が「問題文の読み上げ前」に正答したら……あなたは信じられますか?

これはやらせか?実力か? クイズショー×ミステリー 異色の組み合わせと、謎が解かれる快感に、あなたも虜になるはず!

 

君のクイズ
君のクイズ
 

 

感想記事はこちら▶︎きっと人生が好きになる 君のクイズ 感想 - わんこたんと栞の森

 

噓と正典/小川 哲

 

このマジック、本物か?トリックか?

不思議な余韻が癖になる、いろんなジャンル詰め合わせのような短編集。

収録作「魔術師」では、「タイムトラベル マジック」を披露するマジシャンが登場。その前代未聞のマジックが残したものは……

マジシャンの様子や心理が細やかに描かれる点にも注目です!

 

嘘と正典
嘘と正典
 

 

感想記事はこちら▶︎嘘と正典 感想と解説 - わんこたんと栞の森

 

読み始めたらとまらない作品、揃ってます

 

愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ
愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ