解剖×歴史×ミステリーの三重奏を描き切り、2012年本格ミステリ大賞を受賞した、 開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―
医学×18世紀英国×ミステリーの美しく哀しき三重奏。その感想を書きました。
開かせていただき光栄です あらすじ
18世紀ロンドン。外科医ダニエル・バートンの解剖教室に突如現れた2つの屍体。
盲目の治安判事ジョン・フィールディングスはダニエルと5人の弟子<バートンズ>に捜査協力を要請するが、彼らの証言には嘘が紛れ込んでいて……
迷信ばかりの医術が跋扈する時代。最先端の医学知識を武器にバートンズが謎に挑む!
- 著者:皆川 博子 →Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:早川書房 2013/02/28
※文庫版には前日譚「チャーリーの災難」と解剖ソングの楽譜を併録。解説は有栖川有栖。Kindle版にはいずれも収録がないので要注意です。 - Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 皆川 博子氏と、エドワード・ターナー3部作について
皆川博子氏といえば、美しく、ぞくぞくするような幻想的な世界観の作品たち。
御年90を超えておられますが、2023年にも作品を刊行しており、まさに伝説的女流作家。作品数も受賞歴も膨大で、ここには書ききれないのですが、管理人わんこたんは
- 開かせていただき光栄です (2012年 本格ミステリ大賞受賞)
- 死の泉 (第32回 吉川英治文学賞受賞)
が特に好き!
以下に著者の作品の一部を紹介します。※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ。
開かせていただき光栄です は、それ単体でもミステリー作品として楽しめますが、「エドワード・ターナー 三部作」の1作目でもあります。
解剖学教室のメンバーがその後どうなるのか?気になる方は、シリーズ2作目 アルモニカ・ディアボリカ、3作目インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナーも合わせてどうぞ。
三部作の全体像は、以下の記事で、ネタバレなしで解説しています。
開かせていただき光栄です 感想
まず18世紀ロンドンの、解剖教室の描写が楽しい!
冒頭、こっそり入手した妊婦の死体を解剖するシーンで始まるこの作品。妊婦の死体を勝手に解剖するなんて!
現代の倫理観だったら絶対に許されない(というか当時でも許されない)シーンですが、こういう倫理感ガン無視の解剖があったからこそ、私たちは誰もがごく普通に母親のお腹とその中の胎児の様子を思い浮かべることができるんですよね。
今では子供向けの図鑑にすら載っている、母親のおなかの中で育つ胎児のイラスト。これが描けるようになるまでに、どんな苦労があったのかがしのばれる、このシーン。冒頭からグッと心つかまれます。
キャラクターがめちゃくちゃ魅力的
被害者少年(ネイサン・カレン)の生前と、死体発見後の時系列が交互に登場する構成。いったいネイサンに何があったの?と、気になって、どんどんページをめくってしましました。
ネイサン・カレンを襲う不運と悪意の数々。緊張感MAXの中で、ラスト、裁判のシーン……!いやあ、見事にやられましたわ。
盲目の判事、サー・ジョンはめちゃくちゃかっこいいし、出番が少ないですが、銀行のヒューム夫妻とダニー坊もいい人たちだったなあ。暗い話ですが、暖かい人たちもたくさんいるのが救い。(ちなみに、サー・ジョンは実際の判事だったりする)
すべては解剖学教室を守るために。
ダニエル・バートン先生が、本当に不器用で優しいキャラで。口下手であるが故に、正直な気持ちを言ってしまい、あとで後悔するタイプのバートン先生。
だからこそバートン先生はみんなから愛されているんですよね。
嘘がつけずなんでも顔に出てしまうバートン先生に真実を告げれば、確実に判事のサー・ジョンに見破られてしまう。だからこそ先生に何も伝えられなかった、エドとナイジェルが悲しい。
みんなに愛され、なんとか守られた解剖学教室。バートンズはこの後どうなっていくのでしょうか。気になる方はぜひ、続編のアルモニカ・ディアボリカをどうぞ。
開かせていただき光栄ですの次に読みたい おすすめ作品
鍵を握るのは……遺体??
ミステリーから、人体実験の歴史まで!おすすめ書籍を紹介します。
すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&Mシリーズ /森博嗣
14年間閉ざされた研究室から、突如現れた花嫁姿の死体。誰も入れない部屋で、いつどうやって殺されたのか? 密室ミステリーの歴史を塗り替えた、驚天動地のトリック。ネタバレを見ずに、ぜひご自身の目でお確かめを。
感想記事はこちら▶︎すべてがFになる とはどういう意味?感想と解説 - わんこたんと栞の森
世にも奇妙な人体実験の歴史 /トレヴァー・ノートン
古今東西様々な人体実験をおもしろおかしく紹介しつつ、医学実験の発展について学べる良書。バートン先生のモデルとなった解剖医、ジョン・ハンターのエピソードにも触れられています。
あの妊婦の解剖シーンは、実話がもとになっているんですね。
感想記事はこちら▶︎(読了)読書感想文/世にも奇妙な人体実験の歴史 - わんこたんと栞の森
おすすめ作品、他にもいろいろ!
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