
科学の力で知的障害を克服する。
それは、当事者にとって幸せなこと?それとも……
本当の幸せとはなにか、本当の心とは何かを描き出し、1959年の発刊以来、世界中で読み継がれる傑作。アルジャーノンに花束を の感想を書きました。
アルジャーノンに花束を あらすじ
32歳だが幼児なみの知能しかないチャーリイ・ゴードン。
他と同じような知能をえて、文字を読んだり会話することを夢見るチャーリイ。画期的な手術を受けたことにより、チャーリイの知能は向上していきますが……
天才に変貌した青年を通じて、人の心の真実を描き出す、不朽の名作。
刊行中の新版には、著者キイスを追悼した訳者あとがきが掲載されています。
- 著者:ダニエル キイス → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 翻訳:小尾 芙佐
- 発売:早川書房 2015/03/10 (新版)
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象
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著者 ダニエル キイス氏について
ダニエル・キイス氏はアメリカの小説家。
代表作に、当記事で紹介しているアルジャーノンに花束を(ネビュラ賞)の他、解離性同一性障害を扱ったノンフィクション、24人のビリー・ミリガンなどが挙げられます。
(まるでチャーリイのように)パン屋やウェイターなどで働いたのち、教職について知的障害児を教えるクラスについたキイス氏ですが、その時の経験がきっかけで、アルジャーノンに花束を が誕生したのだそう。
以下に著者の作品の一部を並べました。(書影クリックでAmazonのページへ)
アルジャーノンに花束を 感想
全編、チャーリイの書いた日記で構成された本作品。
最初はたどたどしい幼児のようだった日記の文体が徐々に変化し、読者はチャーリイに起きた変化を追体験することになります。
知能が高いことは幸せなのか。チャーリーに最後に残ったものはなんだったのか。
答えのない問いを心の中で繰り返しながら読みました。
知的障害は、治療すべきなの?
ストラウス博士も、ニーマー教授も、キニアン先生も、そしてチャーリイ自身も、知能を高める手術でチャーリイが幸せになれるはずだと信じています。
知的障害は克服すべき病であると、そう信じているかのように。
でもそれは、普通の知能を持つ人の価値観を、チャーリイに押し付けているだけなのではないか?と、読みながらずっと考えてしまいました。
以下は冒頭、「けえかほうこく1」で、チャーリイ自身が記した言葉
ぼくわかしこくなりたい。
知能を向上したいというのは、他ならぬチャーリイ自身の願い。手術はチャーリイの意志を尊重して行われ、道義的には何も問題がないように思える。けれど、それは本当にされるべき手術だったのか。
最後まで読んでもわからなくて、ずっとぐるぐると悩んでしまう。この記事を書いている今でも、ずっと結論を出せないでいる部分です。
チャーリイはチャーリイのままでいい、チャーリーのありのままの人格を尊重すべきであり、知的障害は無理に治すべきものではない。管理人わんこたんはそう感じています。
一方で、知的障害の当事者の方はどう考えているんだろうか。みんなと同じ本を読み会話をしたい、そのためにやはり知能を向上させたいと考えているのではないか。
となると、知的障害は治すものではない、というわんこたんの考えもまた、知的障害の当事者からみたらきれいごとの押し付けに過ぎないのではないか、そう思えてしまうのです。
以下より、アルジャーノンに花束を の展開に触れています。未読の方はご注意ください。
知能があがるということは、メガネをかけるということ
知能があがるというのは、メガネをかけることに似ています。
近視の人がメガネをかけると、世界がよく見えるけれど、部屋の汚れがやたら目につくのは、メガネユーザーあるある。(管理人わんこたんもそのひとり)
チャーリーは知能が上がることで、メガネをかけたように、周囲の嫌なものに気づけるようになってしまいます。それも現在のことのみならず、過去の嫌な出来事まで、はっきり思い出せるようになってしまう
- 仲良しだと思っていたパン屋の仕事仲間が、実は自分をバカにしていたこと
- 母親が子供の頃の自分に行った行為
知能が上がることによって解像度のあがった世界が、チャーリイを傷つけていく。読んでいてたまらなかった。世界の汚さと残酷さを、チャーリイは知っているのです。
パン屋の仕事仲間が、嫌いになった
勤め先のドナーパン店の同僚は、みんなチャーリイと仲良し。
チャーリイはそう考えていました。でも実態は違っていた。知的障害のあるチャーリーをバカにしつつ、緩衝材として使っていたのです。
それでいて、チャーリーの知能が上がると、みんなチャーリーを疎ましく思い、チャーリイから離れていく。
やがて治療の副作用でチャーリーの知能が下がってくると、困ったことがあったらなんでも言ってくれよと、白々しく声をかける。
自分に都合のいいようにチャーリイをあしらう様子、読んでいて辛かった。でも最後にパン屋のみんなとまた仲良くなれて、チャーリイは本当にうれしそうで……これでよかったのかなあ……
チャーリイの昔持っていた優しさって、なんだろう
アリス・キニアン先生は、手術によって知能が高まった教え子のチャーリイに対し、「昔のあなたの持っていた優しさや笑顔が失われてしまった」、と嘆きます。
たぶんそれは失われたのではなく、人間がこどもの頃からもっている魂の核のようなものなのではないでしょうか。
発達する知能によって、徐々に魂の核にあった優しさや笑顔が覆われて、見えなくなってしまったのかな、と思いました。
キニアン先生、知能の低いチャーリイが、ニコニコ笑って頑張っているうちは優しくしてくれるのに、知能がつくと嫌がる、なんて、身勝手だなあと。
でもそれ、子育てしている親と同じ心情なのかも。幼児のころはただただかわいいと思ているのに、成長すると「昔はにこにこあんなにかわいかったのに」「今じゃ生意気ばっかり」なんて、ついつい思ってしまいますから。反省。
チャーリイの変貌
アルジャーノンに花束を で、一番印象的だったのが、知的障害児のウェイターを、野次馬たちがからかうシーン。
知能のあがったチャーリイは、そのウェイターをみて、最初はみんなといっしょに面白がります。
そしてはじめはこの私がみんなといっしょになっておもしろがっていたのだ。
(アルジャーノンに花束を〔新版〕より)
知的障害者のことを一番よくわかっているはずの自分が、知能があがれば、知的障害者をからかう側に回っている。
とてもショッキングで、示唆的なシーンでした。
チャーリイはそんな自分に気づき、愕然とします。そのあとに続くチャーリイのセリフがこちら。
私の知能と才能を、人間の知能の増進をはかる分野に寄与すべきである
チャーリイ自身が「知的障害者の知能を増進させていくこと」を「救い」ととらえているんですよね。
ここでわんこたん、またわからなくなってきました。知的障害者の知能を増進させようとすることは、わたしたちのエゴなのではないか。しかし知的障害者自身が、そのことを望んでいる……
妹のノーマの苦しみを理解する
チャーリイの妹、ノーマの経験は、まさに今現実でも問題になっている「きょうだい児」の問題と同じ。
※きょうだい児:日常生活で介助が必要な障害や難病のある兄弟姉妹をもつ子供。
参考▶きょうだい児とは?きょうだい児が抱えがちな不安やストレス、問題など | atGPしごとLABO
知能の上がったチャーリイが、ノーマと再会し、互いの過去について語るシーン。知的障害を持つチャーリイの影で、ノーマがどんなに寂しい思いをしていたか。
チャーリイの苦しみだけでない、そのきょうだいの苦しみを、親の苦しみと逃避を、はっきり描いていて、その描写の深さに驚きました。
最後に
結局、私たちは(チャーリイの周りの人は)どうすればよかったのでしょう。
何が相手の幸せなのか、親身になってずっとずっと考え続けること。
幸せの価値観を押し付けない、相手を1人の人間として尊重する。そんな当たり前のこと、でも私たちがすぐに忘れてしまうことを、チャーリイとネズミのアルジャーノンは思い出させてくれました。
悲しい、けれど、これ以上のものはない、と思わせてくれる結末。
読んでよかった!本当にそう思います。
アルジャーノンに花束をの次に読みたい おすすめ作品
人の記憶は、意識は、魂はどこにあるのか。
心揺さぶる「精神」の物語を集めました。
ここはすべての夜明けまえ /間宮 改衣
冒頭のたどたどしいひらがな文が、アルジャーノンに花束を を彷彿とさせる作品。
かぞくがみんないなくなって、ひとり残った「わたし」。
苦しかったこと、死にたかったこと、お父さんのこと、シンちゃんのこと。書き始めたかぞく史から明らかになる、わたしの過去とは……?
冷静で透明な「わたし」の視点から、「誰かを愛すること」の美しさと醜さが炙り出されていく、傑作SFです。
失われた過去と未来の犯罪 /小林 泰三
全人類が記憶障害に陥り、体に差し込む記憶デバイスなしでは短時間の記憶しか保てなくなった世界。
様々な理由でデバイスが外れたり、入れ替わったりする短編エピソードを通じて、人格のありか、魂のありかに迫ります。
人類はどこに向かうのか?「わたし」とは一体何者なのか?
感想記事はこちら▶︎失われた過去と未来の犯罪/小林泰三 感想 - わんこたんと栞の森
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