AIのスマートなイメージとは裏腹に、泥臭い犯罪現場を描いた本作。読めばなぜか元気になる、AI犯罪小説 人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアルの感想を書きました。
人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル あらすじ
首都圏ビッグデータ保安システム特別法により、凶悪犯罪は激減。
その裏で下っ端人工知能技術者の三ノ瀬は、フリーランス犯罪者の五嶋に命を救われる引き換えに犯罪の片棒を担ぐことに。どうしてこうなった?と思うまもなく、三ノ瀬は次々と裏社会の思惑に巻き込まれ……
なるか?一攫千金!でこぼこコンビのAI×犯罪な痛快近未来SF!
- 著者:竹田 人造
- 発売:早川書房 2020/11/19
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 竹田人造さんと、人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアルについて
2020年のハヤカワSFコンテストに、本作人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアルで優秀賞を受賞しデビュー(※受賞時のタイトルは電子の泥舟に金貨を積んで)
2022年にはAI法廷のハッカー弁護士(文庫化のタイトルはAI法廷の弁護士)が発売!AI×SFな作品を発表している新進気鋭の作家さんです。
本職はデータサイエンティストであり、その経験を作品作りにも生かしている、とのこと。
参考▶AI技術者、SFを書く。竹田人造インタビュー|Hayakawa Books & Magazines(β)
ハヤカワSFコンテスト受賞時には作品名が違った?
受賞時のタイトルは「電子の泥舟に金貨を積んで」。出版時に大幅に改題されたことも話題を呼びました。
正直なところ、改題後の現在のタイトル人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアルのほうが、作品の雰囲気をよく表していて、わんこたんは好きです。
同じSF作家の柞刈湯葉さんも以下のようなツイート。
何度か言ってるけど『10億ゲット』はどう考えても改題後のタイトルのほうが内容に合っている
— 柞刈湯葉(いすかり・ゆば) (@yubais) May 12, 2022
よくよく考えると「完全犯罪マニュアル」が登場するわけではないし、「電子の泥舟」のほうが、本の内容には合っている。合っているんですが…...
タイトルって難しい!ここは編集者の腕の見せ所だね!
人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル 感想
まるでB級映画のような?三ノ瀬と五嶋の軽妙洒脱な会話劇にニヤニヤ。
やってることは専門的で訳わかんないのに、2人がお互いぐちぐち文句を言いつつ、なんやかんやで依頼をこなしていく流れが楽しいです。
ライアン・ゴズリング主演で、自分の犯罪歴を映画化してほしいと吹聴する五嶋に、冷静にツッコミを入れる三ノ瀬。
でも三ノ瀬は五嶋に不本意ながら命を救われたこともあり、文句は言えても反抗はできない、という関係性が妙におかしい。
「三ノ瀬ちゃん、心の準備は出来た?」 「出来ません」 「あ、そ。でもやるわ」
人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル Kindle版 9ページより引用
AIに関する技術的な説明はちょっと難しい部分がありますが、そういうの気にしなくとも、なんかすげーと思えてしまう勢いの良さ。意外な部分が伏線となってラストの展開につながるところも、楽しいです。
AIはもちろんすごいけど、最後は人間様が泥臭く踏ん張って、、、という、最終的には人間どうしの戦いになるところも好きです。
へこたれない三ノ瀬くんに、なんだか元気をもらえるような、そんな作品でした。
登場人物
主要な登場人物の名前には全て一~九の漢数字が入っています。「二」と「七」は登場しないのですが、続編の布石……だったりするの?
三ノ瀬
両親の借金の連帯保証人にされたことで簀巻きにされて臓器を売り飛ばされそうになった不運な主人公。
人工知能の高いスキルを持ちつつ、ついつい相手の理論に技術的な穴があるとツッコミを入れてしまう性格のせいで、とことん犯罪に巻き込まれていく。
五嶋
金髪のどう見ても胡散臭いチンピラ。自称知能犯。現金輸送車を乗っ取るという約束と引き換えに六条から三ノ瀬の身柄を引き取る。胡散臭いのに実はいろんな技術やコネを持っている。
自身の犯罪をライアン・ゴズリング主演で映画化してもらうのが夢。生活態度は最悪。
六条
歌舞伎町マフィアの若頭。三ノ瀬の両親の借金返済のために、三ノ瀬の臓器を売り飛ばそうとしている。五嶋に振り回される。
八雲
三ノ瀬の元同僚。なんやかんやで三ノ瀬を心配してくれている。優しい。
一川由伸
NNアナリティクスの統括技師長であり、首都圏ビッグデータ保安システムCBMCの産みの親。三ノ瀬がNNアナリティクスに勤めていた時代の上司。三ノ瀬をバカにし、クビにした因縁の人物。
三ノ瀬は一川の生み出したCBMCに一泡吹かせるべく、作戦を練ることに。
四郎丸
カジノ街となった博多。その黒幕。博多最大のカジノ、セントラルベイ博多のオーナーであり、自身のカジノを利用して、資金洗浄をしている悪いヤツ。
六条は四郎丸に多額の借金をしており、頭が上がらない。
九頭(くず)
NNアナリティクス時代の三ノ瀬の同僚。NNアナリティクスを離れ、世界トップの企業、G社にヘッドハントされる。
こちらも三ノ瀬にとって因縁の人物。知識も技術もあるが、攻撃性の高いマウントモンスターで、NNアナリティクス社内でも畏怖されていたが……?
海蛇
四郎丸に雇われた始末屋。技術的に不可能とされる、「意図的にAIの例外を引き起こす」技をもつ、と言われる。
登場する専門用語
専門用語が多くとびかう人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル。
その一部をまとめました。
Advanced Smooth Grad
AIが学習の結果どう考えて行動するか?を予測するシステム。「ディープラーニングの心を読む」という触れ込み。三ノ瀬が得意とする技術であり、五嶋はその技術が犯罪に応用できることに目をつける。
首都圏ビッグデータ保安システム 通称CBMS
一川が生み出した警視庁の保安システム。監視カメラやSNS、カードの使用履歴などありとあらゆるデータから、犯罪発生を検知。検知したらアサルトライフル装備の武装ドローンで即制圧、という、犯罪者泣かせなシステム。
Adversarial Example
小さなノイズでAIを騙す技術。三ノ瀬はこの技術の応用で、AIを騙す計画を立てる。
ただしAdversarial Exampleを生かすためには、騙す対象となるニューラルネットの情報が必要となるうえに、継続的にAIを騙し続ける必要があるため、難易度は高い。
人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアルの次に読みたいおすすめ作品
AIやITエンジニアリングに関連する、おすすめSFや書籍をまとめました。
オービタル・クラウド/藤井太洋
安価なガジェット。どこにでもある技術。それらを組み合わせて巻き起こる大犯罪。SFだけど、ありえそうな未来を描いた作品。
作中、リアルタイム翻訳を汚染して、国際関係に緊張を生じさせる、というシーンがあります。AI翻訳が当たり前になりつつあるこの社会で、翻訳に嘘つかれたら、どうする?と思わずにはいられない!
人工知能・強化学習の黎明期について知りたいならコレ
2017年、人工知能「ポナンザ」が現役の将棋名人に公式戦で勝利し、AIの歴史がまたひとつ塗り替わったのを覚えているでしょうか?
ポナンザの生みの親から見た、AIの仕組みとは?進化とは?2017年の出版ですが、AIが普及した今だからこそ、改めて読みたい名著です。
生物学研究者が生み出す想像の斜め上SF 人間たちの話 柞刈 湯葉
斬新なSFアイデアと人間たちが織り成す奇妙な短編集。
わんこたんは宇宙ラーメン重油味がお気に入りです。「消化管のあるやつは全員客」というコンセプトのラーメン屋。今日も今日とていろんな宇宙人がやってきて……?
感想記事はこちら▶(読了)読書感想文/人間たちの話 柞刈 湯葉 - わんこたんと栞の森
読み始めたらとまらない作品。他にもいろいろ!