
時は太平洋戦争末期。もしこの時代に怪獣が実在していたら……
原爆投下ではなく怪獣の着ぐるみで日本を降伏させる!?そんな奇想天外なアイデアに取り組む人々を通して、戦争と抑止力と核の問題を描き出す。ヒロシマめざしてのそのそと の感想を書きました。
ヒロシマめざしてのそのそと あらすじ
時は第2次世界大戦のさなか。
モンスター役で映画界のスターであったシムズ・ソーリーは、米海軍から極秘の依頼を受ける。それは、巨大なトカゲの着ぐるみに入って、日本の外交団に見せつけるというものだった。
実はアメリカ海軍は巨大な火を吹くトカゲを生み出し、日本を降伏させようという極秘計画を進めていて……?
- 著者:ジェイムズ・モロウ
- 翻訳:内田昌之
- 発売:竹書房 2025/10/27
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 ジェイムズ・モロウ氏について
アメリカ人SF小説作家であり、残念ながら日本ではほとんど邦訳されてませんが、訳者 内田昌之氏による後書きによれば、以下をはじめとする多くの作品を刊行しているそうです。
- テレビが子供の心に与える影響 を題材にした
The Wine of Violence (1981) - 核戦争での世界滅亡から物語が始まる
This Is the Way the Worlds Ends (1986) - 聖書を再解釈する短編シリーズの一編
「おとなの聖書物語 第17話 ノアの箱舟」(1988) ※邦訳されてるらしいのですが、見つけられず…… - 人が嘘をつくことを禁じる架空の都市の寓話
City of Truth (1990) - 精子バンクの事故による処女懐胎で誕生した少女が、キリストの生涯をなぞり現世から地獄まで駆け巡る
Only Begotten Daughter(1990) - 神が物理的に存在ししかも死んでしまった世界を描く
ゴッドヘッド三部作(1994-1999)
書き出してみましたが、なかなか面白そうではありませんか。いつか邦訳で読めたらいいな。
ヒロシマめざしてのそのそと 感想
アメリカで火をはく巨大怪獣型生物を開発したので、こいつらを日本の使節団に見せつければ、戦意喪失し降伏するはずなんだけど、でも実際の怪獣たちは制御がむずかしいので、俳優を入れた怪獣の着ぐるみを生きた小型怪獣ということにして、ミニチュアの日本の街を破壊する様子を見せれば、震え上がってくれるのでは?
……なんだこのめちゃくちゃ遠回りで面白そうな作戦はw
前半はコメディタッチで軽快に進みつつ、その結末は……ガツンと殴られるような、強烈な反戦反核小説となっています。
作中に往年の有名映画作品をオマージュしたかのようなエピソードがたくさん登場するので、映画好きの方はよりニヤニヤしながら読めるかも。(管理人わんこたん、どれもこれもわかんなくて残念)
抑止力で戦争を終わらせることはできるのか?
著者の意図はともかく、管理人わんこたんは、ヒロシマめざしてのそのそと を「抑止力の虚しさ」を表現した作品のように感じました。
抑止力を示せば(つまりこの作品でいうソーリーの演じた怪獣映画 を見せつければ)戦争を回避できる!という理屈が、とんでもない間違いだったと。
抑止力をちらつかせたら、敵は降伏するのか?和平を結ぶのか?平和が維持されるのか?しかし物語の中の日本は怪獣兵器のことを過小評価し、降伏もポツダム宣言の受諾も選びませんでした(その結果どうなったかというと……)
抑止力って、大量破壊兵器によって起こりうる悲劇的な未来予想図を理解し、ちゃんと国民を守ろうとする理性ある国に対してじゃないと、意味がない。
でもそんな国が、他国の国民に対して大量破壊兵器を撃てるはずがないので、ますます矛盾していくという。
コメディタッチと、虚しさと
ソーリーたちは、リアルな怪獣づくりに一生懸命、そして基本的に善人。
であるが故に、ラストの切なさが際立ちます。
そんな平和的で牧歌的な方法で、絶望的な戦局に突き進んでいく日本を止めるなんて、まあ無理だったよねっていう想像力の欠如を突きつけられるような。
前半のコメディタッチと、怪獣映画を見せれば全てがうまくいく!というポジティブな姿勢。からの、あの虚しさよ……
どこかズレた日本の描写は意図的なのか
意図的なのかは不明ですが、日本の描写にかなりズレを感じます。
なんというか、いかにもハリウッド映画で描かれるJAPANって感じ。
- モモコとヨフネヌシが登場する日本神話のエピソード
- 破壊される日本の模型に登場する。オニババ山とか。
こういうズレ感は日本人としても面白いんだけど、作者が意図してこのようなネーミングにしたのか、それとも適当に書いただけなのか、、、
おかげで、モモコとヨフネヌシの神話の話を感慨深げに聴く人々の様子が、めちゃくちゃ滑稽な感じになってしまっています。
そのわりに「天皇のヒロヒト」とか「将軍のアナミ」などという実在の人物像を織り交ぜ、現実と虚構の境目がわからなくなってくる部分もあり、その辺りの作者の意図がよくわかんなくて、モヤモヤする感はありました。
反戦の力強いメッセージ
と、率直な感想を書きましたが、とにかく「反核」というテーマは明確。
日本に2発もの原爆を落とし、なおも抑止力としての大量破壊兵器保有を続けるアメリカの判断に、力いっぱいノーを突きつけます。
虚実織り交ぜた荒唐無稽な物語でありつつ、強いメッセージを放つ、不思議な物語。ジェームズ・モロウ氏の他の作品も、いずれか邦訳で読んでみたいな。
ヒロシマめざしてのそのそとの次に読みたい おすすめ作品
次に読みたいおすすめ書籍をまとめました。怪獣SFや、原爆投下に関わる物語など。
怪獣保護協会 /ジョン スコルジー
コロナ禍のニューヨークで、理不尽にも会社を解雇されたジェイミー・グレイ。たまたま再会した旧友から紹介された「おいしい仕事」は、並行世界の地球を闊歩する巨大怪獣の保護だった!?
スカッと笑って熱くなれる、怪獣×お仕事SFが、装いも新たに文庫版で登場です。
藍を継ぐ海 /伊与原新
収録作「祈りの破片」は、原爆を投下された地、長崎のとある研究者を題材にしています。
原爆の生々しい被害とか痛みの記述とはまた違う、科学の目を通した冷静な描写による、悲しみの記録が印象的。
おすすめ作品、他にもいろいろ!
当ブログでは、他にもさまざまな小説を紹介中。ぜひブクマして、気になる記事をチェックしてみてくださいね。




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