月は無慈悲な夜の女王 あらすじ
流刑地であり資源豊かな月は、植民地として地球の圧政に苦しんでいた。自我をもつ高性能なコンピューター「マイク」を切り札に、平等な貿易をするための、革命を巻き起こす月世界人。戦略兵器を持たない月に勝機はあるのか?
ヒューゴー賞受賞に輝く、ハインラインの傑作SF長編小説です。
- 著者:ロバート A ハインライン → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 翻訳:矢野 徹
- 発売:原書:1966年 邦訳:1969年
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 ロバートAハインライン氏(1907-1988)について
アメリカを代表するSF作家であり、アイザック・アシモフ氏、アーサー・C・クラーク氏と並んでSF小説を発展させた功労者の1人です。
日本では夏への扉が圧倒的に有名ですが、アメリカでの人気投票では 月は無慈悲な夜の女王、「異星の客」「宇宙の戦士(映画:スターシップ・トゥルーパーズの原作)」が上位にあがるんだとか。
他の作品も読みたいなあ。
※書影クリックでAmazonのページに飛びます
夏への扉の他に、時の門など、時間にまつわる傑作をたくさん書いています。まさに、SFが発展する土台を築いた作家といっても、過言ではないはず。
月は無慈悲な夜の女王 感想
まるで生成AIを予言したかのような人工知能の存在に、現実の歴史を投映したかのような革命の描写が印象的でした。
全体的に読みづらく、新訳がほしいなあ
原著の発行は1966年、矢野徹さんによる日本語訳版は1969年の発行。そこから改訳はしていないと思わ、全体的に古くて直訳的な感じは否めません。
大事な情報が後から出てくるストーリー構成もあいまって、特に序盤はかなり読みづらかった……なかなか話は進まないし、キャラ多いし。
革命が進行していく中盤以降は、緊張感ある展開にハラハラ楽しめました。
登場人物は多いですが、重要なキャラはそこまで多くないので、そのメンバーに絞って読むと、まだ読みやすいかも。
- マイク
偶然に自我を得た、高性能コンピューター。 - マヌエル・ガルシア・オケリー・デイビス(マニー)
月世界のコンピュータ技師。マイクの初めての「友人」になる - ワイオミング ノット(ワイオ)
革命活動家の女性 - ベルナルド・デ・ラ・パス教授
政治犯として地球から追放された人物で、月世界での教育に力を入れている。革命のための策略に詳しい。 - スチュアート・ルネ・ラジョア
地球側の人物だが、月旅行でマニーに命を救われたことで、革命に加担。月世界のスパイとなる。
マイクは自我持つ人工知能であり生成AIの先駆者!
マイクというのは主人公がつけた名前。(正式名称はMycroftで、名探偵シャーロックホームズの兄 マイクロフトホームズが元ネタ)
元は月にあるただの巨大コンピューターでしたが、月世界の様々なシステム管理、計算を担うため大量のネットワークに接続された結果、知能と自我が自然発生した、という設定。
自我が生まれ、孤独を感じたマイクは、給料の計算をわざとミスるなどのイタズラを敢行、そのことがきっかけで、マヌエルと出会い、物語が動き出します。
高度な計算力を持つ上に、データに基づいた未来予測も可能。
さらに自分のアバターとなる架空人物の動画を生成したり、演説スピーチ原稿を書いたり、プログラムのコードを書いて他のコンピュータを動かしたり。。。まさに現代の生成AIを予言しているかのようです。
ハインライン先生、夏への扉の「文化女中器」もそうですが、ピンポイントでの未来予測の的中がすごい。
夏への扉 紹介記事はこちら▶文化女中器ってなんだ?夏への扉/ロバートAハインライン 感想と解説 - わんこたんと栞の森
とあるシーンでマイクが「興奮(オルガスム)を感じた」というシーン。そのあまりの人間らしさにマニーが恐怖を感じるシーンが印象的でした。
月社会のシステムと設定が斬新
月は無慈悲な夜の女王、月世界の社会システムが後から小出しで説明されるので、ちょっとわかりづらいものの、この社会システムが、想像力に富みつつ、よく考えられているのも魅力なんです。
月世界に多くの囚人が送られ、開拓してきた歴史的背景から、男性が多く女性が貴重だった月。1人の女性が多くの男性と結ばれるような婚姻システムが採用されていること、男女の人権の不平等(女性の選択権が尊重されがち)などの、独特の文化が描写がおもしろいです。
月で小麦を生産??
月は無慈悲な夜の女王 で描く月世界では大量に小麦を生産し、地球に輸出しているという設定。また、月には大量に氷が埋蔵され、その採掘で資源とエネルギーを得ているという描写もあります。
作品の書かれた1966年はアポロ11号の月面着陸の前ですが、どうやら実際月には大量の氷があるようです。すごい!
参考:
月の地下に大量の氷が埋蔵されている可能性 月隕石から氷の痕跡である「モガナイト」を発見、月で利用可能な水資源に期待!|お知らせ|東北大学大学院理学研究科・理学部
月社会のエコシステムといえば、近年では、アルテミス/アンディ・ウィアーで、月にある岩石の還元反応で酸素を得ている、という設定の都市が描かれています。いろんな作品の月面都市を比べてみるのも楽しいですね。
革命の遂行と、歴史の投影
かつて新大陸の開拓に多くの囚人が労働者として送られ、本国の圧政に耐えかねて戦争を起こして独立。そんなアメリカの歴史を月世界に投影したような展開。
戦力に乏しい月世界。彼らに生き残る道はあるのか?革命をおこすまでの具体的な手順がしっかりめに書かれています。
マイクのような優秀なAIが多数存在する現在なら、もしかして、革命、実際にできちゃうのでは?と思わずにはいられません。
月と地球の引力差を利用した、意外だけど強力な切り札の正体にも注目!この兵器、ガンダムの元ネタであると噂されているようですが、真相はいかに。
優れた頭脳があっても避けられない流血
マイクという最高の頭脳を活用して革命を推し進めるマニーたち。当初、無駄な殺人はしたくない、といっていたマヌエルでしたが……
最高の頭脳で最高の戦略をもってしても、革命に流血は避けられない。そんな苦々しさと人間の現実を感じさせる物語でした。
月は無慈悲な夜の女王 の次に読みたいおすすめ作品
「月」「革命」「AI」をキーワードにおすすめ作品を選んでみました。
アルテミス/アンディ・ウィアー
月面都市アルテミスで運び屋として働くジャズ。ある日受けたその依頼は巨悪の陰謀へと繋がっていて……
観光地化された月面都市のリアルな描写にも注目!
インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー/皆川博子
独立戦争に割れるアメリカ。本国(イギリス)側につくか、新大陸(アメリカ)につくか?開拓者たちの悲喜こもごも、戦争に巻き込まれるネイティブアメリカンの様子がリアルに描かれます。
ただし3部作の3作目なので、最初は1作目の、開かせていただき光栄ですからどうぞ!
人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル/竹田人造
AIを駆使し、AIを出し抜き、狙うは一攫千金!? 最先端のAI技術とバディの軽妙なかけあいのギャップが楽しい、近未来SF小説です。
巻き込まれちゃう系の凄腕AIエンジニア、三ノ瀬くんの運命はいかに??
SF初心者さんに読んでもらいたい傑作5選はこちら