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地球の運命はこどもたちにたくされた!超新星紀元 / 劉慈欣 感想

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SF小説「三体シリーズ」の作者である劉慈欣氏の長編デビュー作。
その邦訳版がついに登場!地球の運命はこどもたちにたくされた!?
ネタバレありの感想です。
 
超新星紀元
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

 

 

超新星紀元 / 劉慈欣」のあらすじ

1999年末、超新星爆発によって発生した放射線バーストが地球に降り注ぐ。

その結果、1年後に13歳以上の大人すべてが死にいたることが判明。

地球の運命はこどもたちに託された!

  • 著者:劉慈欣
  • 翻訳:大森望、光吉さくら、ワンチャイ
  • 発売:2023/7/19  早川書房(原書は2003年刊行)

 

 

超新星紀元 / 劉慈欣」ネタバレあり感想

作品は「大人たちが死ぬ前」パートと「死んだあと」パートに分かれます。

当初、全地球人類が死滅すると考えられていたため、世界は大パニックに。

しかしその後、こどもたちは生き延びられる!とわかり、大人たちはこどもたちに人類の知恵を学ばせようと奮闘。

 

わんこたん自身、小さな子2名をかかえており、大人とこどもの最後のわかれには、つい涙してしまいました。

大人たちが残した知恵でこどもたちが、たくましく生き延びる、感動のサバイバル、、、

 

を、期待するじゃん。ぜんぜん違うから。

 

こどものエネルギー、悪辣さが読者を襲う

読者の期待をいろんな意味で裏切る超展開。おもちゃ箱をひっくり返し、壁に落書きをするように、こどもは大人の期待をすべてぶっちぎります。

 

具体的には、自分に与えられた仕事を放棄し、遊び、あげくのはてに南極大陸を舞台に、、、と、ここからは読んでのお楽しみ。

 

親、という土台から切り離された人類は、これまでの人類とはもはや別種といえるのかも。三体シリーズ2作目「黒暗森林」で、地球から切り離され暗黒の人類となる、宇宙船の乗員たちを、思い出しました。

三体Ⅱ黒暗森林 上
三体Ⅱ 黒暗森林 上
 

 

むしろ、今この世界が「未来への責任感」というふわふわした概念だけで、うまく運営されていることが、奇跡なのかもしれない。

 

大人たちが授けたもの、(ほぼ)何の意味もなさない。ただし武器を除く。

大人が良かれと思って授けた知恵が、どんどん無視されます。

あまりの無視っぷりに痛快さすら覚えます。「こどもは大人の言うことを聞くもの」というのは大人側の幻想であり、奢りなのかも。

以下は無視された大人からの贈り物の一例です。

  • 棋士である父親から託された碁石
  • 国民を養っていくことの責任感(塩と調味料で表現される)
  • 〇〇をするなという重要な指示

しかし、大人が授けたとある技術や資材だけは、子どもたちにめちゃめちゃ活用されるという、、、ものすごい皮肉でなのです。

 

粗削りすぎる、デビュー作

 

三体シリーズでは、蒔いた種を育て上げ、結末につなげていく、見事な手腕を、これでもかと見せつけられますが、「超新星紀元」はとにかく粗削り。

SF的アイデアが、無加工の食材として、どんどんテーブルに積まれていくかのようです。

 

大人が置き土産として残した、対話機能を持つAIによる統治シーンは、2023年に登場したChatGPTを想起させ、著者の先見性に驚かされました。(これ、20年前の作品!)

がしかし、このAIも、作品後半からは特に活躍しないという。

 

これは後につながる布石に違いない、という描写も、特に調理されずに野ざらし。こんなシーンが多数あります。

 

おせじにも「名作」とはいえないでしょう。しかし、その荒唐無稽さに、「三体シリーズ」の膨大なエネルギーの片鱗を感じるのも事実。

三体ファン、劉慈欣ファンの方には、ぜひチャレンジしてほしい一冊です。

 

 

できれば

「三体シリーズ」

劉慈欣短編集「円」を読んでからのほうが、ショックが緩和されるかも。

 

気になった点、ツッコミなど

その他、「超新星紀元」で気になった点をまとめました。

 

エネルギーの維持

大量の兵器を動かしたり、超高性能AIを維持するエネルギーはどこから供給されたのか??

おそらく姚瑞(ヤオ・ルイ)少年のような発電所担当のこども、石炭石油採掘担当の子ががんばっているのでしょうが。彼らがさぼったら地球のエネルギー問題はどうなっていたんだろうか。

 

発電技師の父親から「ボルト」「アンペア」を一生懸命に学んでいた姚瑞。きっと活躍するに違いない、と期待していたのですが、特に動向は描かれませんでした。残念。

 

仲良し庶民の3人組?

郵便配達員となった李智平リー・ジーピン。以下は父親が彼に託す言葉です。

「自分の仕事がどんなに平凡でつまらないものに見えても、真心を込めてやれば、それはそれで立派な仕事なんだ」

いい言葉じゃないですか。そのことばを胸に李智平が奮闘し、活躍する、そんな読者の期待はいともたやすく裏切られます。

 

この本、「大人が子供に授けた大事な言葉」が、まるで意味をなしません。しょせん、大人の価値観は大人のもの、こどもは自ら価値観を選び取っていく、ということなのか、考えさせられます。

 

囲碁棋士の息子、戦車乗りになる。

王然 ワン・ラン 有名な囲碁の棋士 装甲部隊の戦車操縦士になる。

父親から碁石と棋譜を意味ありげに託されるも、特に使われずにおわります。

彼の結末も、また切ない。

 

 

超新星紀元」関連作品

関連作品をまとめました。

 

「三体シリーズ」

 

世界中で大ヒットした、SFシリーズ!

 

 

三体

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円 劉慈欣短編集

劉慈欣のエッセンスが詰まった短編集
  • カオス理論
  • 国家の命運をゲームで決めるはなし

超新星紀元」でも登場した要素が、短編に姿を変えて織り込まれている点に注目。

劉慈欣氏の著作が発表順に収録されており、著者の作風の変化・進化を味わえるのも魅力!

「超新星紀元」のラストで少しだけ触れられる「シロナガスクジラ」の作品は、本書に収録されています。

 

紹介記事はこちら

 

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三体Ⅱ 黒暗森林 上