沼地で見つかった死体と湿地でひとり暮らす少女。2人に何があったのか?
ヒューマンサスペンスとして名高いザリガニの鳴くところ、原作小説版と映画版では、真犯人の見せ方、に重要な違いがありましたので、解説します。
映画 ザリガニの鳴くところ全体的な感想
原作の、神秘的でダークな雰囲気がよく出ていて、シンプルにいい映画だと感じました。登場人物の演技もよかった!
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ザリガニの鳴くところ 原作小説と映画版の違い
原作のザリガニの鳴くところでは、1969年以降のシーン(チェイスの死体が見つかる→捜査→裁判)と、1952年から始まるカイアの半生を描くシーン(兄弟、両親との別れ→テイトとの出会い→チェイスとの出会い)が交互に描かれます。
映画版では、チェイスの死亡→捜査の描写は控えめに、すぐに裁判シーンに突入しますので、緊迫感があって、ダレずに物語に入り込めました。
その他、重要と思われる映画版と原作版の違いを、以下より解説・考察していきます。
以下、映画版「ザリガニの鳴くところ」の視聴を前提とした記載があります。ネタバレにご注意ください。
映画版で追加された重要シーンを考察
チェイスとテイトがジャンピンの店の前でつかみ合うシーン。このシーンは原作に存在しません。原作ではそもそもチェイスとテイトが接触する場面がないのです。
このシーンでは赤い帽子を被ったテイトが黒っぽいジャケットを着たチェイスとつかみ合いに。落ちた帽子をジャンピンが拾い、自身のエプロンで汚れを拭ってテイトに手渡します。
毛糸の赤い繊維が証拠として裁判で取り上げられた直後にこのシーン。赤い繊維が誰に付着した可能性があったか?を示す場面として追加されたのは明らかでしょう。
冒頭に戻りチェイスの死体が映る場面。
チェイスは黒っぽい服をきているように見えます。チェイスがつかみ合いの時に着ていた服と、死亡時に着ていた服が同一だったとするならば、つかみ合いシーンの追加によって
- つかみ合いでチェイスに赤い繊維が付着した
→チェイスは単独で櫓に上り事故死した - 帽子を拾ったジャンピンに赤い繊維が付着した
→ジャンピンがチェイス殺しに関わっている?
といった具合に、様々な解釈が可能になりました。(原作ではテイトからカイアに赤い帽子を渡すシーンのみしかありません)
映画版 ザリガニの鳴くところ チェイス殺しの真犯人は?
もちろん、映画のラストで明らかなように、チェイスは他殺、真犯人は◯◯◯であることは確定でしょう。
ただし、ジャンピンが共犯者として関わっていた……という解釈も、映画版ではアリでだと思います。
ジャンピンのみ、葬儀のシーンが描かれているのもなんだか意味深。(原作ではテイトの父、スカッパーの葬儀も描かれています)
ただし!個人的には、真犯人◯◯◯は誰にも協力を頼まずに1人でチェイスを殺害した、という解釈の方がしっくりきます。
全てを孤独にひっそりと終わらせるあたりが◯◯◯らしいではないですか。
仮にジャンピンが共犯だとして、おとなしく裁判を傍聴しているでしょうか?ジャンピンのキャラなら、居てもたってもいられず、1人で罪を被ろうとしそうな気がします。
てなわけで、管理人わんこたんはジャンピン共犯説には否定的です。
映画版でカットされたシーン
警察の捜査シーン(町の人への聞き込みなど)は大きくカット。捜査と裁判シーンをまとめ、登場人物を減らすことで展開がわかりやすくスッキリしました。
一方で、以下の部分については映画版では説明がなかったため、気になる方は原作版ザリガニの鳴くところをチェックしてみましょう。
- なぜカイアの両親があの湿地帯で暮らすようになったのか?原作では説明があります。
- ジャンピンについて
そもそもジャンピンという名は、彼のそのしぐさからつけられたあだ名なのですが、その説明はカット。
またジャンピン夫妻も黒人ということで差別を受けているのですが、映画版ではカットされていました。 - 独立記念日に帰ってこなかったテイト
原作では、帰ってこなかったテイト側の心情や行動も、一応いろいろと描かれています。
テイトがちゃんと帰ってきていれば、そもそもこの事件、起きなかったのでは…… - 詩人、アマンダハミルトンのエピソード
原作でカイアが時々そらんじていた詩人のエピソード。これがラストの演出につながってくるのですが、映画版では全てカット。
映画版で特に良かったシーン
- 原作ではカイアの母親と兄弟が出ていくまでの物語がかなり長めですが、映画版は比較的あっさり。
家族が崩壊していくシーンは原作でも辛い場面だったので、早く終わってちょっとほっとしたり。 - 湿地のシーンは映像になるとすごく美しい!
冒頭、飛ぶ鳥を追う形で映される湿地の全景、落ち葉の舞い上がるシーンでのキス、引き込まれました。カイアの描く絵がどんどん上達していくのも、良かったです。 - チェイスの暴力がかなり怖い
本で読むより映像のほうが怖い。表情変えずにノーモーションで殴るんだもの。これは命の危機を感じるレベル。こんなやつ〇んで当然、と思いたくなるレベル。 - ラスト、老いたカイアは……
カイアは夢(?)でとある人物と再会します。これは映画版オリジナルのシーン。こんなん、泣いてしまうじゃないですか。
テーマ曲も意味深
配給元、ソニーピクチャーズの公式サイトによれば、テイラー・スウィフトが自ら楽曲参加を懇願したそうで。
作品の世界をよく表したすばらしいテーマ曲でした。意味深な歌詞も最高!
歌詞には「誰も私を見てない あなたはわたしを見てない」というフレーズが。
「あなた」というのが誰のことを指しているのか。考えるとゾクゾクしちゃいます。
原作版 ザリガニの鳴くところの方が良かったシーン
- ミルトン弁護士が勾留中のカイアに差し入れた本について。
原作では拘留と裁判の場面は後半に登場します。
すでにカイアが湿地の自然や生き物を愛していることが描写されたうえで、ミルトンが差し入れた本(貝の図版)によって、カイアがミルトンに心を開く、という流れ。
映画だといきなり本を渡すので、なぜミルトンが本を差し入れ、なぜミルトンにカイアが心を開いたのか分かりにくいです。 - 生き物の描写について
映画版は原作よりも生物学的な説明が少なく、より人間関係の描写にフォーカスしている印象。
原作だと、テイトが最初にカイアに送った羽がめちゃくちゃ貴重だとか学術的な説明もあって、より引き込まれます。
そもそも原作者が生物の研究者という異色の経歴の持ち主なので、原作の湿地の自然描写は本当にリアル。
湿地の自然が、カイアの人格形成に影響していることが、原作ではより色濃く伝わってきます。気になる方は、ぜひ原作を読んでみてくださいね。
- 著者:ディーリア オーエンズ
- 翻訳:友廣 純
- 発売:早川書房 2020/3/5
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まとめ ザリガニの鳴くところは原作小説も映画もとってもよかった
美しい自然と、ひとりの女性の半生を描いたサスペンス「ザリガニの鳴くところ」。
原作小説も映画版も、それぞれの良さがあって、とても良かったです。
映画版では描かれなかった描写については、ぜひ原作小説版もチェックしてみてくださいね。
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