日本三大奇書と名高いこの作品、20代の頃、読もうとしたものの、その難解さにくじけてしまっていました。
ドグラ・マグラの構成がわかっていれば、少しは読みやすくなるのかも?というわけで、この記事では、難解なドグラ・マグラの構成と魅力を、解説します。
読破するなら朗読版もおすすめ!わんこたんが読破できたのは朗読版のおかげです。
なぜ朗読版がおすすめなのかこちらの記事で解説しました。
▶ドグラ・マグラを読破するなら朗読版がおすすめ! - わんこたんと栞の森
ドグラ・マグラ あらすじ
九州帝国大学 精神病科 第七号室で目覚めたわたし。
若林博士に導かれ、一人の狂った美しい少女に出会い、故・正木教授の偉大な実験、そして精神科学応用の犯罪について知らされる。
九州直方(のおがた)で起きた絞殺事件と、姪の浜で起きた花嫁惨殺事件。二つの事件の真相は?そしてわたしの正体は?
狂っているのは自分か?世界か?狂人の視点から描き出される幻想怪奇の物語の行方は……
- 著者: 夢野久作→Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:松柏館書店 1935年1月
- Kindle Unlimited:→ 読み放題対象版あり
- Audible(聴く読書):
▶︎5分間の試聴はこちら(リンク先で「▶プレビューの再生」を押下)
お試し部分だけでも、作品の幻想怪奇感がめちゃくちゃ伝わってきます。//合わなければ体験中の解約OKで安心\\
Audibleって正直どう?メリットデメリットはこちらの記事をどうぞ▶本好きが正直に全部書く! 聞く読書Audibleのメリットとデメリット
いったいどのドグラ・マグラを買えばいいの?
刊行されているドグラ・マグラにはいくつかのバージョンが。代表的なものを解説します。
①青空文庫版(電子版が無料!)
ドグラ・マグラは1935年の作品。著作権切れのため青空文庫で無料公開中。電子化もされているので、ふつうのKindle作品と同じようにダウンロード可能!
②角川文庫版
紙書籍として読みたいならこれ。ドグラ・マグラといえばこの表紙!というくらいに強烈なインパクトがあります。(実はこの表紙、本編と全く無関係なのですが)
青空文庫版(原書)で漢字だった箇所がひらがなになっていたりと、少し現代日本語に合わせた表記に。
③朗読版(西村俊彦朗読版/Audible がおすすめ!)
管理人わんこたんのイチ押しがこの朗読版。
- 勝手に読んでくれるので、どんどん物語がすすむ
- 目が滑りそうになる難読文も音声だと意外と理解しやすい。
- 朗読の迫力に引き込まれ、続きが気になる
- 声色の変化で誰のセリフか、どの場面かわかりやすい
原作読破のハードルになる箇所を、すべてクリアしてくれるすぐれもの。わんこたんが読破できたのも、この朗読版のおかげです。
もうひとつの芸術作品として、本当にすばらしい。ありがとうありがとう。
※リンク先で▶プレビューの再生を押してください
④ドグラ・マグラ (まんがで読破)
古典の名著をマンガ化していることでおなじみ、まんがで読破シリーズ。
原作から大胆に構成を入れ替え、ドグラ・マグラのややこしさをすっきりわかりやすく。「時代ならではの色気」を感じる絵柄もgood。
ただし内容をかなり省略しているため、登場人物の「狂気」がかなり薄れています。これだけ読むと「なんだこんなものか」て思ってしまうかも。原作を読んだ後の、思考の整理にはおすすめ!
※紙書籍は絶版、Kindleのみ取り扱いあり。Kindle Unlimitedの読み放題対象です。
著者 夢野久作について
1889年生(明治22年) - 1936年(昭和11年)没。
三大奇書の一つドグラ・マグラをはじめ、怪奇幻想の作風で知られています。
以下に夢野久作作品の一部をご紹介。管理人わんこたんはドグラ・マグラしか読めていませんが、どのタイトルからも、においたつような不気味さがありますね……
ほとんどの作品は著作権切れで無料で読めます。ありがたい!
※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。
ドグラ・マグラの感想と構造
難解、挫折、奇書と言われがちなドグラマグラの構造を解説します。構造がわかれば、多少は読みやすくなる!かも。
- わたし:精神病棟で目覚める。記憶を失っている。
- 正木博士:精神病研究の権威。1か月前に自殺したようだが……?
- 若林博士:正木博士と旧知の仲であり、わたしに様々な資料を見せる
- 呉一郎(くれいちろう):一連の事件の容疑者として挙げられている人物
ドグラ・マグラの構造を解説
以下に、ストーリーの大まかな展開を図解します。
- 「わたし」が九州帝国大学 精神病科 第七号室で目覚める。医学部長の若林鏡太郎博士と面会。
- ある殺人事件と、その事件の鍵を握るのが「わたし」自身であることを知らされる
- 謎を解くため、精神病科教室の主任教授であり、1ヶ月前に自殺した故・正木敬之博士の研究資料を読む
- キチガイ地獄外道祭文 阿保陀羅経の歌(第一の難所)
- 「地球表面上は狂人の一大解放治療場」新聞記事 正木先生の談話
- 絶対探偵小説「脳髄はものを考える処に非ず」(正木先生の論文「脳髄論」の解説記事
- 胎児の夢 正木博士の卒業論文
- 正木博士の遺言書(超長い!第二の難所)
- 正木博士の復活、すべての因果が明かされる
- 1100年前 呉青秀と黛夫人の物語
- 解放治療場で何が起きたのか?
- フィナーレ
第一の関門 チャカポコ
この研究資料の冒頭に登場する「キチガイ地獄外道祭文」。いわゆるチャカポコであり、ドグラ・マグラ読破の最初の関門として、立ちはだかります。
▼ああア――アア――あああ。右や左の御方様へ。旦那御新造、紳士や淑女、お年寄がた、お若いお方。お立ち会い衆の皆さん諸君。トントその後は御無沙汰ばっかり。なぞと云うたらビックリなさる。なさる筈だよ三千世界が。出来ぬ前から御無沙汰続きじゃ。きょうが初めてこの道傍に。まかり出でたるキチガイ坊主……スカラカ、チャカポコ。チャカポコチャカポコ……
夢野 久作. ドグラ・マグラ (p.131). 青空文庫. Kindle 版より引用
チャカポコチャカポコと続くわけのわからない文章に気が狂いそうになりますが。その中で当時の精神病患者の虐待の実態と、インチキ治療、精神病院の腐敗した内情が暴露されている点に注目!
この実態を歌や踊りにして民衆に広めなければ!と決意するほどの、正木博士の狂った使命感を感じる場面です。
ちなみにこれをAudible版で聴くと、ちゃんと「唱」になっているので、ぜひこの部分だけでも無料体験でお試しを。
第二の関門 正木博士の遺言書
で、やっとチャカポコをクリアしたと思いきや、正木博士の遺言書が登場。
この遺言書の中で、いきなりドキュメンタリー映画風のナレーションが始まったり、警察の調書のような資料が出てきたり。謎のお寺の由緒が解説されたり。
この中に2つの事件の鍵を握る重要情報がいろいろ仕込まれているので、油断なりません。
ここで呉一郎が、とある人物のことを「お父さん」と呼んでいることが明らかになります。当初は気が狂った一郎の妄言のように思われていましたが……??
正木博士の遺した研究資料の要点は?
結局、わたしが読まされた膨大な資料の要点はなんだったのか?整理しました。
- 作中時代の、精神病科学に対する反論
→正木博士がいかに、精神科学の分野の遅れに怒り、研究にのめり込んでいたか、を示しています。 - 「心理遺伝」の原理解説
→事件の鍵を握る「絵巻き物」に結びついてきます
ここまでで全体の3分の2。ここまで読むのにかなり疲弊します。しかしこのあとさらに読者を驚かす出来事が。
資料を全て読み終わったわたしの前に、死んだはずの「正木博士」が復活するのです!
正木博士の復活
ここでびっくり。正木博士が復活。
「わたし」をけむに巻くように惑わしつつ、正木博士が語るのは、1100年前の大唐(中国)で、呉青秀(ご せいしゅう)という若者とその妻、黛夫人(たいふじん)の物語。
なぜ急に1100年前の中国の話が登場するのか?実はこの話の中で、事件の鍵を握る「絵巻物」の真相が明らかに。
ここまでくれば、あとは怒涛の答え合わせへ。果たして事件の真相は?わたしに何が起こったのか?正木博士の自殺の真相は?この先はぜひドグラマグラ本編を読んでお確かめください。
当時の精神病患者の治療についての批判
ドグラ・マグラは、幻想怪奇小説ですが、その中に、当時の精神病患者の治療や扱いについての批判が、強烈に盛り込まれているのが、興味深いです。
一度キチガイであるとレッテルを貼られれば、隔離病棟に閉じ込められ、親族から断絶され、根拠の乏しい危険な治療をさせられた患者たち。
でも普通の人と精神病患者とを隔てるものは、ごくわずか。人間は皆「狂う」可能性を持っているんです。
そんな患者たちへの憐憫と、これではいけない、精神病患者をこの地獄から「解放」しなければならない、という正木博士の狂気じみた熱意が伝わってきます。
そしてこの狂気と、惨殺事件の因果が結びついたとき、冒頭で登場したチャカポコがまた違ったように見えてくる、というのが、おもしろい。
正木博士自身が前半に登場する資料の中で自身のことを狂っていると語っていますが、結末まで読むと、この発言もなかなか感慨深いです。
適当にばらばらと情報を開示しているようで、実はいろいろ仕掛けがほどこされた、練り上げられた構成になっているんですね。
映画版 ドグラ・マグラ
ドグラマグラは1988年に映画化され、DVDも販売されています。桂枝雀演じる正木博士、想像通りすぎてすごい。
原作を読んだ後にこの予告編を見ると、お、これはあのシーンだな?とニヤニヤできて、楽しいです。
まとめ 読破したからこそ見える景色があるかも。
ドグラ・マグラは長いし読むのも大変。でも、そのぶん読破できたときの達成感はひとしおです。個人的には、人生のスタンプラリーを1つ押せた、実績解除できた、そんな感覚。
読破したけど、読みづらくて……と挫折したかたは、わんこたんのように朗読版を利用してみてもよいでしょう。ぜひ日本三大奇書の一角、ドグラ・マグラの読破にチャレンジしてみてくださいね。
ドグラ・マグラの次に読みたい おすすめ作品
ドグラ・マグラのような(?)医学・精神・脳髄の不思議な世界を味わえる作品をピックアップしました。
妻を帽子とまちがえた男/オリヴァー サックス
妻の頭を帽子とまちがえてかぶろうとする音楽家をはじめ、脳神経科医のサックス博士が出会ったふしぎな症状を抱える患者たち。
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玩具修理者/小林泰三
脳の機能をいじることで、タイムスリップを可能にした主人公を待ち受けるものとは……時間の檻に閉じ込められた男の末路を描いた傑作SFホラー!
ドグラ・マグラのような、悪夢と現実の区別がつかなくなる、トリップ感をぜひ。
開かせていただき光栄です/皆川博子
こちらはドグラ・マグラよりもっとまじめな(?)医学ミステリー。解剖学がまだ異端だった時代の英国で、解剖学教室のメンバーが謎の死体にいどみます。