凝縮された恐怖と謎解きを楽しめる、梅雨物語/貴志祐介の感想を書きました。
梅雨物語 あらすじ
その罪は、形を変えて、返ってくる。
貴志祐介さんによる、恐怖に満ちた3作品が収録された、中編集です。(各話のあらすじは、感想の項をご覧ください)
- 著者:貴志祐介 → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:KADOKAWA 2023/7/14
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 貴志祐介さんについて
日本を代表するホラー小説作家さん。ホラー要素だけでなく、そこに人間ドラマ、ミステリーそしてSFと幅広い要素を盛り込むその作風にファンも多いです。
どれもおもしろくて、実写化・アニメ化・等のメディアミックスも多数。なお、わんこたんは特に新世界よりが好きで、小説版もアニメ版も制覇しております。
※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。
梅雨物語 感想
これまで貴志祐介作品は長編ばかり読んでおり、今回のような中編ははじめて。いやーとっても良かった!
貴志先生の長編は(良い意味で)体力と精神力をがっつり奪われるので、それなりに覚悟を決めて読むイメージがあるが、中編なら凝縮された良質なホラーをサクッと摂取可能。
収録作のジャンルがいい感じに「ヒトコワ系」「呪い系」「霊界系」と散らばっているのも良いし、ちょっとした謎解き要素もあって、ホラーだけでなくミステリー的に楽しめる。
お手軽でホラーで面白くて読みやすい。ホラー初心者にもぜひおすすめしたい1冊でした。
(ただし、未成年者に対する性暴力を仄めかしたり、虫がたくさん出てくる場面があるので、苦手な方はご注意を。)
以下に各短編のあらすじと感想を書きました。
皐月闇 あらすじと感想
人嫌いの老人、作田慮男(さくた のぶお)が梅雨寒の日に再会したのは、かつて俳句部の顧問をしていた頃の教え子、萩原菜央だった。
菜央は、死んだ弟が遺した句集の意味を読み解いて欲しい、と、作田に相談するが……
俳句を読み解くミステリーとして抜群に面白いし、その中で読者が徐々に違和感を感じるよう、絶妙なタイミングでヒントを出してくる構成がさすが。
作田は、最初はちょっとかわいそうな認知症のおじいちゃんのようでいて、徐々に傲慢さや相手を見下す態度といった本性が滲み出てくるし、一方の菜央の内面もだんだん明らかになって……まさに「ヒトコワホラー」な傑作でした。
ところで登場する俳句は貴志祐介先生,ご本人が考えたのでしょうか。中学生が書いた下手な句から、プロのような技巧的な句まで、幅広く表現していて、すごかったです。
ぼくとう奇譚 あらすじと感想
昭和11年、カフェ パピヨンノワールを訪れた木下美武(よしたけ)は、黒い蝶が飛び回る幻覚を見るようになる。これは呪いであり、このままでは死ぬと言われた美武は、千里眼の行者 賀茂日斎の手を借り、呪いに対抗する物忌を始めるが…
まさに因果応報を地で行く、呪い系ホラーの王道展開なのですが、美武の見る幻覚や夢の正体を推理するミステリー要素も含まれています。
夢に登場する「戦いを繰り返す鎧武者」など、正体がわかると確かに!と腹落ちしますが、読んでる最中は気がつかなかったなあ。絢爛豪華な夢の描写と、現実の対比もよかったです。
ところで…最後に登場する「木蠹蛾」ですが…
同じく貴志祐介先生の著書 新世界よりに登場する重要キャラ、スクィーラを思い出しちゃうなあー!(スクィーラの所属するコロニーの名前がぼくとうがコロニーなのです)
くさびら あらすじと感想
杉平進也は、ある日自宅の庭にキノコが生えて奇怪な模様を作り出していることに気づく。何をしても消えないキノコたち。これは幻覚なのか?ならばその原因は?
ヒトコワ系ホラー→王道呪い系ホラーときて、3作目は霊界系といった趣。
うすうす結末が仄めかされつつ、最後は悲しさと優しさで、泣いてしまいました。キノコまみれで想像するとめちゃくちゃ不気味なのに、泣かされるとは。
賀茂禮子という名の凄腕山伏が登場しますが、2作目ぼくとう忌憚に登場する賀茂日斎の子孫、ということになるのでしょうか。賀茂家の能力、恐るべし。
ところで作中に登場するきのこ信号という絵本。わたしはサラダとまほうのおみせ、という絵本を思い出しました。この絵本でもきのこが道案内をしてくれます。
やなぎむらの虫たちが力を合わせて、友達の結婚のお祝いをする物語。優しい物語とイラストが素晴らしくて、うちの子にもよく読んでいます。お子さんのいる方は、ぜひ図書館などで探してみてくださいね。
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