★WOWOWでドラマ版配信中!「三体」の解説はこちら★

(読了)読書感想文/紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

2020年 第18回『このミステリーがすごい! 』大賞受賞作

たまにはミステリ人気作なんかも読んでおこうかな、というわけで購入。

かなりのネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
そして、かなりの辛口感想になってしまいましたので、
そのあたりもどうぞご容赦ください、、、

 

 

 

タイトルに異議あり

この本ですが、
「紙鑑定の事件ファイル」がメインタイトルで、表紙のフォント大き目

「模型の家の殺人」がサブタイトルで表紙のフォント小さめ

カバー絵は紙がぺりぺりめくれているような質感で
いかにも「紙鑑定士」感をだしていますが

中身の9割は「模型」メインであり、「紙」に関する部分は
推理にほとんど関わってきません。(紙に関する蘊蓄はいくつか登場)

 

冒頭から主人公の「紙に関する知識」が披露され
この主人公が紙の知識を生かしてどうやって活躍するのかな、わくわく。
と期待していたのでちょっとがっかり。
適切なタイトルがつけられていれば、こんなにがっかりすることもなかったかなあ。

模型に対する細かな描写、そこから展開される推理はおもしろかったですが、
「紙」にまつわるものがたりに期待していた私の脳みそには
「期待はずれ」の文字が浮かんでしまいました。

 

このタイトルの件について、後書きでマーケティング戦略のため」
「紙鑑定士にしとけばキャッチーで売れると思った」みたいな
説明がされていますが、
売れる為にそんなことしていいんかい、
読者舐めとんのかー!
とドン引き
後書き読んで余計に気分悪くなりました。ぷんすか。


これは作者の問題ではなく、編集側、出版側の問題だと思うので、
作者さんにとっては気の毒だなと。
「辛口感想」と書きましたが、辛口の9割はこのタイトルに対するものですw

 

唐突な「紙片」の登場

冒頭部分、推理のカギになる「財布の中の名刺の紙片」が登場しますが、
そもそも名刺って、そんな簡単に財布の中で破れて紙片になるかしら?
という疑問が、、、

多分「紙鑑定士」という特徴を生かすために「紙片」を
登場させたのだと思いますが、ちょっと無理矢理でした。

 

 飛び道具×飛び道具でおなかいっぱい

※以下、ミステリのトリックの根幹に言及しています。
ご注意ください!!!※

 

 

 

 

 

 


二重人格はその性質ゆえに、トリックの一部として
ミステリでよく取り扱われる題材(らしい)ですが、
取り扱いが難しいな、と本書を読んで感じました。

 

個々人の考え方にもよるものかもしれませんが
本書については、「二重人格」であることが明らかになるのが唐突すぎて、
ミステリとしてはあまり楽しめなかったな、、、というのが
正直な感想でした。

 

さらに犯行の動機づけとして「人柱信仰」的なものが登場しますが、
これもかなり突飛というか、、、

 

常人とは異なる、サイコな動機を持つ犯人、というのは
ミステリ小説では珍しくないですが、
本作は飛び道具(二重人格)×飛び道具(人柱信仰)という濃い味の連続で
まとまりがつかない、という印象を受けました。

 

思わせぶりなのにストーリーに影響しない描写

序盤、やたら印象的な「野上」という人物が登場しますが、
「野上」はメール経由で主人公に人を紹介して、それっきり出番なし。
あまりにも強烈な印象のメールだったので、登場しなくて拍子抜けでした。


(続編とかで登場させる予定なのでしょうか、、、)

 

主人公の「バディ」となるキャラ、「土生井先生」は、
自宅で老いた母を介護しているという設定なのですが、
介護や母とのやりとりが細かく描かれるわりに、
それら描写はストーリーにあまり影響しません。

 

実際にはこの母が遠因となって、途中で土生井は入院、
推理の作業から脱落するので、ストーリーへの影響が皆無、
というわけではないですが、
いろいろあって、すぐ推理に復帰してくるので、

ストーリー上、土生井を入院させる必然性があったのか、
→入院させる必然性が薄い
→入院の遠因となった母親描写の意味が感じられない
→母親描写によって土生井のキャラが印象づけられているかと思えばそうでもない。

 

という感じで。

 本作がミステリであるがゆえに、細かい描写も「これが何かのヒントかも?」
と思えてしまい、

「印象的なメール文だけのキャラ」
認知症気味の母親との細かなやりとり」

といった描写(フラグ)が必然性をもって回収されないと
すっきりしない感じがしてしまいました。

 


なお、主人公が人に会うたびに、
きちんと手土産を持っていくシーン(計3回)については、
主人公の丁寧な営業コミュニケーションぶりが感じられて、
ちょっとほっこりしましたw
ペコちゃん焼き、食べたことないんだよなあ。

 

模型の話をもっと読みたい 

 

結局、文句ばっかり書いてしまいましたが、
模型やジオラマに関する説明は大変おもしろかったです。
著者は作家歴よりもジオラマ歴のほうが長いということ。
ミステリという形にこだわらず、ジオラマの世界を堪能できるような作品を
今後もぜひ、読ませていただきたいな、と思いました。

おしまい。