恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」
その「タイトルの意味」を考察しました。
本作の展開に触れているため、
未読の方はご注意ください。
あらすじ
コンクールに挑む4人のピアニストの闘い
- 天性の才能をもった少年
風間塵16歳。 - かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった
栄伝亜夜20歳。 - 楽器店勤務のサラリーマン
高島明石28歳。 - 完璧な技術と音楽性の優勝候補
マサル19歳。
この4人が「芳ヶ江国際ピアノコンクール」で闘う、というのがあらすじ。
上下巻あわせて900ページ超(文庫版)で、ひたすらコンクールの展開が描写されます。
コンクールを
描いただけ?
おもしろいの?
そこはさすがの恩田陸さん。
濃密な音楽描写と
誰が勝ち残るのか?という
ハラハラドキドキ感に加え、
- ピアノコンクールの実情、
- ネット社会(簡単に音源が入手できる)がピアニストに与える影響、
- プロとして生計を立てていくことの困難さ
などの裏事情も交えていて、
飽きさせない構成になっています。
4人のピアニスト、それぞれの思いに
彼らを支える、配偶者、友人、指導者、スタッフの思いも差し込まれ、
キャラクターの厚みが増しています。
「蜜蜂」と「遠雷」の意味
作中に何度も登場する「
本作のキーパーソン「風間塵」と、
彼の音楽性を表しています。
養蜂家でもある塵が
ずっと親しんでいた「音楽」
それは自由に飛び回る蜜蜂の羽音であり、
一方の「
作中には「遠雷」らしきものは
下記の一度しか登場しません。
「蜜蜂と遠雷」下巻より引用
塵は空を見上げる。
風はなく、雨は静かに降り注いでいた。
遠いところで、低く雷が鳴っている。
冬の雷。何かが胸の奥で泡立つ感じがした。
不穏な「遠雷」は
「
「蜜蜂」の対極にある音楽を
表しているようです。
閉じ込められた音楽を開放したい、
そんな塵の思いは演奏にこめられて、
観客と他のピアニストに大きな影響を与えます。
一体コンクールはどのような結末を
迎えるのでしょうか?
(批判)上巻はおもしろいんだけど、、、
上巻ではワクワクドキドキで
ページをめくる手が止まりませんでしたが、
下巻は以下の3点で「いまいち」と
感じてしまいました。
①下巻のアンバランスさ
コンクールを描いた作品であり、
予選で脱落したピアニストの
描写が減るのは仕方がないものの
読者的にはさみしいものがあります
後書きによれば、恩田陸氏自身、
執筆時点で誰を予選で落とすか、
迷っていたと。
書きながら
予選通過者を
決めたのかな?
・そのためか、上巻で細かく描写されたピアニストが
下巻ではほとんど登場しないなど、
②過剰な比喩
・ありったけの比喩表現で、
「すばらしい演奏」を表現する本作。
下巻では比喩表現として
サスペンス映画が始まるなど。
コンクールなのに
サスペンス?!
(混乱)
比喩表現の「映像化」という点で
週刊少年ジャンプで連載されていた
コミック「ソウルキャッチャーズ」に
近いものがあります。
がしかし、
すばらしい演奏!(比喩)
を上回るさらにすばらしい演奏!!
(さらなる比喩)
を上回る超絶すばらしい演奏!!!
(マシマシのさらなる比喩)
おなかいっぱい!
すごいピアニストが4人もいるので、
読み進むにつれ、「胃もたれ感」を
感じてしまいました。
なんだかずっと分厚いステーキを食べているようで。
贅沢!
③マンネリ感
4人のピアニストが全員「いい人」で、
全員が魅力的でありすぎる、ゆえに
一人一人の魅力が薄まり、
誰が勝っても
いいので、
勝敗の行方が
気にならない。
「誰が勝つのか?勝敗の行方は?!」
という、
「続きが気になる!」
というエネルギーが失われ、
下巻ではページをめくるのが
辛くなってしまいました。
物語は難しいね。
結末には納得
上巻で「この子に優勝は厳しそう」
と感じさせるピアニストを
文句なしの形で優勝まで導いたのは、
やっぱり恩田陸さんの筆力(ふでぢから)だなあと。
登場する劇中曲を聴く方法
ピティナ(一般社団法人 全日本ピアノ指導者協会)の
特設サイトで、
第156回直木三十五賞受賞記念!『蜜蜂と遠雷』プレイリスト | ピアノ曲事典 | ピティナ・ピアノホームページ
リンク切れもありますが、
2022/10/8現在でも多くの曲が視聴可能。
劇中曲を聴いて
読書できる!
贅沢!
また、登場する演奏者の選曲を
ピティナの事務局長が解説しているページもありました。
プロの解説で「蜜蜂と遠雷」がまた違った形で楽しめるかもしれません。
映画『蜜蜂と遠雷』公開記念劇中曲紹介&ピアノコンクールの基礎知識 | コンペティション
おしまい。