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暗号の歴史を本で学ぶ!暗号解読 / サイモン・シン 青木薫 訳

記事内のリンクには広告を含みますが、本の感想は全て正直に楽しく書いてます。ぜひ最後までお楽しみください★

陰謀、戦略、作戦。歴史の裏に「暗号」あり!
古代文字の解読から現代の暗号技術まで。楽しく学べる本を紹介します。
ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
 

「暗号解読」あらすじ

「暗号解読」は上下巻。かなり長いですが、とにかくおもしろくさわかりやすい!

細かい暗号の仕組みは読み飛ばしてもOK!歴史ミステリーを楽しむ感覚で、すいすい読めます。

「暗号解読」を読んでわかること
  • 暗号は複雑にみえて実はシンプル。組み合わせによって難易度がアップ!

  • 人類の歴史は、暗号の作成者VS解読者の戦い。歴史の裏に暗号あり!

  • 現代社会を支える暗号技術。
    量子コンピューターによって暗号は新たなステージへ!?

 

「暗号解読」上巻と下巻の概要

  • 暗号解読(上巻):暗号の基本的な仕組み・暗号の歴史(第二次世界大戦、エニグマ暗号あたりまで)が登場します。
    暗号の基本的な作り方、解き方も紹介されています。

  • 暗号解読(下巻):古代言語の解読、第二次世界大戦の終戦間際~現代の情報社会を支える暗号について解説。量子コンピューターの話題も。

上巻、下巻、片方だけでも楽しめますが、上巻を読むと、気になって下巻も読みたくなりますよ。

 

「バベッジ」「エニグマ暗号」など有名キーワードも登場!

  • 「暗号解読」上巻第3章ではスマホゲーム「FGO」でおなじみのバベッジ氏
  • 第二次世界大戦中にドイツ軍で使われた「エニグマ暗号」

当時、エニグマ暗号を解読することは連合国軍の急務であり、この解読については映画「イミテーション・ゲーム」でもとりあげられています。

主演のベネディクトカンバーバッジが、天才だけど悲劇的な主人公を演じているよ。とても面白かった!

 

古代の言語と暗号

古代言語の解読も、暗号解読のひとつ。

暗号解読」では以下の言語が紹介されています。

  • ヒエログリフ:古代エジプトで使われた文字
  • 線文字B:クレタ島で使われた文字

ヒエログリフはその見た目に反し、音を表す「表音文字」(ひらがなと同じ)。
漢字のような表意文字だろうという思い込みにより、解読は難航しました。

ヒエログリフの書き手の癖で、母音を省略したり、文字の順序を逆にしたり。解読する側としては本当に大変。現代人もしょっちゅう新しい言葉を発明していますが、後世の人は解読に苦労するのかも。

 

ヒエログリフはいろんな「岩」(ロゼットストーンやオベリスク)に記録され現代まで保存されました。今は紙媒体や電子媒体が主。劣化に弱いこれらの媒体では、後世まで文字資料が残らないかもしれません。残念。

表札や墓石は残るかも?

クレタ島の線文字Bは、手掛かりがほぼなく、解読に相当苦労したようです。どうやって解読したか、そこだけでもひとつのドラマが書けそうなくらい。

続きはぜひ、「暗号解読」でお楽しみください。

 

戦争と暗号の歴史

「暗号」が影響を及ぼした戦争の歴史も登場します。

ドイツ敗北のきっかけとなった「エニグマ暗号解読」

映画「イミテーション・ゲーム」をはじめ、様々なエンタメ作品に登場することも多い「エニグマ」暗号。その歴史と解読について、ドキュメンタリーのように紹介されています。緊迫感ある展開は、ひとつの映画のような、読みごたえ。

※イミテーション・ゲームはU-NEXTの見放題対象。無料体験で視聴可能です。

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本ページの情報は2023年5月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。

太平洋戦争、日本の敗戦と暗号

  • 日本海軍の秘密通信をアメリカが解読
    →ミッドウェー海戦でアメリカからカウンターをくらう

  • 山本五十六の視察日程の通信を解読される
    →待ち伏せされて山本五十六は戦死

など、暗号によって歴史が動いたエピソードが紹介されています。

 

複雑な暗号は使うのも大変。暗号通信で手抜きをするなど、ちょっとした人為ミスで歴史が大きく動いたことを思い知らされます。

 

ちなみに、アメリカ軍は

・絶対に解読されない暗号を作りたい→ほとんどの人がしゃべれない言語を使おう!

との考えから、ナバホ語を使った暗号を考案。ナバホ人を通信兵とし、ガダルカナル島で戦況を有利に進めました。

暗号解読」ではこのほかにも戦争と暗号のエピソードがたくさん登場。

歴史ドキュメンタリー感覚で楽しめます。

通信技術と暗号

やがて歴史はコンピューターの時代へ。大量の情報送信のため、大量暗号生産時代に突入します。

 

通信費増大の危機!?

暗号は暗号を解く鍵をセットにして受信者に送信しなければなりません。

同じ通信回線で「鍵」を送っては傍受のリスクが。大量の鍵を別途輸送する必要がうまれ、通信コスト増大のピンチを迎えます。

 

パスワード付きファイルのパスワードだけ手紙で届くようなもの。めんどくさい!

 

RSAシステムの登場

この状況を変えたのが、RSAと呼ばれる画期的なシステム!

これは

  • 暗号化するための鍵→公開鍵、誰にでも公開されている
  • 暗号を解く鍵→秘密の鍵、受信者のみが持つ

を使い、情報を送るというもの、公開鍵を使って情報を暗号化することは簡単にできるけど、公開鍵を使って暗号を解除することはできない、解除できるのは秘密の鍵だけ。

というめちゃくちゃ画期的な仕組みなのです。

(余談ですが、RSAを応用して電子署名のシステムも作られているとのこと。)

 

暗号解読」では、RSAシステムの詳細と、開発に取り組んだ研究者たちのドラマについて、さらに噛み砕いて説明。

 

難しい数学の話もわかりやすくまとめていて、「新時代の暗号の素晴らしさを伝えよう!」という著者の意気込みを感じます。

 

現代では当たり前のように行われる「暗号化通信」。これがなければ今の生活は何一つ成り立たない、という事実に重みを感じます。

PGPの登場。暗号システムVS国家

PGPとは?

PGPは「誰にでも使える、解読不可の暗号システム」
先述の「公開鍵で暗号化」→「個人鍵で複合」するRSAの仕組みが使われています。 

 

誰にも解けない暗号が完成した!すごい!

 

と、そう簡単な話ではありませんでした。

誰にも解けない暗号で個人のプライバシーは守られます。

しかし、解読できない暗号で犯罪集団が通信をはじめたら、国家の安全保障に重大な影響が。政府としては個人鍵を国家で管理したい、と考えるようになります。

個人のプライバシーvs国家のセキュリティの対立が始めるのです。

 

PGPの開発者(フィル・ジマーマン)が、この仕組みをネットワークに流したことで、PGPは一気に広まりました。この事件がなければ、暗号通信のすべてを政府が握っている歴史もありえたもしれません。

(ジマーマンはこの行為によってFBIから追及を受けることとなります。3年にわたる調査を経て結局1996年に訴えは取り下げられました。)

 

 個人のプライバシーは守られる一方で、安全保障のリスクもうまれました。あの地下鉄サリン事件の犯人たちもRSA暗号を使用していたと聞くと、複雑な思いです。

 

仮想通貨とブロックチェーンと暗号と

「公開鍵」「暗号鍵」の二重鍵システム。これに分散処理のシステムを組み合わせたものが「ロックチェーン」です。

使われている技術自体は新しいものではないですが、組み合わせたことで「ブロックチェーン」という画期的な仕組みがうまれました。

暗号技術は、現代社会を支えるシステムと密接につながっていることがよくわかります。

 

量子コンピューターと暗号

「量子コンピューター」が実用化されれば、これまで解読不可能とされてきたRSA暗号を突破し、一方で解読不可能な暗号を作ることもできる。暗号新時代に突入する、といわれています。

 

暗号解読」が出版された1999年は量子コンピューターはまだ夢の技術でしたが、2022年現在,

ずいぶん開発が進みました。

IBM、昨年比で性能2倍の量子コンピュータ「Raleigh」発表 2030年までの実用化に一歩前進 - ITmedia NEWS

暗号新時代の到来は近い!?

 

量子コンピューターってどんな仕組み?

 

量子コンピューターは

「0」の状態と「1」の状態が重なり合ったもの

として計算しています。

 

ふつうのコンピューターを使って、関数にx=1,2,3、、、を順に代入して計算していくと。

コンピューターは0と1の二進数で計算しますので、x=1なら0000001、X=2なら0000010、x=3なら0000011、を順番に代入します。

順番に代入するので、xの数が増えると、それだけ時間がかかります。

 

量子コンピューターは「0」と「1」の重なりあった状態=「0でもあり1でもある状態」として計算できるのです。

もし桁数が7なら

0101010

かもしれないし

1011111

かもしれないし

1010000

かもしれない。

これらすべてを同時に計算できます。

ふつうのコンピューターのように順番に計算するのではなく、同時に計算できるので、一瞬で計算が終わります。

※この「1と0」のことをキュービット Qbit=Quantum bitという単位で表します。例で示した7個の並びだと7キュービットですね。


2023年現在、最新の量子コンピューターの計算能力が433キュービットなので、2^433とおりの計算が同時にできます。

量子コンピューターで暗号は無意味になるのか?

量子コンピューターを使えば、その驚異的な計算速度で解読不可能だった暗号を解くことも、あるいは暗号を作成することもできる、といわれています。

暗号というプライバシーは守られるのでしょうか?それとも暗号は意味のない壁になってしまうのでしょうか?

量子コンピューターが開発されたら、仮想通貨を支えるブロックチェーン技術の暗号も一瞬で解読されてしまうかもしれません。今後の動向が気になります。

 

暗号は人間の欲から生まれた

「相手を出し抜きたい」

「自分を守りたいとか」

そんな人間の「欲」から暗号は生まれました。暗号は人間の営みそのもの、本質とつながっています。

暗号技術の説明も非常にわかりやすいんですが、何よりも暗号を生み出した人間の営みとか、感情的な部分をめちゃめちゃ魅力的に描いているのが本書の素晴らしいポイントだと思います。

 

「暗号解読」著者サイモン・シン氏のすごさ

難解な暗号の世界を、とにかくかみ砕いてわかりやすく書いている「暗号解読」。後書きによれば執筆に2年かかったようですが、このボリュームを2年で書き上げたことがまずすごい。取材も含めれば相当な労力だったでしょう。

 

著者サイモン・シン氏は素粒子物理学の博士号をお持ちとのこと。最終章の難解な量子コンピューターの部分もしっかり説明されているのはさすがです。

 

他にもたくさんの著書があり、ほかのものも読んでみたくなります!

サイモン・シンの著作をAmazonで見てみる

 

著者も暗号を作っちゃった!

著者のサイモン・シン氏は「暗号解読」を書くだけでは飽き足らず、下巻の巻末で読者向けに1万ドルの賞金をかけた暗号問題を出題!


下巻を読み切り「すばらしい内容だったなあ。」とホッとする読者をぶん殴る展開です。全10問。最終問題は、なんとスパコンが必要になるレベル!


がしかし、異常なのは著者だけではありませんでした。原著出版の翌年(2000年)にスウェーデンのチームが無事に解読。スーパーコンピューターではなくPC100台の並列計算で突破しました。

最初の方の問題は「暗号解読」を読めば誰でも解ける内容になってるよ。レッツトライ!

 

原著も素晴らしいのに翻訳はさらにすごい

「暗号解読」翻訳は青木薫氏。丁寧な翻訳で原著の不足部分を丁寧に補っています。初版の出版(1999年)から、日本語文庫版の出版(2007年)の間での暗号技術の進歩についてもフォローしている徹底ぷり。

 

解読方法が公開されていない箇所について、青木氏自身で暗号をわざわざ解きなおしている箇所も。

 

翻訳の情熱も本書のみどころのひとつです!

 

暗号社会の未来予測

この本が出版されてからすでに20年が経過。

暗号をとりまく未来はどのようになるのでしょうか?

この世の「情報」は守られるのか?暴かれるのか?そんなことを考えずにはいられない読書体験でした。

 

「暗号解読」感想まとめ

  • 上巻(暗号の歴史)だけ、下巻(現代の暗号技術)だけ どちらかでも楽しめる。
  • 言語学、歴史、数学、戦争、コンピューター、、、
    人間の営みのすべてが、暗号に詰め込まれている。
  • 日本語訳に込められた、翻訳者の情熱に感動!

ぜひ読んでみてね!