すべてを裏切る「あの1行」の衝撃。二度読み必至の恋愛小説「イニシエーション・ラブ/乾 くるみ」をマユ目線での解説?しました。
イニシエーション・ラブ あらすじ
合コンで出会った、大学4年生の僕=たっくんと、歯科衛生士のマユ。
初々しい2人。徐々に愛を育み、初めてを経験し、しかし、僕の就職、転勤とともに、雲行きが怪しくなり......
なーんて、よくある出会いと別れとの恋愛モノと思いきや、物語は思わぬ方向へ。最後の最後まで、気を抜かずに、お楽しみあれ!
- 著者:乾 くるみ
- 発売:原書房 2004/3/1 → 2007/4/10 文春文庫で文庫化
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(Amazonの聴く読書):聴き放題対象
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(リンク先で「▶Audible サンプル」を押してください)
Audible版、聴きました。なるほど、音声ならでは「仕掛け」も一応ありますが、やはりこの作品は文字で読んでこそ。
初読は必ず「文字書籍」をおすすめします。
Audible版は、録音の品質の問題なのか、セリフの語尾が聴き取りづらい部分が多く、個人的にはおすすめしません。
著者 乾くるみさんについて
かわいらしい(?)お名前から間違えそうになりますが、男性のミステリー作家さんです。
1998年に「Jの神話」でメフィスト賞を受賞しデビュー。
イニシエーション・ラブは、タロットシリーズと呼ばれる作品群の1つ。
表紙にタロットカードがあしらわれていたり、共通の登場人物がいたり、という共通点はあるものの、物語としては独立して楽しめます。
イニシエーション・ラブの感想とマユ目線の解説
以下、本作品の内容に触れる部分があります。未読の方はご注意ください。
「恋愛ミステリー」とされるイニシエーション・ラブ。
たしかに読者をだますシカケはありますが、謎解き要素は少なめ。あくまで「恋愛小説」として楽しむのがよさそうです。
「あの1行」を読んだ瞬間は、状況がわからなすぎて、放心状態に。やがて、じわじわと真相を理解する脳。
驚愕の事実に「うわあああああ」と叫びたくなること必至!
後書きがとっても丁寧
イニシエーション・ラブ文庫版巻末には大矢博子さんの後書きが。
作中の「シカケ」についてもこっそり解説されており、「最後まで読んだけど意味がわからなかった…」とならず、安心です。
昭和の終わりごろを舞台にした作品。当時の流行り、世相についての描写が多いですが、「カセットテープ」「ファミコン」「国電」などの用語解説も充実。ついていけない平成世代の読者も安心。
唯一解説されていないのは、「OHP」くらいでしょうか。
OHP…最後に使ったのは小学生の頃かなあ
現在は発表、プレゼンの資料投影に「パワーポイント」を使うことがほとんどですが、当時はOHPという透明フィルムに、資料を書いたり印刷したりしていました。
OHPフィルムの後ろから、専用の機械で光を当てて、それをスクリーンに拡大投影するんです。
紙資料をOHPフィルムに焼き直す、プリンターみたいな機械もあったなあ
女性は怖い?それとも…マユの嘘と本音を答え合わせ
マユは嘘をついています。例えば
(指輪を)失くしちゃったみたい。126ページ (1987/12/24)
失くしたわけではないんですが……笑
でも、指輪をしれっと使い続けることも、売ったり捨てたりすることもできたのに、ちゃんと返して、すっぱり関係を断ち切るあたりは、いいですね。
それだけはっきり「別れたかった」ということでしょうか。おかげで来年は、たっくんから新しいルビーの指輪をゲットできそうです。
私、今日のことは一生忘れないと思う……初めての相手がたっくんで、本当に良かったと思う。(114ページ)
、、、、、うん!初めての相手はほんとはね、、、!
Xの読書仲間(男性)から、本作について「怖い」という評をいただきました。気持ちはわかる。
マユは怖い女性なのか?個人的分析
マユが怖い、マユが恐ろしいとも言われるイニシエーション・ラブ。
でも、最後は登場人物みんな、悪くない結末に落ち着くことに(海藤くんは失恋しちゃったけど)。なので、真相を知ると、意外と読後感は爽やかでした。
そもそもマユはたっくんから暴力を受けていました。避妊もしてくれないし、そんなやつ、別れて当然。なんとか自分の身を守り、穏便に別れたい、という必死の生存戦略でもあったように思えます。
「乱暴はしないで」というセリフは、マユの心からの悲鳴だったのではないでしょうか。
生き残るためにはなんでもする。嘘もつく。優しくて男はしっかりキープしとく。もちろん呼び名だって……そんなマユの強かさ、わんこたん結構好きです。
マユも大好き?十角館の殺人
イニシエーション・ラブを読み解く「鍵」として登場する十角館の殺人。1987年9月に出版され、ミステリ界に驚愕をもたらしました。
「衝撃の一行」で読者を翻弄する点はイニシエーション・ラブとそっくり。
マユとたっくんも、「十角館、すごかったね!」なんて会話をしたのかと想像すると、ほほえましいではありませんか。
傑作ミステリーと名高い十角館の殺人、ぜひイニシエーション・ラブとセットで読んでみては。
マユの健気さの表れ?部屋に置かれた「アインシュタインの世界」
たっくんにアインシュタインを知らないことをバカにされ、泣いてしまったマユ。部屋に置かれた「アインシュタインの世界」は、マユが買ったのか、彼から借りたものか。
たっくんに追いつくために、アインシュタインについて勉強しようと思ったのであれば、マユ、健気でいい子じゃないですか。そんなマユと別れるなんて、あちらのタっくんたら、まったく。
この「アインシュタインの世界」残念ながら絶版ですが、中古本は購入可能のようです。今度読んでみようかな。
イニシエーション・ラブ 感想まとめ
果たしてこの恋愛は、誰にとっての「イニシエーション(通過儀礼)」だったのか。
この記事を書くために2度読みしながら、そんなことを考えていました。
この記事を見て、気になったあなた。ぜひ2度読み、3度読みして、マユのとりこになってみてはいかがでしょう。
次に読みたい!「しかけがすごい」他のおすすめ作品
イニシエーション・ラブのような「しかけがすごい作品」をピックアップしました。
小説を読み、途中のQRコードを読み取ると……?
文字と音が融合した、新感覚のエンタータイメント小説です。
紹介記事はこちら:真実を再生せよ!「きこえる/道尾秀介」の感想と、ほんのり解説 - わんこたんと栞の森
また、以下の記事では「しかけがすごい本」を特集中。合わせてご覧ください。