世界に溢れかえる「情報」どう向き合うか。
不安なニュースで溢れる昨今、じっくり読んで考えたくなる本です。
第1章と第3章の要約もご紹介!
※引用元について断りのないデータは、FACTFULNESSの記載をもとにしています。
学校の知識をアップデートしたいあなた
データの読み取り方を学びたいあなた
ネガティブなニュースに疲れたあなた
- FACT FULNESS -ファクトフルネス-とは「13の質問」にチャレンジ!
- 「FACTFULNESS」のすごさとは
- FACTFULNESS 要約と考察(第1章と第3章)
- ファクトフルネスへの疑問と批判
- データを「やさしく」伝えるということ
- まさに今、読むべき本。
FACT FULNESS -ファクトフルネス-とは
「13の質問」にチャレンジ!
本書のテーマは「事実に基づいて世の中を考える」
冒頭に、世界にまつわる13のクイズが登場します。
現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう
A 20% B 40% C 60%
※全てのクイズはこちらのサイトで挑戦!
筆者ハンス・ロスリングはこのクイズを「世界中の知識層」に出題。
すると、多くの問題で正解率が33%以下に。
3択問題なので、チンパンジーに鉛筆を持たせて、適当に解かせれば正答率33%のはず。
正答率33%以下?
チンパンジー以下じゃん
辛辣!
チンパンジー以下になるのは、世界に対する「誤った思い込み」があるから。
そのためには「10の思い込み」に立ち向かわなければならない、
10の思い込みとは?
- 分断本能「世界は分断されている」
- ネガティブ本能「世界はどんどん悪くなっている」
- 直線本能「世界の人口はひたすら増え続ける」
- 恐怖本能「危険でないのに恐ろしい」
- 過大視本能「目の前の数字が一番重要だ」
- パターン化本能「1つの例がすべてに当てはまる」
- 宿命本能「全てはあらかじめ決まっている」
- 単純化本能「世界はひとつの切り口で理解できる」
- 犯人探し本能「誰かを責めれば物事は解決する」
- 焦り本能「今すぐ手を打たないと大変なことになる」
例えば、1つめの「分断本能」て、なんだろう?
私たちは、世界が「途上国」と「先進国」で二極化していると考えがち。
しかし第1章を読めば実際の世界の姿が浮かび上がります。
どうすれば10の思い込みを克服できるのか?
\\ 続きは本書で! //
※Audible版もあるけど、図が多いので、「聴きながし」には不向きです
「FACTFULNESS」のすごさとは
「データ」をもとに、筆者の意見も織り交ぜつつ、理論を展開していく本書。
この「データ」、なんと全てオープンソース。出典元も含め、以下に紹介するデータベースで閲覧できるようになっています!
自分でグラフを作れちゃう、データベースがすごい
以下のリンクをクリック!下の方にスクロールして
FACTFULNESSの日本での出版は2019年じゃが、2023年2月現在も最新データに更新され続けておるぞ
日本の情報だけを抽出したり、縦軸や横軸をいじって、自分でグラフを作成し、出力することも可能。
実際にわんこたんもデータをもとに検証記事を書いてみたり。
所得と虫歯の関係【FACTFULNESSを読んで検証!】 - わんこたんと栞の森
FACTFULNESSは読むだけでも「なるほど!」と勉強になりますが、それは入り口。
読みながらデータを眺めて検証してみると、すごくおもしろいんです。
膨大な脚注もすごい
FACTFULNESSの後半25%のページは、「なんのデータを使用したか」という「根拠」の紹介に割かれています。
これだけでも膨大ですが、さらに、書籍に掲載されている脚注の、さらに3倍量の脚注、いわば、「シン・脚注」をweb上で公開。
Detailed Notes | Gapminder(英語)
さらに!
このウェブ脚注をなんとか日本の読者にも読んでほしい!という思いから、共訳者である上杉周作氏が、「一人で」「無償で」ウェブ脚注を翻訳、公開しています。
根拠を提示する、というのは「データに基づく一切の批判、議論、検証を受け入れます。」という姿勢の表れ。
この本に対する筆者と訳者の熱い姿勢が伝わってきますね。
ウェブ脚注作成の経緯については、上杉周作氏のブログ記事もぜひご覧ください。
『ファクトフルネス』批判と知的誠実さ: 7万字の脚注が、たくさん読まれることはないけれど — 上杉周作
FACTFULNESS 要約と考察(第1章と第3章)
FACTFULNESSの中でも特に印象的だった、第1章と第3章の、要約と考察をまとめました。
第1章 分断本能「世界は分断されている」という思い込み
世界は「発展途上国」と「先進国」で二極化している?
↓
そんなことはないよ!
私たちはついつい「世界の貧富は発展途上国と先進国で二極化している」と思い込みがち。
この
明確な定義はありません。
※OECD(経済開発協力機構)で公開している、「ODAを受け取っている国」を発展途上国とみなす、という考え方もあります。
ただし、この定義だと「中国」「インド」なども「発展途上国」に含まれるので、私たちがなんとなくイメージする「貧しい国」とは異なるかも。
「二極化」しているかどうかデータで確認
第1章ではまず、
「5歳まで生存する子供の割合を縦軸、女性一人当たりのこどもの数を横軸」として、世界各国をあらわしたグラフが登場します。
早速、似たグラフを先ほどのデータベースhttps://www.gapminder.org/で作ってみました。
縦軸:1000人中何人のこどもが5歳までに亡くなるか
横軸:女性一人当たりのこどもの数
円の大きさと色:人口数と地域
です。
1965年のデータでは、明らかに
「子供の数が多く死亡率も高い」国(右)と、
「子供の数は少なく死亡率は低い」国(左)
に2分されています。
矢印の赤丸が日本!当時は1000人中、約22人の子供が5歳までに亡くなっていたよ
一方で、2022年のデータでグラフを作ってみると?
多くの国が1965年でいうところの「左側」に推移し、全体的に死亡率が下がって、円が下の方に移動していることがわかります。
ファクトフルネス本書では2017年のグラフが使われているけど、せっかくなので2022年版のグラフにしてみました。
右端は「ニジェール」で、1000人中73人の子供が亡くなっているよ。
世界の姿は「二極化」ではなく「グラデーション」
先ほどの2022年のグラフをみると「二極化」ではなく、多くの中間層が存在する「
第1章では他にも多数のグラフが登場.
わたしたちの頭の中にある「分断」「二極化」のマジックを解き明かし、「グラデーション(分布の存在を教えてくれます。
・低所得国の女子の60%は小学校を卒業する。
20%以下の女子しか小学校を卒業しない国は世界でもまれです。
※アフガニスタン、スーダンなど。
60%の女子が小学校を卒業する、というのもまだ十分ではないですが、
ついイメージしがちな「二極化した世界」の「発展途上国」のイメージとは、だいぶ違いますね。
\\ 世界のイメージが変わる!//
第3章 直線本能「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み
世界の人口は、これまで増え続けてきた。これからも増え続けるだろう
↓
そんなことないよ!
私たちはつい、「世界の人口は直線的に増え続けていく」と思い込みがち。
この
\\ 直線本能を解く!//
子どもの数は増えない!
FACTFULNESS(2019年出版)では、
2100年ころ、人口が100億人~120億人で、世界の人口は安定する、という国連の予測(当時)を紹介しています。
2022年の国連の発表では
※グラフ引用元:World Population Prospects 2022 Summary of Results 30ページ
そして、FACTFULNESSによれば、世界の「子どもの人口」は、2000年頃から横ばい推移。増加していません。
2015年時点の15歳未満の世界人口は約20億人。
そして、国連の予測では「2100年の」子どもの数も約20億人。
世界の人口推移の歴史
世界人口の推移をグラフで見てみましょう。
引用:
UNFPA Tokyo | 1月15日 SRID第6回懇談会 「世界の人口問題とSDGs」
1800年頃に、急激に増加してる!
各時代のこどもの産まれ方、育ち方について、FACTFULNESSでは以下のように説明しています。
女性ひとりあたりの子供の数は6人。
4人は途中で死んでしまい、次代に子孫を残せるまで成長できるのは2人。
この時期、世界の人口は約10億人。その推移は横ばい傾向でした。
女性ひとりあたりの子供の数は5人。
こどもの死亡率が下がり、
生き延びて次代に子孫を残せるまで成長できるのは4人。
1900年には15億人だった世界人口。
2000年には60億人まで急激に増加しました。
人類史上まれにみる人口爆発であり、
女性ひとりあたりのこどもの数は2人。
次代に子孫を残せるまで成長できるのもおよそ2人。
1800年と同じ数に戻りました。
人口推移は1800年ごろのそれに戻りつつあります。
平均寿命が延びたことで、しばらく人口(特に高齢者人口)は増え続けますが、
やがては人口増加はストップするでしょう。
人口が増え続けていた時期の方が異常事態で、「人口が増えないほうが普通」という考え方なのじゃ
「少子化」に対する考え方が、根本から変わってしまいそう
こどもをたくさん産まないのは、だれの判断か。
「こどもをたくさん産む必要がなくなったから、子供の人口が増えなくなった。」
「いま、多くの親たちは自らの判断で子供の数を減らしている」
上記のFACTFULNESSの書き方について、皆さんはどう感じるでしょうか?
こういう意見もあるでしょう。
わんこたんとしては、「子供を産みたい」という、普遍的な願いが叶えられる社会であってほしいと思います。
一方で、どんなに福祉政策を充実させても、子供の数をこれ以上増やすのは難しい、と、FACTFULNESSを読んで感じました。
子供を増やすことを目的にするのではなく、もっとシンプルに「市民が困っていること」を解決するためにお金を使ってほしいな。
ファクトフルネスへの疑問と批判
データをもとに世界の真実を明らかにしている!素晴らしい!
と絶賛されがちなFACTFULNESSですが、疑問や批判も浮かんできたので、
わんこたんにて検証してみました。
疑問① 低所得国の定義とは?
冒頭で引用したクイズ
現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう」
ですが、そもそも「低所得国」の定義とは?
FACTFULNESS 427ページにも記載されていますが、これは「世界銀行」が作成した定義。
以下のようにひとりあたり国民総生産(USドル)に応じて世界を「4段階」に分類しています。
「低所得国」:GNIが1,045$以下
「下位中所得国」:1,046$〜4,125$
「上位中所得国」4,126$〜12,745$
「高所得国」:12,746$以上
引用:
一方、FACTFULNESSでは、世界を「4つの所得」レベルで考える場面が、多く登場します。
レベル1 1日の所得2ドル
レベル2 同8ドル
レベル3 同32ドル
レベル4 32ドル以上
「低所得国」と「レベル」という2つの基準が混ざって、ちょっと分かりにくいのよね
「4つの所得レベル」は、著者オリジナルの定義のようです。
レベルの「区切り方」によって、データの見え方が大きく変わってきそう。
→じゃあ、著者の主張をよりよく見せるために、あえて4つに区切っているのでは?
という疑いを防ぐためにも、
疑問② なぜ対数めもりを使うのか?
第1章では、所得をグラフに組み込む際、かならず
なぜ?
これについては、脚注に回答がありました。
所得が何ドル増えたかよりも、何倍になったかが重要な場合、
倍増する目盛は役に立つ
所得の増えた「量」ではなく「増え方」に着目してほしいから、対数めもりを使っているんじゃな。納得!
批判:グラフの見せ方が恣意的?
この記事では「わざとよく見せようとする」という意味で使っています。
例えば第2章。
「世界について良くなっている32のこと」として、32個のグラフが並んでいます。
(例)
- タンカーから流出した油の量 → 減少
- 5歳までになくなる子供の割合 → 現象
- 1年あたりの新作長編映画の本数 → 増加
いずれも横軸に「年」をとっています。
しかし、あるものは1800年~のデータ、あるものは1900年のデータ、のように、
「この批判は、特に多かった。」と、FACTFULNESSの訳者である上杉周作氏もブログ記事で、紹介しています。
批判に対する回答を,冒頭でも紹介した、同氏のブログから引用します。
32のグラフの横軸・縦軸についての訳者による補足:
32のグラフの横軸の一番左には、それぞれの題材で信頼できるデータがある最も古い年号が使われている。
だから、グラフごとに横軸は違う。
このため、ふたつのグラフの形を比較することはできないし、本書でもそのような比較はしていない。
著者としてはできるだけフェアに伝えようとした結果なのじゃな
データはただの数値ですが、これを表やグラフにすると、とても見やすくなります。
見やすくなる一方で、
表やグラフを見て納得するだけじゃなく、込められた意図についても考えていきたいですね。
データを「やさしく」伝えるということ
FACTFULNESSを読むと、筆者がとても丁寧に、言葉を選んでいることに気づきます。
例えば以下のように。
災害での死者が減っていることを、大災害がまさに起きている最中に言うのは場違いだ。こういう時は人類の進歩のことはいったん忘れて、それぞれができる協力をしよう。
(FACTFULNESS kindle版 186ページより抜粋、一部わんこたんにて省略)
このような
「回りくどい」「冗長」な表現かもしれませんが、わんこたんは「好ましく」受け取りました。
データはデータでしかありませんが、そこに
一方、感情を乗せすぎてしまうと、恣意的、意図的な印象を与えてしまいます。
FACTFULNESSはそのバランスにかなり気をつかっているね!
まさに今、読むべき本。
私たちは、ついつい極端な意見、センセーショナルなニュース、簡潔なスローガンに心を奪われがち。
わんこたんがこの記事を最初に書いている現在(2020年3月)、日本でのコロナウイルスの感染者数(累計)が毎日少しづつ増えていて、ニュースでもSNSでもそれに関連したワードがバンバン飛び交っています。
不安なニュースがあふれる今こそ、この本を開いて、情報の受け止め方について考えてみませんか?
専門家ではなく「みんなの意見」のほうが正しい??