伝説的な人気を誇るシリーズの、記念すべき1作目。すべてがFになる の感想と解説を書きました。
すべてがFになる あらすじ
孤島の研究所で、隔離生活を送る天才工学博士・真賀田四季。その部屋から異様な死体が現れて……さらに研究所のシステムが暴走、外界と音信不通になってしまう。
偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵のS&Mコンビが、密室殺人に挑む!
- 著者:森博嗣
- 発売:講談社 1996/4/5
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):
▶︎5分間の試聴はこちら(リンク先で「▶︎プレビューの再生」を押してください
登場キャラ名前読み上げで試聴が終わってしまうのが残念。また、男性朗読者なので、主人公萌絵の魅力が感じられない!という意見も。
すべてがFになる、まずは文字書籍で読むのが良さそうです。
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Audibleって正直どう?メリットデメリットはこちらの記事をどうぞ▶本好きが正直に全部書く! 聞く読書Audibleのメリットとデメリット
すべてがFになる 著者 森博嗣さんについて
すべてがFになるでメフィスト賞を受賞しデビューした森博嗣さん。デビュー当時は現役の大学助教授であったという異色の経歴の持ち主です。
デビュー作のすべてがFになるは、コミカライズ、アニメ化、ドラマ化もされた人気作。わんこたんも、読む前にタイトルをXに投稿したところ、多くのファンの方からリプをいただき、その人気っぷりに驚きました!
⇩コミカライズ版は全2巻
非常に著作が多く、主にアルファベットを冠したシリーズ名で呼称されています。
すべてがFになるはS&Mシリーズの1作目ですが、共通のキャラクターが他のシリーズにも登場しているようなので、全作制覇してみたい……できるかな……
※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプします。まとめて読む場合は横断的に検索ができる合本版もありますよ。
S&Mシリーズの表紙のこと
すべてがFになる、この独特なタイトルに表紙のシンプルすぎる白さもあいまって、なんとなく読めずにいた管理人わんこたん。
Fってなに?S&Mってなに???
白い表紙から「この本は飾らない、中身で勝負だ!」っていう圧を勝手に感じたり。
が、読んでみたらおもしろかったので、本を見た目で判断してはいけませんね。反省。
⇩表紙は白いけど中身は濃ゆ〜い作品たち(管理人わんこたん独断偏見チョイス)
すべてがFになる 感想
はっはっはっそうきたかーーーー!!!というトリックに、度肝を抜かれました。答え合わせまで全然わからなかったです。これは歴史に残るわ。
よく読むと、冒頭のウイルスと生命体の話で、うっすらと暗示されていました。サブタイトルの the perfect insider というのも、真相を知ってから読むと、意味深。
このトリックだけだと、ちょっと強引というか、これ成立するの?流石に無理では?という一発芸に感じられてしまいますが、それを可能にする舞台設定がいいですね。
ちょっと理屈っぽいプログラムの話を絡めつつ、大胆なトリックを成立させることで、絶妙なバランスを保っていたと思います。
あとラスト1行が美しい。美しいラスト1行コンテストがあったら、間違いなく上位。
以下、すべてがFになるの内容に触れる箇所があります。読了後にお読みいただくことをおすすめします。
すべてがFになるとはどういう意味なのか?
C言語などのプログラミング言語において、インテジャ(integer)のショート(short)、という変数型に格納できる整数の最大値は65535で、これを16進法で表記するとFFFFになります。
真賀田研究所で使われているシステム「レッドマジックver4」では、システムの稼働開始からの時間(hour)がこのインテジャ(integer)のショート(short)でカウントされていました。
カウントがmaxになる=65535時間が経過する=FFFF(すべてがF)になると、規定のプログラムが実行される仕組みだったのです。
一昔前に話題になった「2000年問題」と似ているかも。
当時、一部のシステムでは「年」のコードを下二桁でしか取得していなかった (1998年→98 1999年→99)ため、2000年になるとエラーが起きて、世界中で大混乱になるのではないか、と言われたりしていました。
同じように、レッドマジックが稼働し、65535までカウントが到達すると、エラーが起きる、という仕組みが隠されていたのですね。
プログラムを動かすときにデータを格納しておく入れ物のハコのこと。このハコ(型)にはいくつか種類があります。
整数を入れておくinteger型や、文字列を入れておけるchar型など、、、
数学で使う代数(XとかY)みたいなもののイメージで良いと思います。
犀川先生がポロッと述べたこの単語。
アンサインド(unsigned)とは符号なしの意味で、正の値のみ格納できます。
- signed shortなら格納できる値の範囲は−32768〜32767
- unsigned shortなら0〜65535 ←すべてがFになる で登場したのはこちら
- そもそもFFFF(65535時間)ではなく、キリよく60000時間とかで設定しても良かったのでは?
→FFFFっていう並びがオシャレだから。。。(真犯人◯◯◯◯の美的センス) - 時間を格納するのにshort型は短すぎるでしょ。longにしとくべきって、誰かに指摘されたら終わりだったのでは。
→天才の書いたコードにそんな穴があるなんて誰も思わなかった、ということで。
1996年に書かれたと思えない、未来先取りシステムたち
オンライン会議やチャットシステムが充実した真賀田研究所。
特にレーシングカート型のVRコミュニティシステム、というのがいい。ただの会議システムじゃない、レーシングカート機能があって、空や海にもいけちゃうの、遊び心ありすぎて。メタバースもびっくり。
1996年の作品なのに、技術の取り入れ方や考え方のスタンスなどは、令和の今に通ずるものがあって、興味深かったです。
すべてがFになる、のツッコミどころを挙げるならば
- 地上1階地下2階で、ヘリポートに繋がるエレベーターが2箇所、という真賀田研究所の構造が当初はわかりづらかったので、見取り図欲しかったなあ。
- 同じファイル名で2つ保存すると、1つが消えてしまう、ていうのは、現代だとあまり馴染みがないですね。勝手にファイルA、ファイルA(1)、ファイルA(2)と名前を変えて保存されるか、「上書きしますか?」と聞いてくることが多いかな。
当時は上書きで勝手に消しちゃうことが多かったのかな。 - 年齢ごまかすの、いけるか?ちょっとキツくないか?いやギリいけるか?
研究所の医師、弓永先生に解剖でもされたら、危なかったかも。
あと、女児じゃなくて男児だったらごまかす難易度はさらに上がっていたでしょう。
面白かったから細かいことはいいんですよハハハ
キャラクターの安定感と安心感
研究者だからなのか、死体の登場シーンを除いてみんな冷静で行動も理知的。おかしな言動で作品の雰囲気を壊さないのも、読者にとっては嬉しいポイント。
以下に主要なキャラクターの印象をまとめました。彼らが続編にも登場するのか?どのように活躍するのか、これから注目して読みたい!
西之園萌絵について
賢くて、お嬢様で、犀川を慕う萌絵さん。作中では大学1年生の19歳。唯一無二の個性をはなつ、強烈なキャラクターです。
亡くなった父親の最後の弟子である、犀川助教授を尊敬。「私より頭の良い大人がいるので驚いた、というのは犀川先生と初めて出会った小学校5年生の萌絵さんの感想。
とても賢いのに、大好きな犀川先生の前では少女のようになってしまう、不思議なかわいさと危うさがあります。
犀川の恩師、西之園恭輔博士の娘ということで、大学1年生なのに犀川助教授の部屋に入り浸っている萌絵さん。
最初は大学1年生なのになんだこいつ?と思いましたが、ゼミのキャンプにも普通に同行し、4年生や院生とも仲良し。。。というか、あまりのお嬢様っぷりに呆れられつつ可愛がられている様子にほっこり。
両親が事故で亡くなったあと、服装も喋り方も変わって活動的になったとの描写も。
また、冒頭で萌絵さんが真賀田四季博士に面会した理由は不明ですが、今後のシリーズの中で明かされていくのでしょうか?
西之園一族は有名人である真賀田四季博士に面会できるほどの政治力をもち、叔父は愛知県警本部のトップ 叔母は県知事の夫人。他にも有力な親族が各地に散らばっているようです。
また、萌絵さんは両親の資産を受け継いでいるということで、未成年ながら相当な資産家でもあります。
助教授 犀川創平について
国立大学工学部の助教授(現在でいうところの准教授)である犀川先生。作中では34歳。
研究が大好きでありながら、しかし大学という組織だからこそ生じる無駄な出張、無駄な会議(オンラインで済ませればいいのに!)にうんざりしているところが、令和の現代に通ずるものがあって、面白いです。
(犀川先生、令和の工学部は、ネット環境は整っているけど、オンライン会議、めちゃくちゃ多いらしいよ。。。)
キャンプ場での萌絵さんとの会話では、理想的・合理的なシステムを礼賛しつつ、非合理的なものも愛する、という、彼のキャラクターが垣間見えますね。
そして10歳以上歳の離れた萌絵の好意に気がつきつつ(気が付いてるよね?)それをさらりと受け止める姿はちょっとかっこいい!かもしれない。
「僕はね、西之園君」犀川はゆっくりと言う。「勤務時間以外に、嫌なことは一切しない。それに、今は勤務時間外だ」
(すべてがFになる より引用)
西瓜とあんこときなこが嫌いだそうですが、この設定、今後も出てくるかしら。犀川のボスにあたる教授は本作には登場しません。続編には登場するかな?
助手 国枝桃子について
作中では28歳の女性。助手(現在の助教)にあたる先生です。
すべてがFになる ではそこまで出番はありませんでしたが、彼女の立ち位置が物語の展開上、重要となってきます。ひたすら淡々とした男性的なキャラクターですが、ちゃんとゼミのキャンプに来てくれるあたりは律儀ですね。
今後のシリーズでも活躍するのかな?
犀川と同じ研究室の学生たち
名前が出ていたメンバーをまとめました。萌絵さんのことを、まったくお嬢様なんだからと呆れつつ、かわいがっている様子。
-
浜中深志:修士課程1年生
- 淵田:大学院生
- 川端:学生の中で一番年長
- 呉:留学生の女性
真賀田 四季博士
情報工学の第一人者 真賀田左千朗博士と 言語学の最高権威 真賀田美千代博士の娘。
愛知県三河湾の妃真加島(ひまかじま)の私立研究所で研究を続けている、という人物です。
超天才少女として幅広い分野に業績を残していますが、14歳の時に両親を殺害したことで、逮捕歴があり。「両親を殺したのは人形」「その人形はどこかに行ってしまった」といった謎めいた発言も。
萌絵の父親は真賀田四季博士と交友があり、一方で四季博士のほうは犀川先生のことを事前に把握済み。その理由はいったい。。。?
研究所の地下2階の閉ざされたフロアで、誰にも会わずにテレビ通信のみでやり取り。多重人格者でもあるようです。
儀同世津子
犀川の周りに現れる女性。萌絵がなんとなく苦手とするタイプ。その正体は。。。
パズルが好きらしい。
諏訪野
西之園家に長年仕える執事さん。すんごく執事らしい立ち居振る舞い。
すべてがFになる の次に読みたいおすすめ作品
プログラムとか、数学とか、そういうテーマを含む2作品をご紹介。
いずれも難しめですが、あなたの世界の見方を変えるかもしれない、強烈なSF小説です。
ハーモニー/伊藤計劃
htmlのようなプログラミング言語が織り交ぜられた独特の作風。暴力の時代を乗り越えた人類が到達するユートピア。その極地にあるものとは。
なぜプログラミング言語での記述が登場するのか?その理由をぜひあなたの目で確かめて。
Self-Reference ENGINE/円城 塔
過去改変に時空移動。なんでもありな世界を紡ぐ短編集。難解でわけがわからないのにひきこまれる、そんな摩訶不思議な読書体験をあなたに。
感想記事はこちら▶︎(読了)読書感想文 Self-Reference ENGINE / 円城 塔 わからないなりに考察 - わんこたんと栞の森