美しくきれいで整った「多様性を尊重する時代」に覆い隠された、不都合な物語。
あなたは共感する?それとも嫌悪する?そんな、賛否両論を巻き起こしそうな問題作、正欲の感想を書きました。
この作品、読み手によって印象がだいぶかわりそう!
正欲 あらすじ
ひきこもりの息子に悩む検事・啓喜。女子大生・八重子。契約社員・夏月。
全く関連の無かった彼らの人生は、「欲」という糸によって、弱く、しかし確実に結びついていく。
「多様性を尊重する時代」の正しさを問う問題作!
- 著者:朝井リョウ → Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:新潮社 2023/05/29
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象
▶︎5分間の試聴はこちら(リンク先で「▶プレビューの再生」を押下
作中にとっても「うざい」人物がいるのですが、Audibleだと「ウザさ」がより際立って心ザワつくこと間違いなし。
覚悟を持って、体調のいいときに聴きましょう。嫌悪感で全身を満たしたい人におすすめ!
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Audibleって正直どう?メリットデメリットはこちらの記事をどうぞ▶本好きが正直に全部書く! 聞く読書Audibleのメリットとデメリット
正欲 著者 朝井リョウさんについて
史上最年少の直木賞受賞作家でもある、朝井リョウさん。
受賞作の何者をはじめ、人物の感情を俯瞰したかのような描写が、心をつかみます。
以下に作品の一部をご紹介。この他の作品は、Amazonの著者作品一覧ページからチェックしてみてくださいね。
正欲 感想
以下、正欲の内容に触れる記載があります。未読の方はご注意ください。
桐生夏月、佐々木佳道、諸橋大也の抱える「フェチ」の巧妙さ
彼らの抱える「◯フェチ」。このフェチのチョイスがかなり絶妙、というか巧妙でした。
◯ってすごく清らかで清浄なイメージですよね。しかも無生物なので、仮に人前で◯と戯れてもほぼ誰にも迷惑をかけない。
だから、◯にしか性的興奮を得られない彼らの境遇に、読者は共感し(共感したように錯覚し)、「多様性についての考え方が変わった!」という感想を多く見かけました。
でも、もし彼らのフェチが、作中でも紹介される▲▲欠損フェチとか▲▲改造フェチとか▲▲丸呑みフェチだったらどうでしょう。
たとえ他人に危害や迷惑をかけなくても、読者の印象は大きく違ったのではないでしょうか。
あえて存在しない(存在するとしてもおそらく超マイナーであろう)〇フェチを作り出し、それをもとに共感を誘うストーリー設計に、絶妙なズルさを感じてしまいました。
彼らの犯した「過ち」とは
佐々木佳道と諸橋大也は、自らのフェチを公共の場で発散し、仲間とつながる「オフ会」を開催したことで、不運にも犯罪に巻き込まれていきます。
この事件、彼らは「かわいそう」なのでしょうか。
不運だった、とは思います。が、興奮したいなら!人から見えないところでやるべし!
これに尽きると思います。
特殊性癖、フェチなんて、大体みんなひとつか2つくらい持ってるはず。それがメジャーな性癖だろうとマイナーな性癖だろうと、多くの人は暗黙のマナーを守って、こっそりpcフォルダに保存して楽しんだり、本当に親しい相手とだけ共有しているはず。
たとえ〇フェチという「見た目は清らか」なフェチであり、厳重に注意していたとしても、公共の場で発散してしまったのは彼らの過ちでしょう。わんこたんはあまり共感できませんでした。
多様性尊重社会への皮肉 にあまり共感できなかった
- 多様性を尊重する時代に、特殊な性的嗜好をもつ彼ら彼女らは自分らのアイデンティティを表現できず苦しんでいます
- ◯フェチも、小児性愛者も、多様性を尊重する時代ならみんな受け入れなきゃダメだよね。
そんな「多様性尊重社会」への皮肉を作品内で表現したかったのだと、思うのです。がしかし、それなら〇フェチじゃなくて、もっとボーダーギリギリのフェチをテーマにしてもよかったのでは。
だって、◯フェチと小児性愛ではそのイメージの清浄さに差がありすぎて、真顔で「◯フェチは許容するよ。でも小児性愛者は許容しないよ」という思いしか抱けなかったんですもん。
繋がりたいけど秘密にしたい。人間とは難しい生き物
◯フェチを他者と共有したい。この苦しみを分かちあいたい。でも広く知られたいわけではない。
共有し合いたいという気持ちと、絶対にカミングアウトしたくない、という気持ち。両方抱えてしまう人間て生き物、本当にめんどくさい。
正欲の終盤の事件も、「他者と繋がりたい」という欲求がなければ起こらなかったはずなのにね。
現代では匿名かつ、クローズドな空間をネットで確保できるので、その点ではいい時代になったのかも。
「マイナー性的嗜好」と「人生のルートを外れること」が混ざって、テーマが薄れてしまった
登場人物のひとり、寺井啓喜。小学校4年生で不登校状態の息子・泰希のYoutube活動を受け入れられず、家族との溝が広がっていきます。
不登校でYoutuberという、(啓喜から見たら)通常ルートを外れていく息子を否定する父親。しかしその父親も実は……
この場面、「人生のルートを外れていくこと」と「マイナーな性的嗜好」とで、微妙に論点をそらされているようで、その皮肉が薄れてしまいました。
この作品はマイナーなフェチがテーマなのか?それとも不登校でYoutuberの小学生という、マイナーな人生に焦点を当てたいのか?
多様性の中にいろいろテーマを盛り込みすぎて、論点がぼやけてしまった、と感じます。(いろいろなテーマを内包している、そのことがまさに多様性ではあるのですが。)
というわけで、朝井リョウさんの作品大好きわんこたんですが、この正欲はあまりハマれませんでした。残念。
神戸八重子への嫌悪感がすごい(誉め言葉)
他者に対してカミングアウトを迫り、一方的につながろう、助けようとする八重子。
読了後、八重子に残る嫌悪感がすごくて、しばらくずっとモヤモヤしてしまったw
でも八重子も正しいことを言っていて、だから余計モヤモヤするっていう……
ここまでキャラクターに嫌悪感を抱かせる、朝井リョウさんの筆力がすごいのか。Audible(朗読版)で聴いたので、嫌悪感マシマシで心がめちゃくちゃザワつきました。嫌悪感で体を満たしたい、嫌悪感でめちゃくちゃになりたい方は、ぜひ朗読版でお試しを。
管理人わんこたんは朝井リョウ作品好きなんですが、本作についてはあまりハマることができず批判的な感想になってしまいました。
ただ、切り口の斬新さはさすがの朝井リョウさん。ふだんの読書では得がたい成分を摂取できたので、やっぱり読んでよかった、かな?
正欲の次に読みたいおすすめ作品
正欲で自分を隠す夏月たちのように、人には誰しも外からわからない一面がある。読めば登場人物への印象がガラリと変わる、そんな2作品をご紹介。
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