恩田陸さんのデビュー作となった、青春ダークファンタジー 六番目の小夜子の感想と考察を書きました。
六番目の小夜子 あらすじ
その高校には奇妙な伝統があった。三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が選ばれる伝統が。
そして今年、「六番目のサヨコ」が誕生する年に、美しく謎めいた転校生、津村沙世子がやってきたことで、サヨコ伝説は徐々に変調をきたしていき……
- 著者:恩田陸 ▶Amazonの著者作品一覧はこちら
- 発売:新潮社 1998/8/1
- Kindle Unlimited:対象外
- Audible(聴く読書):対象外
著者 恩田陸さんについて
ファンタジー、学園もの、ホラー、ミステリー、などなど多様なジャンルで作品を生み出している恩田陸さん。
2017年には、蜜蜂と遠雷で、史上初の直木賞と本屋大賞のダブル受賞、および同作家2度目の本屋大賞受賞という快挙を成し遂げておられます。
なお、第2階本屋大賞受賞作となった夜のピクニックと、六番目の小夜子は同じ高校(恩田陸さんの母校)がモデルになっていますので、2作品は時系列的につながっている!なんて勝手に想像しても楽しいですね。
(注:そのような公式設定は一切ありません)
以下に、恩田陸さんの作品から「学生」「青春」というキーワードでピックアップして並べてみました。
※書影クリックでAmazonの作品ページにジャンプ。六番目の小夜子は2024年8月24日に新装版となりました。(上段左)
六番目の小夜子 感想
高校生って過渡期だなと。
小中学生と違って、行事や部活、進路などがある程度自分の意思で決められる。
でも大学生のように全てが自己判断、自己責任、というわけでもなくて、校則とか受験とか学校の伝統などに、縛られている。
そんな自由と束縛の中間にいる、高校生という不安定な存在。
自分は誰にも囚われず自由に生きているつもりで、気がつくと誰かに言われた役割を演じているような。
志望校を選択しながら、自分で人生を選んでいるのか、教師や親や予備校の提案に流されているのか、よくわからなくなるような。
自分の意思はどこにあるんだ?そういうことに気がつき始める時期といえるかもしれません。
六番目の小夜子では、高校という劇場の舞台で学生を束縛する、奇妙で不可視の舞台装置の象徴として、小夜子伝説が登場します。
恩田陸さんの母校が舞台となったデビュー作
六番目の小夜子は恩田陸さんの母校が舞台になっており、その外観描写は、実際のその高校を、そのままうつしとったかのようです。
城跡にそびえたち、外界を見おろすような校舎。敷地を囲む堀にかかる橋をわたって登校する生徒たち。自主自立を謳いつつ、進学校ゆえの受験のプレッシャーもあり、どこか窮屈な学校生活。
学び舎でありながら、どこか外界から切り離されたような異質な空間。
文学少女であった恩田陸さん、当時通学しながら、「この学校にはこんな秘密が……」なんて妄想、したかどうかは不明ですが(すみません)、そんな高校時代の経験が、作品にも反映されているのかもしれません。
参考▶恩田陸さんインタビュー – 知道会|茨城県立水戸第一高等学校 同窓会
結局アレとかコレはなんだったのかの考察
六番目の小夜子はホラーと呼ぶには怖すぎず、ミステリーと呼ぶにはフワフワしていて、結局あのシーンはなんだったの?このシーンはどういう意味だったの?と、いくつかの場面の答えが書かれていません。
- 加藤が倒れる前に見た制服の袖はなんだったのか → 幻覚?
- 沙世子にからむ不良高校生を襲った野犬 → 小夜子は動物と仲良しだから(?)
- 学園祭で突如発生した竜巻 → 偶然の気象現象?
- 劇で登場する、予定にない6人目の足の影 → 悪ノリした沙世子の仕業?
このふわふわ感こそが恩田陸作品の味わい、なのかもしれませんが、説明不足感は否めず、その点は不満。
ホラーファンタジーとして割り切るならそれでよし。現実の物語ならそれでもよし。
もうちょっと立ち位置をはっきりさせてほしかったです。
学園祭の劇のシーンはすごかった
学園祭の劇のシーンは緊張感がすごかった。六番目の小夜子、屈指の名シーンであり、生徒たちと一緒にのめりこむように読んでしまいました。
急な竜巻?で、曖昧に終わってしまったのが残念。パニック状態に陥った生徒のせいで劇の進行が不可能になった、とかでも良かったような気がします。
下世話でフリーダムな高校生たち
小夜子伝説に振り回されつつ、高校生活を謳歌する主人公たち。
喫煙、飲酒は当たり前、男女(秋と沙世子)を勝手にくっつけようとしたり、そのための小道具に、もらったマフラーを勝手に別の人にあげようとするなど、かなり下世話。
なんか高校生ってバカだよなあ、てのがよく表れていて。うーん、わんこたん自身も当時はこんなおバカの一員だったのかなあ。
そんなおバカな高校生の筆頭が沙世子。他人を操ったり、からかったりするのが楽しくて、いちいち意味深な仕草や表情をしたり。一方で自分になびかない秋をライバル視して、美香子をけしかけたり。
その結果、秋が本当に事故に巻き込まれてしまったことで、最終的に沙世子も、ちょっと反省して大人になれたのかもしれませんね。
黒川先生が、わりと介入してくる
- 転校前の沙世子に意味深な手紙と鍵を送る
- 学園祭の運営マニュアルを印刷し直す
- (おそらく)学園祭の台本を準備する
学校という雰囲気の異常性が小夜子伝説を生み出した、というのが本作の結論であるならば、いやいや黒川先生だいぶ介入してくるじゃん、というのは、ちょっと納得いかなかったなと。
しかも黒川先生が学園祭の台本を準備したなら、2番目の死んだ小夜子の登場のさせ方は、教師として悪趣味ですねえ。
とはいえ、黒川先生がこの学校に着任して約10年という記述があるので、初代と2番目の小夜子には関与してない、はず。
小夜子伝説がどうして始まったのか、は謎のままです。
なぜ小夜子が受験の成績に影響するのか
小夜子が成功した年は受験の合格率がよくて、小夜子が失敗した年は受験の成績も惨憺たるものとなる。というジンクス。
これは生徒の集団心理によるものなのでしょうか。
小夜子が成功した年は、学園祭で小夜子の劇が発表されるはずなので、それで生徒のモチベーションや一体感が高まったとか、そんな影響はありそうです。
黒川先生、もしかして今年の(六番目)小夜子は加藤か……あいつにはちょっと厳しそうだなあとか、思ってたりして。
なにせ、小夜子が失敗すると、(生徒の思い込みのせいで?)学年の受験の結果がひどいものになるのですから。3年生の担任として気になるところ。
とはいえ、その場合、信頼されなかった加藤くんは気の毒。
結果的に精神を病んで入院して1年ダブって、しかも学校休みながらも、今年の小夜子をどうしようどうしようとずっと気にして、秋に手紙を送ったりして、だいぶ気の毒。
粗削り感はあるけれど、やっぱり名作だなあ
ここまで、六番目の小夜子の不満とか、つっこみどころを書いてしまいましたが、それでもこの作品が多くの人に読み継がれているのは、学校という空間の異質性の切り出し方が、すばらしいからだと思うのです。
大人へと成長し、卒業していく生徒たちに置き去りにされ、ぐるぐると続く伝統の円環にから抜け出せない学校(と、先生)、と見ることもできるような。
そう考えると、なんとも物悲しい結末のように、感じられました。
六番目の小夜子の次に読みたい おすすめ作品
青春、学生生活をキーワードに、おすすめ小説を紹介します。
氷菓シリーズ/米澤 穂信
「古典部」の一員となって、学園の謎をとくミステリー。謎解きを通して、伝統ある高校の過去と秘密が明らかになっていきます。
耳で聴くAudible版氷菓で、登場人物の一員になって青春(?)に没入するのもおすすめ!
感想記事はこちら▶︎氷菓 青春×ミステリーな原作小説はやっぱりおもしろい - わんこたんと栞の森
成瀬は成瀬は天下を取りにいく/宮島 未奈
六番目の小夜子と同じく進学校が舞台の作品ですが、こちらは正反対の(?)明るさ。カラッとしてちょっと不思議な女子、成瀬が巻き起こす物語に、あなたも元気をもらえるはず。