「ザリガニの鳴くところ」あらすじ
- 著者:ディーリア・オーエンズ
- 翻訳:友廣 純
- 発売:2020/3/5 早川書房
- Kindle Unlimited 対象外
- Audible 聴き放題対象 → 冒頭5分の試聴はこちら
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母、兄姉、父親に捨てられ、湿地の小屋に残された少女カイア。
孤独に耐えながら、貝などを拾い生き延びようとするカイアに、少年テイトが手を差し伸べます。
17年後、1969年。湿地のはずれの沼地で見つかった死体。彼の名はチェイス・アンドルーズ。
湿地で何があったのか?過去と現在を行き来しながら紐解かれるカイアの半生。やがて事件は町全体を巻き込んだ裁判へと発展し、、、
2021年本屋大賞海外翻訳小説部門1位に輝いた作品。全世界で1500万部を突破し、映画化もされたベストセラー小説です。
2022年に映画化もされました。
映画版はNetflixでも配信中です。
▶ザリガニの鳴くところ 原作小説と映画の違い・真犯人を考察します - わんこたんと栞の森
著者ディーリア・オーエンズ氏について
著者ディーリア・オーエンズ氏は、野生動物学者であり、博士号を複数取得、ノンフィクションの著作経験も。70歳にして本作で小説デビューされたというのですから驚きです。
氏の深い生物の知識が、豊かで繊細な自然の描写につながっているのですね。
著作のひとつ、「カラハリが呼んでいる」は邦訳で読むことができます。
「ザリガニの鳴くところ」感想
本作の感想をまとめました。
美しく厳しい、自然の姿
「ザリガニの鳴くところ」では、カイアを取り囲む湿地の豊かな自然が、みずみずしく描写されます。
カモメの柔らかい羽、草を食みながら緊張の糸を張り巡らす鹿、荒々しい外海。雄を食らい雌が生き延びる、昆虫の強かな生存戦略。
一見するとただの情景描写ですが、これらがカイアの心理的バックボーンとなり、彼女の行動につながっていく点に注目です。
「ザリガニの鳴くところ」は面白くない?
「ザリガニの鳴くところ」、ジャンルは犯人当てミステリー小説といえるでしょう。
しかし、かなり長い上に、前半はほとんど捜査が進まず少女カイアの半生が淡々と描かれる構成。ストーリー(犯人探し)がなかなか進まず、退屈さは否めません。
正直、最初は面白くなるのか不安だったよ
しかし後半。カイアが成長し、本を出版するところから大きく物語が動き出します。
裁判のシーンは、そこらの法廷ミステリ顔負けの戦略的な弁論バトルに。手に汗握る展開に、ページがどんどん進みます。前半で淡々と積み上げた描写が、荒れた外海のような奔流になって読者に押し寄せ、、、
沼地の泥のように、心にこびりつく作品でした。舐めてた。
前半で読むのがキツいなあ、と思った方、最後まで読めば、印象が一変しますよ。
ジャンピン、テイト、、、カイアを支える魅力的な仲間たち
家族と離散し、孤独に生きるカイアですが、湿地の自然と仲間に支えながら成長していきます。
とくに印象的だったのはジャンピン。1960年代当時、黒人で(明記されてはいませんが)トゥレット症候群の彼もまた、社会から疎外されて生きてきたはず。カイアと通じるものがあったのでしょう。
カイアにお金を稼ぐ手段をあたえ、あたたかく見守るジャンピンは、カイアのもう一人の父親のようでした。
そして、衝撃の結末へ
しかし、カイアはそんなジャンピンにも、愛するテイトにも、全てを隠し通しました。
カイアだけが、自然の中に生き、動物的本能で脅威から身を守ろうとし、痕跡を一切消して生きのびようとしていたのです。
物語はどのような結末を迎えるのか?ぜひ、「ザリガニの鳴くところ」を読んでお確かめください。
「ザリガニの鳴くところ」様々な謎を考察
ラストに犯人は明らかになるものの、謎も多い「ザリガニの鳴くところ」。
気になった部分をわんこたんなりに考察してみました。
結末のネタバレを含みます。ご注意ください
全てのきっかけはテイトかもしれない
カイアはテイトとの出会いをきっかけに、読み書きを学び、生物の知識を得ます。自ら本を書いて出版できるほどに。
「知識」を通してカイアが見つめた湿地。そこには、美しいだけでない、厳しく残酷な自然の姿がありました。
- なぜ自分の母親は出ていったのか?
- なぜ自分は町の人間から蔑まれているのか?
- なぜチェイスは別の女性と結婚しながら自分につきまとうのか?
それらに生物学的な理由を見つけて納得しようとする、カイアの姿が痛ましかったです。
カイアは人生を通し、人間のねじれて曲がったDNAの中には、生存を求める原始的な遺伝子が今なお望ましくない形で残されていることも知った
ザリガニの鳴くところ Kindle版 484ページより
自然の姿を理解することが、あの結末に至ったのだとしたら、
テイトは事件の犯人に気づいていた?
裁判ではチェイスの遺体に付着していた赤い毛糸の繊維が争点に。
傍聴していたテイトは、自分がカイアにあげた毛糸の帽子の繊維だと気づいたかもしれません。
ケイトが帽子をあげたのは事件のほんの少し前のこと。この事実が明らかになれば、チェイス殺害の決定的な証拠になります。
結局「繊維がチェイスに付着したのは数年前のことかもしれない」という、弁護士ミルトンの弁論によって、繊維が決定的な証拠になることはありませんでした。
もしかすると、テイトは心の奥底でチェイス殺しの犯人が誰か、理解していたのではないでしょうか。
テイトとカイア 異なる世界の2人
テイトはチェイス殺しの犯人が誰か実は理解しており、しかし、それを信じたくはなかった。ラストシーンで床下から見つけた「詩集」で全てを知ったテイトは「ああ、やはり」と思ったのではないかな、というのがわんこたんの予想です。
「カイアと自分は生きる世界が違う」
かつてそう考え、カイアを捨てたテイト。時を超えて二人は再び結ばれるものの、その世界には大きな隔たりがあった。と実感させられる、美しくも切ない結末でした。
チェイスはなぜ貝のペンダントをずっと身に着けていたのか?
カイアを甘い言葉でほだすものの、その実、別の女性と結婚していたチェイス。
しかし、彼は結婚後もカイアからもらったペンダントを肌身離さずつけていたことが関係者の証言で明らかに。他にも、カイアからのプレゼントを捨てずにとっておいていたようです。
彼は彼なりにカイアを愛し続けていたのでしょう。動物的な征服欲、所有欲に突き動かされる形で。貝のペンダントはそんな「所有」「征服」の象徴だったのかもしれません。
だからこそ、「事件の犯人」は、じぶんが犯人であることがばれる危険も顧みず、「所有」の象徴であった貝のペンダントを、取り去ってしまいたかった、とわんこたんは考えています。
映画版だと、チェイスの怖さがめちゃ伝わる
映画版ザリガニの鳴くところでは、カイアに婚約者のことを知られて逆ギレし、カイアを探して家を荒らしまわるチェイス。
いやめちゃくちゃこいつやばいですわ。目つきがいっちゃってますもん。そりゃカイアも怖がるっての。
暴力シーンも本当にカイアが痛そうでつらい。母親が逃げ出した理由がやっとわかった、というカイアのセリフの納得感がすごいです。
Amazonプライムビデオなどで映画版のザリガニの鳴くところを観られます。自然の描写など本当に美しく、原作の雰囲気をよく出していました。
まとめ
湿地の自然の中で紡がれるミステリー「ザリガニの鳴くところ」。
孤独な少女、カイアの強さ、仲間たちの温かさ、そして衝撃のラスト。ぜひ読んで体感してみてくださいね。
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