第66回直木賞に、第12回山本風太郎賞を受賞。
そんなにすごいの?と、逆に疑いたくなる無双っぷりですが、ご安心を。めちゃくちゃおもしろかったです。
そんな、2021年を代表する国内ミステリー「黒牢城/米澤 穂信」の感想と解説を書きました。
\2024年6月 ついに文庫化!/
黒牢城 / 米澤穂信 2024年6月に文庫化されました。
各賞を受賞し、文庫化が待ち望まれていましたが、2024/6/13に、文庫化されました!
Amazonの提供する本の朗読サービス「Audible」。過去にAudibleを使ったことがない方であれば、基本
黒牢城を実際に全編聴きましたが、声優、荻沢 俊彦氏の重厚感ある朗読がほんとうにすばらしく、主人公村重の心境を細やかに表現していました。
まさに「聴く」大河ドラマ。通勤しながら、洗濯物を干しながら、有岡城の謎解きに参加してみませんか?
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話題のミステリ「方舟」や「村上春樹作品」、本屋大賞受賞作など、最新作・人気作の多くが聴き放題対象となっているので、黒牢城を聴き終わった後も楽しめます!
黒牢城 Audible版の詳細な感想は、本記事の後半に記載しました。
黒牢城 感想
ミステリー作家の米澤穂信さんなのに、戦国時代の歴史小説?と思いきや、開戦間近の城内が舞台のミステリー。
夜に降り続いた雪。朝方にやんだ雪上には一切の足跡もなく、、、というミステリの定番シチュエーションに、第一章から興奮高まります。
4つの中編から構成され、1篇でひとつの事件の謎を解く、という構成。
しかし、事件を解決していく中で、新たに生まれる謎。これが通奏低音のように物語をひもづけ、真の謎がうかびあがります。
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事件を手引きしている裏切者はだれなのか?
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捕らわれの軍師、官兵衛の目論見は?
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主人公荒木村重は、有岡城はどうなってしまうのか?
(史実なので答えは明白ですが、わんこたんは「有岡城の戦い」自体を知らなかったので、歴史展開も含め、ドキドキしながら読みました)
小さな謎と大きな謎の組み合わせ、デビュー作の「氷菓」でもおなじみの、米澤さんが得意とする構成ですが、結末をこんなふうに仕上げてくるなんて!
4つの謎と、その下敷きにある真の謎。そして歴史。これらがエンジンとなって読者をぐいぐいと引っ張っていく、という見事な構成。もう読むのがとまらない!そんな作品でした。
徐々に絞り込まれる容疑者
舞台は戦国時代、戦いによって命を落とす武士たち。登場人物も櫛の歯が欠けたようにポロポロと脱落します。
ミステリー的には、容疑者が徐々に減っていく状態。
読者の頭の中で容疑者がしぼりこまれ、だんだん「この人があやしい」と考えながら、しかし同時に「この人が犯人であってほしくない」という思いも生まれ、、、
その切迫感、緊張感がものすごかったです。
耳で聴くAudible版「黒牢城」がめちゃくちゃよかったです。
今回、Amazonの提供する朗読サービス「Audible」で黒牢城を聴きました。歴史ものなので、音声だけだとわかりづらい、登場人物が覚えづらいかな、と危惧していましたが、そんな心配はいっさいなし。
中学校くらいで歴史の知識がとまっているわんこたんでも、すんなり物語に入り超えました。意外と、人名は文字より、音で聴く方が覚えやすいのかも。
デビュー作「氷菓」もそうでしたが、米澤氏の作品は人物描写・状況描写がとてもこまやか。読者の記憶がうすれかけたときに「あのシーンではこういうことがあったよね」と、見事なタイミングで提示してくれるので、とても理解しやすいです。
実はAudibleに適した作家さん、といえるのかもしれません。
荻沢 俊彦氏の朗読もほんとうにすばらしいもので、主人公村重の心境の変化を細やかに、とらわれの軍師・官兵衛の不気味さをこれでもか、と表現していました。
Audibleで男性が女性の声を演じると、違和感を感じることも多いのですが、本作品では心配なし。
唯一の主要女性キャラ、村重の側室の千代保(ちよほ、おだしのかた)のセリフも、城を支えるものとしての緊張感と慈愛に満ちた声で、本当にすばらしかったです。
凄絶な結末、そして再会
戦国時代という修羅の時代。人質交換は当たり前。裏切った相手の人質はたとえ小さな子であっても処刑・切腹させられる時代。
民草はもっと悲惨に、虫けら以下の扱いを受ける時代。
そんな時代に、村重は、官兵衛は、何を願い、何を祈ったのか。
「父上の話は、やっぱりわかりませぬ!」
この元気のよいセリフには思わず涙が出てしまいました。
冒頭、村重が官兵衛を殺さなかったことが、結末に結び付く。悪因が悪果に、悪果が悪因に、と無限に連なる地獄の中で、ここだけが「善の因果」になったのか。と願わずにはいられない。そんな結末でした。
黒牢城 あらすじ
黒牢城は「序章」「第一章~第四章」「終章」からなります。
序章から第ニ章までのあらすじをネタバレなしで紹介します。
序章
織田信長に突如反旗を翻し、有岡城にたてこもった、城主の荒木村重。
「信長に逆らってはいけない」村重を説得しようと、小寺官兵衛(黒田官兵衛)が、死を覚悟の上で有岡城を訪れますが、村重は官兵衛の説得を聞き入れません。
使者を帰せないのであれば、斬ってくれ、殺してくれ。という官兵衛の訴えを退け、村重は官兵衛を有岡城の地下の土牢に閉じ込めます。
わんこたん、知らなかったのですが、史実でも同様の流れで官兵衛は有岡城に幽閉されています。天正6年(1578年)10月、信長が暗殺される本能寺の変の、4年前のことでした。
歴史に名を遺す「有岡城の戦い」その裏でなにが起きていたのか?牢屋に閉じ込められた官兵衛が探偵役となって、有岡城で巻きおこる「4つの事件」の謎を解く!
第一章 雪夜灯篭
有岡城にとっての要衝、大和田城の安倍仁右衛門(あべ にえもん)。村重の味方であったはずの仁右衛門が、村重を裏切り、敵の織田方についたとの一報が入ります。
有岡城には、安倍仁右衛門の人質として、元服前の仁右衛門の息子、安倍自念(あべ じねん)が留め置かれていました。
裏切った味方の人質は例え幼子でも処刑もしくは切腹させるが戦国の常。ですが、村重は自念を殺さず牢に入れろ、と指示します。
なぜ殺さぬのかといぶかる家臣たち。
当時は、「あなたとの約束を守ります」という証拠として、武将自身の肉親を相手に人質として送る、という行為が当たり前のように行われていました。
本作品の探偵役、黒田官兵衛も、織田信長への服従の証として、息子、松寿丸を織田方に預けています。
しかし、牢を準備するまでの間に、安倍自念は矢傷によって死んでいました。警備の厳重な中、弓矢で射殺すには不可能な位置で。
降り積もる雪にも跡はなく、、、いかにもなミステリー的舞台設定がいい!
誰が自念を殺したのか?犯人が見つからず浮足立つ城内。
このままでは戦に負ける。そう恐れた村重は、謎を解くため、l有岡城の地下の土牢に足を踏み入れます。
第二章 花影手柄
有岡城では2つの大きな戦力が手柄を巡ってしのぎを削っていました。
- 鈴木孫六率いる雑賀衆
- 高山大慮(ダリヨ)率いる高槻衆
この頃、有岡城の東の湿地には敵(織田方)の大津伝十郎が陣を敷いていました。
有岡城の目と鼻の先にある敵陣。
村重は、二つの勢力の活躍の出番を作り、手柄を立てさせるための、いわば「ガス抜き」のために、大津伝十郎の陣に夜討をかけます。
その名が示すように、南蛮宗(キリスト教)の洗礼を受けた、キリシタンです。
ダリヨの息子、高山右近は当初荒木勢に従っていたものの、最終的に織田勢に投稿。
「黒牢城」では、息子の裏切りを恥じ、怒るダリヨの姿が描かれています。
夜討の結果、鈴木孫六も、高山大慮もそれぞれ首級をあげますが、どの首が大津伝十郎の首=大手柄か判明しません。この時代、当然写真などはないので、大津伝十郎の顔がわかるものがいないと、判別ができないんですよね。
大津伝十郎の首がどれか判明せず、雑賀衆と高槻衆の対立が深まる中、高山大慮のとった首が、別の首にすげ替えられると言う怪事件まで起き、、、
困った村重は再び土牢へ。牢屋の探偵、官兵衛の推理は?
第二章のキーとなる敵将の首。敵の首を取るなんて残酷に思いますが、首がないと手柄の確認ができず、手柄に応じた報償を与えられない、と言う当時ならではの事情があったんですね。
本作では、とった首が大切に扱われ、清めて化粧を施し管理する「首実検」の様子が細かく描かれています。
ところで第二章では、1つ「謎」が解かれず残されたままに。村重がそのことを気にしている様子はなく、おや?と思った読者も多いのでは。この意図的に残された謎が後の展開につながっていくのも、本作の見所です。
まとめ
小さな謎とその裏の大きな謎。
緻密な構成と歴史の大きなうねり。
さすが米澤穂信さん!という安心感と、展開が気にならずにはいられない焦燥感。
すべてが完璧すぎるくらいに両立していました。歴史とミステリーの豪華ミルフィーユ、ぜひ読んでみてくださいね。
黒牢城の次に読みたい①米澤穂信さんのデビュー作「氷菓」
小さな謎から、大きな謎へ。人は死にませんが緻密に練られた構成が光る傑作です。あなたもきっと古典部の仲間になりたくなる!
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