また感想を書きづらい本を買ってしまった。
同性愛者の主人公 夢生を中心としたサイコスリラーという感じでしょうか。
(書評ではピカレスク恋愛小説という書き方をされています。)
確かに恋愛小説ではありますが、感動の要素は一切ありません
(個人的な見解です)
そして鬼畜表現が多数なので、苦手な方にはおすすめできません。
ただただ、暗く、グロテスクな美術品を鑑賞するような
それでいて目が離せない、、、そんな作品でした。
眉目秀麗、文武両道にして完璧な優しさを持つ青年、漱太郎。しかしある嵐の日、同級生の夢生はその悪魔のような本性を垣間見る――。天性のエゴイストの善悪も弁えぬ振る舞いに魅入られた夢生は、漱太郎の罪を知るただ一人の存在として、彼を愛し守り抜くと誓う。切なくも残酷な究極のピカレスク恋愛小説。
あらすじでは漱太郎について「悪魔のような本性」と記載されていますが、
悪魔というよりも鬼畜という表現が合うような。
具体的には目を付けた女性をレイプするなど、
犯罪的行為を繰り返します。
「おれ、昔から、鍵穴とかこじ開けるの、大好きだったんだ。」
「おれ、逃れたくても、逃れられない女を見るのが、ほんと、好き」
といっても、本人が周囲から人格者として認識され、
「世間という観客」の前では「フェミニスト」としてふるまっているためか、
捕まることもありません。
て、、、、
いやいやこんなこと繰り返してたらいくら外面が人格者であっても
いずれ捕まるでしょう!と、ついつい突っ込みたくなりますが汗
高校時代、漱太郎のその「行為」を偶然目にしてしまった夢生は、
漱太郎に魅入られ、
独り立ちしてからは彼と秘密の部屋での逢瀬を繰り返します。
漱太郎も夢生との逢瀬の中だけでは、自身の恐ろしい行為を
つまびらかにし、夢生は自分だけに吐き出された漱太郎の「告解」を
丁寧に集めて、幸せにひたります。
なぜ夢生は漱太郎に惹かれるのか。
理解するのはかなり難しいのですが。
夢生の子供時代、母と継父との家庭はほぼ崩壊状態。
一方の漱太郎は高校時代は周囲から「人格者」として評価され、
それは大人になってからも変わらず、結婚し子供をもうけ、
暖かな家族をはぐくむ一方で、裏では先述したような
鬼畜的行為を繰り返します。
「うちの白々しさを見れば、おまえが幸せな家族に劣等感を持つ必要なんて、
なくなるだろう?」
という漱太郎のセリフがありますが、
夢生は漱太郎の外面の温かさと実際の行為のギャップを
目の当たりにすることで、自身の持つ「家族」についての劣等感が
軽くなることに抗いがたい魅力を感じていた、のかもしれません。
そして漱太郎には妹がいます。
漱太郎はどうやら子供のころから妹を「支配」していたようなのですが
この「妹」がきっかけとなり、事態は急転直下、物語は結末へと突き進みます。
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よく「残酷なほど美しい」という形容表現が使われますが、
この作品に関しては美しいとかいうレベルではなく、
ただただ「汚らわしい」のひとこと。
なのに、この二人の関係性がどういう結末を迎えるのか、
気になって、いっきに読んでしまいました。
汚なくておぞましいものなのに、ついつい見てしまう、
というのと、同じような感覚なのかも。